Hurts


 目が覚めた。思わず、顔を手の平で覆う。布団を持ち上げて、己の下部に視線を遣り、下着に膨らみと染みの跡があるのに気付いて、ため息を吐いた。昨晩、熱に魘されてなかなか寝付けない綱吉に寄り添って、自分も人生最大の忍耐力を試されながら、綱吉が疲労の余り再び気を失った後に、気づけば眠っていたらしい。一線を越えまいと耐え切った安堵感に眠ったのだろうが、まさかの夢で一線を越えてしまった。2度目の溜息を吐いて、傍の綱吉を伺うと、少し頬は赤いが深い寝息を立てて眠っている。一晩経って、媚薬が抜けていないなんてことはないだろう。カーテンを閉め切っているとは言え、日光がカーテンの隙間から漏れ出ていて、それが負担になっているのだろうか。愛らしい無防備な顔で眠る綱吉の前髪を掻き分け、額に手を当てる。熱い。接触した手に反応して、小指の下の瞼が小さく揺れ動くと、琥珀色の瞳が表れた。昨晩と同様、視線を逡巡させて、ひとところに落ち着くと、能面の様な表情が瞬く間に崩れる。
「…風邪…引いた」
失敗した時のように、悔しいという顔をして、開口一番、綱吉はそう呟いた。ベッドからのっそりと降りて、洗面台に向かい、口を開けて喉奥を覗いている。少しほっとした顔で、身体を揺らしながら戻ってきた綱吉は、壁掛け時計に目を遣ると、そのまま布団の中に身を滑らせて、身近にあった熱源に抱きつくと、寝息を立て始めた。熱源というか、俺なんだが。視線を下に向けた。胸元に見える唇が薄紫色だ。微かな震えも見られる。再び耐えなければならない苦境に立たされたことよりも、昨日の自身の落ち度を認めざるを得なくなったことへの苦渋に、舌打ちした。胸元の熱があるのに、寒さを感じるほど体調が悪いのか。何度後悔しても悔やまれる。あの時殺しておけばよかった。いや、殺して終わらせるのではなく、生きることが苦になるくらい痛めつけて、死にたくなるほど再起不能にしてやればよかった。

 「連続殺人犯の特定と警察への引き渡しをお願いしたい」
モニタに皺の刻まれた顔が映る。組んだ手が髭を蓄えた口元を隠しているが、眉間に寄った皺が深刻な表情であることを示していた。モニタは老人の言葉と共に切り替わり、地図を映し出す。並森町を中心として、県境までを灰色と白い線で表した地図。その地図にはところどころ日付とともに赤い点が穿たれている。この赤い点が、最近巷を騒がせている連続殺人事件の犯行現場を示しているそうだ。元々は、首都圏を転々としており、ボンゴレの日本支部へ県警から協力要請が出ていた。相容れないマフィアへ協力要請が出された理由は、ボンゴレが日本支部で大規模な自警団を組織し、地域住民の安全を守る慈善活動を行なって、実績を立てていたからである。そして自警団は、日本へ渡った初代ボンゴレが、暴力団と抗争になった際にできたものだとか。審議の沙汰はともかくとして、なぜか最近になって犯行現場が並森町付近に集中する様になった。そこで、自分達に白羽の矢が当たったというわけだ。日本支部の人間を寄越すのもいいが、殺人に精通している暗殺部隊と殺し家のアルコバレーノがいるのだから、そちらへ引き継ぐ方が事件解決を見込めると踏んだのだろうか。モニタの正面にある長テーブルを囲むのは、暗殺部隊ヴァリアーと自分、綱吉と来日して間もない家光だ。家光は指揮役として呼ばれたのだとわかるが、綱吉はなぜだろう。人死が出るということで、未だ若く、人の死に耐えられるか分からない彼の守護者達は呼んでいないと聞いた。ヴァリアーも怪訝そうな顔で綱吉に目を遣っている。ザンザスだけは地図を見ているが苛立っているようで、その目線は鋭い。それに気付いたモニターの老人、9代目が苦笑いをこぼし、けれど何も言わずに綱吉へ目線を向けた。その綱吉は先程から地図をぼんやりと眺めている。何かを考えているのか、その目は虚だ。嫌な予感がする。
 大砲の爆ぜるような音がして、綱吉の肩が跳ね上がる。綱吉が恐る恐る視線を向けた先、ザンザスがテーブルに拳を叩きつけ、その額に青筋を浮かばせていた。
「なんでこいつが呼ばれてる」
ザンザスが追い出せと言わんばかりに険悪な視線を綱吉の方へ向ける。傍に座る自分には見えるのだが、かわいそうなほど震えている綱吉は、地図が気になるようで俯くふりをして無心な顔で眺めていた。それを横目に見て、確信する。事件の犯人に思い当たりがあるのだ、と。そして、反対傍に座る家光も綱吉の表情に気付いたのだろう、何やら考え込んでいる。モニタを見ると、赤い点の近くに現場写真と被害者写真が表示されていた。一部見覚えのある景色と顔に悪寒が走る。協力要請が出された理由はもう一つあったのだ。
 9代目がなぜ綱吉を呼んだのか、綱吉が犯人を知っている、もしくは犯人が綱吉を知っていると目星を付けたからに他ならない。見覚えがあるのは6枚の写真だ。綱吉が見舞いに通っていた病院の手洗い場と自分が綱吉と一緒に見舞った男の写真。スタジオに向かう際に一緒に通った裏路地と録音室にいたスタッフの写真。撮影スタジオの建物裏にあるゴミ捨て場と急遽撮影に来れなくなったモデルの写真。モデルの顔に見覚えはないが写真に記載された名前は交通トラブルでモデルが来れなくなったと騒然となったスタジオで聞いたから知っている。それらの殺人時刻は全て綱吉がそこを発った数十分後となっていた。赤い点と日付が、綱吉の行動と一致している。
「…囮にするつもりか」
舌打ちと共に低い声で呟く。殺気は抑えきれなかった。手遅れだが殺気を引っ込めようと、綱吉の顔を見る。こちらを見て驚いている。そして、その奥の家光が同じ驚き方をするものだから、あまり似ていないと思っていたけれど、やっぱり親子なんだなと、場違いなことをふと思った。
「…ふむ、極力口外しないように言い含めたはずだが」
モニタ越しの過去には信頼を寄せていた声に一度は引っ込みかけた殺気が、量も倍になって再び溢れ出す。やはり9代目が綱吉に音楽活動のことを口止めしたのだ。こんなのただの現実逃避と嫉妬だ。綱吉を道具と思っていなければ囮という発想は出なかったはずだと、ほんの少しの苛立ちを含んだ回答に思わず懐から銃を抜いてモニタへ発砲していた。モニタが何もうつさなくなるまで何発も打った。ザンザスの怒りも吹き飛び、珍しくヴァリアーの面々同様、驚いた顔を晒している。そんな中、綱吉だけが困ったような顔で渇いた笑い声を上げていた。荒んだ心が鎮まるくらいに、疲労の滲んだその音に、今度は悔しさが込み上げてくる。感情をコントロールできない。今日だけじゃなくて、近頃はいつもそうだ。こんなに感情を揺さぶられたのはいつぶりだろうか。

 授業でも聞いているかのような姿勢の綱吉、殺気を抑えるためにテーブルの表面を指で叩いている自分に物言いたげなヴァリアーを無視して、家光は殺人犯の捕縛計画を淡々と提案していった。計画はありきたりなもので、犯人の興味を引いて誘き出し、捕まえるというものだ。犯人の興味はとどのつまり、綱吉だ。ライブのトークセッションで綱吉から犯人へ犯行を止める様、語りかける。煽られて姿を現した犯人を四方八方に待機したヴァリアーの面々で取り囲む。自分は、綱吉の護衛を担うことになった。
「情報量が多すぎて、…ちょっと待って」
疑問符を浮かべて押し黙るヴァリアーの中で、額を覆ったルッスーリアが家光に詰め寄り、数度口を開閉した後、やっとのことで絞り出すような声を上げた。息子は歌手で、犯人は息子を狙っているみたいなんだ。数週間後に野球ドームでのライブを控えているんだが、そのライブで犯人を誘き寄せて捕まえるのはどうだろう。なんて言われて疑問もなしに返答する人間はそうそういないだろう。
「まず…誰が歌手ですって?」
家光が綱吉の方を向く。
「マジかよ」
ルッスーリアが同じ方を向いてどすの聞いた低い声で呟くと、綱吉がその視線を避けるように俯いた。
「並森町内にいる人間という条件式で認識阻害の術を掛けているからな。今、メディアのこいつとここにいるこいつが結びつくことはないだろうが、術式の外に出れば、あるいは本人と認識することができれば、術は解かれる」
「広範囲だから術師に負担のかからない単純な術式なんだろ?なのに、術に揺らぎが全くないのはどういうことだい?」
認識阻害の術、という家光の言葉を聞いてマーモンが食いつく。淡い色の髪を垂らして、テーブルに身を乗り出している。紺のフードに隠れて、表情は見えないが、布の下で目を煌めかせているのが容易に想像できた。黙っていれば、疑問の答えを執拗に探ろうとするだろう。家光もそれがわかっているのか、マーモンを諦めた顔で見ている。横に座っている綱吉は、そんな家光を見て耳に指を添えたものの、その指先にあるイヤリングを外そうか迷っているようだ。自身の姿を醜いと煙たがられないか気にしているのだろう。どこまでも自己肯定感が低い。寧ろ誰にも見せたくないくらいにとても綺麗なのに。惜しい気持ちはあるが、無理矢理暴かれるよりはましだろうと、耳にかかった綱吉の手に自分の手を添える。こちらを向いた綱吉を安心させるように頷いて、綱吉の代わりにイヤリングを外す。硬質な音とともに1つ目のイヤリングが外れ、もう1つのイヤリングも外そうと頭に腕を回した。2つのイヤリングが外れると空間が歪んで、真っ白な肌と髪が現れた。窓から差し込む日光で、白い睫毛が眼球から白肌の頬に掛けて影を落とす。影の中の真紅の瞳は、眩しそうに細められた目の中で時折虹彩を放っており、宝石のようだった。
「その当人が幻術で姿を変えているからだ」
口をあんぐり開けて綱吉を見ているヴァリアーに説明する。
「一人称と三人称、真逆のギミックを組み合わせて術式を複雑化しているのか…」
少々の間があって、マーモンが顎に手を当てて納得したように呟いた。
「まぁ、そういうわけだ。それで話を戻すが、今週末にライブのリハーサルがあるから、綱吉について行って現地の下調べをするといい。綱吉、会場のセキュリティカードは人数分用意できそうか?」
「ううん、発行には2週間かかるからリハーサルまでに用意できるのは予備の3枚だけだよ」
未だ数名の舐めるような視線に綱吉は目を伏せたまま答える。視線の元を辿れば、呆けた顔の長髪、角刈り、パーマ、前髪パッツンの3人と、興味津々と言った風体の1人、驚きは消えたものの気になっているのか視線を向けている綱吉とは対照的な風貌の1人がいた。綱吉の容貌は幻と比較して色合いと肉付きが異なるだけだというのに、ひどく神秘的だ。目を奪われる気持ちはわかるが、その視線に含まれた感情を読み取って胃がむかついた。独占していたものを奪われた気分だ。
「そうか。なら、1人はリボーンだとして、あと2人、下見役を選んでくれ」

 リハーサル当日、綱吉とともに会場へ赴いた。会場付近で送迎の車から降りる。眼前に広がる会場は、数百万人収容規模のドームで東西南北、陸橋と陸地の計8箇所に出入り口が存在している。その出入り口から伸びる陸橋が、中心のドームから伸びて蜘蛛の脚のようだ。そんなことを思いながら後ろを振り返れば、運転手席のオレガノに綱吉が送迎の感謝を述べていた。家光の腹心だからもしかしてと思っていたが、オレガノが綱吉の仕事を知っているだけではなく、付き合いも長いのだなということが2人のやりとりから伺えた。
「デケェ…」
「でかいわねぇ…」
自分の後から車を降りたヴァリアの2人、スクアーロとルッスーリアがドームを見上げて感嘆している。移動中の車内でもそうだったが未知の経験に興奮しているようだ。
 オレガノを見送った綱吉が黒髪を揺らしながら、こちらへ駆け寄ってくる。綱吉の後ろに続いて関係者用入り口から中へ入る。薄暗い廊下を進んだ先にある扉をノックすると、中から綱吉のマネージャーが顔を出した。綱吉から連絡を受けていたのか、驚くことなくこちらを一瞥すると、3枚のストラップに繋がれたプラカードを手渡された。カードには磁気が埋め込まれており、セキュリティエリアの扉に設置されているカードリーダーに当てると扉が開く仕組みになっているらしい。カードの説明を受け、早速綱吉に用意された楽屋へ通される。舞台関係者を呼びに行ってくる、といって楽屋を出て行ったマネージャーを尻目に、気になっていたことを綱吉に聞いてみた。
「2人のことはどう説明したんだ」
綱吉は楽屋の化粧台に肘を置いて台本に目を走らせている。
「んー、身内って言ったと思う」
そこから視線を外すことなく応える綱吉の顎を捉えて上向かせれば、赤らんだ頬が見えた。触れている首筋が熱い。
「水分を取ったか?」
「取った……かも」
ゆったりとした口調で応える綱吉の視点は定まらず、顎から手を外しても頭を戻す余力がないのか、椅子に沈み込み椅子の背で頭を立てて台本に目を戻している。こんな状態でリハーサルが務まるのかと眉間を寄せた。化粧台に備えられているペットボトルの蓋を開けてストローを挿し、綱吉の口元へ寄せる。意を唱えることなくそれを咥えて水を吸い込むのを眺めていると、隣から小さく悲鳴が聞こえた。
横目で見れば、ルッスーリアが口元を押さえてこちらを凝視している。ほとんど手で隠された頬が赤くなっているのを見て、大方考えていることの予想はついた。その奥手にいるスクアーロは信じられないものを見た表情を浮かべている。誰かを甘やかしたことは滅多にないし、綱吉に対しては先陣の谷に突き落とす勢いで教育的指導を施していたから、驚くのも無理はない、とは思うけれど、近しい関係性を否定されているようで少々癪に触る。
 それからマネージャーに呼ばれて集まった関係者とともに位置取りや演目の順番などの打ち合わせを終えて、リハーサルを迎えた。呆けているヴァリアーの2人と共に舞台袖の観客席から歌っている綱吉を見上げる。バンドメンバーの演奏をバックに低音で紡がれる歌声、ピアノやギターの弾き語りと共に流れる透き通る中性的な歌声。まるで何人もの人間が歌っているかのようにさまざまな歌声で歌い上げていく。舞台を歩き回ったり、ダンスを踊りながら歌うこともあったが音がぶれない。舞台を楽しみつつ、考える余裕がない様子のヴァリアーに代わって本番当日の作戦を立てていく。
 リハーサルが終わり、おぼつかない足取りの綱吉の後ろに付いて行って、お手洗いに入る。便座に向かって体を丸めて胃の中のものを吐き出し震えている背中を摩ってやった。リハーサルの終盤に差し掛かった辺りから汗の量が尋常ではなかったのでもしやと思っていたが、限界が来ていたらしい。
「…大丈夫なの?」
背後から尋ねて来るルッスーリアに軽く頷いて、吐き疲れてぐったりとしている綱吉を抱き抱えて外に出る。入り口の外で心配そうにしているマネージャーやリハーサルを共にしていたバンドメンバーの一人に帰宅する旨を伝えて甘ったるい香りのするその場を後にした。抱き抱えるたびに思うのだが、体感で成人男性の半分の体重もなくちょっとしたことで死んでしまいそうで背筋が凍りそうだ。薄く骨張った硬い体を迎えの車に押し込めてようやく安堵の息を吐く。サンシェードで日光を遮っている車内で浅い寝息を立てている綱吉の顔に拭き取りシートを滑らせて日焼け止めごと汗を拭うと、土気色の肌が現れた。後から車に乗り込んだヴァリアー2人がそれを見てぎょっとした顔をする。
「風邪ですか?」
迎えに来たオレガノが運転手席からミラー越しに尋ねた。
頷くと、助手席のグローブボックスから小さな箱を取り出してこちらに寄越す。箱のラベルから風邪薬だと分かった。
「目が覚めたら飲ませてあげて下さい。昔から気管支炎を起こしやすくて、咳が酷く前に良くなるといいのですが…」
「よく知ってるんだな」
箱に書かれている説明を一通り読み、懐にしまう。ミラーに目を向けると、車を発進させたオレガノが懐かしむように小さく微笑んでいた。
「親代わり、のようなことをしていましたから。よくシチューを一緒に作ったりして、楽しかったなぁ…」
「…親代わり」
シャマルから聞いた話で、家族関係について良好ではないと推測していたが、親代わりをする必要があったのだということに思い至って息が詰まりそうになる。
「彼から聞いたそうですね。あの事件の後です。親方様と綱吉君と2人暮らしをしていた時期がありました」
疑問符を頭上に浮かべている2人を尻目に、納得する。優しく、時には厳しいが、障害をもって生まれただけで、行方不明になったというのに1ヶ月経っても父親に何も言わず、捜索願いも出さなかった母親だ。母親の顔を持っているのに、彼女はきっかけさえあれば、容易く子どもを放棄できる。子どもがいなくなれば。子どもが彼女の思う子どもでなくなれば。性的虐待を受けて戻ってきた子どもは、果たして、子どもとして認知されるのか。そうなる可能性を鑑みて2人暮らしを決めたであろう家光は、綱吉を子どもとして見ている。先日の顔合わせで、綱吉と家光の関係性が、滅多に家に戻らずだらしない父を嫌う息子と、息子に構って欲しくて不器用に接する父という一方通行の関係ではなく、本当は理解し合っている父子という双方向の関係であることに気づいて、分かってはいたが、理解し合うまでに至った過程が気になっていた。2人で過ごす時間があったのなら納得だ。
「親方様は家事が出来なくて、見兼ねた私とターメリックがお手伝いに、というわけです」
「ターメリックもか」
「えぇ、彼はよく綱吉君とゲームで遊んだり、ドライブに連れて行ったりしてました」
家光の仕事は定住できるものでも休めるものでもないから、代行役として部下を立てて、その時に事件のことも共有したのだろう。
代行役を務めるだけでも並大抵の労力ではないはずだが、仕事先とを行き来し、家事まで手伝っていたというのだから驚きだ。部下に恵まれたなと、ここにはいない男に思う。
「綱吉君が本当に可愛らしくて…、私と彼を、お母さん、お兄さんと思ってくれたらなぁなんて、綱吉君に言ったこともありました」
オレガノが続けた言葉に、ふと、綱吉がシチューに林檎を入れていたことを思い出した。
その時に綱吉が言っていたこと。
その表情はどうだったか。
「思ってると思うぞ」
ミラーの中の目が丸くなっている。
「…え?」
運転の妨げになるほどではいないが、思わず声が出てしまったという様子だ。
「この間知ったんだが、シチューに林檎を入れるとうまいんだな。母さんがよく作ってくれたんだそうだ」
「…そうですか」
運転席から震える声が聞こえた。
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