「迅さん、ランク戦しましょー!って、名前さんじゃん!しかもランク戦!」
迅さんと米屋先輩の解説を元にモニターに映る映像を見ていたら、緑川と出水先輩が声を掛けてきた。
噂になっているようで、B級の隊が何人か見に来ている姿が見える。
「珍しいな、名前さんのランク戦。槍バカ、相手誰?」
「玉狛の白チビ。なんつーか、内容濃すぎて酔うわ」
「ええー、遊真先輩いいなあー!俺もランク戦したい!よねやん先輩は名前さんとやったの?」
「いんや、まだ。この後相手してもらおーと張ってる。名前さん絶好調なだけに期待大だわ」
その言葉に、モニターを見ると7本勝負のうち6戦目になっている。ここまで3勝3敗。お互い五分五分だった。あの空閑がここまで手こずるなんて、強い人は本当に強い。
お互いスコーピオンで斬り合っているせいか、少しずつトリオンが漏れだしている。お互い長く持たないのは明白だった。次で決めるだろうな、という予感がする辺り、ぼくも少し戦闘慣れしてきたのだろうか。
名前さんが大きく空閑の攻撃範囲から抜け、アステロイドを空閑に向けて放つ。空閑もアステロイドを避けたその勢いで、名前さんへ向かう。
あと少しで刃が届くというとき、突然空閑の姿が消えた。グラスホッパーか、と思った時にはもう空閑は名前さんに射たれていて、戦闘は終了した。
「名前さん!おれと!ランク戦!」
「先輩を敬え!名前さんは俺とランク戦」
「順番も守れねーのかよ、俺が最初だろ」
「緑川さん、出水さん、米屋さんまで…私これからお嬢をお送りしないといけないので駄目ですよ」
「「「えええ〜」」」
「また予定が会えばですね。では、また。迅さん、三雲さん、空閑さん、お疲れ様です」
分かりやすく構ってオーラを出す3人にしっかりと断りを入れて、名前さんは荷物を抱えた。律儀にまた、と声を掛けてくれる名前さんに、慌てて頭を下げた。
強いのに偉ぶらない、それどころか僕にすら敬語を使ってくれる人なんて珍しいとしげしげと見てしまった。
ふと、空閑の前で足を止めてじっと空閑を見つめ、空閑もそれに応えるように名前さんをじっと見つめる。
「また、やりましょうね、空閑さん」
ほのかに笑みを残して名前さんは今度こそ帰っていった。その後ろ姿を見ていたら、へえ、と出水先輩が感心したように声をあげた。
「めっずらしー…名前さんが再戦の約束するなんて」
「? 別に名前さんとは約束してないぞ?」
「名前さんは不確定なことは言わない主義だからああいうってことは次またやろーぜ、ってのと一緒だよ」
小さくなった名前さんの背中を見ながら、出水先輩が教えてくれた。相手をしてもらえなかったのが、地味に悔しかったのか、いいなあ、と呟いた。
「じゃあ迅さんオレと模擬戦してよ!」
「悪いな駿、俺はこれから帰って食事当番だ」
「ええええ〜」
そうだ、レイジさんに明日使う白菜を買ってくるようにと頼まれてたんだ。スーパー行かなきゃな、と思いながらも、さっきの名前さんの笑顔が頭から離れない。じりじりと焼かれるような焦燥感が、心のなかにある。変だな、と思ったけれどなんでそう思うのか、僕にもわからなかった。
「もしもし、お嬢ですか?ええ、終わりました。玉狛の新しい近界民はやはり空閑さんのようで間違いなさそうです。はい、引き続きコンタクトを取ります」
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