(大学生パロ)
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眼下に広がる真っ白に染まった大地が日の光を反射して一瞬その目映さに目が眩みそうになる。
「おい馬鹿、ちゃんとゴーグル付けねえと目ぇ悪くすんぞ」
「あぁ、分かっている」
それでもまだ見続けていたい、と目を凝らしていると、俺の額にただ飾り物のようにされていた透明な防具がぐいっと引っ張られる。
「うっ、危ないだろう!」
「いや、直視する方が危ねえつってんだろが馬鹿ヅラ」
「ヅラじゃない桂だ」
見慣れぬ銀世界に内心はしゃいでいる俺とは対照的に、すっかりこの景色を見慣れているのだろう、隣に立って白い息を吐いている高杉は冷静な様子だった。
「いい具合だな。滑りやすそうだ」
「埋まっても痛くなさそうだな」
「まあ、なるべく埋まらないようにすることが大前提だけどな」
「分かっておる。簡単に滑れるようになるんだろう?」
「多分、な。お前より銀時の方が早くコツ掴みそうだな」
本人を前にしては絶対言わないであろう言葉に、少しだけ闘争心が煽られる。
この冷気に早速愚痴を零している銀時は、半ば引きずられるようにして坂本と一緒に後方から歩いて来ている。

銀時の借りているアパートに集まり、久々に四人揃ってぐだぐだと酒を飲んでいた一ヵ月前。
「あー、彼女欲しい。誰か俺に紹介しろよ、猿飛以外の女子で」
「贅沢な奴やのう。あやめちゃん可愛えし、おまん一筋みたいやき、付き合えばいいちゅうに」
「いやー…なんか違うんだよ。なんか違うんだよ」
「二回言った」
「うっせーぞ、ヅラ」
「ヅラじゃない桂だ」
「どうやればモテるんだ。どうやったら俺の魅力に気付いてくれんだ、女子は」
「そういう姿勢だからモテねえんだよ」
「うっせーぞ、チビ」
「一升瓶どこやった。さっき飲み干したやつ」
「まぁまぁ、金時も高杉も落ち着くぜよ。二人とも言っちょることは間違ってないき」
「瓶もう一本こっちにも寄越せ。中身入っててもいいから。なんなら満タンのやつでいいから。思いっきり振りかざせば問題無いから」
「火に油注いでどうするんだ坂本。それに俺はこんなに一気に酒は呑めんぞ」
「あ、そうじゃ。来月スノボ行かんか?」
「どんな話の切り替え方だよ。大体俺行ったことねえし寒いの嫌だし金ねえし」
「モテたいんじゃなかったんかの」
「え……モテるのか、雪の上滑れたらモテるようになんのか?」
「そんりゃあもう、女の子たちめろめろやき。のう高杉」
「は? なに、もしかして行ったことないの俺だけ?」
「いや、俺も行ったことはないぞ」
「流石だぜヅラ、期待を裏切らねえ。ってか何二人だけで女子と知り合う機会作ってんだよ銀さんも混ぜろや」
「いや、ついさっき自分で言ったこと思い出せや天パ」
「おい銀時、さっきのはどういう意味だ。何か、何となくだが馬鹿にされてるような気がしたのだが気のせいか」
「もうお前も黙っとけヅラ」
「ヅラじゃない、かとぅらだ」
「自分の名前噛んでんじゃねえよ、茶ァ飲め。それか水」
「おい、いつ行くんだ。あと予算はどれくらいあれば行けるんでしょーか参考までにオシエテクダサイ」
「わしん知り合いに旅行会社に勤めちょる奴ばおるきの、格安で楽しめる、破格プランを用意しちょります!」
「っしゃー! 決まりだ、俺も連れてけ!」
「ヅラも来りゃあいいじゃねえか」
「いや、別に俺は、」
「んだよヅラ、もしかして雪が怖いのか? うまく滑れるようになる自信無いから行かねえんだろービビってんのかよ、あーん?」
「……そんなもの、お茶の子さいさいさいだ」
「さいが無駄に多いな。まあじゃあ決まりだな。坂本」
「任せときい! ただ今言うとることば覚えちょえるか分からんき、明日メールば送ってくれんのかの高杉」
「あー、分かった」
「わし、ちょっとトイレに、行ってくるき、うえっぷ」
「絶対ここで吐くなよ馬鹿本。俺の部屋じゃねえから別に構わねえけど」
「言うじゃねえか高杉。家主からの命令だ、お湯湧かしてこい。温かい茶が飲みてえ」
「あたたかーいちゃがのみたい」
「酒弱ぇくせに、んな飲んでんじゃねえよ」
「温かーい」
「ちゃがのみたーい」
「分かったからもう黙っとけ」

そんなやり取りがあり、本当にこの値段で良いのかと聞きたくなる程の驚きのプランを坂本が練ってくれ、この際インストラクターも要らねえだろ、という高杉の言葉により、坂本が銀時に、高杉が俺に指導してくれることになったわけだ。
冷たい大地に座りながらボードに足を固定し終えると、ひょい、と高杉が起き上がりボードの上に仁王立ちになった。
「じゃ、早速始めんぞヅラ。まず立ってみろ」
「ヅラじゃない桂だ。それくらい、簡単に、うお、」
言いかけて上半身を上げようとしたところで、この状況が非常にバランスを取り辛いことに気付き、再び尻が雪の上に着地してしまう。足が固定されている分、全身で調整しなければいけないわけだが、少しでもずれれば前か後ろに簡単に倒れてしまう。
「これはもう感覚だからな。体幹鍛えろヅラ」
「今言われてすぐ強くなれるわけなかろう。うっ、」
 後ろに倒れる、と思って体重を後ろに傾ければ、またそのまま倒れ込んでしまった。
「おら、そんなんじゃ今日中に滑る練習まで行き着かねえぞ」
「ちょっとは指導者っぽくしたらどうだ。指導者のせいじゃないのか」
「さあ、どうだか」
首を竦めて、高杉が後方に視線を送る。振り返るとおおげさな身振り手振りで何やら大声で坂本がアドバイスを送っているようだったが、それに対して銀時は雪玉を投げつけていた。
「……とりあえず、手、掴んで立ってみろ。ほら」
その声に身体を正面に戻すと、俺を見下ろす高杉がこちらに向けて両手を差し出していた。吸い込まれるように俺の両手が高杉の手の平に重なる。
「……っ、お、立て、たぞ!」
「その感覚ちゃんと覚えとけよ。も一回」
何回か繰り返す内に、力を入れるタイミングが掴めてきて、なんとか一人で立ち上がることができるようになった。満足気に頷く高杉を見て、後ろを振り返ると、立ち上がったと思えた銀時の上半身が雪の中にダイブしていくところだった。
「じゃあ次な。滑る、っつうか進む練習」
「望むところだ」
これがまた思っていたよりも難しく、重心を少し動かしただけで、すうっ、と音もなく静止していた場所から離れていってしまう。挙げ句の上、速度調整がうまくできず、どんどんと加速するスピードに堪え切れなくなったところで身体を後ろに倒してしまって尻餅を付く、の繰り返しだ。
「おい、ブレーキ掛けろ。後ろっ側で」
こういう感じで、と手本を見せる高杉はやはり経験値の差ゆえ、いとも簡単にこなしてみせる。
「そうは言っても、」
「おーい金時ィ、もうちっくと慣れるまではスピード自重するぜよー!」
「わあーってるよー!」
その会話が耳に届いたと同時、俺と高杉の横を銀時が颯爽と滑り去っていった。
「あー、あんくらいの勢いでいくイメージ持て。アイツまだちゃんと止まれるのか知らねえけど」
そう言うと、高杉が離れていき、五メートル程下方でぴたりと止まった。
「ヅラぁ、俺目がけて思いきり滑ってみろ。絶対ェ受け止めてやっから」
銀時に先を越されたこともあり、高杉の不意の言葉に動揺してしてしまいそうになった心を隠すように、俺は頭の中を空っぽにして前身を乗り出した。
「うおおおおお」
「お、っまえ、なあ! んな全力で来る奴がいるかよ馬鹿」
「お前が言ったんだろう」
「にしても限度があんだろうが。急に吹っ切れやがって」
ぶつくさと言っている口元は、存外楽しげに弧を描いている。宣言通り、俺の身体をしっかりと受け止めた高杉は、もう一回な、と言ってゆっくりとまた下方に移動していく。
「お前が満足できるまで、何度でも受け止めてやるよ」
にやにや、とさっきまでとは打って変わって腹の立つ笑顔を浮かべる高杉目がけて、また俺は躊躇無くスタートを切った。

「思いの外楽しかったな。なんか今日は滑れる楽しさ知って女子に声掛けるのすっかり忘れてたわ」
「そりゃあまた来んといかんのう! ヅラも滑れるようになっちょって良かったぜよ」
「ヅラが滑るってなんか違う風に聞こえんな」
「うるさいぞ銀時」
「喉渇いたな。自販機で何か買ってくんわ」
帰りのバスが走り出してしばらくは四人で騒いでいたが、誰かがうとうとし始めたとほぼ時刻を違わずして皆で眠ってしまったと、後に運転手が話してくれた。

「あー、冬も悪くねえな。寒かったけど」
「そうだな、次は鍋だな」
「来週、銀時んとこ集合な」
「分かったきー」
「また俺んちかよ!」
ポケットに手を突っ込み、鼻を赤くして、今日一日の疲れが凝縮された身体を動かす。
次に訪れるこの季節に、四人で揃えているのかは分からない。だからこそ、限られた今を楽しめればいい。
つん、と透き通った夜空に並ぶ、輝く塵芥の輝きを決して忘れはしまいと、笑った声は白い息になって宙に溶けていった。

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'16/01/17 CC福岡39 無配に加筆修正


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