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翌日。
武ちゃんの職員会議の前に部室で作戦会議をすることになった。なんと武ちゃんは音駒高校へのアタックを既に行っていたらしい。何度も断られてるみたいだけど。ほんと青城といい怖いもの知らずだなと思う。

さらにあの後、繋兄に電話をしてコーチを断られたと言っていた。いやまじか。ここまで真剣になってくれるとは思わなかったから嬉しい誤算だ。メガネはいまいちでも、頼りになる顧問だ。武ちゃんが顧問で、本当によかった。

GW期間中、烏野は恒例の合宿を行う。校内の施設を借りるため合宿期間中は練習メニューは勿論、自炊も自分たちで行わなくてはならない。この期間に合宿をする部活はあまりなかったが、潔子さんと大地さん曰く女子バスケ部とは主将会議で熾烈な争いになったらしい。

結局、仙台市内のもう少し良い施設を紹介したらそっちで合宿を行ってくれるらしいのでこちらとしては助かった。たまには牛島若利も良いことをする。…私を白鳥沢に勧誘することは諦めていないみたいだ。本当にしつこい。

合宿の予定はそこそこに、メインはコーチの話に移る。

はあ、とため息をつきつつ繋兄にアタックした回数を指折り数える。まあ、なかなかの回数だ。花の女子高生がこんなに足しげく通っていることを、繋兄はもっとありがたく思うべきである。

「押してダメなら引いてみろ作戦もだめ。外堀から埋める作戦もだめ…頑固な男だな繋兄は」
「僕もいよいよまたあんたかって言われちゃいました」
「武ちゃん喜んじゃだめだって…」

今まで2人で散々トライしてもなかなか上手く行かなかった繋兄攻略は手法を変えることにした。まあ、とても賭けなのだけど。

「繋兄を引っ張ってくるとなると、なんだろ。意外と負けず嫌いだから…ライバルが居れば案外ノッてくるかも…」
「ライバル、ですか…心当たりはありますか?」
「うーん、心当たりというか…まあ、これは奥の手で賭けなんですけどね」

音駒高校の猫又監督は知らない仲じゃない。烏養監督の元にいたとき、よく練習試合に呼ばれて体育館へ行った。その度にお兄さんたちに面倒を見て貰ってたっけ。

互いに拮抗した実力で、セッターとしてトスを上げてた繋兄はよく相手のセッターと喧嘩してたな。泣きながら止めたら何故か私が怒られてまた泣くという悪循環に陥っていたけど。あの人がいたら繋兄も対抗心燃やして戻ってこないかな。流石にそんな単純じゃないか…。

「私から申し込んでみてもいいですか?」
「苗字さんから?お知り合いですか?」
「小学生の頃に何度かお会いしてて、覚えて下さっていたらいいんですけど…」

知らない仲じゃないけど、向こうが私を覚えてるかはまた別の話だ。とりあえず、連絡取ってみようと音駒高校へ掛ける。

「烏養と申します」

私の開口一番に武ちゃんはぎょっとした顔を見せた。烏養監督の名前を出せば、きっと猫又監督は食いつくはず。昔の伝手を辿るしかない今の私たちには、因縁といわれる「ごみ捨て場の決戦」に賭けている。

この約束を取り付けられれば、繋兄をコーチに引っ張ってこれる1つの切り札になる。だから、これは最大級の博打だ。二兎得られるか、二兎を失うか。

「――お久しぶりです。猫又先生。騙してすいません。苗字名前です。よく烏養監督の後ろにくっいていた小学生の女子を覚えていらっしゃいますか?」
『……誰かと思えば、また随分懐かしい奴が電話を掛けてきたもんだ。久しぶりじゃねえか、名前』
「お久しぶりです、先生。嘘ついてごめんなさい。お元気ですか?」

良かった、覚えててくれた。ほっと胸をなでおろす。

『ああ、ピンピンしてるよ。お前さんはどうだ?バレーは続けてんだろう』
「…まあ、そうですね。それはそうと、先生。お願いがあります」
『練習試合か…。お前も、お前のところの顧問も大概しつこいなあ』
「お気を悪くしたらすいません…。今、烏養監督のお孫さんへコーチの打診中です。十分な指導者もいません。でも、私たちどうしても、ごみ捨て場の決戦がしたいんです。音駒と、戦いたいんです。お願いします!」

武ちゃんは知らないかもしれないけど、私はどうしても音駒と試合がしたかった。新しい繋がり、という打算的なものじゃなくて。

ただ、烏養監督に、音駒とやるよ、と。そう報告したかった。

あの夏に比べて細い体。病院の臭い。どうしても嫌な想像しかつかなくて、だから後悔だけはしたくなくて。
繋兄にコーチをやってほしいのも、音駒とやるなら、監督に見てもらうなら。絶対に繋兄じゃないとだめだと思ったから。

『…顧問は近くにいるかい?』
「え?はい…」
『ちと変わってくれ』

猫又先生の言葉通り武ちゃんに代わる。武田です、と変わった武ちゃんは最初はぺこぺこ謝っていたものの、次第に明るい表示に変わっていった。もしやこれは。

そう思って武ちゃんを見ると、満面の笑みでにこ!と親指を立てた。や、やった!?やったのね武ちゃん!?

「苗字さん、猫又先生が変わってください、と…」
「え?はい!」
『おお、名前か。今回は先生の頑張りに負けたよ。こっちまで来るって言われちゃ叶わんからなあ…まあ、日程次第にはなるだろうが、よろしく頼むな』
「ありがとうございます!」

思わず頭を下げた。武ちゃんのお陰だよ、ほんと。烏野を一番強くしてくれるのは、武ちゃんかもしれない。ちゃんとどこかで恩返しが出来たらいいな。
そう思っていたら、猫又先生がそういや、と続けた。

『こっちは今直井がコーチをやってるぞ』
「直井コーチ?」
『覚えてないか?まあ、無理もない。お前さんがよくセッター同士の揉め事に巻き込まれて泣いてただろう。あの時のセッターだ、烏養の孫、繋心だったか?アイツと仲が良かったな』

思わぬところでピースが揃った。
ある意味で、一番欲しいピースだったかもしれない。ガッツポーズを決めると武ちゃんが驚いたように私を見た。
正式に決まったらまた、と切れた電話を置いて武ちゃんとハイタッチを交わす。

「やったね武ちゃん!!」
「やりましたね!苗字さん!!でも、名前を偽るのは感心しませんよ…」
「もうしません…でも、これで」
「ピースは揃いました。あとは、」

鯛をつれるかは、僕ら次第です。
待ってろ、繋兄。




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