18


怒濤の3日が過ぎた。明日に影山くんと日向の入部をかけた練習試合を控えて、私も久々に部活に参加が認められて。うきうきしながら部活に向かう。

久々に部活する、ということを忘れてはならない。捻挫は全治1週間だったから、朝練参加は絶対に秘密だ。ばれたら大地さんからのどぎついお説教が待っている。

ちょっと過保護過ぎやしませんか、と思っても言ったが最後怒られるのはよく分かっているので黙っておく。そうでなくても部活が楽しみなのは変わらなくて、縁下を早く早くと急かして、ようやく体育館についた。

がらんとした体育館には私と縁下以外の2年が揃って既にコートにネットを張っている最中だった。手伝いながら姿の見えない3年の代わりに練習内容を伝える。

「今日どうする?」
「とにかくレシーブ練。西谷が居なくなってこれじゃ、西谷になんかあったときに持ちこたえらんないよ」

西谷が居なくなってから露呈したレシーブ力の弱さ。今後西谷が離脱することも充分にありえるのだから、備えておくべきだと伝えれば3年も納得したみたいだった。特に君だよ田中君。

「つーか1年どうしたよ」
「今日ほら、委員会のオリエンテーションかなんかがあるらしくてさ。結構遅れるっぽいぞ。あとは…まあ、例の」
「ああー、あったな。一個ずつの委員会回ってくやつ。だから3年も遅くなるのか。あれ本当無意味だよな」
「教頭の趣味だろ」
「言えてる」

3年は誰も来ていないので2年だけで柔軟を進める。基礎練が終わったらレシーブ練とスパイクの練習が待ってる。ランニングと、それから、と指折り数えていくと結構な仕事量になっていた。

それから。忘れてはいけない、私のもうひとつの仕事。指導者探しだ。
私にしかできないこと。今の私にあるのは、バレーで培ってきた経験と技術、それと得た人脈だけ。

烏養監督や青葉城西の監督を伝に色々声を掛けてはいるものの、コーチは中々見つからない。武ちゃんにもお願いはしているけど、大して強くもないウチに二つ返事で来てくれる人はまだ現れない。

ひとりだけ。心当たりはいるけど。これが中々首を縦に振ってくれない。

「私3年来たら一回抜けるわ」
「またか?隠れてこそこそ何やってんだ?」
「まあまあ、非行には走ってないから安心してよー」

私が指導者探しに走り回っていることは黙っておきたい。余計なことに構ってる時間はないのだから。
数ヶ月前。及川さんたちに打ち明けた状況からは何一つ変わっていない。むしろ悪くなってる。居ない指導者。欠けたメンバー。遠ざかるチーム。

でもそんな現実を見ないふりをする。目を逸らしてる訳じゃない。今、私が一番やりたいことをやっているんだから。迷うな。進め。

今の私に出来ることは、迷わずに進むことだけだ。




「繋にーい」
「あら、名前ちゃん!」
「おばさん、こんにちは!繋兄いますか?」
「あの子店番もそこそこに出ていったわよ〜」

坂の下商店。
私が最近足繁く通う店に、今日は目当ての人物は居なかったみたいだった。あー、しまった、と内心で焦るもここで逃げる訳にもいかない。
もう本人がダメなら周りから埋めよう、と半ばやけくそで繋兄のお母さんと話をする。

「ちぇ、なんだぁ。おばさんからも伝えといてくれません?コーチやって下さいって」
「もう随分言ってるわよぉ。いい加減所帯でも持ってくれりゃあいいのにいつまでも店番とバレーばっかで全く…せめてコーチでもやって人様のお役に立ちなさいってねえ。名前ちゃん、繋心どう?名前ちゃんなら安心なんだけど」

これである。怒濤の勢いだ。待って待っておばさん。私が頼んでるのはコーチであって交際じゃないから。

おばさんの勢いはすごい。何度烏養家の食卓に入れられたか分からないほどだ。母は強い。繋兄もたじたじだった。
まあ、一番面倒なのはベロベロに酔った繋兄なんだけど。絡み酒にもほどがある。

「待っておばさん私と繋兄9歳も離れてるから…それに女子高生だよ私一応…」
「いーじゃない、最近は歳の差なんて関係ないわよ!名前ちゃん彼氏いないの?」
「あ、あはは…アッお客さんだよおばさん邪魔しちゃ悪いから帰るね繋兄によろしく伝えといてください!」

お客さんが来たのをいいことにそそくさとお店を出る。またね名前ちゃん!というおばさんの声には適当に笑って返しておいた。

だから坂の下行くの嫌なんだよなあ…。
あの日、烏養監督の救急車を呼んでから、烏養一族は私にとても優しい。もともと烏養監督の所に顔を出していた私は烏養宅にはとてもお世話になっていたけど、まさか繋兄との見合いを勧められるとは。

最近は毎回この話だ。間違っても田中や西谷には聞かれたくない。これが分かっているから多分繋兄は逃げたんだろうな…。あのだめな大人め…。だから彼女できないんだよ。

内心で舌打ちをした。最近は部活の終わりに行っても、うまいこと隠れてることが多いから直接会えていない。私に会ってくれないなら、私以外で行くしかないよね。

順調にいきつつあるもうひとつの計画は進めて、あとは上手い具合にぶつかってくれればいい。

日向と影山のあの速攻を見たら、多分文系熱血教師の武ちゃんは熱くなってくれる。私ですら熱くなったんだ。武ちゃんがならない訳がない。というか、なってくれ。あれを見てくれたら繋兄だって、きっと。

頼んだよ、日向、影山。

と最後は後輩に託すしかない自分に自嘲した。でもしょうがない。あの速攻にはそれだけの魅力がある。

私は私の出来ることをひとつずつ積み重ねよう。

そうして新たに決意をして坂を登っていると突然ぶるぶるスマホが震えた。なんだろ、とスマホを見る。メッセージアプリに1件の未読通知。戻って来いってやつかな、と開くと相手はなんとに私の元相棒のなっちゃんだった。

「GW前半…?なんだろ、これ、呼び出し…?」

GWの前半、予定に融通が利くならどうしても東京に来てほしい、なんて一体なんの用事だろう。しかもインハイ直前のこのタイミングって。呼び出される理由もわからなくて、心当たりを探すけど当然見つからない。

しかもこの人伝にってところも気になる。あの人も食えない人だからなに考えてるか分かんないけど。


なにかあるんだろうか、雲雀田監督。




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -