結局口が堅いやつのもとに情報は集まる

「あれ、もう準備出来た?早いねー、じゃ行こっか」

公安委員会で簡単な追加調書、その後雄英教師へ引き渡し、俺は病院から公安委員会までの護衛。
一連のスケジュールを軽快に話すその背中の羽が、さわりと震えた。

18歳でヒーローデビューを果たし、その年の下半期にはトップ10入り。まさしく飛ぶ鳥を落とす勢いで実績と経験を積み、いまやヒーロービルボードチャートでは名だたるヒーローを抑え3位にランクイン。
新進気鋭のベンチャー企業の代表ともいうべきか、とにかく露出が多く若年層から特に支持を受けている、現代ヒーローの顔である。

そんなヒーローが、公安委員会の使いっ走りなど非合理的にもほどがある。公安委員会になら『影』と名乗ったジャッジメントとかいう擬態の能力を持った男がいるだろうし、そもそも九州を拠点とするホークスにわざわざ依頼する理由が分からない。
マスコミ対策というにしても、このヒーローではマスコミ対策どころか余計に目立って逆効果だ。

何も無いわけがない。じゃあ一体なんだというのだ。

警戒が解けない。予定時間より早い迎えなどイレギュラー。最悪、擬態した敵連合の可能性もある。まあ、向こうもボスが捕まった以上、早々に行動するとは思えないが念には念だ。退院の度にこれは勘弁して欲しいが、警戒するにこしたことはない。
万が一に備えて個性を使えるよう演算を始めれば、それに気づいたらしいホークスが目敏く反応して羽を飛ばした。
室内に飛んで行った羽は私物をまとめた荷物を持ち上げて、ついでに閉め忘れた鍵をご丁寧に閉めた。

「ああ、そんな警戒しなくても。お偉いさんからも許可貰ってるから、安心してよ」
「可能性は低いとは思っていましたが……羽の操作練度を見ればもう疑う余地はなくなりました。失礼しました」
「はは、固い固い」

そう言ってホークスは笑った。
複数羽を同時に異なる動きをさせる。擬態にしろコピーにしろ、このレベルの練度までを真似ることはおそらく難しいはずだ。この操作性の高さを考えると本人である可能性が高い。
疑ったことを謝罪すれば、「傷ついたから公安委員会に着くまでの道すがら話を聞かせてくれないか」と言い始めた。

いや、傷つくもなにも要求がデカすぎやしないだろうか。むしろ30分前倒しのリスケに対応したのはこちらだが?
正直、見合わない要求など突っぱねたいが、ここで揉めるのも避けたい。悩んだ末ホークスからの質問に答えることにした。

「いやー助かるよ。雄英、今ガードが堅くって。敵連合について当事者から聞きたいことがあってね」
「……公安と警察には洗いざらい話しましたが?……随分と昔のことから神野のことまで」

またこの話か。
公安。警察。それぞれ連携して捜査してくれればいいものを、組織が違うせいで同じ内容を何度も聞かれる羽目になった。メンタルケア期間にも関わらず根掘り葉掘り昔のことまで聞いてくるあたり、いささか性急過ぎる気がしなくもなかったが、世の事情を考えれば悠長なことは言っていられない。

それくらい敵の隆盛とオールマイト引退の影響が大きいのだろう。危機感を持たないよりはマシだが、情報共有くらいはそっちで行って欲しい。というかお役所は未だにそんな旧態依然か?この国相変わらず新技術とか新体制とか取り入れ苦手過ぎるだろう。

「まあね〜。ただ、脳無の収容施設は全部吹っ飛んじゃったし、今俺たちが手にできる有力な情報は君とオールフォーワンからだけだからね」
「……塾長の方が詳しいのでは?」
「『たいようの家』の塾長は訳あって意識不明の重体。昏睡状態でとても話を聞ける状態じゃないんだ」

思わず足を止めた。逮捕されたあの施設の塾長がどこにいるのか知らないが、よもやそんな状態になっていたとは思わなかった。
遠隔地の人間への攻撃。おそらくあの子にした攻撃と一緒だろう。事情を知る人間へ昏睡状態に至るまでの攻撃となれば、考えられる理由はひとつだ。

「口封じ、ですか……というか、いいんですか、公安からはそんな話は何も……」
「こっちが一方的に搾取するのはフェアじゃないでしょ。君も、知っときたいと思って」

ゴーグルの奥の目がすう、と細くなった。なるほど、こっちが本題か。だとしたら先手を打たれた、と 内心で舌を打つ。

この情報は極秘だ。そんな情報をどうしてホークスが持っているのかは知らないが、公安や警察が外部に漏らしてはいけない情報のうちのひとつだろう。そんな情報を与えられた。与えられてしまった。
そうなると、変な借りを作らないためにも、貰った情報の対価を返しておきたい。だが、今の私に返せるものは殆んどない。だから、求められているのは別の形での対価か、もしくはすでに話した以上に価値の高い情報になる。

くそ、やられた……!こんな病み上がりの学生に腹芸なんて仕掛けるか普通……!?
しかも、貸し借りを嫌う私の性格をわかったうえで、こちらから引き出す情報レベルをコントロールまでしている。もちろん知らない振りをしても良いが侮られるのも腹立たしい。
こちとら前世じゃ経営本部の狸オヤジどもと年単位で腹の探り合いしてるんだ!社会に出て4,5年の若造に怯むようなタマじゃないっつーの!

「何が、聞きたいんですか」
「君だったら、次は何をする?」

渋々そう聞けば間髪いれずに質問を被せられた。間違いなくこちらが本題。質問の真意が分からないまま、病院の廊下から公安が用意した車に乗り込んだ瞬間、それは告げられた。

「何を、とは?連合の動きならもう専門のプロファイリング担当が――」
「いやいや、そっちやなくて」


オールフォーワンの方。


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