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「苗字さん」
「武ちゃん、どうしたんです?」

帰る途中に少しいいですか、と呼び止められた。勿論、と田中たちや大地さんたちを先に見送る。事情聴取は免れたようで良かった、とほっと息をついた。なんだか大地さんは元気が無さそうに見えたけど、どうしたんだろう。

及川さん不在とはいえ、青城に勝ったならもう少し喜んでもいいのに、と背中を見送る。あとでスガさんに連絡してみよう。

手短に済ませます、と言われて武ちゃんは話始めた。今日の試合で思ったこと、今の自分では技術的なことを彼らになにも教えられないこと、改めて自分の無力さを痛感したこと。


自分も、彼らのために出来ることがしたい。そう思ったこと。


「協力させて下さい。僕にはバレーの勝手が分かりません。ルールもやっと分かってきた頃ですし、運動部の顧問も初めてで、やってほしいことを察することができません。僕には何が出来ますか」

武ちゃんの目はまっすぐで、有無を言わせないそれに、思わずはっと息を呑んだ。

「僕に出来ることは、全てやります。苗字さんに負担を掛けないよう、他校への交渉やその他の手配は僕が。だから、苗字さんは皆との練習になるべく集中してください」

武ちゃんのそれはお願いというよりも、半分くらい強制的なもののように感じた。このきらきらした目は、西谷や日向と同じだ。何を言っても、曲がらない決意のこもった瞳。

「今日、青城の及川くんのサーブを見て思いました。やはり苗字さんは、素質のあるプレーヤーなんだと。君は、皆を生かすプレーが出来る人だ。だから、君は彼らのと切磋琢磨して研鑽を積むべきです」

やっていいんだ、と。言ってくれた。強がってばかりで、烏養監督にも言えなかったことを、胸の奥に仕舞い込んだ自分の心を。あっさりと見破られた気がした。

「コーチ探しや、彼らの練習、練習試合の申し込み。今まで、ひとりでよく頑張りました。苗字さんの頑張りは、よく知っています。少しずつ僕に預けてください。最初は色々聞くと思いますが、なるべく早く、苗字さんの手を借りないようにしますね」


じん、と胸が熱くなった。


誰も、知らないと思っていた。私が何をしているのか。隠していたのもあったから、たぶん大地さんも詳しくは知らないはず。なのに、武ちゃんが全部分かってた。なんで、と溢すと、武ちゃんは笑った。


「生徒の頑張りくらい、先生はちゃんと分かりますよ」


どこかで、だれかが、私が頑張っていたのを知ってくれている。それが、こんなにも嬉しくて、間違ってなかったと安心できるなんて、思わなかった。

「ぅっ、…」
「苗字さん!?す、すいません…、僕なにか…」
「違いま、す…!嬉しく、て。頑張って良かったって思って…!」

武ちゃんが苦笑したのが分かった。ぽん、と肩を叩かれる。大きいだけじゃない、大人の手だった。

「改めて!GWに向けたスケジュール調整と、コーチ確保を頑張りますね。よろしくお願いします!」
「はい!」
「まずは、作戦を練りましょう!明日の朝空いてますか?僕も早く来るので!後は、善は急げということで、僕はこの後烏養君にコーチ打診を改めてしますね」
「本当ですか!?来ます!何時からですか?5時!?」
「それは…さすがに僕もしんどい…」



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