人員の合理化ってつまりそれってリストラ

「最下位は除籍、ねえ…」

なるほど、合理性を追求するのであれば、確かに納得できる。賞与はモチベーションに大きく影響するのは身に染みている。
ただ、失敗が許されない分性質が悪い。嘘かホントかわからないが、こんな案をだした相澤先生の性格は相当歪んでいるのではなかろうか。

しかしその相澤先生は昨年度、一クラスを丸々除籍処分にした教師だという。雄英側もその申し出を受理した末、除籍にしているだけに悪い意味で実績は十分なわけで。
分かっている。頑張らなければいけない。なぜなら最下位は除籍だから。それなのに、だ。

やる気が全くといっていいほど出なかった。

「なんだかなあ……」

本気でやらなきゃいけないんだろうけど、高校生に交じって本気出すのがこんなにも罪悪感が増すとは。すでに同年代からの既に擦れてて扱い辛い、って言う距離感をひしひしと感じる。私から歩み寄るにしても、あれ?友達ってどうやって作るんだっけ?もう覚えてないわ…。これは卒業までぼっちパターン……?

はっ!いかんいかん!いくら今世ろくなことがないからって、目的を忘れては!そう、雄英での目的には勿論、同世代のコネクション作りも含まれているのだ!友達が出来ないなんて言ってられないぞ、私!人脈と信頼は人生の宝!

「苗字さん、ですわよね?」
「え、ああ、えーと八百万さんだっけ?」
「そうですわ!覚えてて頂けましたのね!」

ぱああああと笑顔を綻ばせる八百万さん。ま、眩しいぜ……。なんだこの純粋培養は。ちょっと分けてくれ。

「えーと、あと……」
「あ、ウチは耳郎響香。好きに呼んで」
「わたしは麗日お茶子!おなじく好きに呼んで!」
「苗字名前だよ、よろしく!じろちゃんとお茶子って呼ぶね。飽きるかもしれないけど」
「飽きるんかい!」

あー、これこれ。女子の一度盛り上がってしまえば友達、みたいな空気。友達の作り方なんてすっかり忘れてしまった私としては、非常にありがたい流れである。丁重に便乗させてもらおう。話掛けてもらわないと友達になれないなんて、随分手の掛かる女になったもんだ。

「そういえば、名前ちゃん早々に峰田くんからセクハラ受けてたね!」
「笑い事じゃないよお茶子……あいつ何時か捕まるよ」
「ヒーローなのに?」
「ヒーローでもね!」

からから笑っていたら順番が来たようで、先生に呼ばれた。どうやらじろちゃんと一緒に測定のようだ。

「ウチの個性こういうのに向かないんだよね……」
「あー、私も。どっちかって言うと対人戦闘向きだからさ、地の身体能力勝負だとキツいんだよね」

2人でため息を付きながらテストに向かう。えーと、50m走は終わったから立ち幅跳びか。立ち幅跳びなんか計って何になんだろ。まあ、いいけど。





「全然成績いいじゃん名前……!」
「それを言ったらヤオモモの方が良いでしょ」
「私は十分に個性を使ったからですわ。地の身体能力で言えば苗字さんの方が上です」
「まあまあ、得手不得手があるってことで」
「でもホントに最下位は除籍なんかな?」
「あの先生ならやりかねないけど……」

ちらりとボード片手に計測を続ける教師を見る。おそらく、現在最下位なのは彼だ。
こういう身体強化型ではないのかもしれない。心配そうに彼を見守るお茶子。ん?これはあれか?青春ってやつなのか?下世話ですね、すいません。にやにやしたの謝るから睨まないでお茶子ちゃん。

「緑谷くんだっけ?大丈夫かね?」
「んー、先生のやる気が出ないことを祈るしかないなあ……」
「苗字さんは相澤先生の言うことが本気だと思いますの?」

その問いをすると言うことは、きっと話半分で先生の話を聞いているんだろう。一度入学した者を除籍にさせるとなれば、試験に掛けたコストはまるまる無駄になるように見える。

しかし、どちらかというとそういったやる気のない生徒や著しく能力の劣る生徒がいることによる、優秀な生徒モチベーションの低下の方がデメリットとしては大きい。

それが学校ではなく、企業ではどうなるか?
無論、部署異動もしくはリストラである。実に恐ろしい。そして相澤先生は合理化の極みである。本当に恐ろしい。前世の人事部のクソ同期を思い出す。

「本気だと思うよ。事前の個性調査表で個性を把握しているとはいえ、能力を封じられた場合の応用力がないとヒーローなんて務まらないし、自由課題をどう解決していくかが評価のポイントだと思う。結果が出せない個性ならまだしも。心理的に除籍にするなら生徒同士の信頼関係が出来る前がいいし、学校に対して不信感が出ても困るしね。お互いをよく知らない今なら、後から『ああ、確かにあいつには無理だったかもしれない』ってなる可能性が高いから。私も振るいにかけるならこのタイミングかな」

シン、となったのを目で目撃したのは初めてである。しまった、と思ったときにはもう既に時遅し。女子ばかりか、その場にいたA組の視線を集めていたのは私だった。今測定をやっている人以外は。

や、やばいやばいやばい!!!
無駄に大人の理論展開し過ぎた!これ完全に第三者というか先生側の立場になったゴーリテキ意見だ!
少なくともこの年代の少年少女が抱く考えじゃない。

ほら見ろ!!みんなドン引いた目をしている!やべえ、そんな目でこっちみんな!つーか相澤先生も耳そばだてないで!さりげなく聞いてるの知ってるから!!

なんてね、あはは。と誤魔化したところで何かが返ってくるわけでもなく。やべえこれまじで高校生活終了のお知らせ、と絶望していた私にゆらりと近づいてきたのはヤオモモその人である。

「……す」
「す?」
「素晴らしいですわ苗字さん!そのような考え方、私にはありませんでしたわ!」
「え、あ、ありがとう……はは……」

とりあえずヤオモモのポジティブに救われた。もうこの口縫い付けたい。良かった、と胸を撫で下ろす一方で、あの、そこのおめでたいカラーリングの髪した男の子と、初っぱなからヤンチャしてた爆発の個性の男の子よ。
あの、こっち睨まないでくれませんか?

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