それはコンプライアンス違反です

体育祭が始まった。

轟くんのあの一方的なぶちまかすぞ宣言以降、彼の調子はどこかおかしい。なんというか、それはもうギラギラしている。
私の前でよく張り合っていた営業1課と2課の課長を思い出した。前世での話だ。取引先のクレームぐらい面倒だったが、もう懐かしい。しかしめんどくさかった。

そんな話はさておき、予選はまずまずの結果となった。まあ、これだけの結果が出ていればあとの本戦は流しても問題なさそうだと考えている。

ここから先は1対1のガチンコ対決で、ヒーロー科同士の戦いになるはず。お互い手の内が分かった相手との勝負だ。私の個性では相手が派手でないと目立てない欠点もあるうえ、本気でやったら文字通り相手は瞬殺である。ここまで盛り上がっている会場に水を差すわけにもいくまい。

ま、そっちの方が面倒ごとも余計なやっかみも回避できるし、私としてはこの結果で十分である。

それはそうと、体育祭当日は出店が出たりとお祭りムードになる。来客数も全会場まとめると万単位になりそうだ。したがってトイレも混む。
一般のトイレは既に長蛇の列となっていたので、少し遠いが控え室近くのトイレに来たわけだが、廊下の先に見慣れた髪色を発見して思わず眉間にしわが寄る。んん、なにしてんの?

「ん?爆豪くん?こんなとこでなにして……んぐぅ」

通路の奥を覗く爆豪くんを発見して声をかけた瞬間、抱え込まれた。え?!なに!?どういうことなの!?しかもこいつ鼻と口塞いでやがる!!離せ窒息するわ!
じたばた暴れるとやっと気づいたのか手を離してくれたが、意識はすでに廊下の奥の…緑谷くんと轟くんに移っていた。

個性婚、父親との確執、火傷の痕。

轟くんの口から語られる過去は痛ましい家庭環境そのものだった。影を背負ってんな、とは思ったが中々に壮絶な過去である。うーん、エンデヴァー見る目変わっちゃうよね。

結局2人は私と爆豪くんに気付く事なく、熱い友情を交わし去っていった。いや、青春すぎない?すげえな。去っていく2人にばれないように爆豪くんと息を潜める。自然と密着する訳だが……爆豪くん恥ずかしくないのか?

2人の気配が完全に消え去ったところで、やっと状況に気付いたのか、我に返った爆豪くんが私を睨み付けた。抱え込まれただけあって距離が何時もにも増して近い。あまりの近さにぎょっとした爆豪くんが私を突き飛ばした。おい!

「……わりぃ」
「全然悪いと思ってないでしょ」
「うるせェ、こんなとこ来るほうがわりーだろ。近寄んな」
「なんて理不尽……」

呆れてしまった私を余所に、爆豪くんからぶわりと殺気が出たのが分かった。え?今出すの?ていうか誰に対しての殺気?

「半分野郎が……無視しやがって……!!なおのことぶっ殺す!!」
「おーおー、頑張れ」
「……俺が目指すのは完膚なき1位だ。てめえも手ェ抜いたら殺す」

轟くんへの殺意を露にしていた爆豪くんは今度はぐりん!とこちらを向いて私への宣戦布告をしてきた。ほんと忙しいなこの子、とちょっと笑ってしまう。
まあ、ここでこの話を聞いたから手を抜くのは轟くんも本意ではないだろうし、目の前のこの子に関してはそんなこと微塵も考えていない。きっと緑谷くんも。

私自身そんなに弱い訳ではない。余程のトラブルが無ければ順当に勝ち上がっていくはずだ。きっとその中で当たる可能性は高い。

「ふうん……そこまで言うならさ……私に本気、出させてね」

にやり、と笑うと向こうもにやり、と笑った。
ああ、きっと今酷い顔してるな。

「上等だ……なぶり殺す」
「なんでそう物騒な言葉しか言えないの君」

予選終了。爆豪くんのせいで少しやる気を出してしまったので、しょうがない。
本戦は行けるところまで行くことにしようか。

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