荒ぶる長女

お気に入りのワンルームのマンションに帰ってきたイルトを迎えたのは、無表情ながらに炬燵で寛ぐ双子の弟とにやにやトランプでタワーを作り上げている自称奇術師だった。
あまりにも信じがたい光景を見て、イルトは一度家の外に出て扉を閉じた。鍵までかけた。

おかしい。現実離れしている。いつから私は敵の念の手中にいた?

そう思ったイルトは一度深呼吸をして、もう一度鍵を開けた。今見た光景が幻であることを祈りながら。
しかし再び部屋に入ったイルトを迎えた双子の弟と奇術師は何一つ変わらずそこにいた。
なんならイルミは「ははは」と大して面白くも無さそうに笑いながらテレビを見ていたし、ヒソカは崩れたトランプタワーを見ながらくつくつ笑っていた。変態だ。悪夢である。

いつから私の家は魔窟と化した、とイルトは頭を抱えながら現実逃避がてら手を洗いに洗面台に向かった。

しかしながら諦めも立ち直りも早いイルトは、手を洗っている最中にもういいや、と思考を流し台に泡と共に流した。
おかえりひとつなく悠々自適に過ごす片割れに呆れつつ、買ってきたミカンを炬燵のテーブルに置く。ミカンを置いて炬燵に潜るまでの一瞬で目の前から消えたオレンジ色の物体。

無論、目で追えるものの一瞬で皮を剥かれたそれはほぐされ、既に片割れと奇術師の口の中に入っている。もぐもぐと口を動かす2人に、イルトは胡乱な視線を送った。イルトもミカンを取り、皮を剥きつつ口を開く。

「イルミ、友達はもう少し選んだら?」
「友達になった覚えないんだけど」
「酷いなあ」

各々が言いたいことを押し込めた結果である。元々暗殺一家なので人間性がどうとか一般的な常識に関しては諦めた。ただ、我が物顔でいる奇術師、テメーはダメだ。
飄々と否定と感想を貰ったイルトは2人に向かってミカンの皮を投げた。念を纏ったミカンの皮はあえなくトランプと鋲と相殺されて3つとも砕けた。

ちっ、と隠すでもなく舌打ちしたイルトを面倒くさそうに眺めながらイルミがため息をついた。表情は変わらないが随分と呆れ顔だ、とイルトも眉間に皺を寄せた。

「そう言う姉さんだってつるむ相手は選んだら?」
「つるんでるつもりないし。勝手に寄ってくるだけ」
「クロロってほんと物好きだよね」
「どういう意味」

かちん、ときたイルトが噛みつくとイルミは黙ってミカンを口に運んだ。正解は沈黙とでも言いたげな態度にイルトの機嫌は降下していく。

「兎に角!次この変態奇術ピエロ野郎が私の家に来たら行方眩ますから」
「大袈裟すぎ。別にいいだろ。部屋に上がるくらい」
「いつまでも実家暮らしの人と一緒にしないでもらえる?ここは私がお金を出して住んでるの。勝手にイルミが来客を決めないで」
「は?なにそれ、実家暮らしとか関係ある?オレに父さん押し付けてるくせに」
「イルミだって別にあの人嫌いじゃないんだったらいいじゃん。私は嫌だから家出たの」
「君たちほんと仲いいね」

ピリピリとした雰囲気を感じながらも、イルトの言うことが正しいだろうな、と思ったヒソカが、場を和ませようとした。槍が降るよりも珍しいヒソカの気遣いだ。

「「うるさい。黙ってろ」」
「◆」

腹いせに投げたスペードとクローバーのエースのカードは見事に双子によって粉砕され、ヒソカの気遣いも同様に砕けた。この2人には2度と気なんか遣うものか、とヒソカは心に決めた。双子の睨み合いはまだ続いている。

「ていうか家だろうが部屋だろうが、自分が呼んでない人間いたら嫌だと思うんだけど」
「じゃあなんで合鍵なんて渡すわけ?ほっといても侵入されるんだったら変わんないじゃん」
「は?不法侵入とそれ以外の区別も付かないの?これだから箱入り息子は嫌なんですけど」
「オレとミル間違えてない?目腐ったの?」
「正常ですけど?喧嘩ですか?お姉ちゃん買いますけど」
「イルトが勝手に姉って言って主張してるだけだろ。オレが譲歩してやってんだけど」

イルミのその言葉を最後に双子が押し黙った。音はしないものの、並々ならぬ殺気は部屋に充満している。心地いい刺すような殺気だ、とヒソカの背筋が震えた。イイ、やはりこの双子はイイ。そう思うヒソカなど知らない、と双子はさらに殺気を強めた。

一般人なら泡を吹いているレベルの、心地いい殺気を感じていたかったヒソカだが、それ以上に面倒な気配を感じた。

「……じゃ」

ヒソカのその声を合図に、その場は轟音に包まれた。双子の念を感じながらイルトのお気に入りだという部屋を憐れに思った。
明日まであればいいけど、というヒソカの予想通り夜のニュースのトップは原因不明のガス爆発で死者多数というテロップだった。




グリードアイランド内 某酒場にて。

「……――っていうことがあったよ。結局、部屋どころかマンションまで吹き飛んだけど」

大分ぬるくなった酒を煽りながら、あの時の殺気はゾクゾクした、と漏らすヒソカを他の面子が引いたように見ている。その中でも、双子を知っているゴンとキルアがはは、と渇いた笑いを溢した。

「……流石、イルトさん」
「そういやそんな話、姉貴から聞いたなー。冗談だと思ってたぜ!」

レイザーの情報収集がてら酒場で腹拵えをしているうちに話があちらこちらへさ迷い、気付けばキルアの姉であるイルトが話題をさらっていった。
兄姉のいないゴンですら、姉がいたらこうなんだろうな、と想像させるには十分すぎるほど可愛がってくれるイルトである。

実の姉のようなイルトの話を聞けるのは、ゴンも嬉しかったが、ヒソカから出てきたエピソードには思わず閉口してしまった。
イルトの自由過ぎるうえにこれを聞いてもけらけら笑って流石姉貴、と手放しに姉を誉めるキルアを見て、これはゾルディックの血だな、とゴンはつくづく思った。

「しかもその喧嘩、中々終わらなくてねえ……1週間くらい喧嘩してたのに気付いたら仲良くハンバーガー食べてたよ」
「スケールの大きな姉弟喧嘩……」
「いや、死人出てるぞ」

ゴレイヌのツッコミが冴え渡るなか、やれやれとキルアが腕を組みながら笑った。

「そう考えたらオレはまだマシだよな〜、ちょっとモメたくらいだし」
「(キルア家出たときお母さん刺してたよね……)」
「あ?なんだよゴン?」
「ううん、なんでもない」
「?」



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