新規タスクのフラグが立ちました

なんとか教室からの脱走に成功した私と轟くんは、とぼとぼ帰り道を歩いていた。校門でお別れかと思いきや話があるから来てほしい、と言う彼の言葉に従う。

やがて人気のない公園に着くと、轟くんが自販機のココアをくれた。イケメンはなにやっても様になりますね。無論妬みである。付き合わせて悪い、とあんまり思ってなさそうな前置きをしてから本題に入った。単刀直入に言う、と言ってるが、彼はいつでも単刀直入だ。

「苗字、お前の親ってヒーローか?」
「……いや、普通の職業だよ、たぶん。どうして?」
「お前の実戦での判断力や作戦立案が高校生離れしてるからだ。この間のUSJの時も思ったが、つい最近個性使用を解禁されたにしちゃ、個性のコントロールも精度が高い。俺みたく家で個性使ってきたなら納得がいったんだが……」

いつかは来ると思った質問が思ったより早くきた。残念だが、これらの問いに対しての答えはずっと昔から決めてるんだ。ごめんね、と内心で謝る。
轟くんとしては何かしらの要素を求めていたんだろう。大方、自分より楽な生き方をしてきたのに自分より勝っている部分が、しかもこんなへらへらした人間にあるのが許せない、という顔だ。のらりくらりと問い掛けを交わす私に、不満げな顔をしながらもさらに問いを続けた。

「親がそうじゃねえなら、悪りぃが、正直普通じゃねえ。まるでずっと、そういう判断を迫られる環境にいたみたいだ」
「そんなことないよ。ヒーローに成りたい気持ちばっかりで妄想激しかったからかな?それに個性のコントロールは皆出来てるでしょ?爆豪くんだって、現状に即した判断力高いけど?」

はっきり言うなこいつ。普通の人間に異常だのなんだの言ったら殴られても文句言えないぞ?しかし、こちらも意地悪してるのはわかってる。お互いに一発ずつだ。高校生相手に大人げないっていうのも重々承知である。
それでも、私の過去は話せば長いし、話を聞くには相当の覚悟が必要である。特に彼らみたいな、ヒーローを目指す者たちには。

やがて根比べに意味を見いだせなかったのか、轟くんはまあいい、と聞き出すのを諦めた。

「苗字がどんな環境にいたのかは知らねえが、お前の能力は厄介だし、個性のコントロールも判断力も体術も、クラスの中じゃひとつ抜けてる。油断できる相手じゃねえ。それでも、俺は勝つ」

おまえに。

真っ直ぐ射抜いてくる彼の瞳は、恐ろしいまでに冷たかった。






轟くんの姿を見送って、自販機でブラックコーヒーを買う。ブランコに腰を掛け、プルタブを開けて、ごくりと喉を鳴らすと同時に今まで溜め込んでいたふっっっっかいため息がでた。

あー、青春ってこわい。
この一言に尽きる。がっくり項垂れる私の姿を見たら、轟くんは前言撤回してくれないだろうか。

USJのときですら平静を保っていた轟くんが、拳握りしめて私にまで宣戦布告してくるなんて。正直予想外だった。私の力が、轟くんの警戒網に私が掛かったことは良いことなのか悪いことなのか。悪いことなんだろうな……。面倒くさそうだもんな……。

彼の家庭環境もなかなかに拗れていそうなのであまり首を突っ込みたくないが……。なんか強制イベントになりそうな予感がバシバシとする。轟くんの様子もいつもと違って思い詰めてるみたいだったし。ワケ有ですって顔してたもんなあ……。

そこまで考えて、頭を過った不吉な予感に、思わずブランコを止めた。

ちょっと待てよ?
思い詰めたクラスメイト。
宣戦布告。
体育祭。
ええと、なんていうんだったかな、こういうの…。

はっ!!!フラグか!!!

これってまさかの死亡フラグってやつか!今まさしくフラグが立ったのか!?え!!いやだ!!!!

私は体育祭はそこそこに目立って、高い評価を貰えればそれでいいんだ。優勝なんか全然興味ないぞ!アピールの機会さえくれれば、優勝は爆豪やら轟くんやら、やる気のある人たちで取り合って頂きたい。

話に聞けば、優勝=支持率という訳でもないんでしょ?事務所に欲しいか欲しくないか、というだけで。なら私は楽な方がいいんだ。誰だって楽に生きたい、そうだろ?まして前世が過労死(推定)だ。今世はベリーイージーモードで生きたい!!
しかもあの轟くんの言い方だと、私が決勝トーナメントまで勝ち進むとかもあるんじゃないか?なにそれ怖すぎ。

「決勝で対決フラグはへし折るぞ……絶対にだ!!!」

この日私の中で雄英体育祭の目標が決定した。勿論、物間くんのことは完全に忘れていた。ごめん。
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