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SPな俺の幼馴染と警察辞めたことになってるのによく会ってしまうんだが見逃してくれないか??

※苗字固定。井上。



俺には幼馴染が2人いる。
1人はそれはもう優秀で、誰もが一目置く男。自分の現状に満足せず常に研鑽を重ねる、鋼のような精神と愛国心を持っている。
もうひとりは朝露のような静けさを持つ女。気づいたらどこかへ行ってしまいそうな雰囲気を持ちながらも、凛とした一本の筋を携えてそこいる。
ゼロとなまえ。2人とも本当に大切な俺の幼馴染だ。

そんな幼馴染も含めて俺たち3人は警察という道を歩んだ。この国の為に、この国に住まう皆が陰なく暮らす為に。平穏な日々を守りたくて、俺は警察官になった。幼馴染のゼロも俺と同じ志で警察官になったが、もう一人の幼馴染、井上なまえは違った。

違うというより、どちらかというと歳を重ねるにつれ、なまえの考えることは分からなくなった、という方が正しい。常に3人で笑い合っていた幼少期からもう随分と時間が経った。
名前の呼び方も彼女からの特別なものではなくなってしまったし、いつの間にか俺のことを諸伏、と他人行儀で呼ぶようになった。男女の性差があるんだ、しょうがない、と思いつつ変わってしまったな、とおっさんみたいなことを思う。まだ一般的には若いと言われる年齢なのにだ。

まあ、なにか考えがあるんだろう。
そうゼロと話をしていてからしばらく、俺に潜入捜査の話が舞い込んできた。黒の組織という国際犯罪組織に潜入しろというお達しだ。正直に言ってなんで俺が、と思ったし、俺は今でもそう思う。

それでもやっていられるのは自分の信念と、幼い頃に交わした、ゼロとの約束。そしてなまえへの淡い思いがあるからだった。
思えば、なまえは小さい頃から色々を許してくれた。ゼロへの嫉妬も、なまえへの依存じみた独占欲も。ぶっきらぼうに、はいはいと言いながらも話を聞いてくれたし俺たちのことをよく見ていた。
公安部への配属が決まったころ、いつもと違うなにかを察したのか、なまえが俺の目を見て言った。

「これは独り言なんだけど…きつくなったら、辛くなったら逃げていいし、困ったら頼っていい。ひとりで出来ることなんてたかが知れてる。約束して、生きることを諦めないって」

あ、俺プロポーズされた。

勿論そんな訳はないのだが、色々と拗らせている自覚のある俺からしたらそう思ってもおかしくないくらいの言葉だった。
いちいち俺の幼馴染みがかっこいい。ゼロにそれを言ったらぶっ叩かれた上に自慢合戦に発展して風見さんに寝ろとキレられたのは良い思い出だ。

そして、それが俺が「諸伏景光」として、なまえに会えた最後だった。




潜入捜査が始まって、少しずつアンダーグラウンドの世界に顔を出し始めた。あまりにクリーン過ぎる経歴は怪しまれるからだ。
新しい人格と新しい名前に慣れるまでに少し時間が掛かりそうだと思ったのは、いつまでたっても俺の名前を呼ぶなまえの顔が忘れられないからだ。

取り繕って取り繕って、駆けずり回って、汚い仕事で手を汚して。
そうして入った情報で足が付かないものを適度に警察へ流し、深い闇と僅かの正義で心を保つ。想像していたよりもずっと孤独で、ずっと深く、昏い闇だった。

自分に繋がるものは全て絶てと上司や先輩から口酸っぱく言われた。勿論全て捨てるつもりだった。
それでも棄てられなかった、本当に僅かなもの。それは、セキュリティを何重にもかけたケータイの奥へ。同期達との思い出と、なまえとゼロと撮った幼い頃の写真。
全部思い出として、ケータイの奥底に仕舞い込んだ。

きっと、この果てしない任務が終わるまでは会うことは出来ないだろう。組織潜入の際に再会するとは思わなかったゼロを除く、兄や同期たち。そしてなまえにも。
巻き込む訳には行かない。俺が警察関係者だと分かってしまえば、必ず巻き込んでしまう。

今の俺は警察官の諸伏景光ではないのだと、俺は「俺」に蓋をして、今日もまたスコープを覗く。
願わくば、俺の大切な人達が健やかに過ごせますように。
祈りに近い願いを口にする代わりに、俺は引き金を引くのだ。こうして、スコッチは濁りを増していく。






「…はあ」

―――はずだったのに!どうしてこうなった!

俺は心の中で崩れ落ちた。
今日はスコッチとしてとある財閥のパーティーに潜っていた。俺の役割は、組織の情報を流しているだろう逃亡中の父親の居場所を、呑気な令嬢から聞き出すことだ。
聞き出した後はバーボンがその隠れ家へ向かい交渉。決裂の場合はライが相応の対応をする手筈だ。
任務遂行のためにはこの令嬢から引き出す情報が鍵になるので失敗はできない。そう、失敗できないんだ。今とてつもなく失敗フラグが立ちまくっているが。

元々、とある有名政治家が冒頭の挨拶だけしにくるという話はあった。警察がいる場合のプランも練っている。だがその警察に!幼馴染がいるなんて!思わないだろ普通!!

こっちを見てくるなまえの顔はそれはもう無表情なのに、視線には「おまえまたかよ、なにしてるんだ」という呆れが滲んでいるような気がする。確かに俺もなまえも、なるべく動揺を出さないようにしないといけないからわかるんだけど、それにしても表情無さすぎないか?お願いだからそんな顔でこっち見ないで!!

俺のその様子をどう捉えたのか。するり、と細い腕が絡められた。やっべ、わ、忘れてた。

「ねーえ、光秀さん。どうかしたの?」
「ああ、いやちょっとな」
「ふふ、だーめ、あんな女なんかに余所見しないで」
「ごめんごめん、今は君しか見えてないよ」
「きゃっ、もう、上手なんだから」

あああああやめてえええこっち見ないでえええ!!!
物凄い視線が刺さっているのは分かっている。分かっているんだ!でも仕事なんだからしょうがないだろ!?

「…ねえ、光秀さん、ちょっとカクテル取ってきてくれないかしら?」
「いいぜ、なにがお望みだい?」
「そうね…じゃあ、ビトウィーン・ザ・シーツを」
「随分ストレートなお誘いだな…悪い子にはお仕置きだ…もちろんベッドで、な」

ああああ誰か俺を殺してくれえええええ!!!!
誰だ今回のキャラ設定こんな歯が浮くような台詞吐く男にしたの!くそ!!俺だ!!!なんなら結構ノリノリでした!反省してます!
なまえからの視線がびしびし刺さってくる。ああああ聞こえた?聞こえたよな!?そりゃこの至近距離だもんな!!似合わないのも知ってる!!でもお願い引かないで!!

そんな祈りも空しく、なまえからの視線は厳しさを増すばかりだった。もう俺どんな顔していいのかわかんねえよ…。
ご令嬢にカクテル取って来いと言われ、「はい喜んでェ!!」と某居酒屋の店員みたいな勢いで返事したくなるぐらいには、この場から離脱したかった。
なのでわざと遠い所のボーイに声を掛けにいった。今のうちに感情の整理が必要だ。よし、冷静になるんだぞ、俺…。

今日は、任務で来ている。そう、俺は諸伏ではなく、スコッチ!そう…スコッチなんだ…いいな…?

だから今日はなまえと遭遇してもなんともないんだ…わかるな…?むしろ黒の組織としては警察を警戒しないといけない…警戒しつつも、警察と会っても悪いことなんてしていないですという顔をしなければ…。

どんなによく出会うとしてもだ…本当に運命なんじゃないか?って思うくらいにはよく会ったとしても…。

そもそもおかしいだろ。警視庁に入庁したときから遭遇率は高すぎ。初めて仕事中に会ってから、色々な現場入りする度に
会うし。まあ、公安とSPなんていう近しい仕事だとしょうがないんだが、それにしても多すぎる。

時に潜入中の工場。時に爆弾物の犯行現場。時に街頭演説の最中。とにかくよく会う。
俺か?俺がなまえを引き付けているのか?よくわからないが、とにもかくにも荒んだ公安任務の中で見る幼馴染みの姿は、俺にとってはネコ動画に匹敵する癒しでもあった。そしてなにより、仕事中の凛々しい姿を見ると心臓がきゅうううと痛い。つまりだ。

かっっっっこいい俺の幼馴染み最高!!今日も俺の幼馴染みがかっこかわいい!!
わかるか?あのインカムに手を充てて「井上です」っていうクールさ!細い指でごつい銃を握るギャップ!特殊警棒を操る鮮やかさ!
もうほんと!どれもご馳走さまですって感じである。そしてかっこいいだけでないのはなまえの凄いところで、時々出てくる乙女の仕草に俺とゼロはずっと心が撃ち抜かれている。

なに?っていうときに必ずきょとんとした顔で、頭をこてん、って傾げるとこが俺は特に好きでよく心臓が痛くなる。ちなみにゼロは悩むときにんー、と言いながら唇に指を置く仕草が好きらしい。マニアックである。だが分かる(真顔)。握手しようゼロ。


…………俺今、すげえ景光じゃん…。おい、全然スコッチじゃないぞ…おかしいな…どういうことだ…。


ボーイからカクテルを受けとる。まずい、令嬢の元へ帰る最中に気持ちを切り替えなければ。焦りを表に出さないように少しゆっくりと戻ろう。
ご令嬢はまだいるよな?あそこまでメロメロにしたし帰ってるわけがないだろうが、と思ってご令嬢の姿を確認すると、なんとご令嬢となまえが対峙していた。
なりふり構わず全速力で戻った。目ん玉飛び出るかと思った。

「ちょっとそこの人」
「なんでしょうか」

ああああなんでわざわざよりにもよってなまえに話し掛けるんだこのバカ令嬢!!やめてくれ!!俺のライフはもうゼロだよ!!
ぎろ、となまえを睨んだご令嬢に対してなまえは動じる素振りはまったく見せなかった。やだかっこいい…。

「さっきから不躾に見すぎよ。不愉快だわ」
「申し訳ございません。怪しい人物がいないか確認しておりますので、ご理解ください」

そう思っていたら令嬢がなまえ相手にマウントを取り始めた!や、止めとけって!!なまえはいまでこそ大人しいが昔は口八丁で同級生をそれはもう泣かしてきたんだぞ?ゼロの口が立つのは、変なところをなまえに憧れたせいだから!

なにが言いたいって?あんな歯の浮くようなクサい台詞が、息をするように出てくる安室透もといバーボンの手本なんだぞ!悪いこと言わないからメンタルボコボコにされる前に謝っとけって、な??いい子…ほら…怖くない…。

「失礼します。はい、…いえ、なんでもありません。ただのご令嬢とナンパ男です」

主に俺に辛辣である。酷くない??俺なんもしてねえよ…。そう思って異論を乗せてなまえを見ると、表情は特に変わらないまま、なまえの眉がぴくり、とはねた。
やばい。あれはなまえの怒ってるサインだ!ちょ、ちょっと待って!なあ待ってくれ!なんで怒ってんの?そんな目で見ないで俺別になにも…そりゃ!俺のキャラじゃないことは言ったけど!!

「他に何かご用件ございますか?」
「いえ、なんでもないわ!…ほーらぁ、行きましょ、光秀さん!この上の部屋取ってあるの、少し休みましょう?二人っきりで」
「そ、そうだな…。」

ちら、となまえの表情を見ると相変わらず感情が表に出ていないのでなまえが何を考えてるかわからない。それどころか目もだいぶ暗い、って、エッ!?暗っ!ハイライト消えてないか!?ねえ!!

おかしくない?なんで俺のかわいい幼馴染はこんなに無表情で仕事してるの?なんで?やっぱりSPか?SPが良くないのか!?わかってる!!どちらかというと俺のせい!俺だってちっちゃい頃から知ってる人間が目の前でハニートラップ仕掛けてたら…引くよな!!

「井上です。はい、全 く 問題ありません」

見ろ!俺の大事な大事な幼馴染の目が!死んでる!俺はどうしたらいいんだ!?助けてゼロ!!

結局、その日の任務は無事に完了した。バーボンには誉められたけど俺はもう心が削られていたので、そのあとのことはよく覚えていない…だれか…もっと誉めて…。






「…あんたまた迂闊にこんなところに…」
「本当に行く先々で会うな…なあ、運命って信じる?」
「前に比べて随分雑だね。というか、萩原みたいなこと言わないでくれる?」

スコッチとして任務を完了した後、警視庁に顔を出して、そのまま2徹をしたある夜のこと。
帰るために裏口から出ようと思った俺は、資料室へ向かうエレベーターの中で、またなまえにばったり会った。これはもう運命だな、と内心で笑った。
ガー、と古い音を立てて閉まる扉を見る。完全な密室だし、盗聴の類いもない。

というか萩原がなんだって??いつからそんな距離感になったんだ?お前なまえのこと嫌ってただろ!?なんなんだ?好きなのか?なまえのことを?今さら!?
つーか、松田も何してるんだよ、萩原を止めるのはお前の役割だろ!?確かに萩原は良いやつかもしれないけどそれとこれとは話が別だ!

それにしても。

俺の知らないところでなまえも、なまえの周りも変わっていくのか。ああ、嫌だ。お前は、お前だけは、遠くに行かないでほしいのに。急にどろり、と体の奥底から何かが滲んでくるのが分かった。
心のどこかで、止めなければならないという思いと、止めなくていいと囁く自分がいた。そうか、止めなくていいのか。そう思ったら止まらなかった。

「? も…」

やんわりと、それでも逃がさないようにエレベーターの隅になまえを追いやった。逃げ場の無くなったなまえが、少し慌てたような雰囲気を出したが、それを先回りで牽制する。
しー、となまえの唇に指を推し当てた。静かに、というジェスチャーが伝わったのか、この密閉空間ではどうにもならないと諦めたのか。出掛けた言葉を堪えたせいで、ぐっ、となまえの喉が鳴った。

まじまじとなまえの細い首を見る、肌もすべすべしてそうだ。首筋にうっすらと残る傷跡を見つけた。この間の任務でついた傷らしい。潜っているとなにも分からなくなる。なまえのことも、俺の巣のことも。
置いていかれる。遠くに行ってしまう。どうして俺が。俺はなんのために。どうして。どうして。何故。

「ちょっと」
「黙って」

意識とは別に体は欲望のままに動いているようだった。焦ったようななまえの声が遠くに感じる。手はなまえの首筋を愛しそうになぞっていた。触れるか触れないか、ぎりぎりのところを何度もなぞる。なまえの体がぴくり、と震えた。
それを必死で押し込める姿に、いじらしさを感じる。欲の色を見せないように、堪える姿に正直俺の腰もざわついた。ああ、本当にイイ女だ。

いつものようにベッドで甘い言葉を囁くか、何も考えさせないように激しく抱くか。スコッチならどちらでもできる。景光、あいつはだめだ。俺が貰う。

「まっ…、っぁ」
「……っ、はぁ…なまえ…」

人のものに傷なんかつけやがって、もう薄くなった傷に舌を這わせた。
とうとう、なまえの口から小さな声がでた。初めて聞く、幼馴染の艶めいた声。かわいい、あまい、たべたい。小さく跳ねる肩も、壁に押し付けた腕も、ぜんぶ俺のものにしたい。

捩る体を押さえ込んで、耳まで舌を這わせた。甘く噛んで、耳の縁をなぞって、また耳朶を噛む。少し大きくじゅる、と音を出す。また跳ねる肩。耳が弱いらしい。たべたい、滅茶苦茶にしたいという自分本意の欲望が顔を出す。

ウィスキーは悪酔いする。当然スコッチも。なまえも酔ってしまえばいい。ねえ、堕ちてきて。一緒に黒くなろう。酔って、染まってしまえばあとは何もかも関係ない。一つになれるから。なあ、だから堕ちてきて。ねえ、おれの、

「お前、誰だ」

冷や水をぶっかけられたような、俺の知らない冷たい声だった。揺蕩っていた意識が急激に引き戻された。

いま、完全に混ざってた。

「――っ、え、あ、わ、悪い」
「いや…あんた本当に大丈夫なの?」

気遣うような声に、思わず頭を抱えたくなるのを堪えた。幼馴染に会ったからって気を抜きすぎた。緋色と諸伏が混ざるなんて今まで一度もなかったというのに。これでは本当にゼロに何を言われるか分からない。

「大丈夫、ちょっと疲れてただけだ」
「…あっそ」

いつもと変わらずに言い放つ幼馴染に、際どいことをしたにも関わらず変化なしか、と内心で苦笑する。

もう、限界だ。

偶然にも会ってしまうが、なまえとはもう会わない方がいい。
巻き込む、というのもあるが俺の心が不安定になる方が不安材料として大きい。今ここで決めなければ、きっとずるずる会ってしまう。そうだ、うん、これで最後にしよう。会わないようにすることなんて、きっと本気になれば容易いはずだ。俺はスコッチなのだから。本来は警察に見つかることはあってはならない。
だから、これが最後。ああ、女々しいなあ、俺。こんなにも手放したくない、と願ってしまっている。

悪かった、と身を引こうとすると突然引っ張られ、なまえの首筋に顔を埋める状態になった。

だきしめられている。

え、待ってどういうことだ?すごい密着してるんだが?頭を押さえつけされている。あれ、これこの間不可抗力でなまえの前でターゲットの女にやってしまった「俺の肩貸してやる」じゃないか??やばい恥ずか死ぬ。

それよりも迂闊に息を吸ったら肺がなまえの匂いでいっぱいになった。なんか変態くさいな。やばいぞ。
というかな?ちょっとまって、さっきと同じ、いやもっと美味しい状況なんだけど。最後のご褒美かな??という俺の考えはなまえの言葉によって砕かれた。

「どうし」
「ひい」

―――ああ、くそ、やっぱりできない。

こんな、一番欲しいタイミングで、一番欲しいものをくれる相手を自ら手離すなんて。
するり、となまえの背中に腕を回す。小さい背中。抱き込んでしまえば隠せてしまう体躯。

ずっと、ずっと呼んでくれなかった。なまえだけの愛称。小さい頃、なまえは俺のことを景光ではなくひいと呼んだ。
この世でたったひとりからの、たったひとつの愛称。それを、このタイミングで出してくるなんて、本当に反則だ。しかも続く言葉にも、思わず赤面する。

ずるい。プロポーズかよ。ほんと、おまえ、最高の女だよ。

前言撤回。やはり手離したくない。俺のわがままだ。知ってる。でもそれでも。俺は。

「プロポーズされた」
「あんた何言ってんの…こうなる前にいつもケアするもう一人はどうしたわけ」
「さあな?どこかで上手いことやってるんじゃないか?」
「はいはい。そういうことにしとく」

俺の調子が戻ったのを感じたのか、ぱっと手を離されがてら、べしり、とおでこを掌で叩かれた。
なまえの照れたときの癖だ。意外とすぐに手が出る。ああ、くそ、俺の幼馴染は今日もかわいい。絶対ゼロに自慢する。

本当は松田と萩原にも牽制がてら自慢したいところではあるがそれは現実的に出来ないので、ゼロで鬱憤を晴らすことに決めた。これで明日からのイタリア任務も耐えられそうだ。
もう一度強く抱きしめた背中は俺が思うより華奢で、温かくて。

もう少しこの時間が続けばいいのに。そんな思いを心の奥に閉じ込めた。せめて、この箱庭から出るまでは。




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