>嘆きのくじら 祈りのくらげ | ナノ

01

「そうだ、メガネくんは鷲ノ宮隊のこと知ってるか?」

まさにいま思い出したように言う迅さんに、思い浮かんだのはひとつの隊。噂でしか聞いたことのないその隊は、様々なボーダー部隊の中でも特に変わったチームだと聞いている。

「あ、名前だけは…確か木崎さん以来の完璧万能手がいる隊ですよね」
「そうそ、名前だけ一人歩きしてるあの鷲ノ宮隊」
「どういうことなんだ、迅さん。幽霊なのか?」
「違う違う。あんな派手な幽霊いないだろうな。まあ、あいつらの戦闘スタイルがかなり珍しいってのがひとつ。それと…」
「それと?」

もったいぶる迅さんの言葉をなぞるように、空閑が疑問を投げ掛ける。
それににや、と迅さんが笑って言った。

「とびきりハチャメチャなお姫様と騎士がいるのさ」





『活動体限界、米屋ダウン』

迅さんに連れられてきた本部は、夕方の時間なだけあって人で賑わっていた。そんな中でも精鋭と呼ばれるA級隊員のブースにはギャラリーが多い。迅さんに連れられてきたのもそんなブースのうちのひとつ。

A級隊員である米屋先輩と共にブースから出てきたのは、あまり見掛けない女の人だった。
小南先輩と同じ、お嬢様学校の制服だ。
あまり見掛けない人だなあ、と考えていると、アナウンスが『勝者、鷲ノ宮』と告げだ。ということは、この人が鷲ノ宮隊の隊長か。

「いー線までいってたのによ、残念」
「おーっほっほ!この鷲ノ宮響に掛かれば例えA級隊員でも余裕ですのよ、って米屋さん、何をするのよ!」
「負けたっつっても一勝差でしょー。今回はたまたまっすよ、たまたま」
「まああああ!なんて無礼な、実力ですわ!この鷲ノ宮響にたいしてなんて」
「よー、お二人さん」

ぎゃいぎゃいと騒ぐ米屋先輩とお嬢様なんだけど、なんというか、こう…迅さんの言うとおりの鷲ノ宮先輩である。
じゃれあっていたふたりが迅さんに気づくと、米屋先輩がどうも、と軽く頭を下げた。

「ま、歩くセクハラでありませんの」
「鷲ノ宮ちょっと黙ろうか。今日名前はいないの?」
「名前さんだったらあっちで嵐山さんとやってたはずですけど…お、噂をすれば」

別のブースから気だるげに歩いてくるスーツの女の人。気付いた、と言わんばかりに手を軽く挙げてやって来た人に、鷲ノ宮先輩が名前、と名前を呼んだ。

「お疲れ様でした、お嬢」
「ええ、わたくしの圧勝でしてよ、名前。勿論勝ってきましたわよね?」
「はい、勝たせて頂きました。米屋さんお嬢がすいません」
「大丈夫ですよ名前さん、いつものことなんで」
「名前まで!!!」

ぎゃいぎゃい、とじゃれ合う3人に置いてきぼりを食らう。といっても鷲ノ宮先輩が一方的に絡んで、それを米屋先輩が煽って、名前さんが流している。

「えーと…」
「ああ、お嬢様口調の女の子が鷲ノ宮響、鷲ノ宮隊の隊長。んで、その隣スーツのかわいこちゃんが苗字名前。鷲ノ宮の付き人だ」

付き人…つまりは執事というかメイドというか。付き人といえばそんなイメージだったけど、どちらかという保護者のような…。
そんなぼくの勝手な想像を押し退けて、空閑がぽつりと呟いた。

「へえ、強そうだね」
「ああ、火力押しの鷲ノ宮と万能手の名前。攻撃も多彩で読みにくい、B級でもトップクラスの部隊だ。特に遊真は名前の戦い方が参考になるかもな」

そんな迅さんと会話をしていた空閑に気づいたのか、名前さんと米屋先輩の呼ぶその人はぼくらの前で足を止めた。

「迅さん、そちらは?」
「ああ、紹介遅れたな、玉狛でチームを組んだ三雲と空閑だよ」
「はじめまして、三雲隊の三雲修です」
「空閑遊真です。おうわさはかねがね」

ぺこりと頭を下げた僕らに、ご丁寧にどうも、と返しながら名前さんはにこ、と笑った。
ぴん、と張った背筋に僕らまで正されるような不思議な感覚が、この人からはする。

「はじめまして、苗字名前です。よろしくお願いします」

そう名乗った名前さんは、綺麗な笑みを携えていたけれど、どこか寂しそうな笑みを浮かべる人だなと思った。
だから、なんで空閑がこんなに名前さんに固執するのか、この時のぼくには分からなかった。

「名前さん、俺とも模擬戦しない?」

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