進捗管理はプロジェクトリーダーの仕事

ケイ素、アルミ、鉄、と表示される成分と構成はおおむね普通の土壌と同じだ。核となるものもなさそうなので、半オートで襲ってくる土の魔獣だろう。おそらく先ほどの土を操るヒーローの個性。

ならば必ず近くにいるか高みの見物か。まあ、遭難することはなさそうだ、と安心材料を見つけて一息ついた。しんどいことには変わらないが、遭難して野垂れ死にするよりはマシだろう。

スカウターグラスの電源を落として、近くにいたモモに声を掛ける。血気盛んなやつらには様子見がてら少し時間を稼いで貰おう。その間にこっちはこっちで次の準備をしなければ。

「モモ、トランシーバー作れる?本体固定用のベルトも。数はそうだな…3、いや6かな。あとできればコンパスを全員分」
「お安いご用ですわ!」

ほい、と板チョコとナッツの入ったお菓子を渡してそう伝えるとモモが腕からコンパスとトランシーバーを出してくれた。本当に万能な個性だと思う。私もこういう個性が良かったな。
ガチャガチャとトランシーバーとコンパスをまとめる。うん、問題なく動いてるな。

カチカチ、と周波数を合わせれば森の中でも充分なほどクリアなそれに、思わず感嘆した。すかさずモモを誉めちぎれば、照れたように抱き付いてきた。峰田、君見すぎだ。さっきまですごい落ち込んでただろうに。

「こーゆー、不測の事態につえーのは苗字っしょ!なんかあるんだろ!?」
「買い被りすぎだよ、切島くん。まあ、あるけど」
「あるのか!流石だな苗字君!」
「やっぱ期末であんだけの立ち回りしただけあるわ!」

そう言うとキラキラとした目で飯田と上鳴と瀬呂が私を見てくる。過度な期待はやめてほしい。結局は30キロ走り抜けることに変わりはないんだから。

飯田がクラス全員揃っていることを確認した。私もぐるりとクラスメートを見渡す。こういうとき普通の高校生よりも協調性を重視するヒーロー科で良かったと思う。

船頭が多いプロジェクトチームは大抵が上手くいかないのは身をもって体験済みである。進捗管理はリーダーの仕事だ。飯田にお任せして私はさりげなく後方支援に当たるとしよう。

「さて、諸君……。さっき落ちる前に確認した宿舎の位置は北北東、距離およそ30キロ。12時までの到着なら、最短、直線ルートを選ぶしかない。全員でまとまっての行動がベストなのは言うまでもないけど、万が一はぐれたときのためにモモからコンパス受け取っておいて」

一人ひとつずつ。モモにはちょっと無茶をさせたかもしれないな、と思うけど致し方ない。最低限のリスクマネジメントはしておきたい。全員の手に渡ったのを見て、再び口を開く。

「クラスを3つに分けよう。先頭に索敵強化と初動対応が早いグループ。中盤に前方支援の中距離攻撃が可能なグループ、殿に総括と後方からの追撃を警戒するグループ。疲れが見えて来たら適宜先頭を交代して体力を温存。そんなわけで索敵部隊、よろしくね」

そう言って障子と耳郎を見ればこくりと頷いた。うん、頼もしい。応戦しながらの索敵はしんどいだろうから本当は索敵だけに集中してほしいんだけど。まあ、そうは問屋が卸さないだろう。

「万が一のトラブル対応のために、飯田君とモモはトランシーバーを。それぞれのグループに必ず2つあるようにしておいてね。チームを変わるときには必ず引き継ぎ忘れないで」

チーム間での連絡が取れなくなることだけは避けないといけない。グループで孤立すればそれだけしんどくなる。探し回って全員で野宿、なんてことは絶対に避けたい。明日以降のスケジュールが怖すぎる。

「学校側も厳戒体制の中での合宿だから、無闇に生徒たちを遭難はさせないはず。おそらく魔獣の妨害する先に宿舎がある。グループ編成に異論は?」
「「「「「異議なし!」」」」」

全員からの意義なしの声が出れば勝手にグループが別れ始めた。土属性との相性の悪い上鳴と勝手に殿を務めることにした私を中心に支援グループがまとまる。
誰もチーム分けに疑問持ってなくてよかった〜、と内心で胸を撫で下ろす。さりげなく自分を殿にして手を抜く作戦である。ずるいと言うなかれ、万が一の保険……そう、保険だ。

「よろしくな、苗字!」
「こっちこそよろしく、上鳴くん。頼りにしてるよ」
「任せな!」

上鳴と話をしていると、ちっ、という舌打ちが聞こえてきた。やはりというか、爆豪である。協調性にやや難ありだが、ほぼノーモーションで起動できる個性とその派手さはここではとても重宝する。
なんとか上手いこと乗せておきたい……。始まった瞬間勝手に行動されても困るし。よし、ここはあれだ、おだて作戦でいこう。

「個人的には、タフで派手な個性かつ何があっても絶対倒れない爆豪君には先頭で皆を鼓舞して貰いたいんだけど、どう?やってくれる?」

そう半ば爆豪が断りにくいだろう問い方をすれば案の定目尻が90度つり上がった。バスの中での気遣いはもう落としたんですかね、と内心で笑った。

「っっったりめーだろうが!!!舐め腐りやがって!殺す!」
「オッケー、先頭任すね。倒れてくれるなよ。切島くんも爆豪のことよろしくね」
「オウ!」
「聞けや!!なんっで俺のお守りみたいになっとんだ!黙っとれァクソ髪ィ!!」

ふっ。ちょろいな爆豪。言ったら最後、辺り一面火の海になりそうだから黙っておくけど。そう思いながら周りのグループを見渡していたら、ぐい、と腕を引かれた。なに、と思って振り返ると渋い顔と真剣な目をした爆豪がいる。

「てめえこそブッ倒れんじゃねーぞ」

小さい声でそう言ってきたのは、周りを心配させない配慮か、それとも純粋に私への心配か。…………いや、腑抜けた面さらすんじゃねーぞ的なあれだな。対抗心ってやつか。ほんとブレないなあ、と思いながら爆豪を見つめ返す。
なんだよ、と言いたげな顔に思わず笑ってしまった。素直じゃないな、まったく。

「ありがと、でも心配無用」
「ちっ、可愛くねー女」

眉間の皺を再び深くながら鼻で笑う爆豪が切島のところへ向かっていった。なんだかんだ仲いいんだもんな、あの2人。さて、全員別れたかなと見ればぶつぶつと呪文みたいに聞こえてくる呪文。

「すごいな苗字さん。この短時間で状況の把握と的確な指示。しかもグループ分けまで瞬時に行えるなんて。先頭部隊にかっちゃんを入れたのはきっと爆発で皆が道を見失わないためだし、万が一の保険として切島くんを入れてるあたり流石だ。中堅部隊の采配も、殿もそれぞれ個人の個性と相手との相性を考えてある。疲れたら後ろに下がれることで精神的な余裕も出てくるから思ったよりも安心して戦えるぞブツブツブツ」
「解説は緑谷に任せて、飯田委員長、号令。ばしっとね」
「任せたまえ苗字くん! よし、行くぞA組!」
『おお!』

飯田の声かけと共に走り出した全員の背中を追う。体力が有り余っているのか、しょっぱなからフルスロットルの全員に熱くなりすぎないように注意をしながら進む。零れ落ちた魔獣を相手にしていけば、思ったより簡単に崩せた。

いやーこれこれ、やはり前線より後方支援しつつ安全・安泰でいるのがベスト。なにより自分のペースで仕事ができるのは最高だな!わはは、さすが私!

なんて思っていたら後ろから突然3体突撃してきた。しかも体力フルチャージっぽい新手である。
くっっそ!よく見えてるな!?ちょっと私にだけ負荷強めじゃないですか、ああああ上鳴、おまえ何故このタイミングでウエーイ発動した!?

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