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試合は終盤。あと数点で勝てる。
そう思ってほっと一息ついたときに、名前を呼ばれた。げっ、来た。覚悟はしていたけどよりによってこのタイミング。気持ちとしては悔しさ半分嬉しさ半分だった。

勝てそうだったのに間に合ってしまった、と思う一方でレシーブに課題のあるウチとしては全国レベルのサーブを経験できる数少ないチャンスがあってよかったと安心もした。

「やっほー名前ちゃん!愛しの及川さんが来たよ!」
「及川さん…私いま穴空きそうです。2階からの視線で。こんな感じなんですね、学校でも…」

青城側のコートではなく、真っ先に烏野側というより私に向かってきた及川さんは周りの視線などどこ吹く風である。2階からのあの女誰?っていう声が凄いんですけど及川さん。私ほんと青城じゃなくてよかった。

「そうそう!名前ちゃんを愛でる俺のスタンスはどこでも変わんないよ!んー、やっぱり名前ちゃんには黒いジャージより白のウチの方がいいね!これ着てこっちのベンチにいてよ〜」
「嫌ですよ女子に刺されそう…それに及川さん…岩泉さんがボール構えてますよ…」
「ふふーんいっちょまえに俺に嫉妬か〜岩ちゃん!いいでしょ〜っと、監督が呼んでる…。じゃあ名前ちゃんまたあとでね!ちゃーんと及川さんの勇姿を見ておくんだよ!」

怒濤の勢いだ。べたべたと私を撫でたり肩を掴んだり忙しない。ついこの間も会いましたよね…、どうしたんですか、寂しかったっていってくる彼女ですか。と思いながら親切に岩泉さんがお冠だと告げるが無意味だった。

監督に呼ばれたと嵐のように去っていく及川さんを見送る。多分これは烏野に帰ったら事情聴取かなあ、主に大地さんと縁下から。覚悟を決めていると、恐る恐る、といった様子で武ちゃんが話し掛けて来た。

「苗字さん、今のは…」
「及川徹さん、青城のキャプテンで正セッターで…私のサーブの師匠です」

ぎょっとしたように武ちゃんが私を見た。そうです、前に武ちゃんの打ったあのサーブです。打って見てと言われて打ったのに引かれるのは心外だったけど。分かって貰えるならいいです。

「し、師匠…それって…」
「私の3倍くらいのパワーとスピードとコントロールがあります。体感ですけど」

武ちゃんが控えめに言ってもドン引きした。そうですよね、私もどうかしてると思います。

「それって名前ちゃんより精度も高いの?」
「精度は同じくらいだと思うんですけど、私よりもスピード、威力は段違いに上です」
「それじゃ…」
「はい、西谷が居ない今、ウチで対抗できるのは大地さんくらい、かと。影山も出来なくはないですけど、それだと意味ないですしね」

練習を見ていた潔子さんの言うとおり、私のサーブは威力が劣るものの精度に関しては及川さんと同じくらいだと誉めて貰えたので自惚れることにしている。
西谷不在の今、多少慣れているとはいえ限度はある。

「ただ、怪我をしたと聞いていたので今日出てくるのはおそらくピンサーとして怪我の調整と…威嚇といいますか。牽制も兼ねてラスト数点だと思います」

ピッ、と笛が鳴ってメンバーチェンジ。やはり及川さんが出てきた。

「苗字さんの予測は当たりますね…嫌な方向に」
「ですね。そしてここから持ってかれますよ」

その言葉通り、レシーブの弱い蛍ちゃんが狙われる。連続でサーブを決められると、武ちゃんがここまでとは、と歯ぎしりをした。

「西谷が帰ってくれば別ですけど、今の烏野はレシーブが弱い。特に日向と月島は狙われたら恐らく、逃げられないです」
「澤村君がフォローに入っても難しいんですか?」
「難しいでしょうね。逃げても追い掛けてくるのが及川さんなので。今は大地さんしかあのサーブに対応できる人はいないです。むしろこのローテーションで回ってきて良かった」

すぐに大地さんがフォローする範囲を広げるけど、それにも限度がある。点が積み重なっていって、あっという間に追い付かれた。
あと1点。デュースに持ち込まれる前になんとか拾ってくれ、と願っていると大地さんのレシーブから影山と日向の速攻が決まった。ほっと息をつく。なんとか勝った。

信じられないものを見た、と呆然とする及川さんに内心でガッツポーズをする。ガッツポーズは及川さん相手じゃない。呆然とする及川さんを見て、勝った、とさらに呆然とする武ちゃんのその視線。なにかとてつもなく眩しいものを見たという顔にだ。

「…今日見た青城は100%じゃないです。まだまだ、私たちには遠い相手ですけど…次のインハイでは負けたら終わりの、お互いの100%での勝負…私たちももっと、強くならないと」

今日の勝ちは大きいかもしれないけど、ここで油断しないよう。今の私たちには遠い相手だ。だから武ちゃん、繋兄の説得手伝ってね。そう思いながら、帰る準備を進めるべく潔子さんと動き始めた。

……なんか、及川さんの大地さんの握手長くない?あの2人面識でもあったのかな?え?あ、温田さんお久しぶりです!





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