長女、邂逅する


破壊された扉の向こうには、4人の影があった。一人はターゲットで間違いないだろう。
イルトにとって予想外だったのは、ターゲットが絶状態になっていたことである。何らかの形で念能力を封じられているようだった。
これは好都合かもしれない。

「あら、こんばんは」
「…」

室内には3人の影があった。男1人、女2人。
いずれも念能力者だ。研ぎ澄まされたオーラが、彼らが只の盗賊でないことを教えてくれる。
特記すべきは、呑気に挨拶をしたイルトに反応すらしなかった、真ん中の男だ。
そのオーラに、イルトは目を細めた。

精錬された鉄のようなオーラだった。
黒のコートを纏い、額には逆さ十字の刺青、全てを飲み込むような漆黒の瞳。
見ただけで分かる手練れなんて、全く、なんて厄介な。イルトは内心でため息をついた。

「立派なオーラね。でも沈黙?」
「誰だ」
「下らないなあ…。知ってどうするの?もう少しマシな質問は考えられなかった?」

イルトの呆れたような視線に、真ん中に立つ男が笑った。弟のように鉄仮面のような奴だと思いきやそうでもないらしい。感情があるならまだ挑発も可能だ。
ただ、乗るとはさらさら思えないが。

「ならば変えよう。何をしにきた」
「単刀直入ね。嫌いじゃないわ」
「答えろ」
「団長、フィンかやられたってことかい?」

信じられない、とばかりに目を見開く女。
この部屋に来るには、あの男、フィンと言ったか、を倒さなければならない。男はそういう位置に配置されていた。

確かにそれなりに強かったし、オーラの量も多かった。
イルトにとってはこの男ほど大きな敵ではないが、それでも倒すのが面倒な敵ではあった。殺してはいないが、そんなに容易く回復できるほど甘い攻撃をしたつもりもない。

しかし彼からは強化系かつ猪突猛進型の臭いがした。というか、あの技、あの発言からして間違いないだろう。あとから何を言われるか分かったものではない。そう思ったイルトは形だけの弁明をした。

「私のせいじゃないからね?生きてたらあのくそアマ絶対に見つけ出して殺す!とか言いそうだからつい。あっちが先に手ェ出してきたんだから」
「あいつなら平気だろう。それよりも今はこいつだ」
「楽観的な考えすぎじゃない?もう殺しちゃったかもよ?」

にやり、とイルトが挑発すれば、側の女2人のオーラが揺れた。少しばかり動揺したらしい。しかし真ん中の男だけは揺らぐことはない。イルトから注意を反らさない。

オーラの質といい、隙のなさといい、何なんだろうか、と考えるイルトの脳に、1つの答えが生まれた。まさか。

「それはそれだ」
「容赦ないなあ…。あなたたちよくこんな男の元で働けるね。で、目的を言うと私は依頼されてその男を殺しにきたわけ」
「それは困るな。俺はこの男を生かしたままにしなければならない。俺のためにもな」
「ゲイ?」

今のはそう誤解されても可笑しくないだろう。こんなイケメンがあんな見苦しく喘いでいる男にすら食指が動くなんて。知りたくない現実だった。
引いた様子を見せると、団長さんとやらは焦ったように目を見開いた。どうやら予想外だったらしい。

「なんでそんな話になる。おれはノーマルだ」
「今のは団長が悪いわよ」

鋭い女性の突っ込みと、男の焦った顔を見て、イルトは笑いを噛み殺した。その様子にカチンと来たのか、団長さんがゆらりとこちらを睨む。
再び空気が張り詰める。こういうシリアスな空気好きじゃないのにな、とイルトは内心でごちた。

「いらない情報どうもありがとう。理由は聞いたとこで答えてくれなさそうだから聞かない。で、その男を渡してくれるの?くれないの?どっち?」
「殺す気満々の相手に渡すと思うか?」
「ちょっとぐらい譲歩してくれればいいものを…交渉決裂ってことでいいのかな?」
「もちろんだ」

にべもなくいい放った男に、イルトは苦笑した。やむにやまれぬ事情があるようだ。しかし、こちらは仕事である。ミスをしたとあれば、おそらく墓に名前すら刻まれないだろう。

「なんて面倒な…本当、残念」

イルトが実に残念だと声のトーンを落とした刹那、彼らが動いた。
スピードもオーラも、間違いなく今までイルトが会った念能力者の中でもトップクラスだった。

しかし、イルトは動かない。
直立不動のリラックスした様子で、しかし目は彼らを追っていた。その様子に彼らがわずかに違和感を得たとき、イルトはにやり、と笑った。

『動くな』




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