人脈獲得はどんなキャリアでも大事

「じゃ、頑張れよ〜爆豪〜」
「っせえわクソ髪!!さっさと行けや!!」 
「デクくん!頑張ってね!」 
「いってらっしゃい!ハハ……がんばります」

新学期初日。
緑谷、爆豪の両名は夜間の寮抜け出しと私闘により、めでたく謹慎となった。

初っ端からエンジン全開とは恐れ入る。おめでとう問題児共。しばらく私に近寄らないでほしい。もうトラブルに巻き込まれるのはごめんだ。
当然ながら、神野以降初めて全校生徒が1か所に集まる。どうせ少女Aとして周りからの視線は痛いほどに貰う羽目になるのだ。ただでさえ根も葉もない噂が流れているし、緑谷と爆豪に巻き込まれた結果、やばい1年とレッテルを貼られるのは避けたい。完全に風評被害。やめてほしい。

「つーか、爆豪のヤツ、最近緑谷に絡まねーと思ったらとんでもねーとこで爆発したな」
「ね!2人共顔ボロボロでびっくりしたよー!名前何か知ってた!?」
「ああ、まあ、時間の問題だったね」
「だよなあ」

葉隠と瀬呂の話に適当に相槌を打ちながら歩いていると、案の定クラスメートの話題はあの2人で持ち切りになった。
緑谷を蔑視していた爆豪が、仮免の合否で差をつけられていよいよブチ切れたんだろうな、と思っていたに違いない。私だって事情を知っていなければ噂くらいはしていただろう。

けど、事実は違う。思ったよりも事態は深刻で、複雑で、対処が難しかった。
2人が頑なに話そうとしない喧嘩の理由を知っている私からすれば、とても『喧嘩』で済ませられる話ではない。唯一よかったことといえば、爆豪のしこりを取り除いたことだろうか。

そういう意味では爆豪の容赦ない感情の殴り合いというか、むきだしの感情表現には今回助けられた。歯に衣着せぬ物言いは反感も買いやすいが、こちらとしてはわかりやすくて有り難い。
そうじゃなかったら情けない話、私は爆豪が抱えている思いにはたぶん気づけなかった。
それに関しては私の無神経さが至らず申し訳ない気持ちになるが、向こうがもういいと言っているのにそれをこっちがいつまでも引きずってもしょうがない。世の中切り替えが大事である。

それに、私は私でそれどころではないのだ。
他学年から向けられる『少女A』への無数の視線とひそやかな囁き声。仮免試験でも感じた嫌悪の感情。流石に雄英ほどの学校で絡まれるなんてことはないだろうが、向けられる視線の多さと種類に思わずため息が零れる。

「前途多難な2学期になりそうだな〜〜……あーあ、憂鬱」




「フン、フーン、フフンフーン!」

ああ、素晴らしきかな2学期!!
最高のスタート過ぎて鼻歌が零れるのも仕方がない!!

午前の授業が終わって、購買から帰ってくる足取りはとっても軽かった。場所が場所ならスキップの1つや2つ飛び出そうだ。
それもこれも朝イチ相澤先生から説明を受けた言葉が全てである。

「ふふ、どこに行こうかな〜インターン」

そう、インターンが始まるというのである。
カリキュラムの大幅変更に始まり寮制への転換。今年はどうなるかと思ったが、無事例年通り実施されるらしい。カリキュラムの概要は相澤先生から話があったということは、大方開催されるんだろう。じゃなかったら詐欺で訴える。

職場体験の時は蓋を開ければ結局公安の協力者だったし、今の私にはヒーローとの繋がりは極わずか。一刻も早くキャリアを積み重ねたいこちらとしては大変にありがたい。
万が一「敵連合が狙っているので中止します」などと言われた日には、なんとしてでも全員探し出してブタ箱に叩き込む不退転の決意をするところだった。危なかった。

兎にも角にも、仮免試験といいインターンといい完全に追い風。USJから林間合宿までが特殊過ぎたのだ。これが本来のヒーロー科教育の姿であるべき!
寮に帰ったら早速、体育祭の時に貰った指名リストを確認して、履歴書を書いて、学校への申請手順を確認して、メールを打って……。

ふふふ、はーっはっは!!やることが満載で実に素晴らしい!

今度こそ絶対に、優良ホワイト企業のインターンを勝ち取ってやる!!
インターンからそのまま就職して、ほどほどに経験積んでバックアップ路線へ方向転換、引退後には安全で安泰な各企業のオブザーバーポジョンに名前を連ねる!
まさに私の引退後の安泰な職業につくための第一歩となるのだ。これはうかうかしている場合ではない!!早く寮に帰って訪問先リストを作らなければ!

学生にはピンと来ないかもしれないが、ビジネスの世界において初動が早いということはそのままアドバンテージに繋がる。
とくに就職活動では、ぼーっとしてるうちに採用枠が埋まってしまうことだってザラにある。優秀な人材は是が非でも抑えておきたいのはどの企業でもヒーロー事務所でも同じだろう。

さらに。ここ数ヶ月、度重なるトラブルで雄英の看板は揺らいでいる。もちろん、そんな曰く付きの経歴よりクリーンで仕込みやすい新人を求める事務所だってあるだろう。
つまり、ライバルは士傑や傑物といった優秀な高校の2、3年生。カリキュラムを順調に熟しているライバルの動きを考えれば、こちらは不利をカバーすべく先手を取る他ない。

「インターン……インターンか……へへ……」
「名前、早く食べないと昼休み終わるよ?」
「えっ、耳郎もう食べ終わったの!?」
「名前がぼーっとしてるからじゃん。購買から帰ってくんのも遅かったし」
「やば、図書館間に合うかな」

ズズ、とパックジュースを飲んだ耳郎に言われて時計を見る。既に休憩時間の半分以上を過ぎていた。しまった。完全に浮かれて時間配分をミスった。
図書館に本を返しついでに借りに行く予定だったが、返すだけなら駆け込みで行けるだろうと残りの昼食を掻っ込んで廊下を急ぐ。
今日の雄英はハウンドドッグ先生がブチギレているせいで風紀が一層厳しい。廊下を走るのが見つかればどうなるか分からない。犬並みの嗅覚と聴覚が相手なら分が悪すぎる。

そう思っていると前方に見知った顔が現れた。あっ、と思ったのは同時で思わず足を止めると、向こうも普段からコミカルな顔を緩ませた。この人、表情が変わらないから本心が分かりづらいんだよな、と思っているのは秘密だ。

「おっ!苗字さん!元気かい!?」
「ミリオさん、お久しぶりです。珍しいですね、学校にいるの」

期末試験以来、久々に会ったミリオさんにつられるように手を振る。今日は珍しくねじれさんも天喰先輩も一緒じゃないらしい。というか、そもそも学校にいること自体が珍しい。

一般的な高校よりも実地経験を重視し、1年時で仮免を取らせる雄英のカリキュラムでは3年生の夏くらいからほぼ登校義務がなくなる。大学受験に伴う冬休み以降の自由登校期の扱いに近い。

その期間のヒーロー科は、をしているかというと、ひたすら現場である。当然ながらミリオさんたちもそれぞれがインターン先のヒーロー事務所に半ば社員のような形で出勤しているわけだ。
現にナイトアイ事務所に1度見学させてもらった時に感じた空気は完全に社員のそれだったと記憶している。めちゃくちゃ羨ましかった。

そういうわけで、学校で面と向かって言葉を交わすのは久々だった。もちろんメールやなんかもあるが、向こうが神野の件で気を遣ったのか連絡は一切無かったので、本当に久しぶりな気がする。

「サーに新学期初日ぐらいは学校に行って気を引き締めて来いって言われたからね!お言葉に甘えたのさ!」
「へえ、ナイトアイ……が……!!」

その言葉にはっ、と息を呑んだ。
そうだ、ナイトアイ事務所……!ミリオさんのインターン先ということで無意識に排除していたが、ミリオさんは今年で卒業。事務所が来年以降も新卒採用を考えているのであればナイトアイ事務所だって十分候補に入る!

ど、どうしてこんな大事なことが抜け落ちていたんだ私……!前世ではインターンの募集がなくても、人事部への直接アプローチから社長へのお手紙作戦などなど、ありとあらゆる手を使ってインターン枠を勝ち取ったという都市伝説があったではないか!
これはチャンス!ここでミリオさんに会ったのも、今すぐミリオさんに聞けという神の啓示!日頃の善行がここで返ってくるとは神も粋なことをする!

「そ、そういえば……ナイトアイの事務所って来年以降もインターン受け入れありますかね……!?」
「うちかい?」

来い来い来い来い。
うーん、どうだろうと悩むミリオさんにギャンブラーも真っ青な念を飛ばす。

「うーん、多分あると思うけど……聞いてみるよ!」
「あっ、ありがとうございます!!」

よっっっっし!!インターン候補確保!!
もちろん体育祭での指名と1度会って話をしただけでは採用の確約にならないが、知っている相手の方が採用の可能性はわずかに高くなる。その僅かに泣くのが採用活動でありビジネスの世界である。
そして私はこういうときのためにコツコツと地道に周りにコンタクトを取っていたのだ!この人脈を使わないでいつ使う!今でしょ!

内心で盛大にガッツポーズをした瞬間、休憩時間の終わりを告げる予鈴が鳴り響いた。本を返しそこねてしまったが、全くもって問題ない。本の返却以上の収穫があった。

は〜〜〜、順調過ぎてこのままストレートでインターンが決まってしまうかもしれない。すまんクラスメート諸君、インターン内定1号は私が貰うかもしれない!
はーっはっは!あーー楽しみ!早速履歴書を書かなければ!
御社のヒーロー活動においての苗字名前の有用性をPRさせていただきたい!

「おっ、予鈴だ。教室に戻んないとな!じゃあ、またよろしくね!」
「あ、はい。よろしくお願いします」

そう言ってミリオさんは階段を降りて行った。その後ろ姿を見送って3歩歩いたところで足を止めた。あれ?

「…………よろしく?」

なんの話だ。
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