ヘッドハンティングは慎重に

死柄木・黒霧襲撃をなんとかやりすごした私は、体育祭が終わるまで学校が警備を依頼したヒーローの預かりとなった。
結果として、今回の厳重な警備の中一人の生徒を狙っての犯行は秘密裏に処理された。正しくはさせた、というべきか。

早い話、私の方から校長へ『お願い』という形を取ったのである。私はこのヴィラン襲撃を大事にしたくない、学校側もこの数万人が収容されたスタジアムを混乱に叩き落したくない。お互いウィンウィンの結果である。

学校もこの件を表に出したくないところに、被害者である私からの強い『お願い』であれば学校側がこれに乗らない手はない。これで学校側には貸しが一つできたわけだ。なにより私も週刊誌のネタにされるのはご免である。

ちょうど現状整理もしたかったので特に文句も言わず保健室でヒーローを待つ。このまま考え続けるとよくない方向に行きそうなこともあり、現段階で死柄木に関する思考はやめた。断じてめんどくさいわけではない。

死柄木の件はさておき、本戦棄権という結果になったものの予選でもほどほどに目立つことができた。現場での柔軟な作戦立案。相手の個性、状況をみた判断力。身体・個性のスペック。どれをとってもアピールは十分。
全ては円満かつ安定なヒーロー引退後のために!

内心で指名が来たとき、どういう基準で選ぼうかを考えていたら扉が開いた。そこにいたのは思いもよらぬ人物がだった。思わず目を見開く。まじか。

「学校側から要請を受けてきた。敵からの襲撃を受けたという生徒は…、君は確か焦凍の同級生だね?」
「エンデヴァー、さん……!?」

未来計画を考えていた私の前に現れたのは、先ほど本戦でどったんばったん大騒ぎしていた轟くんの父、燃焼系ヒーロー、エンデヴァーだった。
予期せぬ出会いに面食らうも、なんとかして普段通りを装う。内心は歓声をあげながらのガッツポーズである。

っしゃあ!この接触は偶然か?いや、いずれにせよまたとないチャンス!いかにこのタイミングで自分のアピールが出来るか。今こそ前世で身につけたビジネススキルを発揮するとき!

「少しいいかな……先ほどの戦い、素晴らしかった。判断力、作戦立案を含めてだ。とても学生とは思えない……君の個性はなんだね?」
「お褒め頂き光栄です。まだまだ若輩者ですので、研鑽を積んでいく所存です。個性に関しましては非公開で。失礼ですが、貴方が本当にエンデヴァーである証拠をご提示いただけますか?」
「なに……?」

ピクリ、とエンデヴァーの表情が硬くなる。うおおぉこっわ……。いやしかしここで引くなよ私。話のイニシアチブはこっちがまだ持ってる。

「気分を害されたのであれば申し訳ありません。ですが、個人情報、特に個性に関しては申し上げられません。なぜなら、私たちA組は既に敵連合と交戦しています。狙いはオールマイトであれ、退いた彼らが私たちに恨みを抱いていても可笑しくありません。現に私もこのような目に合っていますし」

エンデヴァーは一応私の話を聞いてくれるようだ。よしよしいいぞ、そのまま興味を持ち続けてくださいよ!私に!

「加えて、連合には特定の人物に成り済ます個性の持ち主がいる可能性もあります。あらゆる可能性を考慮したうえで、具体的な個性の開示は愚策と考えます」
「なるほど……君は雄英で、保護管理者がヒーローだから安心とは考えていないということだな?」
「はい。学校側がいくらセキュリティを厳重にしても、一度懐への侵入があったことを考えれば成りすましの可能性を排除するには尚早かと」
「ふむ……」

決まった……!
エンデヴァーといえば、オールマイトに次ぐヒーロー。そんなヒーローに計らずも直接、雄英だからと傲らない警戒心の強さをアピール!これはポイントが高いのでは?思わずにやけそうになる口元をどうにかして表情筋で押さえつける。あと少しだ、がんばれ私の表情筋。

「君、名前は?」
「もうご存知では?ここに来られたのも、本当は偶然ではない。違いますか?」

私に、なにかご用です?
存外にそう伝えれば、エンデヴァーはニヤリと笑った。おいおい爆豪氏もなかなかに敵顔だが、この人もなかなかどうして敵顔だ。同級生の親にこんなこというのもあれだけど。
轟くんも盛大な反抗期中だし、あんま尊敬できた教育方針でもないから罪悪感はないが。

「くっくっく、ははははは!!!」

唐突に笑い出す轟パパ。え、やだなにこわい。
ちょっと口元ひきつってしまった。

「気に入った、苗字名前。その警戒心の強さ、物怖じしない姿勢、広い視野と深い思考力」
「とんでもありません、まだまだ勉強中の身です」
「その年齢の割りに、世の中を理解しているところも加えてだ。苗字くん、君に……」

よし、これでエンデヴァー事務所にスカウト、なんてことになったら未来は明るい。事務所経営を行っていないオールナイトと違い、エンデヴァーには事務所がある。エンデヴァーにならなくともエンデヴァーの名前を使うことができるのだ。

エンデヴァー事務所の苗字名前となれば、その名前に箔がつくこと間違いなし!また私の一歩近づける。これで退職後は安泰!やったぜ、私!

「ぜひ焦凍の嫁になって貰いたい」
「……は?」

ぽかん、としてしまった。目の前の強面のおじさんから出てきた言葉があまりにも理解出来なくて、表情筋が仕事を放棄していた。え、まって。

いやいやいやまってよどういうこと!?
もっかい言うよ?どういうこと!?!?
なんでどこを間違えたら轟くんが出てくるんだ!?

「君のような思慮深さ、視野の広さはきっと焦凍とにいい影響を与える。ヒーローとしての個性も十分強い。焦凍との子供が楽しみだな」

な に い っ て ん だ こ の お っ さ ん。

親バカ?個性バカ?なんなの?死ぬの?だれかこの拗らせたおっさんを止めてくれ。轟くん、いまなら君の気持ちが分かる。

待って、ねえ待って!!焦凍をよろしくとかやめて!まだ貰うどころかお宅の焦凍くんとはただのクラスメイトから、ちょっと仲良いやつ、ぐらいに進化したばかりだから!そんな嫁だの恋人だの甘い関係にすらなってないの!やめて頭下げないでええええ。

「焦凍には俺から話しておこう。親御さんにも挨拶せねばな」


聞いてくれよ!頼むから!!


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