議題がループし始めた

どうして……どうしてこうなった!!

聞いてないぞ、こいつらがルート上にいるなんて!!ジャッジマンの個性なら最短かつ最も安全なルートを誘導するはず。
それが角を曲がったら爆心地でした、なんて信じがたい。あんなマルチタスクに長けている人がこんな凡ミスをするとも思えなかった。

はっ、とスマホをみれば緑谷からの位置情報と重なるようにして表示されている現在位置。道理で既視感があるわけだ。もっと早く気付くべきだった……!

頭を抱えても答えは出ないし、そもそもこの状況でそんなことを考えている余裕はない。
ピリピリと刺すような緊迫した空気に、もう一度どうして!と内心で叫んだ。やばい、気付かれたら逃げ切れる自信がない。ここはひとまず気付かれる前に離脱を―――!

「誰だ」

ステインから投げられた言葉とぴり、と刺すような殺気。間違いなく足音の主に向けられたもので、つまり私である。存外逃がさないと言われた。

完全にロックオンされた……!しまった……!なんでスキップをしながら走ったんだ私……!今すぐこの足を折りたい……!!

いや、まだ諦めるには早い、と思いたい……!
明確にここにいる私に話し掛けられた訳じゃない。ここはしばらく存在を消しておくべき案件。気のせいだったと思い過ごしてもらいたい!大丈夫だ、気配を絶ってやりすごせるはずだ……。落ち着けまだ焦る時間じゃ――!

ガギィン、とすさまじい音が足元からして、ギギギ、と下に視線を向ける。足元には見慣れない刃物が突き刺さっていた。

ばれてる!!

おいおいコンクリートだぞ、と思いながら思わず踞った。黙って気配を殺す作戦は無駄。ピンポイントで場所が把握されている以上、逃げても追って来るだろう。となればもう選択肢は限られている。

くそ、地雷案件の担当を決める会議で辛酸を舐めた末に習得した私のステルス機能が効かないとは……!只でさえ仕事がパンパンなんだ、これ以上面倒な案件を増やしたくない!ましてやここでステインに絡まれるのなんてごめんだ……!

しかしここまでバレている以上、先手を取られて攻め込まれるのは現状最も回避すべきだ。スピードもパワーも向こうが上。圧倒的にこちらが不利な以上、なんとしてでも主導権はこちらで握っておきたい。

それに。なんだか随分な持論を展開してくれたし。どうせバレて同じ展開に持ち込まれるなら、徹底的に論破してやる……!感情論でなにが悪い……!これぐらい言わせてくれなければ割りに合わないだろうが!

犯罪者が、罪を犯した者がのうのうと生きている。また同じ事を繰り返して。意味のわからない理論と下らない持論を盾に人に自分の価値観を押し付ける。そうして他人の人生を狂わせてなお、自分の正しさを主張する。何もかも、全て奪い、壊したくせに。

ギリ、と歯が擦れた。ああ、くそ。―――腹立たしい。

反吐が出る。

「随分と高尚な演説、拝聴できて至極光栄」




ギャリ、と金属が擦れる音が辺りに響いた。ステインの持つ歯こぼれした日本刀と炭素刀が擦れて嫌な音を立てる。普段なら思わず耳を防ぎたくなる音だったが、研ぎ澄まされた精神はその音を意識の外に放り投げたのか、気にもならなかった。

パワーはもちろん、スピード、場数も向こうが圧倒的に格上。多くのプロヒーローを葬ってきた実力が確実に急所を狙いにくる。現時点で私に勝てる要素はなにひとつない。それでもそうまでして戦うのは完全なる私情だった。
こいつはのさばらせておけない。確信だ。公私混同は本来ガラじゃないんだが、致し方あるまい。

「っち!」
「――っ苗字さん!血だ!!奴に舐めさせないで!」

緑谷にそう叫ばれてなんとなく察した。どうやら血液の経口摂取を条件に個性を発動できるらしい。
しかし私自身の得意は近距離戦だ。どうしたってリスクは高い。
遠距離からの攻撃ができないわけじゃないが、そこら辺の有象無象ならまだしも、このレベルの手練れをどうこう出来るほどの精度ではない。

迫ってくる刃をギリギリで避ける。カウンターで死角へ攻撃するも軽いダメージしか与えられない。防戦気味になっている今、完全に体力勝負に持ち込まれたのはやはり向こうの方が数段上手だからだろう。正直交わすので精いっぱいだ。

「〜〜〜っ、くそ……っ!」
「口ばかりか……お前も」

だめだ、そもそものレベルが違いすぎる。脳無と戦ってる気分だ。他のヒーローがいる分、向こうの現場の方がマシな気がした。理性の無い化物と、理性のある怪物。どっちも嫌だ。くそ、こんなことなら大人しく雄英にいればよかった……!

「お前も俺を否定するか……!もはやヒーローは死んだ!だからそこの子供のように私怨で動く、失格者がヒーローになりたいなど言うのだ……!」
「なにを言っても聞いてやるか、破綻者め……!」
「粛清だ……!この世を、粛清せねばならん!!」

聞く耳を持たないステインに苛つきが募る。くそ、勝手な持論ばっかり持ち出して来やがって、と舌打ちを打つ。

「ごちゃごちゃとうるさいな……!お前が?粛清をするだと?何様だ……!」

ガギィン、と凄まじい音がして刀が同士が触れあった。今まてで一番大きな音がしたから、もしかしたら向こうの刃がさらに欠けたかもしれない。

ぶつけ合った反動で一度大きく後退すれば、どっと汗が吹き出てきた。
極度の緊張で息が上がる、油断すると足から力が抜けそうになる。命のかかるやり取りはUSJ以来。
まさか人生でこんなにも高頻度で命をかける機会が来ようとは……!私はもっと安泰に生きたいのに!

そう思っていたのに。目の前のコイツがそうさせてくれなかった。

私にはコイツを行かせるわけにいかない理由ができてしまった。こいつの思想は、きっとこの先よくない流れを生む。

なぜなら他者を排除する環境が生むのは独裁者とパワハラ上司だと相場が決まっているからだ!絶対にさせないぞ、ヒーロー職自体がパワハラの温床だなんて考えたくもない!その場合は労働組合に直訴一択だ……!

「――……確かに。お前の言うとおり、何もしないヒーローに存在価値などない。だが、お前がしてることは、現状を理解しようとせず外野から自分の理想を押し付けているだけだろうが。ヒーローが粛清の対象というなら、」

顔を上げてステインを睨めば、ステイン自身も私を厳しい形相で睨んでいる。本当は逃げ出したいが、この状態のステインがはいそうですか、と簡単に逃がしてくれるとは思えなかった。

せめて緑谷と轟が動けない2人を抱えて撤退してくれれば良かったが、どうも逃げることは選択肢にないらしい。飯田といい、どいつもこいつも……!せめてヒーローが来るまでの時間稼ぎが限界。なら、せいぜい好きにやらせてもらうぞ、と声を張り上げた。

「人の未来も、尊厳も、命も、何もかも奪うようなお前も!ヒーローと同じ、粛清の対象だろうが!!」


ひゅ、と音がした。

めのまえ。


かたな。



よけれな




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