長女、出会っちゃいました

飛行場に飛行船を置いたイルトは、キルアと別れ、麓での用事を済ませていた。
用事といってもこれからに備えての暗器の整備である。仕上げまでに4、5日程掛かってしまうこともあって、キルアを先に家に返したのだ。

ゆっくりと自力で家までたどり着いたイルトは、門番に懐かしい人がいるのを見つけた。どうやら向こうも気づいたようで、珍しそうにイルトに声を掛ける。

「おー、珍しいですね。お嬢」
「シークアント、久しぶり。キルア通った?」
「通りましたよ。お嬢がゆっくりしてるうちに」
「まあまあ、固いこと言わないでよ。あ、これお土産。いつもありがとね」
「お嬢だけですよ、お土産と称して職務違反させてくるの」
「また来るからそれまで残しておいてね、よろしく〜」

シークアントと軽口を交わしながら、手を振り、片手でイルトは扉を開けた。最低限の力しか入れていないため、2トンの扉しか開かないが、ただ門を開けて家に帰るだけだ。充分である。

いつも通り家に入ろうとしたイルトは、人の気配に思わず目を見開いた。扉を開けた先にいたのは、小さな子供と金髪の青年、そしてスーツの男である。思わず目があってイルトは固まった。

まさかこんな無防備な客人がいると思っていなかったので、思わずしげしげと三人を観察すると、スーツの男が叫んだ。

「はああああ!?」
「え」

なんなんだろう、一体、とイルトは呆然とする。侵入者かそうでないかで対応は変わるが、彼らから質の悪い雰囲気は感じられなかった。なんでこんなまともそうな彼らがここにいるのだろうか。まともな人間がくる場所で無いことは、暮らしていたイルトがよく知っている。

「えーと、どちらさま?」
「オレ、ゴン!キルアの友達なんだ!こっちはクラピカで、こっちがレオリオ!」
「ああ、どうも、これはご丁寧に」

ぺこりと会釈をすると、ゴン、という少年がこんにちは、と元気よく返事をした。稀に見るいい子である。正直場にそぐわなすぎてどうしていいかわからない。イルトはたじろいだ。

「いや、こちらこそ。クラピカだ」
「お、おう…レオリオだ」
「俺たちキルアに会いに来たんだ!お姉さんはもしかしてイルトさん?」
「え、あ、うん、そうだけど…積もる話もなんだし…ゼフロ、小屋借りて良い?」

とんとん拍子に進む会話に、長くなりそうな予感がしたイルトは、共にいたゼブロに許可を取る。勿論、と返ってきた答えに従い、イルトたちは門番小屋へ向かった。






「なるほどねー。それでキルアの様子が可笑しかったのか…」
「うん…オレはキルアと友達だと思ってるんだけど…」

お茶をすすりながら、イルトがそう相槌を打つ。なるほど、なるほど、と納得してイルトは頭を抱えた。

イルミの悪い癖が出た。

それ以上に相応しい言葉はない。イルミの愛は異常だ。そしてそれを是とするこの家も。
それはイルトが外に行ったからこそ分かることだ。イルトも外に出なければちょっと目を掛けられているぐらいにしか取れなかったが、今となってはイルミの愛は双子のイルトから見ても異常である。

そして友人はいらないという教育方針も。家庭の問題と言ってしまえばそれはそれだが、他人にこうして不快な思いをさせているあたりその一言ではあまり片付けたくない。

「…イルミ、いや、一部の家族のキルアへの愛情は少し異常でね…。不快なことをさせて本当に申し訳ない。姉として、ゾルディックの者として謝罪します」
「顔を上げてください!貴女が謝る必要は…」

頭を下げたイルトに、金髪の青年、クラピカが言うが、イルトにとっては頭を下げるなど大したことではない。ましてやイルミとキルアが関わってくるとなれば尚更だ。話には出ていないが、片割れの行動原理は嫌でも理解できてしまう。

イルトには謝るしかできない。考えなくてもわかる。多大な迷惑を掛けているはずだ。間違いなく。

「それでも、イルミは私の双子の弟だから」
「双子ォ!?あの鉄仮面と!?似ても似つかねーぜ!いでっ!」
「しっ、失礼だぞレオリオ!」
「はははは!!鉄仮面!間違いないわ!!」

今日初めて会った他人の姉弟の悪口を言うレオリオの発言に、クラピカがレオリオの腿をつねった。しかし、それにも関わらず突然爆笑し始めたイルトに、3人は唖然とする。普通、兄弟のことを悪く言われることは気持ちのいい事ではない。しかしイルトは笑う。

「敬語やめてよ、なんかむずむずするからさ。えーと、レオリオとクラピカとゴンだっけ。別に私は兄弟を馬鹿にされてもなんとも思わないよ。間違ってもないしね」

ははは、と笑うイルトの言葉に、レオリオが「あ、そう…」とか細い声で返事をする。実際やってられないのだ。とんでもない家族に一般常識は通じない。

「私は父の、イルミは母の遺伝子を濃く受け継いだからね。ホント嫌な話だけど」
「…仲、悪いのか?」

イルトのその言葉に、レオリオがおずおずといった様子で聞く。家族の問題はどこの国でもデリケートなものだ。レオリオのデリカシーの無い問いに、クラピカが「またお前は…!」と衝撃を受け、レオリオの足を思いっきり踏んだ。いっ!という声に、くすりとイルトが笑う。

「私普段この家で生活してないから。父さんと喧嘩して15の時に家出。そのあとは普通に高校、大学に進学したよ。今は時々暗殺の仕事受けるだけのフリーター」
「…流石キルアの姉貴」
「…違いない」

ぽつりと呟いたレオリオの言葉に賛同するクラピカの目も点になっていた。キルアの家出は、姉の影響だということに納得したようだった。相違ございません。

「で?君たちなにしてるの?敷地に入れたなら真っ直ぐ来ればいいのに」
「それがよー俺達もそう言ったんだが、ゴンが試されるのは嫌だ、開けられるようになって行くって聞かねーもんでな」
「今はゴンの骨折もあることだし、療養も兼ねてここで修行しているんだ」

その言葉に、ゴンは不満げな様子を見せていた。感情を素直に表す子だとイルトは感心する。キルアが惹かれるのも少し分かった気がする。同時にイルミが警戒するのも。面白い、とイルトは笑う。口からでたのは、本心だった。

「へえ、面白そう!じゃあ、私もここ居るね」




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