Hurts


―双子の戯言―
 施設からメルキオッレに連れられてボンゴレの別荘にやって来たのは5歳の頃。物心が付いたばかりだったから、2人は施設でのことをあまり覚えていなかった。自分達の産みの親が病死したことを告げた施設員の顔すら覚えていなかったのだから、当然実情への実感もなくて、ただそういうことなのだと呑みこんだ。だからメルキオッレに引き取られたことについてもなんとも思わなかったし、寧ろ、新しい人生に胸を躍らせていたくらいで、ボンゴレの別荘を見て無邪気に燥いでいた。だからだろうか、テレビドラマで、早くに親を病気で失くし不幸に打ちひしがれる子どもを見掛けたが、その子どもに2人は全く共感できなかった。目の前でぶち殺されたわけでもないのに、何故、と。それを家政婦に話せば、彼女は酷く困惑した顔を見せた。それになんだか腹が立って、彼女を2人で暴行したのが始まりだったと思う。今しがた自分達を蔑んだ彼女が苦しい顔をしている。そのことがとても愉しくて、だから彼女が動かなくなってしまった時、どっと倦怠感が押し寄せてきた。今まで以上に退屈で、罪悪感が押し寄せて来たりもしたけれど人に暴行を働いたことにメルキオッレは、何も言わないし、いいのだと思って家政婦以外の人間にも同じような事をしていたらあることに気がついた。メルキオッレは、何でも与えてくれるが自分達を見ていない。だから、2人のすることに何も言わないのだ、と。2人にとってメルキオッレは間柄は祖父ではあるが、父親のような存在であったし、自分達を見てほしいと思うのは当然で、物を強請ってみたり、メルキオッレのために何かしてあげたりした。けれど、彼は一向に自分達を見てくれなくて、ある日、出来心に彼の書斎のドアの隙間から様子を盗み見していると、掛かってきた電話に応える彼の顔が憎憎し気なそれに一変した。ボンゴレの組織のことは彼から一通り聞いていて、彼がそのことで自分から居場所を奪った弟を恨んでいることも知っている。だから、その電話も弟絡みのことだと思っていた。嫉妬心に駆られ急いでその場を後にして、後に彼の秘書に訊いてみるとどうやら電話の内容はその弟の孫が次期ボスとしてボンゴレ本部の支持を集めつつあるという内容だったらしい。その孫の名前は沢田綱吉、というらしいが、その子どもがボスになればメルキオッレの立場が完全に無くなることは目に見えていた。そしてきっと自分達のこの暮らしも無くなる。2人の未来と、ボンゴレに汚物はいらない、とでもいう様に姓を変えられこんな辺境の地まで飛ばされてしまった彼を思うと弟へのものよりも大きな怒りがその子どもに沸いた。だったらその子どもを死に向かわせればいい。上手く子どもがいなくなれば跡継ぎのいない中、自分たちに否応なく本部の目が集まり、ボスになった暁には彼の立場も回復する。加えて、ミーナとラファエーレにとって退屈は毒だ。退屈を紛らわせる糧にもなるし、いいこと尽くめではないか。そう思って、彼に思いを告げると、今までにない顔をした彼は自分たちの肩に手を当てて優しく、いってらっしゃい、と言った。

―老人の呪詛―
 ボンゴレに自分の居場所がなくなって連れてこられたボンゴレの別荘で、下手な事をしない様にと監視され幽閉されたメルキオッレはひたすら呪った。自分に媚びていた人間を。自分に同情する弟を。呪うだけでは彼らに報復出来ないので、メルキオッレは報復の計画を立てた。幸いにも引け目を感じているのか、弟は自分を過信している。加えてマフィアの抗争を終結させることに必死で、弟の目を盗んで計画を実行するのは容易かった。まずはボンゴレに取り締まられて恨みを持つ麻薬の売人に監視役を会わせ、薬漬けにする。麻薬の売人とは、ボンゴレにいた頃、悪戯心に破いて取っておいた帳簿の1ページから連絡先を知って、連絡を取ることが出来た。計画のことは、万が一にと伏せていたけれど、売人も同類の匂いを感じたのだろう。売人の信頼を得ることは簡単だった。監視は1人、監視役は2人、交替制で、週に1度別荘でもう一人と交替する。それを利用して、売人に、山中にある別荘と街の繋ぎに待ち伏せさせた。そこは監視役が街に戻る際に必ず通り、人がいても可笑しくない場所だ。別荘に缶詰めにされて鬱憤の溜まった監視役に煙草だと言って、麻薬入りの煙草を売れば、監視役は疑いもせずにその煙草を買い、簡単に麻薬に溺れ、挙句、麻薬のことをちらつかせればメルキオッレの言い成りになった。ボンゴレの差向けた人間を薬漬けにするのは一見危ういように見えるが、そうでもない。そういったことをタブーにするボンゴレの人間であるからこそ、彼らは絶対に口を割らないのだ。そして従順な監視役に呼び出させた報復の対象の一人に土地を買わせ、売人にその土地を与えさせて、そこで得た売人の儲けの一部を横流しさせた。麻薬の売人、臓器の売人、そういったコネクションを増やしつつ、金も集めて、その集まった金を報復の連中の前で見せびらかせば、彼らの目の色はいとも簡単に変わった。懐かしい媚びるような目。過去に自分を見放した彼らは、それらの味を占めると、誰しも、なんの躊躇もなく自分の足に縋って、金を、薬を、とせがんだ。欲に溺れ無様に壊れた彼らに憐れみの目を向けては、満ち足りた気分に酔いしれた。それから、ときどき土地を与えた売人の儲けを比較して、売れ筋の悪い売人の名簿を作り弟に渡せば、弟が勝手に無駄を排除してくれたし、弟の目を曇らせることも出来た。そんな弟に何が、超直感だと鼻で笑う。後は、ボンゴレを継承するために自分の作り上げた麻薬の巣窟、ボンゴレ本部に、弟の孫が来るのを待てばいい。巣窟の中にその孫を閉じ込めて、操って、弟も、その子どもも邪魔な人間を全て始末させれば、自由になってボンゴレを完全に掌握出来る。
 別荘にやって来て数年が経ったある日、弟がやって来て、施設の子どもを養子にしたという話をし、こんなところで一人でいるのは寂しいだろう、君も子を持ってみてはどうだろうかと薦めた。そうさせたのは誰だと怒鳴りつけてやりたかったが、弟の目を覚まさせたくはなかったし、計画のカモフラージュにでもなるだろうと施設から適当に子どもを連れて来た。初め、子どもを計画の飾りとしか見ていなかったのだけれど、とんだ見当違いだった。その子どもたちは言った。あの子どもが恨めしい、ぐちゃぐちゃにしたい、と。その気持ちを聞いていい拾いものをした、と思った。自分が唯一自由に扱える駒である双子を使わない手はない。計画の最終段階を実行する前に、孫をぼろぼろにしたって何の問題もないし、寧ろ、思わぬ見世物が見られそうだと胸を躍らせた。

―並ぶ自虐と疑惑の言葉―
 自分は多分、辛いことに酔っているのだと思う。自分は自分がどれだけ不幸かを自慢して、満足するような卑怯な人間だ。不幸だと思っていれば楽で、楽をしようとするずるい自分を卑怯と言わずなんと言う。辛いことに酔わずに、都合のよくない現実に向き合える人は本当にすごい。向き合って、乗り切って、そうして不幸だ、なんて暗い顔を俯かせることなく綺麗な顔を上向かせて前に進む、そんな人になれたらいいな、なんてこれまた自虐だけれど。兎も角、辛いことに酔っていると思ったのは、今、自分が過去を振り返っているからだ。赤ん坊の頃から普通の子どもとして振る舞って来た。母親には余り好かれていない。手を握り過ぎて怪我を作る癖がある。自分に危機が迫ると体調を崩す。双子がやって来てすぐ、母親との親愛関係が崩壊した。母親に殺された筈なのに死ねない。同居人とぎくしゃくしている。家の屋根上で生活することになった。学校で自分に恨みを持っていると思われる生徒に出くわした。思い浮かぶのはそんな記憶ばかりで、友達との思い出とか、マフィアの馬鹿騒ぎとか、そういう楽しい思い出が全く浮かばない自分は、愉しい事より辛いことを思い出すことが好きなのかもしれない。だから、辛いことに酔っているのだと思う。加えて、ねちねちと自分を貶したりしているわけだから、自虐と言っても過言ではない。そんな後ろ向きな自分を少し前の綱吉はどうとも思っていなかったけれど、例によって、あの馬鹿騒ぎに巻き込まれてから前向きになった。大抵が赤ん坊の教師の御蔭で、大抵が友達が原因で培われてきた、勇気というやつ。蟻のように造られた綱吉はその勇気というやつで今はきらきらしている。もともと綱吉はジブンが身を守るために造った人格で、だから、その人格がどうにかなるなんて思っていなかったのに、綱吉は造ったジブンなんてさっさと置いていって、生意気に、手の上で躍らせていたつもりだったのだろうけれど、何処かへ行ってしまった。綱吉は、独りでいることが怖くて、何事も不器用な自身に悩む人形。ジブンは、そんな綱吉を操る傀儡師だった。家庭教師に出会ってから今日まで、綱吉は本当に幸せで、強く変わって、だから始まりから何にも変わらないジブンと食い違うようになってしまった。強い感情を見せる綱吉と、弱い言動と行動をするジブン。人格が分離したのだと思う。今はまだ行動の主導権を持てているし、感情を吐き出す時は綱吉でも沢田綱吉の立場を左右する言葉ならジブンで言えている。それがそうで無くなってしまったら。例えば、主導権を綱吉も持つようになってしまって、ジブンが感情を綱吉に吐き出させることが出来なくなってしまったら。そうなれば化物のジブンが露呈して、そんなジブンに、ホラ、と後ろからあの恐ろしいコエが囁きかけてくるに違いない。単なる被害妄想だと思いたいけれど、違う。皮の内の化け物を見れば、皆いなくなる。母のように。そのコエにズット独リデイレバイイなんて言われたら、抗えるわけがない。だって、これを初めて言われた時は従順な綱吉がいたから譲歩して貰えたわけだけれど、今は分離しているわけだから、化物が怖いからと手を振るった母を思い出して、もう死にたくないと思っているジブンが抗えるわけがないのだ。存在していたい。実際殺されて死ななかったけれど、あんな死んだみたいな経験をしたくはない、と言う。我儘だ。綱吉のように、友達がいて、それに幸せと思える心を持ち合わせていないジブンの、我儘だ。人間が化物を倒す話は皿にあって、ジブンは化物だから、化物は人間に殺されるのが普通で、ジブンも殺されて当たり前なのかもしれない。けれど、死ぬことが、怖くて怖くて堪らなくて、だから、我儘を言うのだろう。死にたくないから殺さないで。生きたいから殺さないで。ジブンの持っている感情はこれだけだ。過去、人とセカイに対して抱いた感情。物語の中の化物が感情を持っているかは知らないけれど、平気で人を殺したりするのは、感情がないからじゃなくて、あれらが生きたいという感情を持っているからなんじゃないかと思うことがある。ジブンも、目の前にジブンを化物と認識して怯える人間がいたら、殺される前に、と迷わず殺してしまうと思う。それを堰き止めてくれていたのがそのために造ったのが綱吉で、綱吉がいなかったら恐怖に駆られた人間に囲まれて沢田綱吉は今頃この世に存在していなかっただろう。多分、セカイはこれを予期していて、理由は曖昧だけれど、沢田綱吉を生かせるために忠告した。自虐の次は自惚れか、なんて嗤ってしまうけれど。実は、こうして自虐し、自惚れるのは綱吉でもジブンでもなかったりする。綱吉が分離したと言った時点で明白だとは思うけれど、兎も角、こういう人格があってそれには名前がない。この人格は綱吉から生まれた。
 5歳以前の沢田綱吉にはジブンという人格しか無くて、母親の暴力に晒されていた頃、死にたくないという人格から偶発的に綱吉という人格が生まれ、セカイから忠告された時に確立して、綱吉から何故か分岐してこの人格が生まれた。綱吉が何にも出来なさ過ぎて思い詰め過ぎちゃったから生まれたのかな、それともズット独リデイレバイイ、って言葉に図々しく、独りはさびしいから嫌、と言ったことに綱吉がなにかしら思ったからかな、なんて思ってたりする。とどのつまり、今、体の中には、ジブンと綱吉とこの人格がいる。そして、ジブンは完全に隔離しているけれど、綱吉とこの人格は少しくっついて存在している。もしかしたら知らないだけで、他にも人格が存在しているのかもしれないけれど、そうだったとしてもどうしようもない。兎も角、生きたいだけのジブンからこんな人格生まれるなんておかしな話だけれど、多分、何かに罪を擦り付けるなら、生まれた瞬間にセカイを視てしまったからだと思う。途轍もない恐怖に襲われて、途方もなく強い唯一の感情をもってしまったから。当たり前ではないジブンは当たり前を生かす人の世界では生きていけないから、綱吉を造った。その仕組みは上手く作用していて、綱吉は同種の恐怖に遭遇した時、目を瞑れば、真っ黒な色彩に感情ごと染めてしまえば、と人格をジブンに戻す。そうしてその時の恐怖を少しだけ覚えて、ジブンに任せてさっさと戻ってしまうのが常だ。件の、小学校の頃、同級生が無くなる前の警告の時もそう。笑う顔に恐れた綱吉は直ぐにジブンと入れ替わった。一人残された校舎の裏側でジブンはぼうっとしていた。双子に出くわした時も一時だけ、そう。替っていなかったら吐き気や目眩が続いていただろう。それにしてもと思う。あの双子には、確かな死の予感がしたけれど、そんな存在をセカイがさっさと消してしまわないのがどうにも気になる。件の同級生なら、死。母親なら、記憶。それぞれ消しているのに、沢田綱吉を延命さえさせているセカイが、どういうことなのだろう。トゥリニセッテがセカイの生命線だから適合者の沢田綱吉を生かしたいというのは分かるが、否、その他の理由があるかもしれないけれど、殺された人間を生き返らせるなんて調和を乱すようなことをする羽目になるかもしれないのに双子を消さない理由が分からない。憶測だけれど、消さない、ではなく、消せないのだったら、もしかしたらあの双子はセカイにとって不都合な存在なのかもしれない。セカイの過ちか。だとすれば、奈々の豹変ぶりももしかしたらあの双子が関わっていて、それで、已む無く殺されたのかもしれない。どっちにしろ、どうにかしようとしたところであの双子に遭えばジブンが露呈してしまうかもしれないから、どうにもできない。というか、動けない。自分は本当に無力だ。

―虚界の虚言―
 バミューダは初め、世界はただ沢田綱吉がトゥリニセッテの適合者だから彼を生かそうとしているのだと思っていた。けれど、同じトゥリニセッテに触れていたらそれが違う事に気がついた。世界の森羅万象は世界の予定調和によって予め決められている。その予定調和から外れて存在したのが沢田綱吉だった。世界にとって沢田綱吉は調和を乱す汚染で、消そうとして、メルキオッレという男を生み出したのだろう。でも、それは世界の誤算で、トゥリニセッテの適合者が彼だということを知って、急いで男を消そうとしたけれど、予定調和を行動原理にしている世界が調和を乱すことは出来ず、代わりにボンゴレリングを通して、忠告を綱吉に与えた。その時に世界はボンゴレの業を知った。人の醜悪を視て世界は何を思ったのだろう。世界は、綱吉の予定調和に反して存在する抵抗力、とでもいうのだろうか、その力が適合者を必要とするトゥリニセッテを超える完璧な装置に成り得ると判断して、手に入れようと動き出した。欲深い人間の様に。そして、既にそれはほぼ成し遂げられてしまった。間の悪いことに綱吉の根底にある性は生で、彼は彼を生かしてくれる世界に抗う事が出来なかった。一番最初の世界と綱吉の邂逅は、綱吉がこの世の空気を初めて吸った時で、その時世界は綱吉に明確な殺気を向けた。その殺気が人のものだったらまだましなものを、それを向けたのは世界のもので、人間がそんな殺気を受けて生きていくことができるはずはないのだが、生きているのは、綱吉が人間ではないからだ。世界の生存管理をしているバミューダすらよく知らない人ならざる沢田綱吉という存在。その存在を危険と思い、殺そうとするのは分からないわけではないけれど、生まれてきて真っ先に目に映したものがそんなものだなんて、哀れだ。挙句の果てに、そんな彼を利用しようなんて、哀れを通り越して、怒りすら湧いてくる。正確にいえば、利用しようとしたのは、リングの中を世界が覗き見てからだろうけれど。そんなことは兎も角、彼が指輪に指を通したのは、彼の歳が指で数えられる程の頃。恐らくは、何か想うところがあったボンゴレ\世が幼い綱吉に触れさせたのだろう、それが世界が綱吉にリングを通して忠告を与えた時。それでも足りなかったのか、世界はボンゴレのリング争奪戦の時にリングを通して綱吉に絶対死なない命を与えた。絶対死なない命、というか、死なない命の通り道のシステムを造った。その道を造ったところで、調和を乱す原因に成り兼ねないために、その道を使うことは滅多になく、彼が死ぬ危機に晒された時に世界が原因となる数人の命を犠牲にしたくらいだったのだけれど、メルキオッレに関わることで、そうもいかず、彼が死んだ時にやむなく数人の命で彼を生き返らせたといったところだろう。バミューダはその辻褄合わせにチェルベッロが動いていたことを知っている。それがなんとも腹立たしくて、それでもどうにもできない自分に嫌気がさし、偶に顔を覗かせるチェルベッロによく毒を吐いたものだった。先述の通り彼は生に執着していて、このことで、世界が彼にとって文字通りかけがえのない存在になっただろうことは明白だ。世界が指輪を遣って彼を蘇生させた時に、彼と繋がっただろうから、彼の生死は今世界の手に渡ってしまっている。だが、バミューダにはその繋がりを断つ力もなければ、替ってやることもできなかった。自分には彼を想うことしか出来ない。死ねない呪いを掛けられた彼は今何を想っているのだろう。彼は、おしゃぶりの呪いの連鎖を断ち切った。彼の御蔭でこれからあの呪いに悩まされる人間はいなくなったわけだし、なによりも、彼はこのおしゃぶりに、トゥリニセッテに縛られていた自分に過ちの懺悔をする機会を与えてくれた。彼にとっての世界であるように、自分にとってかけがえのない存在である彼を守ってやりたいと思う。しかし、性が生であるからまずないとは思うけれど、皮肉なことに、彼は人間として生きていたけれど、世界に生かされるようになった彼は人間として死んだも同然だ。人間にするための行いが彼を怪物にしてしまった。もし彼が死を望んでいるなら殺してやりたい。 言い訳だけれど、自分はこのおしゃぶりから離れられないし、離れたところでチェルベッロが許すわけもなく、身動きを取れないのが口惜しい。チェルベッロ、とはよく言ったものだ。世界が器だとすれば、彼女たちは差し詰め、その中身を動かす非情な脳と言ったところか。世界の駒として不調を修正してきた彼女たちに、今少しの情があれば、今頃自分は彼の傍にいてその細い首を両手で絞めていたことだろう。彼が死ぬまで何度も。世界にある命には限りがあって、世界が犠牲に出来る命が尽きるまで、何百年、何千年と、彼を殺し続ければいつかは彼を死なせてやることができる。彼を殺して、自分も死ぬ。世界に命がなくなったって知ったことか。こんな自分に残された大切な彼と心中なんて、今まで散々なことをしておいて出来るような身の上ではないけれど。

―直感の視界―
 直感に超がついて超直感、なんだか凄そうな名前の割には、大したことのない能力だったりする。万能じゃない、制限だらけの能力だ。この超直感、全てに発揮されるかと思えば、実は自分を除いたもの限定で、その上、発揮されるのは相手の言葉の真偽、本心や相手の危機に対峙した時に絞られる。同級生の件は、その同級生の死の危機や本心。メルキオッレ、双子の件は、その存在そのものに対して。特に双子、嘘で塗り固められた彼らに直感が働きすぎてしまったために、体調不良になったことは記憶に新しい。このままでは身が持たない。もともと、超直感を持っていたのはジブンだ。それを性格が分岐した時に自分と綱吉に分配した。なんのつもりでジブンがそうしたのかは分からない。超直感は生きる上で絶対必要な能力というわけでは無いけれど、ないよりもあった方がいい。けれど、ジブンはそれを放った。表に出ることが余りないから自分と綱吉に与えたのかもしれない。不測の事態が起きたとも考えられるが、それはあまり考えたくない。しかし、如何せん、掌に爪を立てる癖がついてしまったのはいただけない。意識を保つためにジブンが行った自己防衛なのだろうけれど、超直感を分配したために、その癖が自分にまで移ってしまった。移った、というのは言い訳で、とどのつまりその防衛手段しか思いつかなかった自分が悪いのだけれど。
 それはさておき、超直感を持っているから、感じる危機感は超直感を持っていないジブンの比ではない。直感が鈍ければぼうっとしているだけで済んだのにと愚痴りながら掌に爪を立てるのが常だ。ああ、だからジブンは超直感を手放したのか、なんて納得している場合ではないけれど。兎も角、この防衛手段を使っているのは、傷の具合と自分の出現具合と、その他もろもろの状況から見て、自分とジブンしかいない。そして、自分とジブンが作ったこの傷に綱吉は気付いていない。というか、この傷が綱吉には見えていないようだった。見えていたとしたら、いきなり掌に傷が出来ているわけだから、何かしらのアプローチがあって然るべきだ。今のところそれはない。ジブンよりも近しい存在である綱吉だけれど、記憶を共有しているわけではなく、一方的に自分が綱吉の行動を好きな時に勝手に覗いていたりする。ちなみに、ジブンの記憶は勝手に覗けなくて、ジブンが覗かせてくれる時だけ覗くことが出来る。だから、綱吉の記憶を全部知っているわけではない。自分が覗き見ていない時に実は傷を見ていたかも知れないし、そのことで恐怖に慄いていたかも知れないけれど、そんなことは自分の預かり知らないことだ。もしかしたら綱吉は気付きたくないのかもしれなくて、だから見えないのかも知れない。ほぼ他人のような綱吉の考えていることなんて、尚のこと自分の預かり知らないことだけれど。ただ、見たか見ていないかはともかくとして、綱吉がこの傷を自身が付けたものではないと認識してしまうのは不味い。綱吉はジブンと自分の存在を知ってはいるけれど、今まで話しかけてきたことはなかった。しかし、同級生の件で自身が傷つくよりも相手が傷つくことを憂いた彼が、この先、この傷に気付いて、黙ったままでいるとは思えない。綱吉がジブンと意思疎通を取ろうものなら、自分がぎりぎり繋ぎ止めていたジブンと綱吉の分離していた人格が完全に分離して、最悪の事態を招くことになる。綱吉が体の主導権を握ることになってしまう。だから思う。超直感、なんて、なんだか凄そうな名前の割には、大したことのない能力だ。

―静寂―
 綱吉には静かな時がある。眠っているのとも違う、静寂の中に気付いたらいつの間にかいるのだ。ここでは声を発してはいけない。発したら最後、ここがどうにかなってしまう。何故かそんな気がして、少しの恐怖と痛みを感じながらその冷たい中でぼうっとしていると、これもまたいつの間にか日常に戻っている。その現象に対し、不満を思う事は特にない。寧ろ、綱吉にとってはそれが当たり前で、文句の付けようなどなかった。それが最近は、ほぼ毎日のように此処にいるし、掌の鋭い痛みや、温かさを感じるようになって、不満はないけれど気になり始めている。突飛な話になるけれど、自分の中には別の人格が3人以上いて、その人格と最近の現象に関係があることは分かっていた。認識はしていないが勘付いていた。だから、もしこれがその人格の起こす痛みだとしたら、自分の体なのだから綱吉にだってどうにか止めさせる事が出来るかもしれないしそうしたい。しかし、どうにかする、と言っても、多分綱吉に出来ることと言えば、この中で大声を出して呼び掛けたり、日常にいる時に呼びかけたり、とどのつまり、人格に話しかけるくらいが関の山だ。この中では綱吉は何もできない。目はあっても、周りは暗いばかりだし、手足を動かしてみても何にも触れないし、先だって述べたとおり声を発してどうなるか知れない。話し合って、理由を聞いて、解決するという算段なのだけれど、そもそも呼びかけて応えが来るかも分からない。加えてやってみなければと思うのだけれど、言葉は凶器になるという、全くその通りで、言葉という凶器が何かを壊し、殺してしまうのではと思うのだ。例えば、その人格とか。何かをするとその人格の立場を酷く悪くしてしまう気がする。皮肉な物言いで偽善、慈善事業、を綱吉はせずにはいられなかった。何処までも弱い代わりに何処までも綺麗な、機械みたいな、そんな心を持っていたから。無意識に他人の苛立ちの捌け口になったり、友達の親切にいちいち感動したり。綺麗な心以外の心を綱吉は全く持ち合わせていない。その実、文句の一つを言っても、悪口を言ったことはなかった。思い浮かばなかった。真っ新な自分を綱吉は気持ち悪いと思う。複雑でありたい。少し汚れていたい。汚い心は何処にあるのか。もしかして、その人格が持っていて、綱吉の負担を一身に背負ってくれているのではないか。だとしたら、これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。それを想うとあと一歩を踏み出すことが出来なかった。
 想えば双子を見た瞬間から何かが音を立てて崩れた。その日の記憶が余りなかったことから、その人格が何らかの災難を肩代わりしてくれたのだろうと思う。授業の時と同じだ。知識を取りこむだけなら軽い脳の痺れ、その知識を人目の付く場所で吐き出そうとすると、必ず体に苦痛が走る。テストで悪い点を取ればまた母親に恥をかかせてしまうと思っていつもより頑張った時、余りの苦痛に、痛みと飢えと母の冷たい顔が一瞬浮かんで意識が途絶えたことがあった。でも、気付けば自分の家のベッドで眠っていて、その数日後に合格点間近のテスト用紙が返って来た。今なら分かる。この当たり前が、当たり前でないこと。自分で背負うものだということ。少し前、リボーンに出会う前の自分はそれにすら気付いていなかったけれど、今の自分はそれに気付いて背負うことも出来る。双子が来て、初めての授業。傍には体を凍らせた双子がいて、苦痛で仕方がなかったあの授業。仲間の暖かさに触れても鳥肌が治まることはなく、気持ち悪くて、痛くて、どうしようもなかったあれに、少し前の自分ならば耐えられなかった。今なら耐えられる。だから、あの人格も肩代わりしなかったのだろうか。これからもそうであってほしい。もし、何かが崩れたのが双子のせいであっても綱吉はどうもしない。何処までも耐え貫く自信や勇気を手に入れた。そして人を疑わない、心配をかけたくない、宗教じみて偽善ばかりの自分に必要なのは、エゴや欲だ。これから先、いろんなことに耐えていけばそれも手に入るかもしれない。人に嫉妬をしたり、意地悪したり、迷惑をかけたり、人の中の人でありたいと思う。だからだろうか、少しだけあの双子を羨ましいと思った。

―悪戯―
 自分には子どもがいないから、親の気持ちなんて分からないけれど、沢田奈々の気持ちを少しは理解できる。自分の手に余る子どもを持つという苦痛は耐えがたいものに違いない。自分も似たような経験をしているけれど彼女のそれに比べたらまだまだ可愛いものだ。メルキオッレに仕えて数年。彼が養孫にした2人と比べてその差は歴然としている。2人もまた世間から見れば異常なのだろうけれど、悪意が判明しているからまだいい。一方で、彼女の子どもは全てが不明だ。未知のものに恐れることは人にとって本能に等しい行為なわけだから、彼女もさぞ恐ろしかったことだろう。
 教卓から今しがた自分が配った用紙に筆記用具を走らせている生徒達を見渡す。その生徒達の中で独りだけ顔色を変えている生徒がいた。彼女の子どもだ。この学校に勤務して数か月、担当した生徒の中で唯一自分に信頼を寄せなかった存在。言い換えるならば、唯一自分の暗示に掛からなかった存在。彼は幻術の下の2人の素顔に気付いているようだった。雇った幻術師の幻術の腕が悪かったのか、それとも彼の超直感がそれを看破したのか。いずれにしても、雇った幻術師は役不足だったわけだから、彼の母親に幻術を掛けさせた後、早々に始末した。それから、別の幻術師を雇ったのだけれど結局状況に変化は見られなくて、今はこの状況に甘んじている。全く彼は末恐ろしい。彼が生きているだけで迷惑だと言う事を彼は知っているのだろうか。彼の存在で周りの人間は迷惑を被っている。メルキオッレがその最たるものだと思うのだ。彼のせいで自分の人生を捧げたメルキオッレの人生がどれだけ狂わされていることか。だからその仕返しをする。手始めに彼とクラスメイトに暗示をかける。暗示というと語弊があるかも知れないが、週末、授業終わりの生徒が疲弊した頃に授業の一環として「沢田綱吉を嫌悪しろ」というメッセージを瞬間的に織り込んだビデオを見せた。世俗的にこれによって生み出される効果をサブリミナル効果というらしいが、その効果は着々とクラスメイトに表れて来ている。彼とそんなに仲が深くなかった者から順に、最近は彼と親しくしていた笹川京子という生徒まで。彼の守護者に表れるのにそう時間は掛からないだろう。所詮、彼らにとって彼の存在はどうでもいい存在で、だから、暗示にかかる。彼の意識が染まれば彼が自殺をして全てが終わるのだが幻術にも掛からなかった彼に限ってそれはない。つまり彼は暗示に気付いている。だから彼を除いた眼下の全ての生徒の意識を染めるまでこの悪戯を繰り返すつもりだ。既に、このクラスや他クラスの何人かは彼への嫌悪を形にしている。或いはしようとしている。エリオは生徒に背を向け、悪戯が成功した子どもの様ににやりと笑った。

第4章「遺恨歌」
―901号室―
 「ミーナ、つまんなーい。」
ミーナが備え付けのソファの上でぱたぱたと脚を動かす。彼女の目の前には体中に痣と傷と血を付けた少年と中肉中背の男がいた。少年は俯いていて顔は窺い知れないが、男の顔は恐れと狂気と少年の血にまみれて酷く歪んでいる。ミーナの言葉で男の顔は更に歪み、男は床に散らばっていた工具の一つを手に取ると、少年の細い足を手に取り、足の爪にそれを噛ませた。男が泣き入りそうな声で笑いながら少年の足から爪を剥ぎ取る。ぶちりと剥ぎ取られたそれが工具に血で張り付いた。爪を失った指から血が滲み、床に蹲っている少年からは痛々しくも小さな悲鳴が聞こえる。髪の毛で隠れなかった少年の口元は涙で濡れていた。
「あーあ。これならまだ誘拐しないでエリオの暗示の効果を待ってた方がよかったかも。来週になったら学校に戻してあげるわ、沢田綱吉。」
はぁ、とため息をついて卓上の黒電話に手を伸ばすミーナに、男の瞳が収縮する。男は唸り声を上げると、工具を振り上げて少年の体を無造作に殴り始めた。
「やだ。殺さないでよ。もっとつまらなくなるじゃない。」
ダイヤルを回し終えたミーナが受話器を片手に、半狂乱になっている男を嗜める。男は項垂れると、そのまま動かなくなった。代わりに、男の流した涙が、床の血溜に落ちて波紋を作る。ぽちゃんという水滴の音、退屈そうなミーナの足をぱたぱたさせる音。静寂から少しして、一人の男が怯える女と幼い子どもを連れて部屋に入って来た。男の様は飄飄としていて、殺伐とした部屋をものともしていない。
「エリオ、おそーい。電話してから3分も経ってるわ。」
「すみません。でも、ほら、連れてきましたよ。」
エリオと呼ばれた男が、相も変わらず飄飄と、女と子どもを引き摺り、部屋にいる男の前に引き立てる。女と子どもは男の姿を認めると泣き叫び、男はそんな女と子どもを見て首を振った。エリオの手には小振りのナイフが握られ、そのナイフの矛先は女の首筋に向けられている。
「お子様を殺さないと、大事な奥様が死にますよ。」
悲鳴を上げるだけの男に、エリオがため息をついてナイフを動かすと、女の首筋に真珠大の血の球が出来た。再び半狂乱になった男が女の叫びを無視し、手に握っていた工具を子どもの頭に向けて振り下ろす。鈍い音を立てて子どもの体が血だまりの中に倒れた後に、絶望に打ちひしがれた女がエリオの刃に自分の首を当てて子どもに覆いかぶさるように倒れた。
「あらら。かわいそう。あんたが子どもを殺したせいで、あんたのママンは死んじゃった。」
呆然自失となった男は、先刻の半狂乱は何処へやら、今は静かに、ただ虚ろな目で動かなくなってしまった妻子をじぃっと見つめている。
「辛いのよね。死にたい?でも、自殺はだめー。そこにいる子を使うの。」
くすくすと笑うミーナの声に、微動だにしなかった真黒な男の瞳がゆっくりと動いて横たわる少年に向いた。男が意を決したように少年の力のない手を取り、自分の首に添える。
「や、なの。」
少年の震える声を聞かずに、男は少年の手と首の間にカッターの刃を滑り込ませ、刃ごと少年の手を真っ直ぐ横に滑らせた。男の血が首の一線から噴出し、少年に振り注ぐ。血は少年の腕伝いに流れ、真っ白な少年の肌を染めて、降り注ぐ赤い雨を受け止めた。
「ミーナ、汚れたからこの部屋もういらなーい。」
子どものようにそう告げるミーナに、エリオがはいはい、と言いながら電話を耳に当てる。暫くして電話をしまったエリオが、新しく物件を買い取った旨を伝えると、ミーナはさっさと立ちあがって玄関に向かった。
「後、2日。いっぱい壊してあげるね。」

ー沢田家ー
 戻って来たら蛻の殻だった。沢田綱吉なんて人間は始めから存在していなかったとでも言うようだった。同居人の子ども達に綱吉の事を尋ねたら、最近は話していない、お風呂に入るのを見かけた、朝、階段上から降りてくるのを見た、という。なら、お風呂に入った後に戻るはずの部屋が、階段上から降りて来る前にいたはずの部屋が、同居人のものになっているのはどういうことなのだろう。子ども達に嘘を付いている素振りはない。矛盾を気に留めている様子すらない。自分と同じように、暗示を掛けたのだと気づく。暗示は稀な状況下でしか効果が発揮されない、シビアな条件の上に成り立つものだ。ほいほい使って成功させるなんて出来るはずがないのだけれど。そんな芸当を綱吉がしていると思うと、複雑な気持ちになった。もしかしたら、本人は無自覚でしているのかもしれないけれど、そうだとしてもやるせない。よろよろと階段を降りていると、下の玄関が開いて、買い物帰りなのか、ハンドバッグを手にさげた奈々が入ってきた。
「あら、お帰りなさい。今日の夕飯はハンバーグよ。」
代理戦争以後、急速な成長を遂げた体は、既に奈々の背丈を越している。大きくなった自分を見上げてにっこり笑っている奈々を、リボーンは何故か直視できなかった。
「ツナはどこにいる?」
目をそらしたまま尋ねる。少し間が開いた後、奈々の足から延びる影の先が少し曲がった。
「だぁれ、それ。」
一瞬、何を言ったのか分からずに、固まる。奈々が台所に消えて、ようやく言葉を呑み込めて、綱吉の靴の無い玄関を見下ろした。
「彼、ママンと喧嘩したのよ。お帰りなさい、リボーン。」
背後から覚えのある声が聞こえたが、振り返らずに玄関を見下ろし続ける。
「喧嘩…、なわけがねえ。」
「ごめんなさい、聞き取れなかったわ。もう一度…。」
「いい。それで、あいつは今何処で寝てるんだ。」
「知らないわ。余り会ってないの。パパンの部屋じゃないかしら。」
「違う。そこじゃなかった。」
「なら、分からないわ。」
「可笑しいと思わないのか?あいつは、あいつはどこだ。どこにいる。」
どうでもいいじゃないと背後で戸惑っているビアンキに、むしゃくしゃした気持ちをぶつけるように怒鳴り散らす。喧嘩をしたから、だから、奈々はわざと綱吉を知らないと振舞ったのか。そんなわけがない。知らないと振舞った理由が喧嘩になるわけもなければ、奈々の言葉にそんな振舞いがあったわけもなかった。喧嘩で、相手を無視することはある。でも、忘れることは普通はない。親しくなった相手と喧嘩をして、怒りを心に刻む。深く深く、自分のために。だから、その刻んだ怒りを、相手ごと、たった数週間で忘れるわけがない。ふりだったとしても、表情や仕種で分かるというもの。ましてや、それを見抜く目の長けているリボーンに、ふりは通用しない。だから、これは異常なのだ。ビアンキが暗示にかかっていることは分かっている。そして、この暗示に掛かったということは、ビアンキが綱吉よりも奈々を優先したことも分かっている。家を開けなければよかったと後悔していることも分かっている。自分と周りのことは分かっているのに、肝心の綱吉のことが分からないことが悔しくて堪らなかった。
 ふらり、と家を出る。綱吉の部屋だった窓をぼうっと見つめていると、ズボンのポケットが小刻みに揺れた。携帯を取り出して耳に当てる。
「901…。」
耳にした番号を脳内に刻んだリボーンは、ぽてんと背後のコンクリートの塀に背中を預けると、そのまま黒ずんだ空を眺めた。ぼうっとしながら先刻のビアンキの言葉を反芻する。彼を金曜の晩から全く見かけなくなった。風呂場で見なかった日は今までなかったのに、と言っていた。今日は日曜日。明日、学校に行けば綱吉がいるかもしれない。そう思いながら見上げていた空はやっぱりどこまでも黒ずんでいた。
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