Hurts


第2章 「眼球殺し」
―沢田家―
 簡単に言えるけれど簡単に出来ないこと。沢田奈々にとっての最たるそれは、我が子を愛することだった。名前を呼んで一緒にいるだけで感じるという幸せが、子どもを愛している証が感じられない。他人がそう感じると言って、我が子を愛でる姿を見て、どれ程羨ましいと思ったことか。そうさせてくれない我が子に、何度八つ当たりしたことか。殴って、蹴って、嘲って。幼い体には死ぬに等しい仕打ちを物心が付くまでのおよそ5年続けた。続けざるを得なかった。そうしなければ、半生の幸せを奪われた苦痛に耐えられなかった。死んでしまえばいいのにと思った。死んでから、愛せなかったことも生んだことも期待したことも、全て忘れてやり直すつもりだった。けれど、死ななかった。放っても痩せ細って病に罹るだけ。捨てても、誰かに拾われて帰ってくるだけ。どうして。気持ち悪い。貴方は当たり前をくれなかった。貴方は子どもじゃなかった。人形のような整然さと完璧さを持っていた化け物。治し方も分からず、恐れずにいることも許されなくて、子どもを正す母のように暴力を振るうことしか出来なかった。大切な人の手を取って、膨らんだ下腹部を摩った。胎内の命にこの身を捧げようと決意をした。分娩室の中、汗を流し激痛を耐え抜いた。そうして産み落とした存在を苦しめる行為は、重く、痛いものだったけれど、どうしようもなかった。
 子どもは生まれて間も無く、呼吸を止めた。生まれたての子どもが、死刑台に上がる前の囚人のように硬直する姿に、何かを失った。
 「駄目ね、考えちゃ。」
洗濯物を畳んでいた手を再開させる。学生服があるとはいえ、相変わらず自分の服ばかりで息子の服は少ない。5年掛けて人間に成った彼に対して、自分は変わっていないということだろう。不完全な母親のままだ。息子の存在が無かったことになればいいと思ったことも、息子を殺したいと思ったこともあるけれど、殺そうと思ったことはない。それを思った瞬間に、自分は母親ではなくなってしまうだろう。母親として生きる半生を失った自分を想像するだけで背筋が凍る。
「…失いたくない。」
見慣れたパーカーに水滴が染みた。

―門外顧問組織CEDEF―
 机の上に山積みになった資料を見て嘆息する。塵も積もれば山となるとはこの事かと、山から除いた一枚を揺らして床の上に放った。慈善事業の支援を建前に娯楽資金を望む書類の多さに辟易する。しかし、それらから得られる情報も多く、無下にはできない。泊まり掛けを覚悟して、蟀谷を押さえた。
「家光さん、少し休まれてはいかがでしょう。」
見兼ねたのか、部下が砂糖菓子とコーヒーカップの乗ったトレイを差し出した。砂糖菓子を一つ摘まんで口に含む。程よい甘さに凝り固まった頭が解されていくようでほっと息を吐いた。
「そうだな、休むことにする。少し外してくれ。」
軽く頭を下げ部屋を出ていく部下を見送って、机の一番上の引き出しを開ける。万年筆と羊皮紙の入った引き出し。中身を全て取り出し、その引き出しの底に空いた小さな穴に万年筆の先を差す。すると底板が浮き上がり、その下から書類が表れた。書類を手に取り捲る。書き連ねられた文字列は人間のエゴそのものだ。先日、現ボンゴレのドンが何も言わず差し出したそれは、彼の兄であり自分にとって叔父にあたるメルキオッレからのものだろう。超直感を持たずして生まれ、業に屈し、権威の全てを弟に奪われた人物であるにも関わらず、その弟に手を貸している。本当に頭が上がらない。どうしてこのような人が地位を追われ、隠遁生活を余儀なくされなければいけなかったのか。不正マフィアの情報が記述された書類を睨み付け、答えが出せないまま内線のダイヤルを回した。

―沢田家―
 分かっていた。彼女が自分を嫌悪していることは。ジブンと同じように何処か間違っていたのだろう。
 人間は5歳前後に物心付くのだという。であれば、生まれて間もなく物心付いていた自分は、人間ではなく化け物だと思った。人に理解されることのない、恐れられる未知の存在。彼女がジブンを嫌うのは当然の成り行きだった。彼女は間違っていない。間違っているのは沢田綱吉だ。それでも、死にたくなくて必死に生き続けた。
 死が恐ろしいものだと教えてくれたのはセカイだった。この世に生を受けたその瞬間に視たモノ。それは、ジブンを殺そうとするナニカだった。明確な殺意を感じ、怖ろしさに手を握り締めて耐えた。少しして殺意を感じなくなったと思えば、脳にコエが響いた。独リデイロ。干渉スルナ。感情モ、記憶モ、何モ共有スルナ。与エルナ。与エラレルナ。誰ニモ理解サレズ、何モ想ワレナイ、ソンナ見向キモサレナイ無力ナ人間ニナレ。どういう腹積もりでセカイがそれを示したのか分からない。けれど、これは生きる術だと、従うべきことだと、そう直感した。
 他人を知った。独りが苦しいことを知った。独りで居続けることに耐えられなくて、生きる術を捨てることにした。けれど、生きたいという気持ちは変わらなかったから、無力であることに努めた。失敗から学ぶことはなく、経験して得られるものもない。そうなってから、彼女に気持ち悪いと言われることが無くなった。彼女に受け入れられて7年余り。もう心配は要らないと思っていたのに。
 家に入って、視界に飛び込んで来た掌に思う。セカイの忠告に従い続けていれば、こうなることは無かっただろう。けれど、従っていれば、1人じゃない幸せを感じることは出来なかった。この選択だけは正しかった、と。

―数年前―
 いつだったか、同級生に無力な自分を嗤われ、小石を握った拳で殴られた。慣れたもので、小学生の腕力で大した傷は出来ないと分かっていたけれど、彼がどうして笑っていられたのかが分からなかった。胸の内に巣くう耐え難い恐怖を、体中の痛みで誤魔化しながら帰宅すると、母さんが出迎えてくれた。傷だらけの体を心配して駆け寄ってくれたけれど、嬉しそうに目を細めて、口元に弧を描いていた。いつも通りなのに、いつにも増して怖かった。苦痛だった。
その翌日、彼は亡くなった。あの暴力の後、仲間内で自分を歩道橋から車道に突き落とす計画を練っていたらしい。実行してどうなるか分かっていて計画したとして、それ程の嫌悪を抱かせてしまった自分は葬式に参列しない方がいい。式場の外で式が終わるまで立っていようと考えた。曇に覆われた空を眺めていると、背後から右肩を掴まれた。振り向かせるようにして引かれる。転ばないよう体の軸をずらしながら振り向けば、彼と一緒になって自分を殴っていた幾人がいた。計画のことを知っていて、彼に何かをしたんじゃないのかと責め立てる彼らに首を振ったけれど、結局、聞く耳を持たず、いつも通り殴られ、蹴られた。なら罰が当たったとでもいうのかと言う彼らに、再び首を振る。
「彼は何も悪いことをしていないじゃない。」
そう答えれば、気持ち悪いものを見るような目を向けられた。去って行く彼らを見送りながら、血の滲んだ唇を舌で辿る。彼は、原因不明の心不全で亡くなった。罰が当たったわけじゃない。これは,一方的な制裁なのだから。

―***―
 殺す蹴りは鮮やかで、煩く、冷たい。床の上で動かなくなったそれを蹴り続けながら、真っ赤な景色と反響する死の音にそう思った。物干し竿で骨が砕けるまで殴って、その下にある臓物を蹴り潰した。粉々の骨と臓物を撒き散らし、怪物は死んでいる。
「やっと、願いが叶ったわ。
これでやっと、幸せになれる。
「あなたが全て悪いの。私にこんなにも辛い思いをさせて。」
怪物がまた私を拒絶する前に、辛い思いをする前に、殺せて、本当によかった。あなたがまた私を。子どもがまた。息子が。息子。息子を。私は息子を。私は息子を殺しました。私は。私はもう母親では無くなってしまった。

―901号室―
 革製のソファに少年少女が2人。その後ろに窶れ顔の男が一人。3人が視線を向ける先、壁に埋め込まれた大型テレビを覆い隠すようにして白い霧が立ち込めている。その霧には何処かの一室にいる女性と、住宅街を歩く少年の姿がそれぞれ映し出されていた。彼女は子どものものと思われる衣服を折り畳まれた下肢に置き、茫然としている。その目は濁っていて、夢でも見ているかのように、時折譫言を呟いていた。
 『ぁ…ぁあ゛あ…ぃ、ぃやぁあぁああ゛あ゛っ。』
それからしばらくして、夢から醒めたように目を見開くと、悲鳴を上げ、膝の上の衣服を力任せに引き裂いた。
「あははっ。自分から壊れていったよ。」
「馬鹿なんだよ。あんな役立たずを産んだ母親なのだから。」
その映像の隣、住宅街を歩いている少年の姿に男を除いた2人の笑みが深まる。その少年にこれから起こるであろう悲劇を待ち望んで。愉快極まりないとでもいうように足をばたつかせている彼らとは裏腹に、男は苦々しく思いながらも、命じられた通りに霧に現状を映し続けていた。これが終わったら直ぐにでも家に帰って、妻と我が子を抱きしめたいと、そう願って。
「ねぇ、あなた。この女ににどんな幻を魅せたのよ。」
興味半分といった問いに身震いしながらも、適当な答えを探す。一回りも年の離れた子どもの言葉が、これほど怖ろしいと感じるのは何故か。それは、彼らの常識の箍が外れているからに他ならない。ボンゴレの筋の人間の頼みだからと信頼して出向いたイタリアで、彼らに出会って半月が経つ。彼らへの恐怖心は依頼をされる都度、大きくなっていった。幻術で顔を変えろ。ある人物を苦しめる手伝いをして欲しいの。娘と同じ年頃の子どもだからやりたくないなんて、ふざけたことを言うのね。年頃の子どもがいなければ、やるってことだろう。爺様に頼んでこの人の娘を殺してもらおう。それらを、当然のことのように口にした娘と同じ年頃の彼らを恐ろしいと思った。
「彼女の願望です。」
そして、この霧に映し出された彼らもまた、恐ろしいと思った。願望を目の当たりにすることによって、存在意義を失った彼女と、それを齎した彼女の息子。どちらも常識から外れている。
「なにそれ、意味不明。」
 ただいまの言葉とともに家の中に入ろうとする少年の頬を彼女の掌が打つ。その衝撃で彼が玄関に倒れ込み、追い打ちを掛けるようにして彼女がその頭部を傍にあった傘で殴打した。痛みに蹲っている彼を余所にベランダへ向かった彼女を見て、双子が我慢の限界とばかりにお腹を抱えて笑っている。その姿にぞっとするも、我が子を殺すことに必死になっている彼女に比べれば、まだ増しだと思えた。堪らず、霧の映像を捻じ曲げる。ベランダから持ち込んだ物干し竿で骨を砕く姿を物干し竿で殴る姿に。臓物を蹴り潰す姿から腹部を蹴る姿に。血溜りのない偽りの光景の中の彼に付けられたのは紫色の打撲痕だ。自身の目を欺く為に幻術を使うのはこれが最初で最後で在りたいと切に願った。

―沢田家―
 家庭教師の職を始めて数十年。本職と比べ、この職に身を置いた時間は多くないが、数少ない生徒の中で沢田綱吉という人物は類を見ない出来損ないだった。人物像を一言で表せば、ダメ人間。出会って間もない頃は、育て甲斐のある逸材だと喜び勇んだものだったけれど、それが場違いなものだったことに漸く気が付いた。戦闘力や学力がそれなりのものになって、育てた実感を得た。彼の非凡な才を開花させた結果を、心動かされた幾人もの姿を見た。紛うことなき事実だ。けれど、育って欲しかった部分が全く育っていなかった。今になって思えば、彼は育つことを拒んでいたのだと思う。人を見る目は本業で鍛え尽くしたと思っていただけに、動揺を隠せない。沢田綱吉という少年は、衣食住を共にした最高峰の殺し屋を、真実と嘘を巧妙に織り交ぜた人物像で一年以上もまんまと出し抜いていたわけだ。上辺ならまだしも内面の、人としての成長を意図的に止める術はない。それを可能にしているということは、彼が自身を完璧に理解しているということだ。成長を拒むことも自分を理解していることも、年端もいかない子どもがすることではない。人間がすることでもない。破綻した人間のすることだ。それに気付かず浮かれていたなんて、場違いにも程がある。
 一週間程前。家の一点に覚えた違和感が、全ての始まりだった。物干し竿が一本足りない。気になって眺めていれば、幾度かの洗濯で物干し竿に掛けられた衣類の中に綱吉のものが一着もないことに気が付いた。以前から少ないとは思っていたが、全くないのはおかしい。後ろを振り返れば、そこにいると思っていた彼が居なかった。居るものと思い込んでいた。偶然洗濯物がなかっただけだろう。臨時の補習でもあったか。何も異常はない。そう思い込もうとして胸の内にある不安を拭い切れず失敗した。改めて考えれば、おかしなことが次々に脳裏に浮かんでくる。昨夜の彼の服装はどうだった。そもそも彼は家にいたか。一昨日は。それ以前は。何故、覚えていない。覚えることができないのか。もしも、認識が狂わされているのだとしたら。焦燥とともに階段を駆け上がり、彼の部屋へ。服はどこだ。何でもいい。彼の居た証を目に映したい。その一心で、久しく見ることのなかったクローゼットを開く。そして、一着も掛かっていないクローゼットにぞっとした。その底に膨らんだ家庭用ごみ袋があって、恐る恐る結び目を解く。中身を取り出して広げると、それは無残に破かれた見覚えのあるパーカーだった。彼はマフィアのドンの血筋であることを除いて平凡以下だと、そう認識していた。その認識が手の中の布切れによって崩れ去る。この無残な布切れが彼の姿と重なる。こう成るまで、沢田家と依頼対象が破綻していたことに何故気付けなかった。悔しい。憎らしい。図々しい。愚かしい。ティモッテオから依頼を受け、沢田家に訪れる以前から思っていた。幸せな家庭で不自由なく生きて来た甘ったれた餓鬼を一端の頭に鍛えるのは骨が要るだろう。自分以上に卑しい人生を送った人間はいないと己惚れて、人の本性は見飽きたと高を括った。その結果がこれだ。作り物の家庭に全く気付かなかったどころか、絆された。気味が悪い。気持ち悪い。溢れる感情を吐き出すように襤褸切れを蹴飛ばした。奈々と綱吉、この状況下で何事もなく在り続けている点で、どちらも狂っている。注意を払っていればすぐにでも気付くことが出来た。気付いていれば、助けられたかもしれない。どこまでも能天気な自分が心底恨めしい。
 ネオボンゴレT世として鍛え直してやると言った時、出会って間もない頃と全く同じ顔で拒絶した彼に、お前は全く変わってねぇなと他ならぬ自分が言った。自分は彼に何も与えられなかったのだ、と。今になって自分の言葉の意味を実感した。何をしても何も得られない。何があっても何も感じられない。だから成長しない。それは何もしない、何もない人間に限った話だ。しかし、彼は自分と出会い様々なことをして、経験している。彼の生き方は在り得ない。それでも生きているのは、彼が呪われた怪物だからだろう。
 血液が付着した茶褐色のパーカーの下に棒状の何かがあった。取り出して見れば、変形し変色していたけれど、物干し竿だと分かった。これらに鉄臭ささえなければ、どんなに良かったか。
奈々には何も聞けずにいるけれど、彼女と彼の間に何かが起こったのは間違いない。いつのことだったか、綱吉が帰って早々眠ってしまったことがあった。夕飯も食べずにベッドに倒れ込んでしまった彼を見て、彼女は酷く怯えていた。声を掛けても心ここに在らずといった体で、その視線を追って綱吉の顔を見れば、薄暗い部屋であったにも関わらず、判別できる程の顔色の悪さに瞠目した。死人のように真っ白だった。
 転校生がやって来たあの日も同じような顔をしていた。風紀委員の持ち物検査を終えた直後、綱吉の顔が一変したあの時に、きっと何かを見てしまったのだ。今まで必死に隠していたものが滲み出てしまうほどの何かを。
 今日も綱吉の部屋に入る。綱吉はいない。部屋のクローゼットに、もうあの残骸はなかった。あれは何だと問う間も与えず、いつもと変わらない笑顔で家を出て行った生徒を思う。度々この部屋を訪れていた自分の目を掻い潜って、いつの間に片付けた。血に染まったパーカーや折れた角材の入った袋を、どんな思いで片付けた。どんな顔で処分した。どう生きたら、そう成る。今まで築いて来た信頼は。絆は。彼と自分の間には何がある。
「畜生…。」

―沢田家―
 丁寧に洗濯物を畳む。立派な母親に成ることが夢だった。私は母親で在る為に多くの事をして来た。炊事、洗濯といった家事は勿論、子どもの手本であろうと努め、時には陰から子どもを支えた。それでも、夢は叶わなかった。子どもに暴力を振るような、子どもの怪我を悦ぶような人間は、果たして母親と呼べるのか。答えが出ないまま数年を過ごし、挙句、境界線を越えてしまった。答えが出ない内は、私は母親だった。けれど、答えが出る境界線の側に入ってしまった以上、私はもう母親ではない。母親ではなくなった記憶を忘れてしまいたい。記憶だけでも母親で在り続けたい。
 それは思い掛けず訪れた。涙で霞んだ視界が瞬きをした瞬間に変わり、その光景を見た途端、理解した。肉塊から広がる波打つ真っ赤な水溜りには私が映っていて、幸せそうな顔をして肉塊を蹴っている。肉塊は見覚えのある衣服を纏っていて、傍らに銀の指輪が落ちていた。この光景は私の願いそのもの。息子の死を鮮明に描くことが出来るのは、どう殺すかを考えているから。殺したいと思うだけでなく、殺そうとしている。私はどう足掻いても母親にはなれないのだ。偽物が関の山だと理解してしまった。
 このままでは自身を保てない。だから、無かったことにする。理解した事を忘れる為、再び理解してしまわない為に、元凶の怪物を殺す必要がある。
 家に入って来た怪物の頬を叩く。玄関に崩れ落ちたそれを近くにあった傘で殴り、母親である私は息子の為に洗濯物を畳む。それから、丁寧に殺し、真っ赤な水で洗って、物干し竿に吊るしたら終わり。母親なんて簡単でしょう。あら、洗、吊るす穴はどこかしら。穴、眼の穴を空け、けけ、脳を貫くと、醜い水が一杯出て来るから気を付けてね。だから醜い水に移る私が醜いのも怪物のせい。私が悪いのも、怪物の、のの、悪い。悪い肉塊の穴ななななな。
「ぁ…、あなぁあはははぁああ゛。」
怪物はもういないわ。私は、幸せ。私は。わたし。死あわ、わたたたし。

 玄関口の除き穴から橙色の光が見える。もう直ぐ日が暮れて、遊びに出かけた子ども達が帰って来る頃だ。ビアンキちゃん、ランボちゃん、イーピンちゃんに、フゥ太くん。私の可愛い子ども達がお腹を空かせて帰ってくる。
「いけない、お夕飯の準備をしなくちゃ。」
台所に向かおうと玄関に背を向ける。ふと、何かを忘れているような気がして背後を振り返れば、エプロンが落ちていた。慌てて拾い上げるものの、違和感に首を傾げる。色と臭いが可笑しい。エプロンは所々赤く染まっていて、鉄の臭いがした。
「気味が悪いわ。」
鳥肌が立つのを感じながら、そのエプロンをダストボックスに放る。明日の夕飯の買い出しついでにエプロンを新調しようと決めて、夕飯の支度に取り掛かった。

 リボーンくんが近頃可笑しなことを訊く。ツナのものは何処だ。ツナの部屋は何処だ。ツナは何処にいる、と。人の名前だということは分かった。だから、この家にツナという名前の人はいない。そう説明しても、彼は納得しなかった。彼が使っていた部屋を指して、ここはツナの部屋だと言う。そういえば、最近、誰のものか分らない生活用品を見掛けることが多々あった。ツナという人が使っていたのだろうか。だとしたら、まだ本人を見掛けていないけれど、いつの間にか家に人が増えていることは今までにもあったし、気にする必要はないだろう。

―公園―
 人気のない公園のブランコに腰掛ける。握った鎖は温かく心地良い。見上げれば、日が暮れて紫色に染まり始めた空。この鎖の温もりが冷めるまで後少し。もう暫く温かいままでいてくれたらいいのに。
「ぼ…らはみ…ないーきている。いきーているからうたうんだー。」
頭に合わせて体の重心をずらす。鎖に繋がれた板が小さく音を立てて傾き、後を追うように体が動いた。視界一面に映った雲を眺めながら地面を軽く蹴る。
「ぼーくらは…な…きているー。いきーているからかなしんだー。」
地面の感触に馴染めないのは罪悪感を感じているからなのか。爪先の下に、土の下に、埋めたものに対して。そうだったらいいのに。そうだったら、人間らしくていいのに。
「てーのひ…をた…にぃすかしてみーれーばー。」
今夜は雨が降るらしい。その雨は今度も土を固めてくれるだろうか。埋めてきたものが表れないよう固めてくれるだろうか。
「まっかーに…れるーぼくのちーしーおー。」
もしも真っ赤な血潮が流れる存在が人間だというのなら、自分は間違いなく人間だ。その証が爪先の下に眠っている。血潮で塗れた襤褸切れと角材。これらを、自分の生きた証を、守ってくれるだろうか。太陽に手を透かせば直ぐにでも人間だと証明できるけれど、それは太陽が沈んでいなければ、隠れていなければの話だ。だから、捨てずに埋めた。自分が人間だと確証し続けたかったから。人間だから生きていると思いたかった。生きているから人間だと思いたかった。しかし、脳、心臓、肺、体のあらゆる部位を貫かれて肉塊となっても、元通りになる存在を果たして人間と呼べるのだろうか。ぼくらの中に自分も含まれているといいのだけれど。

―沢田家―
 去っていく母を再生した眼球で見送り、再生した喉でただいまを呟き、再生した手足で散らばった残骸を片付けた。血痕を残らず拭き取って、リボーンが眠っている合間に残骸を埋めた。冷たい夜風。硬い土。シャベルを握る手が悴む。掌に出来た血豆が潰れる。それでも掘り続けた。シャベルが土を掻く音。風が土を攫う音。風で軋むブランコの音。荒い息の音。それらの音に硬質な音が混ざり始めた頃、シャベルが白い物質の疎らに見える土を掻いたところで手を止めた。そこに沢田綱吉の人間性を埋める。保存する。この土の中に残骸がある限り、沢田綱吉は人間だ。沢田綱吉が人間であることを望んでいた人は沢田綱吉の存在を忘れてしまったけれど、それは仕方のないことだと思う。殺した人物が生きているというのは可笑しなことだ。脳が認識することを拒んだとしてもなんら不思議ではない。彼女にとって沢田綱吉はもう死んだ人間なのだろう。

―公園―
 同級生は亡くなった。母は忘れた。これらの結果の差異はセカイが判断した影響力にある。同級生が亡くなったところで綱吉には何の影響もない。だから綱吉を害する彼は殺された。一方、奈々がいなくなれば多大な影響を被る。奈々が亡くなるということ。それは、奈々が亡くなった時点で綱吉の身がボンゴレの手に渡るということを示していた。ボンゴレにはあの双子がいる。幻術を用いた顔の造形。イタリアからの転校生ということからあの双子はボンゴレ関係者だと推察していたが、双子について調べてそれが確証に変わった。綱吉が殺される危険性の拡大をセカイは忌避したのだ。セカイにとって綱吉の死が都合の悪いことなのだとしだとしたら、その束縛から逃れるには死ぬしかないと思っていた。思った通り、セカイは予定調和が乱れること、人を生き返らせる為の代償を払うことを嫌っていた。取り付く島が少しでもあればとその希望に縋ったが、綱吉がボンゴレの指輪を手にした時点で希望は失せていたらしい。この指輪を指に嵌めたその時に決して切れない繋がりが出来てしまった。もう、死ぬこともできない。
「逃げられない。」
降り出した雨が頬を伝う。針山に立ち袋小路となった自分を嘲笑うかのように振り出した雨に目を閉じた。

―ジッリョネロ―
 物音ひとつしない静寂に包まれた部屋は曇天に陰鬱としている。装飾の映えた家具は影に呑まれ、輝きを失ったその様は日光さえも遮ってしまう曇天に委縮しているかのようだった。窓の向こう、一面灰色に覆われた空に眉根を寄せる。数日前のそれを思い起こさせるような景色だ。突如、空を覆った雲が頭に浮かんできて、始めは以前のように未来を視ているのだと思った。力を失いつつあった上に、転生した身ではあったが、もしや人柱となったことが関係しているのか。流れ込んでくる想いに誰かの世界を視ているのだと気付いた。未来ではなく現在。光景ではなく視界。経験のない事象にこんなことがあるのかと瞠目したものの、直ぐにこれも未来の一種なのだと気付いた。この人が現時点で描いている未来。真っ暗な未来。
「逃げられない。」
聞こえた声を心中で反復する。聞き知った声だ。感情を読み取ろうとしたけれど、静かに告げられた声に感情らしきものはなかった。何処までも残酷な未来。その未来に間もなく彼は直面する。それを知ったところで自分はどうすることも出来ない。彼にも、誰にも出来ない。そのことは彼が一番よく知っているのだろう。流れてくる想いが告げている。逃げたい。痛い。苦しい。恐ろしい。己の目から涙が溢れて出ると同時に彼の視界が閉じられた。

第3章「真紅の刃」
―沢田家―
 いつからか家の暖かさが感じられなくなった。その原因が自分にあることは分かっている。奈々はあれ以来、真夜中になると悲鳴を上げるようになった。心配した同居人は原因が自分にあると検討を付けた。同時期から奈々が避けるようになった自分に。それからというもの、休日には家にいる自分から遠ざけるように何処かへ連れ立って出かけることが多くなった。奈々に会うことなく過ぎた数日。彼らの試みが幸いし、奈々が悲鳴を上げることはなくなった。目下の隈が消え、元気を取り戻した彼女は2階の部屋や玄関に靴に首を傾げ始めた。余分なものがある。余分な食器。余分な衣服。余分な洗面具。彼女は気味が悪いと、それらを直ぐに捨てた。この家の何処にも自分のものはない。この家の何処にも自分の居場所はない。冷たい視線に、冷たい食卓に、冷たい布団。何もかもが冷たくて、自分を追い出したくて仕方がないようだった。こう仕向けたのは自分だけれど、目の当たりにすると胸が痛む。
「明日、晴れるといいな。」
すっかり物の無くなった部屋を見渡しながら呟いた。

―数ヶ月前―
 仏壇の前で手を合わせて祈る。日課となっているこれは数年前から始めたことだ。兄同然に慕っていた従兄弟が死んだときから。彼の時間はもっとあったはずだ。気の弱いわたしの手を引いてくれた彼。あんなにもあっさりと死んでしまうなんて。てすぐには実感できなかった。親に待つように言われ、霊安室の外で待つこと数分。頬に一筋の跡を残して現れた親の背後、扉の隙間から見えた彼の両親と白い布を見て漸く実感した。追い縋る両親の下にある遺体。顔を覆っているのに動かない布。彼はもういない。部屋から外へと導く手はもうない。意地悪く笑って、沢山のことを教えてくれた。彼が世界を知る術だった。世界そのものだった。
「わたしをまた連れて行ってよ。」
仏壇の写真に語りかけたところでどうなるというのだろうか。今はもう歳を下回る彼に縋ろうだなんて甘えにも程がある。わたしはどうしようもないダメ人間だ。同級生にダメツナとあだ名された人がいるけれど、これでは彼の方がまだましだと思う。寂しさと情けなさで目頭が熱くなる。仏壇を前に泣くことだけは避けようと背を向けたところで、玄関の呼び鈴が鳴った。玄関に向かい、一呼吸おいて戸口を開ける。
「あなた…。」
そこには見覚えのある人が立っていた。従兄弟の遊び仲間の一人だった。彼の葬式以来、顔を合わせることはなかったが、彼と同じく活発で、笑顔の絶えない人だったことを覚えている。音沙汰がなかったのに今になって現れた理由は、恐怖に塗れたその表情にあるのだろう。事情を聴くために彼の手を引き、仏壇のある居間に通す。彼の様子は尋常ではない。一体何があったというのか。記憶の中の彼と全く異なっている今の彼に、追究したい思いがやまない。しかし、食卓の椅子に腰かけるように勧める前に、彼は仏壇を見つめたまま崩れ落ちてしまった。お茶でもしながら話を聞こうと思っていたのだけれど。床の上に蹲ってしまった彼に掛ける言葉が見つからず、無言でいること数分。我慢の限界だというように、泣き叫ぶ彼の言葉に息が詰まった。
 一週間前のことだった。仕事から帰って来た親が団欒で唐突に数年前のことを振り返り始めた。幼かった頃の記憶は殆ど色褪せ、亡くなった友人の話も聞くまで完全に忘れていた。聞いた途端に恐ろしく思った。蘇る記憶に、冷たい汗が流れ落ちる。数年前、友人が死んだ。友人は仲間と連れ立って同級生をいじめていた。自分もその一人で、当時は加減を知らないいじめになんとも思わなかったけれど。気にくわないから歩道橋から突き落とそうなんて考え、今思えば正気の沙汰じゃない。実行しなくて良かった。しかし、実行しなかったのは偶然か。実行しようとした矢先に友人は死んだ。タイミングが良過ぎないか。彼は沢田綱吉という少年に殺されたのだ。だとすれば次は自分が。そんなことはないと自分に言い聞かせても、冷汗は止まらない。何故沢田綱吉をいじめていたのか。彼は怪我をしても顔を歪めなかった。そんな彼が不気味だったから。不気味な彼に馬鹿馬鹿しい考えが拭えないのだ。それから一週間、布団に潜れば必ず見る悪夢。もう我慢の限界だった。
 だから、沢田綱吉に許しを請うため、同級生であるわたしに接触の機会を作って貰おうとやって来た。
 「あなたのせいじゃない。」
弱弱しい彼の様に、思わず口をついて出た言葉。逆恨みであることは分かっている。それでも、やり場のない感情を押し付けることの出来る対象を見つけて、呑み込むことなんて出来なかった。あなたのせいじゃない。これは、彼に言うべき言葉ではない。分かっていてそれをしなかったのは、自身の弱さ故だ。

―現在―
 仏壇の前で手を合わせて祈る。日課となっているこれは、数年前から始めたことだ。それに加えて数ヶ月前から始めたことがある。仏壇に供えられた果物ナイフに誓うこと。
「待っていてね。」

―教室―
 早朝にもかかわらず、騒々しい教室に顔を顰める。朝に弱いわたしにとってこの騒音は苦でしかない。耳鳴りがして足早に教室を目指していると、目の前に見知った背中が現れた。男性にしては小柄な体躯、頼りないその背中を自分はよく知っている。
「死んじゃえばいいのに。」
すれ違いざまに囁けば、彼はこちらを一瞥し、刹那、何事もなかったかのように教室に入っていった。こういったことには慣れているのだろうけれど、俯いた顔の青白さが動揺を如実に露わしている。もっと苦しめばいい。散々苦しんで、傷つけばいい。そうして絶望した後に理不尽に殺してやる。制服の内に忍ばせたナイフを握りしめて、教室の奥の彼を睨み付けた。

―並盛中学校―
 体中の痛みが意識を奪っていく。微動だに出来ない体に小さく溜息を吐いた。季節の変わり目に体の変調を訴える者が多く、枯葉の茂る木の下の門を潜る生徒の数は少ない。喧噪は閑散とした空気に呑まれ、辺りは静まり返っている。秋特有の穏やかな匂いに鼻を鳴らしながら門構のレールに積もった枯葉を踏みしめて、肩からずり落ちた鞄を掛け直した。少し悴んだ手に息を吐けば、心地よい暖かさが手に沁みて目を細める。朱に色付いた指先を眺めていると、視界に大きな足が映った。顔を上げれば自分を囲む複数人の顔に、ゆっくりと歩を進める。下足まで、あと数十歩。靴を履き替えたら、階段を一気に駆け上がろう。そんな考えとは裏腹に視界がぶれて体が強い力で引かれた。体の行方が階段横の手洗い場に向かっているのに気付いて眉を顰める。予想通り手洗い場に連れ込まれ、閉じられる扉と鳩尾に植え付けられた膝に考えることを辞めた。
「…っ、ぅ…。」
蹴りが宛がわれた場所から臓腑と骨の軋む音が響く。
「…ッ、…ケホッ…。」
「てめぇが殴られてる理由が分かるか?」
「…ハッ、…ふ…。」
「気にくわないからだよ。」
前後左右、逃げ道を与えまいと止まない蹴りに吐気を催す。視界が暗い。視界が開けていた時の場景を頼りに手を泳がせてドアノブを探る。崩れ落ちたのは入口付近の床だから、手を伸ばせば届くかもしれないという淡い期待を込めて。包囲されている状況で、体が思い通りに動かない状況で、逃げられる訳がないと思っているくせに。
「…イ゛ッ……ぁ。」
そんな努力もむなしく後頭部に覚えのある激痛が襲い、耳がトイレに響き渡る硬質な音を拾った。心臓が早鐘を打ち、視界が赤と黒に点滅している。心臓の音が大きくなるほど痛みは曖昧に、点滅の合間に見えたのは黒い染みの付いた花瓶と花。毛髪が掴まれ引き摺られて、額に何かがぶつけられた感覚の後に見たのは、鏡に映る紅い華。その紅い華が線を垂らしていく様を他人事のように眺めた。視界が閉じた後、顔を膜が覆うような感覚がして鼻と口から鉄錆味の液体が入って来た。鼻奥、喉奥が痛む。息苦しさも増して、危機感に手を動かした。手の感触で水の張られた洗面器に顔を沈められているのだと分かる。そんなことが分かったところでどうなるわけもなく、状況は悪化していくばかり。水中で咳き込み、大量の水を飲み込んでしまった。毛髪ごと頭を引き上げられ息をしたのも束の間、再びの水面下に恐怖が募っていく。沈められては引き上げられの繰り返し。体から力が抜けた頃に漸くそれは終わった。
「…ゃ…ッ…はッ…ぁ…ごめ…なさッ。」
永遠と思われた苦痛が終わり、朧げな意識の中、覚えた違和感に体が震えた。ズボン、スラックスを膝まで下ろされ、冷たい外気に晒された足に纏わりつく熱の籠もったいくつもの手の感触。そして臀部の間に押し付けられた硬質な熱の塊に、背筋が凍った。
「…ゃだ…ッやだ、やだぁ。」
臀部を執拗に擦る熱に、子どものように駄々を捏ねる。何をしても無駄だという現実から目を逸らすように。

―通学路―
 双子を探ること1週間。監視するどころか未だ見つけられていない。腹立たしいことこの上ないが、自身の手腕をもってしても見つからないという事実は、双子が確実に怪しいことを示している。だが、これではお粗末すぎる。怪しいと睨んだ双子について探ると同時に、綱吉についても調べた。現時点で分かっていること、1週間経って漸く分かったことと言えば、綱吉が何を着ていたか。鼻で笑うことすら憚られる失態だ。それでも、そこから連想される実態に収穫がなかったと言えば嘘になる。綱吉の存在を実感したくて探し続けた。ごみ収集場のごみ袋を漁って見つけたのは、何枚もの破けたTシャツ。そしてクリーニングのタグ。コンビニで見かけるようなTシャツにはところどころに黒ずんだ染みが見受けられる。買って捨ててを繰り返していたのだろう。人間味の欠片もない実態を見た途端、溢れ出る衝動に目が眩んだ。黒ずんだ染みは彼が人間だという証。彼の人間としての証はこの黒ずんだ染み。嬉しくて、恐ろしい。矛盾に吐き気がする。狂乱してしまいそうだ。だから、逃げた。誰でもわかる。起こっている何かが、綱吉の居場所を奪った。もう手遅れだと。手遅れになる前に助けることは出来たはずだ。一年も共にいて、出来ないはずがない。でも出来なかった。助けようと思った。でもこれは偽善でしかなくて、彼を救うための家出だと、逃げたのだ。恐かったから。臆病だったから。そして、綱吉が狂っていることに気付いたから。
 表情を隠すようにボルサリーノを目深に被り直す。代理戦終結以来、急速に元に戻っていく身体を物陰に隠すと、息を顰めた。談笑しながら近付いて来る双子を視線で追う。ここから少し先の公園、その奥の雑木林で必ず双子を見失ってしまう。今回もまた雑木林に溶けて消えていく双子に舌を打った。そして意識を失う。いつものことだ。意識を取り戻したと思ったら家の玄関に立ち尽くしている。この感覚はあれとよく似ている。調べ物があるから家を開けると綱吉に告げたときのあれ。オレがいねぇからって怠けんじゃねーぞ。そう言った後のあれ。何だったか。逃げるように玄関を出て空を見上げる。近頃は天候が崩れてばかりだ。今のこの現状を表しているかのように大空を曇が覆っている。家を出た日もこんな空だったか。玄関先で綱吉に傘を渡されて、そして。怠けてたら、リボーンに見つかっちゃうだろ。お前、急に出てくるから気が抜けないよ。そう言っていた。何かが引っかかる言い回しに瞠目とする。あの時は怠けているところを見つかって怒られるのが嫌だという意味だと解釈して気にも留めなかったけれど。
「暗示を掛けられているのか。」
その時綱吉がどんな顔をしていたのか思い出せない。それが何よりの証拠だった。
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -