プレゼント選びは好きな人がやるべき

「誕生日?轟に?」
「うん!名前ちゃんはなんかあげへんの!?」

お茶子にカレンダーを指差されて思わず唸った。1月11日が示されたスケジュールには轟くん誕生日、と可愛いケーキのマークと内容が記されている。もちろん知ってはいる。寮のカレンダーでも共有されているからだ。だがしかし。

「や、だって連名であげるでしょ?」
「そうなんやけどね!?そうなんやけど!」

ダァン、とお茶子が拳で机を叩いた。落ち着け、と言っても渋い顔をしたお茶子の眉間は深くなる一方だった。
お茶子の言いたいことはわかるが、誘導に乗ってあげるほど優しくもないのでここは正論で逃げておこう。

そんな私の考えを見透かしたのか、怒涛の勢いでA組を味方につけたお茶子によって、プレゼント選抜係に抜擢された私は轟相手にプレゼントをリサーチすることになった。なんでもかんでも恋愛に結び付ける高校生の強さを舐めていた。完全に向こうの方が一枚上手だったのである。

そういうわけで、送別会のプレゼントを買いに行かされる新人の気分にも等しい気持ちで、私は寮の共有スペースで轟にリサーチをする羽目になったのだった。





「ってわけで、轟、なんかほしいものある?」
「そういうのって普通黙っとくんじゃねえのか?」

返す刀でばっさりと聞かれて思わず、だろうね、と笑った。首を傾げる轟と2人だけになった共有スペースは冬の寒さと寂しさを漂わせている。

「うーん、でも轟って貰っても困るものでも捨てられないタイプじゃない?だったら欲しいものあげたいし、どうせあげるなら実用性高いものがいいし」

個性の関係で、前世よりも好みや実用性がはっきり別れる世界だ。使う当事者じゃない以上、実用性という点ではどうしたって想像の域を出ない。ましてや相手は轟である。
女子は互いに部屋を行き来することもあるし、生活テリトリーが同じだから、好きなものや趣味はわりと簡単に想像ができるし、外れない。

が、男子の生活は謎に包まれ過ぎてて、正直よく分からない。
おまけに轟である。何度も言うが、高校生男子らしからぬ冷静さと天然さを持つ轟だ。好きなもの、蕎麦以外のことが全くわからない。部屋が和風なことだけは知っているが。

「……苗字」
「?なに?」

少しだけ考えた素振りを見せた轟が名前を呼んできた。
なんだろうか、と答えれば青い目がじっとこっちを見ていた。その視線が余りにも強くて、よからぬ感情を深読みしそうになる。思わず口元が引き攣ったが、それを無視して轟が話を続けた。で、出た、天然……!普通何か察するだろうが!

「いや、苗字と、なんか、……どっか行きてえ」
「あ、っと、みんな、で……」
「…………」

あ、あからさまに悲しそうな顔をするな!!自分の顔がいいのわかってやってるのか、この男!!

皆でいいよね、と言おうとしたのに、轟の表情が余りにも捨てられた犬みたいになるせいで、ぐ、と思わず喉が鳴った。なんだ、この、か弱い生き物を苛めているような罪悪感は……!
ちくちくと心臓を刺されるような痛みが蓄積していって、しばらく沈黙が続く。我慢比べの結果、折れたのはこちらだった。

仕方あるまい。モノより思い出タイプなんだと思うことにする。所詮は高校生だ。授業もあるし、買い食いくらいが限界だろう。ついでにどこかショップにでも行って選んでもらうほうが無難か。今の轟から何かを引き出せる気がしない。

「あー……、わかった、普通に放課後になるけど、いいの?」
「!」

妥協ともとれる言葉だったにも関わらず、ぱあ、と轟の表情が明るくなった。無欲が過ぎる。ついでに分かりやすい、と思ってその表情を見ていると、轟の目がとろりと蕩けた。

「ありがとうな、苗字」

ふわ、と笑う轟の笑みが柔らかく融解した。まるで朗らかな春の日差しのような、そんな笑みに心臓がギュン、と音を立てる。

くそ!!轟に!他意はない!はず!!

ドクドクと心臓がうるさい。プレゼンでも滅多に荒れない心音がけたたましく鳴っていた。完全に轟からの不意打ちだ。ペースが乱されるのがなんとなく面白くなくて、腹いせに顔を逸らした。

これは、アレだ、顔がいいからだ。
そうに決まってる、じゃなかったら、こんな、年下の高校生相手に、こんな、心臓が痛くなるなんて。こっちもうれしい、なんて、思うはずが。

「楽しみだな」

甘やかな声が落ちて来た。それくらい、その声を聞いたらわかる。
ちら、と轟に視線を戻せば、さっきよりも期待に破顔した轟の表情が見えた。その表情を見て、再度暴れ出した心臓が見るんじゃなかった、と後悔を零した。




「で?結局どこ行ったの!?」
「蕎麦屋。轟のお気に入りのとこの」
「ギャーーー!!!色気!!なし!!」
「あってたまるか……!」

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