オペレーターの声に、名前の意識が少し逸れる。スコーピオンを出しながら、名前はオペレーターに問いかけた。
「場所はどちらですか?」
『諏訪さんと堤さんが向かってます。モールモッド2体です』
「了解です。こちらはお任せください」
ここから先は通さないと言わんばかりに立ちふさがるトリオン兵を見ながら、名前はスコーピオンをしまう。ふわりと浮いたキューブ越しに敵を見つめ、光の筋を放った
「おー、お疲れ名前」
「お疲れさまです、諏訪さん。堤さんはどうされたんです?」
「堤は課題が残ってるつってそそくさ帰っていきやがったよ。薄情なヤツだ、まったく」
「諏訪さんはいいんですか?」
「俺はもう諦めた」
どかり、とラウンジのソファに座った諏訪の言葉に、名前は小さく笑みをこぼした。
任務が終わってからも少し時間を潰し、昂った精神を落ち着ける。それが名前の習慣だった。大学生である諏訪や堤、風間といった面々の時間の使い方は、高校生のそれよりもかなりルーズだ。
そのため、名前のクールダウンに付き合うのは、時間に余裕のある大学生であることが多い。
「そういや名前、玉狛の白チビとやったらしーじゃねーか」
「耳が早いですね諏訪さん。そうですよ、やってきました」
どうだった、と聞く諏訪に名前も答えていく。入隊試験を見ていた諏訪はやっぱりな、と呟く。もう次のランク戦で当たったときのことを考えているのだから、諏訪も中々に戦闘好きである。
「流石、って感じでしたね。戦闘慣れしてますし…ああ、二宮さん、お疲れさまです」
「名前に諏訪さん…。お疲れさまです、名前邪魔するぞ」
「どうぞ」
そう言って名前の横に腰かけた二宮も交えて、3人は他愛ない話を続ける。夜勤明けではあるが、隊室を持つ彼らは部屋で仮眠が出来る。限界だ俺は寝る、と去っていった諏訪を見送り、名前と二宮はふたりになった。
諏訪がいたときよりも少しだけ静かなラウンジで、名前と二宮は向かい合って座り直した。他愛ない話が続く。
ふと、誰もいない、深い黒で塗りつぶしたような静寂が訪れた。その空気に耐えられないと言うかのように、そういえば、と名前が呟いた。
「雨取麟児の妹さん、玉狛に入隊したそうですよ」
「なに…!」
名前のその言葉に、二宮の目の色が変わった。二宮にとって、それはひとつの禁句でもあり、当時その名前を手繰るように求めていた名前だった。
そんな二宮を見て、名前はさらに言葉を続ける。
「聞いてみるのもいいかもしれませんね。鳩原さんのこと、もしかしたら知っているかもしれませんよ」
「名前、」
「なんでしょう、二宮さん」
名前の目が真っ直ぐ二宮を突き刺す。質問は許さないと言うかのような、真っ直ぐな視線と言葉。そんな名前の視線に、二宮は言葉を紡ぐことが出来なかった。
「そういえば、また大きな侵攻があるそうですね」
名前のその一声でその空気が霧散する。何か幻でも見ていたかのような、そんな気にさせるほど、あっさりと消えていった空気。得体の知れない焦燥感が二宮の心に焼き付いた。
「ああ、この間司令部から通達がきた。悪い時間でないことを祈るしかないな」
「私は唐沢さんと外に営業に行っているかもしれないです」
「おまえは防衛だけじゃなく営業から護衛までするのか」
「いやですね、二宮さん。私の仕事はお嬢の護衛ですよ」
名前も、二宮もそんなに多く喋る方ではない。それでもテンポよく話が続くのは二人の性質が似ているからか。
「それもそうだな。むしろいつもよりやりやすいんじゃないか。あのじゃじゃ馬より」
「相変わらず仲が悪いですね」
「知らねぇな。アイツが絡んでくるのが悪いんだろ」
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