挨拶代わりのセクハラには法的措置を!

うららかな春の日。ぬくぬくとした部屋で惰眠を貪る。
社会人の端くれであれば、その状況はひどく羨ましいものにほかならない。それが、社会人の端くれであれば、の話だが。

「はーい、みんな!お昼寝の時間ですよ〜」
「はーい!」
「ほぅら、お昼寝の時間よ、ごろんしましょうね〜」
「……はあい」

元一流企業の株式会社十造商事 戦略事業部統括部長こと、私、苗字名前はどういうわけか別の世界へと転生したのだった。





「雄英高校へようこそ!」

満開とは言い難い桜の舞う校舎を背景に、入学を祝う声が方々から聞こえる。

ここ、国立雄英高校はヒーローを目指す者の頂点であり、プロヒーローへの特急切符配布所。雄英卒業というだけでとんでもないステータスを得られるうえ、高卒ながらに社会的信用度の高さは国立大学のそれに匹敵する。

つまり、雄英高校ヒーロー科とは、卒業するだけでお釣りの来る、いわばハイスペックステータスなのだ。

すでに半分以上散って葉桜となった立木の奥にそびえたつ雄英高校をまじまじと見つめる。その独特な外観を見上げながら、苗字名前はぐっと拳を握りしめ、思わず固く目を瞑った。

やっと…やっとここまできた!
推薦で楽々とはいかなかったものの、雄英ヒーロー科卒業というだけでお釣りのくる学歴を、私は手に出来たのだ!

一般入試で十分にアピールできたとは思っていたが、流石に合格通知が出るまでは正直生きた心地がしなかったのはここだけの話だ。弱気は見せたら狩られる。
金銭面の関係で受験できる高校は1校。その一枠を雄英に充てられ、合格を掴み取れたのは、私のこれまでの努力の結果に他なるまい!

雄英への切符を掴んだ私は、このとんでもない規模かつ将来が約束された学校へ足を踏み入れた。

なすべきことはシンプル。未来のヒーローや実業家たちとの太いパイプ作り、安定した優良企業への就職、そして引退後の安泰な生活!
前世で突然生を奪われた私が穏やかに人生を全うするための、成し遂げなければならない中長期目標である!

「目指せ、安泰な引退、既得権益悠々生活……!!」

ぐふふ、と笑う私を周りの生徒がちょっと引いた目で見ていたのを、私は知らない。


これは、私がいち早くヒーローを引退し、安泰な悠々自適既得権益ライフを送るまでの物語である。







「おはよう!俺は飯田天哉だ!」
「あ、ああ。よろしく、私は苗字名前!」
「苗字くんか!一緒にヒーローを目指す仲間として、これらか3年間よろしく!」

なんだ、やたら暑苦しいの来たな。
少年には悪いが第一印象は暑苦しい真面目なお坊ちゃまである。あんまり絡まれないようにしよう。そう思いながらも表面上は完璧な笑顔を浮かべる。第一印象は悪くないはずだ。

クラスにはさすが雄英というべきか、異形型はもちろん様々な個性を持った生徒たちがいる。雄英の入試から考えると、あの試験のポイントは、自分の個性を把握しそれを正しくコントロールできること。そしてそれを所謂『ヒーローの矜持』において実行できるか、だと考えている。

いずれの生徒も能力に差こそあれ、それができていると雄英の誇るプロヒーロー教師たちに認められたこの世代の選ばれしエリートなのだ。そんなバカはいないと。

「ちっ、スカートの下に短パンかよ…色気ねえな」

バカはいないと思ったけどごめん私の勘違いだった社会的に抹殺すべき存在見つけたわ。

「せめてそこはタイツだろうがよおおお」
「は?死ねよ」

今更スカートの中見られたぐらいでギャーギャー喚くような精神年齢でもないし、男子高校生の猥談なんぞ、大したことではない。前世で繰り広げた女子会での下ネタの方がえげつないってのもあるから別にいい。

しかし、しかしだ!ちょっと小ばかにしたようなあの視線!
前世で新人の頃に私に散々セクハラしてきやがったクソ上司に似ているあの視線!私だって脱ぐとすごいんだぞこのクソ野郎が。ひねりつぶしてやりたい。無論ナニをだ。

「峰田くん最低だぞ!君は社会的に認められない行為をしている!」
「お坊ちゃんのオメーにはわかんねーだろうが!女子のスカートの中には夢とロマンが詰まってんだよ!見るだろ!そこにスカートがあれば!!男として!中を!!」
「苗字さん、大丈夫…?」
「ああうん……(ころす)」

冤罪を主張どころか、勝手な主張か。

よろしい。ならば次に会うときは法廷だ。

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