急に会議に参加する管理職には要注意

体育祭も終わって、病院での轟家とのなんやかんやを終えて学校は日常に戻っていった。
私自身は敵連合からの接触も緑谷たちのように電車で声を掛けられることもなく、ただただ平穏な日常である。素晴らしい。

そんな折、授業で職場体験先の指名が発表された。正直予選でそこそこ目立ったとはいえ、結局は本戦欠場の身である。1対1の戦闘にならないと指名は厳しいだろうな、と諦めていたのだが。

「指名、10……!?」

爆豪、轟に注目が集まり、本戦に出場しても緑谷のように指名が貰えないことも充分にあり得る。そんな中であの結果に対して指名が貰えたことに、純粋に驚いた。連合のちょっかいのおかけで本選出場を辞退せざるを得なかった身としては、本当に有難い指名である。というか。

おのれ連合め……!指名があったから良いものの、これで職場体験に失敗して優良企業就職への道が閉ざされたらどうしてくれる……!第一印象は肝心なんだぞ……!私の人生プランが狂ったらどう責任を取るつもりだ……!
くそ、思い出したら腹が立ってきた。

「苗字、指名来てんじゃん!」
「切島くんこそ60件以上指名来てるじゃん。おめでとう、流石だね」
「おう、サンキューな!それにしてもスゲーな爆豪のやつ、3000て」

席の近い切島と話しつつ、オファーを出したという10件に思いを巡らせる。早く……早くその10件を教えてください相澤先生!!全然授業に集中できません……!

正直ヒーロー名とかなんでもいい。一刻も早くリストを見て選定したい。授業を受ける振りして選定基準でも作っておくか、うへへと思っていたらとんとん、と肩を叩かれた。振り向けばにへら、と笑うお茶子がいた。

「名前ちゃん、ヒーロー名決まった?」
「一応ね。お茶子は?」
「うちもなんとなくは決めてたんよ、でも発表形式はなんか恥ずかしいね……」
「まさかこの形式なんて思わないよね」
「それな!ね、名前ちゃんの内緒で教えてや〜」
「じゃあお茶子のも見して!交換条件」

こっそり声を掛けてきたお茶子にそう言うとフリップを渡される。ウラビティと書かれたそれにセンスの良さを感じた。まずいな。私適当に決めすぎたかな。

「アルキミスタ……?」
「スペイン語で錬金術師って意味。個性はちょっと違うけど、まあ、似たようなもんだし。いっか、って」
「ええねえ!かっこいい!」
「お茶子のも分かりやすくて、私好きだよ」

えへへ、と照れたように笑うお茶子がなんだか眩しく見えた。純粋に楽しいのが伝わってくる。擦れ切った精神には沁みるな、としょうもないことをしみじみと思った。

結局私のヒーロー名は一発OKで通った。もちろんお茶子のも。
残ったのは飯田、爆豪、緑谷の3人。爆豪はアレだし、緑谷もなんだか候補をいっぱい持っていそうなので納得だが、正直、飯田は意外である。ヒーロー一家の出だというし、てっきり決まっていたものだと思っていた。その姿をなんとなく眺める。

だからだろうか。フリップを出した飯田の表情を見て、思わず眉間に皺が寄った。他のクラスメートと明らかに違う目。表情。何かを思うところがあるのは一目瞭然だった。
恐らく、今日の新聞にも掲載されていたヒーロー襲撃事件が原因だろう。飯田の兄のことは重症と書いてあったから、容体が安定しないか、あるいは。

はあ、と内心でため息をつく。轟といい、飯田といい。どうしてこうも次から次へと。
恐らく、この教室で私だけが感じたであろう幽かな変化。あの瞳を、表情の意味を私は知っている。

随分とまあ、勘違いをしている目だ。





爆豪を除く全員のヒーロー名が無事に決まって、リストが渡された。

飯田のことは察せても大して仲良くもない私が何かを言ったところで、止まりはしないだろう。きっと敏い緑谷あたりがいい感じにお節介を焼くに違いない。放置は寝覚めが悪いから、後で緑谷にそれとなく伝えておこう。

こういうのはちゃんと響く言葉を響かせられる奴が言わなければ意味がない。同じ言葉でも社長と平社員が言うのでは言葉の重さが異なるのと同じだ。立場次第で言葉の重さは簡単に変わる。

まあ、そういうことで。飯田は雄英と緑谷に任せて、私は私の将来を考えるとしよう。
貰ったリストの事務所名を見ていく。ほうほう、『OFFICEジャッジメント』『シーガール』、……アァー……エンデヴァー事務所……ここは、ウン、最終手段にしよう……。

ちらちら名前を聞く事務所もあるが、そこまで大手ではない。エンデヴァーはひとまず流そう。上から順にリストを見ていく。ふと飛び込んできたその名前に、思わずプリントを握る手に力が入った。

ナ、ナイトアイ事務所だと!?

リストにはなんとミリオ先輩の体験先でもあるサーナイトアイの事務所があった。なんと、素晴らしい!!僥倖!!と叫びたいのをぐっと堪えて指名リストを見る。み、見間違いじゃない!

やはり持つべきものはコネクションを持つ先輩だな!!ありがとう先輩!いつもサンドバッグにされるけど!!ありがとう先輩!!

頭の中で感謝の念を送った。いやそれにしてもナイトアイ事務所か〜〜。
確かな実力と堅実な経営で小さいながらも実績を積み上げている事務所だ。正直ヒーロースーツを見たときから親近感しか湧かなかったが、まさか指名が貰えるとは。嬉しい誤算だ。

思わず顔がにやけた。うへへ。決まりだ。そうだ、ナイトアイ事務所に行こう。安泰な経歴にはやはり堅実な事務所が必須なのである!これでまた一歩安泰な引退生活に向けて踏み出せたというわけだ。わはは!順調順調!

――そう、この時私は無茶苦茶浮かれていたのである。

だから。相澤先生がじっと私を見ていたことに、私は気づけなかった。

「苗字、お前、……そのにやけ面どうにかしろ……。それと、昼休み、ちょっと職員室に来い」
「はあ、はい……」
「おい何したんだよ、苗字〜」
「いやなんもしてないけど……」

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