長女の休息


久々の帰宅に歓喜した父、シルバが鬱陶しくなったイルトは早々にパドキアの実家を出た。
もちろん仕事の内容に文句を言うことを忘れずに。イルトとしてはこれに懲りてしばらく仕事の休養を求めたのだが、そうはいかないのが世の常である。

幻影旅団と対峙したと告げると、一瞬だけ真剣な顔を見せた父は、次の瞬間にはででれとイルトをべた褒めした。旅団から逃げられるようになったならと祝いの席を設けようとする父に、イルトは一撃をかまし、再び部屋を飛び出した。

珍しく真面目な顔をしたと思って、見直しかけたらこれである。今思い出しても中々のクリティカルヒットであった、とイルトは確かに自身の成長を感じた。

邸内を歩けば、祖父であるゼノが笑顔でイルトを迎えてくれた。話を聞けば、イルミとキルアは仕事で外出中だそうだ。イルミはともかく、キルアが外出など珍しい。どこへいったのかと聞けば、なるほど、納得である。

その話を聞き、イルトはその足でキルアに会いに出掛けた。父の叫びと母の喚き声は聞こえなかったことにして。




『ダウーーーーーーン!!!!キルア選手、あと一歩及ばずーー!!』

血と汗の臭いと、それから殺気にも似た熱気が辺りを包んでいた。イルトがいるのは、世界でも屈指の戦闘施設、天空闘技場だ。

世界で4番目の高さを誇る天空闘技場は、格闘のメッカである。
強さを求める者たちがここに集い、自身の戦闘技術を研磨する。おまけに勝てばお金が貰える為、とりあえず金稼ぎにくる人間も多い。つまりは、手っ取り早く強くなる為には理想的な場所。
しかし、勝たなければ当然意味がない場所でもある。心身はおろか、命の保証すら誰もしてくれない。強さだけが生き残る術。それが、天空闘技場だ。

ざわざわと廊下は喧騒に包まれる。天空闘技場で戦う者にはファンが付いたりする。キルアの場合は、まだ幼いからファンというよりは、どちらかといえば青田買いだろう。勿論だが、賭けは当然のようにあるし、八百長もここでは普通だ。

かつてイルトもここに来たことがある。
もう随分昔の話だ。父、シルバに軽く放り込まれ、200階に昇るまで帰ってくるなと言われたことは今でもよく覚えていた。

思えば、あの頃から父に反抗心があったのかもしれない。なにしろ腹が立ってフロアマスター直前まで登ったのだから。

200階に上がった途端、念を文字通り体感してしまったことも懐かしい。幸運だったのは、その時にたまたま念の師匠を見つけられたことだった。一人だったらこうはいかなかったはずである。しかしその修行が原因で変な事になったことも実に懐かしい。

「キル、久しぶり」
「…イルト!?なんでここにいんだよ!しかもなんだよその趣味の悪いグラサン!」
「…ちょっとね。それにしても元気そうで安心した」
「どこが!さっきも負けたし!」
「まあまあ」

キルアとイルトが会ったのは実に久々である。キルアに物心がつく間もない頃に、イルトは家を出て独り暮らしを始めた。
会える回数が少ないことも手伝い、キルアはやけにイルトに甘える。同じ父譲りの銀色の髪を持つこともきっと無関係ではないだろう。銀髪に青い目を持つキルアと兄弟と言える容姿を持つのはイルトだけだ。

「さて、キルア」
「? なんだよねーちゃん」
「お腹すいてない?ご飯でもどう?」
「奢ってやるよねーちゃん!」
「バカ。たまには私に姉らしいことさせてよね!行こうか」





キルアと数日間姉弟の仲を深めたイルトは、再び第二の家に帰っていた。キルアとの数日間はゲームや修行に宛てていたため、メールのチェックはしていない。

久々に何もない夏休みである。三回生となったイルトは夏休みになったばかりの学生街へ出掛けることを決めた。
この決断が、後にイルトの運命を大きく変えることになるとは、イルト自身も想像しなかったことだった。




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