ピリリリ、と妙な時間に電話が鳴った。
画面を見て、顔が曇る。嫌な予感がする。
画面をタップして即スピーカーにした。その間にクローゼットから服を取り出して着替える。
『ああ、ごめんなさいね、名前さん、こんな時間に』
「いえ、どうかされたんですか?」
『その、……うちの子、そっちに行ってないかしら……』
「、いえ……。いないんですか、まさか」
『さっき見たらもぬけの殻だったの……っ!そんな、どうしよう……!』
「落ち着いてください。まずは山嵐さんに連絡しましょう。状況話せそうですか?それとも私が行くまで待ちますか?」
『いえ、そう、そうね。山嵐さん、山嵐さんを呼ぶわ……、名前さん、ごめんなさい、こんな、また巻き込んで』
「大丈夫です。貴女が悪い訳じゃない。一度切って、山嵐さんに連絡したら、また私に掛けて下さい。いいですね、一度切りますよ」
ツー、ツー、と無機質な音が響く。
ち、と舌を打って準備したものをひっつかんだ。
外は雨が降っている。
「こんばんは、苗字です」
「やあ、苗字くん。久しぶり、でもないか」
「どうも山嵐さん。ああ、塚内さんも、お疲れ様です」
「久しぶり、苗字くん。彼から連絡は?」
「ありません。電話を掛けましたが繋がりませんでした。スマホの位置情報は?」
「電源が切られているみたいで掴めないよ。今は近隣の監視カメラを解析中だ。身代金目的の電話もない。ただの杞憂で終わればいいが……」
「ああ、名前さん……、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
「お母さん、大丈夫ですか?温かいお茶でも淹れますから、そこに座っていて。……今夜は一緒にいますから、安心してください」
「ここで最後ですか、」
「ああ……、しかし、これは」
「ごめんなさい、もう行かないと……」
「いいのよ、名前さん、きっと警察がどうにかしてくれるわ、大丈夫よね、きっと」
「―――山嵐さん、塚内さん、すいません。よろしくお願いします」
「ここは任せなさい。君こそ、林間合宿頑張っておいで。何かわかったら連絡するよ」
朝日が一日の始まりを告げた。