真夏の少年


今まで使って居なかった個性を一からコントロールするのは存外大変なもんだ。炎も氷も出さないように、自室で瞑想しながらコントロールの練習をするがなかなか上手くいかない。このところ上手くいかないことの方が多い気がする。どうしたもんか。

コントロール出来てる奴にコツでも聞くか、とクラスメイトを思い浮かべた。コントロールの練度の高さで真っ先に浮上するのは苗字だ。

苗字の個性、『操作』は漠然とした個性だ。制約は多いが、出来ることはかなり多いらしい。
メインで使っているのは分子操作だが、期末試験での重力操作という全く別の能力を出してきたあたりまだまだ能力の幅は有りそうだ。
試験では倒れたが、キャパオーバーすれば血を吐くらしい、本人も見せたことがないからしっかりコントロールが出来てるんだろう。正反対は勿論緑谷だ。

なんかコツでもありゃ聞きてえな。苗字、苗字か…。

笑顔がいいよな、ちょっと控えめなやつと大口開けて笑うやつ。どっちも好きだ。あと、ちょっと照れたときの頬赤いやつ。恥ずかしくて口が変な形になって堪えてる。あれもぐっとくる。なんかエロい。

そういえば峰田が苗字の足がやべえ、って言ってたな。コスチュームも他の女子に比べて圧倒的に露出が少ねえからなんとも思ってなかったが、合宿で見たハーフパンツ姿は正直やばかった。へんなちょっかい掛けちまったし、いつもと環境が違ってるせいか結構大胆なことしたな。太腿とかめちゃくちゃ柔らかそうだったし、白いし。触ったら気持ちいいーー……なに考えてんだ俺!

「風呂でも行くか」

このまま寝るにも汗でべとついている。気分転換ついでに風呂に行こう。じゃないと変な夢見そうだ。





「苗字…何してんだ?」

こんなタイミングあってたまるか。しかし、せっかく気分転換にきたのに、と思うよりもまた会えた、という嬉しさが勝る。寝る間際の格好なのか、いつもと雰囲気が違う。なんか全体的に柔らかい。眠いせいか
くそ、今日はそういう夢見る、絶対。

みょうじは共有スペースのテレビの前で深夜番組を見ていたらしい。げらげらとテレビから笑い声が聞こえてきた。バラエティ番組か。

「何みてんだ?」
「『マツヨの金曜日は断然夜更かし』」
「…意外だな、もっと真面目なもん見るかと思ってた」
「そんなことないよ、意外とこういうの好き」

好き。苗字が好きなもん。そういえば、おれはこいつの好きなもん知らねえな。
女子が話してる時も基本的には聞き役だからあんまり話も聞こえてこねえし。芦戸と葉隠の声はでけえからすぐ分かるが。

食いもんは?飲み物は?なにが好きなんだろうか。
苗字の好きなもんが、俺の好きなもんと一緒だったらいいのに。

「ん?轟くんも見るの?」
「苗字が好きなもんがどんなものか知りたいからな」
「…!」
「…? 顔赤いぞ」
「うあ。な、なんでもない」

指摘してやれば手で顔を覆った。隠しちゃいるが耳が赤い。なんだこの可愛い生き物。もう一度言う。なんだこの可愛い生き物。

思わずテレビに視線をやった。平静を保て俺、にやけてる自覚ある。ザー、とノイズを立てるテレビ画面に突然青白い影が映る。前に上鳴達と見たホラー映画のCMだったか。このあと不気味なナレーターが入って上鳴と芦戸が騒いでいた。

『この夏、日本中が震える…、戦慄のジャパニーズホラー』
ぶちっ

突然回されたチャンネルに、思わずリモコンの主を探したが横にいる苗字しか見当たらない。当たり前か。にしても…この反応は。

「…もしかして苗字…怖いのか?」
「どきぃっ!………えぇ?そんなことないよ」

今自分でどきぃって言ってたよな、コイツ。なんだそれ。可愛すぎんだろ。しかも若干声裏返ってる。
自分で言ってて無理があると思ったのか、恥ずかしそうにそっぽを向いた。

「俺は行くけど、苗字もあまり夜更かしするなよ」
「え、あ、………あの、さ…もうちょっと話しない…?」
「もちろんだ」

まて苗字そのソファーから上目遣いはまずいしかもちょっと恥ずかしがりながらで頬赤いしなんだか瞳も潤んでるように見えるし(轟フィルター)分かっててやってんのかこいつ。
なんていうか、そう、持って帰りたい。愛でたい。
だめか、だめだろうな。飯田や緑谷辺りがうるさそうだ。

「怖いの苦手なのか?」
「あんまり聞かないで夢にでそう…楽しい話しよ」
「じゃあ…苗字の好きな食べ物は?」
「えー、なんだろ、強いて言うならーー」




結局消灯ギリギリまで話し込んだせいで、翌日は昼休み明けが少し眠かった。苗字も同じだったようだ。目が合うとごめん、とサインを送ってきた。

なんだよ轟今の、と瀬呂がにやにやしているがちょっとな、と軽く流す。上鳴が視界の端でうずうずしていた。今日は早く帰るか。めんどくせえことになりそうだ。案の定耳朗にうざい、とイヤホンを刺されていた。

どんどん苗字のことが解っていく。少し嬉しい。これからももっと苗字のことが知りてえ。

じっと背中を見ても苗字は振り返らない。
振り返ってくれねえかな、とその背中をじっと見てしまう俺は相当重症だろうな。それも、まあ。いいか。


(また轟が少女漫画やってるね)(完全に恋する乙女だな、普通逆だろ)(苗字さん、またネタにされてる…がんばれ)(かかかかっちゃん顔ヤバい!!!!)

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