優秀な人から辞めていくのは世の摂理

「はっ…はあ……、ぐぅっ……!あったまいた……!」

子供ロボも見つけ出して回収し、妨害もなく森を抜けることができた。肩で息をするぐらいにはしんどいが、リミットは刻々と迫る一方だ。早く行かないと。

少しだけ悩んで、結局このまま最短距離で市街地奥のゴールを目指すことにした。思いのほか時間が掛かってしまったので悠長にしていられない。おそらく3人目にはゴール付近で待ち伏せされているだろう。

相澤先生とマイク先生は倒してきたので、辛うじて1対1に持ち込めそうだ。3対1という最悪の事態は避けられて本当によかった。ただ、相手はプロヒーローである。油断はできない。
3人目の個性との相性で、形勢が大きく変わることは大いに予想できた。セメントス、オールマイト、校長辺りは、体力がゴリゴリに削られているこのタイミングで出てこられたら本当に詰む。

校長。個性、めちゃくちゃ頭がいい。上鳴と三奈との試験を見て思ったが、底意地が本当に悪いし頭も体も使わなければならないのでしんどい。加えて対応策が思いつかない。多分中身はかなり狸。ネズミだけど。

セメントス先生。個性、セメント。フィールド有利が働きすぎる。分子操作で構造変更しながらの応戦になるはずだ。純粋な体力勝負は今の私にはいささか分が悪い。

オールマイト。個性、知らん。ヒーローっぽいことは大体できる。ハイ無理。以上。

――なんだこれ!!しんどいオブしんどいだろ!! くそ!!やっぱり労基か!!個人の努力でどうにもできない域!

思わず顔を覆ったら、背中の子供ロボットがポンポンと肩を叩いてきた。慰めか。どんな機能付けてるんだサポート科。

ロボットからの慰めにイライラしたところで現状が変わる訳もなく、壁に張り付いて警戒しながら進む。
ここまで相澤先生、マイク先生と近接戦が主体。ならそろそろ遠距離攻撃特化が配置される可能性が高い。が、歩く災害と言っても過言ではない力を持つオールマイトならもはや遠近関係ないことに気付いてしまった。やめよう、考えるの。

ゴールまでおそよ500m。ここまで妨害らしい妨害がないのが逆に怖い。しかし闇雲に警戒しても逆に非効率。ならばゴールまで突き進むしかあるまい。罠ならそれはそれでどうにかするしかない。誰だ、誰がくる……!

なんだか上司の人事ガチャをさせられている気分だ。ろくでもない上司は断固拒否したいが、世の中まともな上司の方が少ない。どうしてああも多くの無能が役職に着くんだ……!どうして優秀な人は辞めていくんだ……!

ああくそ、あの人事部同期のいけすかない顔が思い出された。むっっっかつく!どいつもこいつも、仕事しろ!

大分心が乱れたのを察したのか、背負った子供ロボがよしよしと頭を撫でた。いやだからどんな機能付けてんのサポート科。
その子供が今度はバシバシと背中を叩いてくる。なんだよ!とロボットの指差す先を見ると、確かに何かが見えた。なんだ、と思ってよく見れば、前の試験での回収損ねた物らしい。手にとってしげしげと眺める。

――これは、うん、意外と。

にやり、と思わず笑みがこぼれた。




迂回と直進を繰り返しながら市街地を進み、とうとうゴール手前まで来た。ここまで3人目の気配はなし、あまりに平穏な移動に罠の気配を感じる。
そろそろか、と壁からゴールをうかがおうとした瞬間、チュイン、と顔の横の壁が抉れた。慌てて顔を引っ込めても追撃されるように弾幕が張られる。

「銃弾……!スナイプ先生か……!」

このタイミングでの遠距離攻撃にやっぱりか、と内心で安堵した。よかったオールマイトじゃなくて!!校長でもなくて!!
しかし絶望的であることに変わりはない。相手の居場所は不明。加えて私にはまだ遠距離に対応できる手札と体力はない。

苦手分野を当てられるとは分かっていたが、現状打破できるほどの手数もキャパも残っていないから、奥の手である重力操作も乱用はできない。くそ、ああもうほんと雄英……!エンデヴァーの雄英嫌いにも納得だ。

どうしたもんかな、とちら、と塀から覗くとすかさず弾丸が飛んでくる。逃げればおそらくゴールから遠い場所か、袋小路まで誘導されるだけだろう。ならば。

「正面突破か!……ずいぶんと愚策だな、苗字!」

思ったよりも近くにいたスナイプ先生がすかさず銃弾を放つ。高い命中率を誇るホーミングの個性。しかし障子と透の試験を見ていたかぎり、どうも自動追尾弾というわけではなさそうだ。おそらく軌道修正の精度が著しく高いんだろう。むしろ、当てに来るなら好都合だった。

ヒーロースーツの炭素構造を操作して、貫通不能と言われるシートに変化させていく。とはいえキャパを残しておきたいので、変化させる箇所は限られる。足、腕、肩といった狙い易い部分。さすがに頭と心臓はないと信じたい。…………ないよね!?さすがに!!

「くそ、なんで実習で命の危険なんか……!」
「ごちゃごちゃとうるさいぞヒーロー。負ける算段でもついたか」
「小芝居はいらないですよ……!!」

プラスして自分に掛ける重力を操作して体を軽くする。これで移動も楽に、そして早くなるはず。そう思った瞬間、がくん、と地面に引っ張られる感覚が体を襲った。個性を解除はしていない。ならば。

「見つけたぞ苗字」
「ちっ!相澤先生め……!もう回復したか!」

―――やっぱりかよ!!どんだけタフで優秀なヒーローなんだ!!

USJでも思ったけど、相澤先生は普段気だる気なふりをして体力もあるし、バリバリの肉弾戦向きのヒーローだ。結構痛め付けたつもりだったんだけど、流石は現役雄英教師である。それにしたって復帰が早すぎる。

「無効化とかほんと厄介……チートかよ」
「こないならこっちから行くぞ!」

なんとしてもスナイプ先生との合流は阻止しないと本当に詰む。個性を消されて遠距離攻撃などただの一方的なサンドバッグだ。合流を妨害しつつこの行動を制限してくるスナイプ先生をどうにかするだと?

無理だって!!どう考えても!!

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