スキル獲得は昇進の定石

体育祭が近づいてきて、少しずつ自主練を行う雰囲気が学校に流れてきた。
そんな中、1-Aもそれは例外ではない。各自のスケジュールを調整し、放課後の空いた時間を活用して、自主練を行っている。ほとんどの生徒が個性を伸ばす中、私が行ったのは体術強化だった。

いくら私自身個性の扱いが他より慣れているからとはいえ、日本で一番ヒーローに近い卵たちがいるのははここ、雄英である。その成長率は尋常ではなく、あっという間に自身に必要なものを判断し、補っていく。若者は実に恐ろしい。私が得てきたアドバンテージなどあっという間に無くされるだろう。

しかし、新技獲得には時間が短い。そこで、新技を見送り今手元にあるカードを増強する方向で体育祭を乗り切ることにした。どうせ武器の使用は禁止なのだから、武器利用込みの技開発より、ベースアップの方が現状合理的だ。
同様に体術強化を図る尾白くんに声を掛け、ひたすら体術強化に明け暮れることにした。そのせいで尾白くんと私が付きあってる説まで流れたが、そんなものは無視だ。





尾白くんとの鍛練が終わって演習場を片付ける。
個性に頼りがちな同年代のなかでは、尾白くんの体術は強い個性のひとつといっても十分だ。個性を封じられた中でも状況を打破できる術は多ければ多いほどいい。その手段があるかどうかで大きく評価は変わるし、戦闘でも上手く活用できるはずだ。

何より、敵に襲われてぽっくり、なんてこともなくなるはず。技術向上というよりは保身のためだ。保身?保身の何が悪い!最終的には生き残ったものが勝つのだ!ふはは!

「や!キミは1年生かな!?」

いつものように妄想が発展して、未来設計を考えていたら、突然地面が喋り掛けてきた。目と鼻と口が地面にある。え、なにこれ。どういうこと?雄英は土まで生きてるの?

「や!キミは1年生かな!?」

呆然としていると全く同じ問いをされる。これ答えないといけないやつなのか?しばらく黙っていると、同じ事を言ってきた。村人Aみたいだ。何か返さないと終わらないのか。

「そ、うですが……あの、先輩?ですか?」
「そ!さっきの組手遠目からだけどね!見ちゃった!」

ごめんね!と言う先輩は悪そうな顔は全くしていない。なんか上司に怒られたら損しそうな顔である。全く悪びれていないというか、誠意が伝わらなさそうだ。
そんな私の思考などお構い無しに、先輩らしき人物はにかっと笑う。自信ありげかつ強そうなオーラは出ている。不適な笑みだ。土からの笑顔でなければ締まったと思うのに惜しい人材である。

「ついでに……俺とも一戦どうだい?」
「…! 喜んでぇえあああ!!!先輩ふくぅぅぅ!!!」

先輩のお誘いに乗って返事を返したものの、地面からぬらりと出て来た先輩はあろうことか全裸だった。不意打ちすぎるだろどう考えても!!だれかこの先輩を捕まえてくれ!!ヒーローにあるまじき歩く猥褻物陳列罪まったなしだぞ!





「相手の動きを予測するやり方はいいね!ブラフの使い方もタイミングも完璧!あとは予測に頼りすぎてる節があるよね、後手に回りがちだからそこを直すといいよ!」

文字通りぼこぼこにされた。
登場シーンはさておき、実力は本当に折り紙付きだった。熨斗付けて返したいくらいに。
尾白くんとはいい線までいっていた体術はほぼ役にたたず、赤子の手をひねるが如くやられた。明日絶対筋肉痛だ。差がありすぎて嫌になる。

「ありがとうございます、ええと、先輩の名前……」
「ヒーロー科3年!通形ミリオさ!よろしくね!ちなみに、ヒーロー名はルミリオン!」

3年生か…。そりゃ実力に開きがあるってものだ。ほぼプロといえる技術を持ち合わせているのであれば、ぼこぼこされるだろう。私なんて。上には上がいるってことか…。

「苗字名前です、今日はありがとうございました!」
「おーい、ミリ……!!!!」
「お知り合いですか、先輩」
「んん!環は俺の幼なじみだよ!おーい、環」
「むりむりむりこんな心の準備もなくいきなりしかも年下の女子なんてブツブツブツブツ」

あとは声小さい上に背を向けている以上、うまく聞き取れない。極度のあがり症か女性恐怖症とみた。幼なじみというなら、きっとこの人もヒーロー科だろう。
唸っている環センパイとやらはさておき、このチャンス逃す訳にはいかない。折角見つけた格上の相手だ。尾白くんとの組み手も勉強になるが、格上の相手との戦いはさらに勉強になることが多い。
つまり!!私はさらなる保身のためにこのチャンスを逃したくないのだ!!

「あの、通形先輩。また今度お手合わせ願えますか?今度は個性の使用ありで」
「いいよ!後輩の指導も俺たちの役目さ!代わりに俺のことはミリオ先輩と呼ぶように!」

何故名前で呼ばなければならないんだ。ちょっと意味わからんが。相手が見つかったのであればそこは喜ぶべきところ。細かいことはまあ、いいだろう!

「やる気が出るからね!!」

聞いてないけど、それでやる気を出してくれるのであれば越したことはない。よろしくお願いします、というとミリオ先輩はニカリと笑った。
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