人事目標に一考の余地あり

「――ずいぶんと落ち着いてるように見えたけど、イレイザー、あの子が例の?」

マンダレイのその言葉が誰を指すのか言わないでも分かる。この状況で一人だけ違う行動を取っていた苗字だ。アイツ、こうなるって気付いていやがったな、と相変わらず勘の良さには感心するより、呆れが先に立った。

「ええ、我々も手を焼かされてるやつですよ。お分かりでしょうが、あいつだけがこの先何が起こるのかを冷静に見極めたうえで、次につながる一手を打ってきました」

無理矢理個性を抹消したせいで猛スピードで落ちていったが、一番早く動いたのはあいつだ。バスを降りる際に持っていたボディバックには、他の生徒と自分のサポートを行う道具一式が入ってんだろう。

抵抗は無駄だと悟って、即重力操作を展開。上空からの方角と距離を把握し、今後のプランをすでにいくつか考えているはずだ。今頃うまいこと立ちまわっているだろう。

自分の役割を決め打ちしたプランを立てるせいか、なにかと手を抜きたがるのは相変わらずだが。まあ、合宿も先は長い。これから嫌というほど鍛えてやるから覚悟しとけ、と念を飛ばした。

「実力はまだひよっこですが、状況判断能力ならプロと比較しても遜色ないでしょう」
「ふふ、手ェ焼いちゃって〜手のかかる子ほど可愛いっていうし、イレイザーも人の子か〜」
「茶化さないでください、マンダレイ」

結構な高さで個性を消したが……まあ、どうにかなるだろう。




ひゅるるる、と風を切る音がして地面が近づいてくる。

はやいはやいはやい!!ていうか相澤先生マジでねーよ!死ぬ死ぬ死ぬ!なんであんな高いところで個性抹消したんですか!一生恨む!絶対恨む!!相澤先生の私物全部かわいい猫にしてやるからな!!あああ地面んんん!!

「へぶあ!」

急に氷の山が出来て、側面を滑るように降りていく。おお、さながら滑り台のようだ。顔面は打ったが。
誰がやったかは嫌でも分かる。こんな芸当できる人間、クラスに一人しかいない。個人的にはできればダークシャドウ辺りに優しく降ろされたかった……。

どさ、と勢いよく地面にお尻を叩きつけられて、ようやく。ちょい、最後造り雑だな!と思ったが無事に降ろして貰えるだけ感謝だ。

元よりぺしゃんこになるところを助けて貰ったんだ、この際文句は言うまい。そもそも私の重力操作発動の演算が間に合わなかったのが一番の原因だ。いい加減初動早くしたいな……検討事項だ。

「苗字大丈夫か?」
「え、あ、うん……ありがと、轟くん……」

いてて、と目の前にいた轟が心配そうに声を掛けて、手を差し伸べてきた。ああいや、1人で立ち上がれますけど、と思ったがせっかくの好意だ。無駄にしてもあれである。まあ轟は気にしなさそうだが。

「苗字1人いねぇから焦った。この森で単独行動はマズイだろ」
「あ、ああ、ごめん……。ちょっと確認を」
「確認?……目的地のか」

パンパンと汚れをはたきながらそう言えば、轟が察したらしい。頭の回転が早いと話が早くて助かる。

「流石だな……。大丈夫か?個性使いすぎたりしてねえか?」
「大丈夫。そんなたいしたことしてないよ」
「気を付けろよ、この先もなげえだろうし――それに、なんか体調優れなかったんじゃねえのか?」

梅雨ちゃんといい、爆豪といい、察しが良すぎると思ったが違ったらしい。この天然純粋培養男子に気付かれている時点で、私の顔色は相当優れなかったんだと認識を改めた。いやでも他の人には気づかれなかったんだけどな。

そう思考に浸っていたら、ひんやりとした手が頬に触れた。轟の手だ。擦るように頬を撫でて、そのまま目の下に指を滑らす。低い温度に心地良さを感じてしまった。

いやいや、待て。は?

「……わりい、汚れてたから、つい。それに隈、大分取れたな」

ほ、と安心したようにはにかむ轟を至近距離で見てしまって、なんだか気恥ずかしくなった。いや、そんな安心しきった表情で見られても困る……!

ていうか近い!!お前はもっと自分の顔が整っていることを自覚しろ!そういうサービスショットはもっとちゃんと年相応の子にやってくれ……こんな人生2回目のおばさんではなく!

「あ、ああ…………ありがと」
「おう」

けろっと何事もなかったようにする轟に、こっちがたじろいでしまう。なん、いま、おまえ……!
ボディタッチは時と場所次第ではセクハラで訴えられるぞ気を付けろよ……!私は別にいいが!……ちょっとドキッとしたしたのは認めるけど……!……顔がいいのは得だなとしみじみ思ってしまった。

「魔獣ダアアア……!」
「あ、轟く……」

森からの轟音と共に、土くれの魔獣が現れると同時に轟は颯爽と飛び出して行った。意外と反射で動くとこあるよね、君。
飛び出した4人を横目に、魔獣をスカウターで分析する。

休ませてもくれない追い打ちっぷりに頭痛がした。なんだか寝た分の体力回復がチャラにされた気分だ。
ほんっとうに歪んでんな!!おのれ雄英め!!

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