ぼくら旅人


『女子バレーボールの長い戦い、大接戦がついに幕を下ろしました!日本は惜しくも銀メダル。前回大会から実に57年。あの時、東洋の魔女が手にした色とは異なりますが、それでも素晴らしいプレーを見せてくれました、不死鳥JAPAN。いやあ感動しましたね!』
『そうですね!本当に手に汗を握る試合でした!最後、追い詰められたときはどうなるかと思いましたが……!』
『苗字、天内の決勝点は歴史に刻まれる1点になることでしょう!ここで苗字選手インタビューです!』

『先ほど、素晴らしいプレーを見せてくれました、苗字選手に来ていただきました!おめでとうございます!率直な今のお気持ちどうですか?』
『非常に嬉しい気持ちで一杯です。私だけでなく、チームが一人ひとりが奮闘した結果、こうしてメダルを手に出来たんじゃないかと思います』
『最後、苗字選手のセットアップから天内選手がスパイクを決め、見事決勝点となりました。その時のお気持ちがいかがでしたか?』
『ほっとしました。最後の最後で、より楽しい方を選択してしまったので。私だけの力ではなく、その前にアメリカのスパイクを弾いてチャンスを作ってくれたブロッカーたち、拾ってくれたリベロ、私に打たせるつもりでセットしてくれたセッター、決めてくれた天内。全員が120%を出したから掴むことができた結果だと思います』
『ここに来るまで本当に色んなことがありましたが、この結果を出せてどうでしょうか?』
『そうですね、この1年だけじゃなくて、本当に色々ありました。ここに来るまで多くの方に支えていただきました。チームメイト、スタッフや協会、家族やファンの皆さんに感謝を伝えたいです。本当にありがとうございます』
『今、この気持ちを伝えるとしたら、誰に一番伝えたいですか?』
『そう、ですね。正直選べないほど沢山の人に支えて貰いましたが……強いて言えば、どこかで、知らない世界を見ようとしている、友に感謝を伝えたいです』
『具体的に、どんな言葉で伝えたいですか?』
『……、わたしに』

『私に、バレーを選ばせてくれて、ありがとう』

『この試合を見ていた、全てのバレーボウラーへのメッセージなどありますでしょうか?』
『……自分と、仲間を信じて、迷わず、真っ直ぐに飛んで欲しいです。頂の景色は―――     』




蝉の声と、テレビの音がクーラーの稼働音を掻き消した。いつの間にか、カップの中のアイスは溶けて液体になっている。どくどくと心臓がうるさい。鼓動を掻き分けて、何かが込み上げてきた。

「ぶかつ、いや、練習、しなきゃ」

ああ、なりたい。私も。自分を、信じて。それで。

「ちょ、どこ行くの急に!」
「おかーさん!ごめん!走って来る!」
「熱中症になるわよ!?やめときなさい!」

鮮烈な夏が、私の胸にやってきた。




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