Clap
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「死ぬる時は、忘れ形見など残さずに逝ってくれ」

煙管で一服嗜んでいる男の向こう側を見るように、呟く様にそう言った。
ふう、と大きく吐き出された煙を目の端に映していると、役目を終えた煙管が置かれた音が耳に入った。

「随分唐突だな」

聞き流されはしなかった。
くだらない、と嘲笑されることもなかった。
言葉を投げ掛けられた男はただ少しの合間、考えるような素振りも見せぬままこちらを一瞥し、肩を竦めただけだ。

「そう、してはくれぬのだな」
「何故、そう思う」
「お前が嘘を吐いているのかそうで無いのか位は、見分けられるさ」

ふっ、と無意識に力無い笑みが俺の顔を包む。
何か続く言葉を高杉が口にする前にと、俺は高杉の胸に頭を埋めた。
俺の行動に高杉の体が一瞬だけ強張ったが、すぐに無駄な力は抜けたようだった。
胸の中心で音を奏でる臓器が、俺の耳のすぐ側で鼓動している。
どくり、どくり、と身体の中を巡る赤い液体は、高杉をちゃんと生かしている。
その音をもっと鼓膜に響かせようと、更に高杉の胸に顔を埋めるようにすると、俺の頭に高杉の手がそっと下りてきたのが分かった。
髪を滑らすように、手の内で弄び出したのを気にもせずに、俺はぎゅっと強く高杉の着物を両手で掴んだ。

「……何だ?お前本当にヅラか?」
「ヅラじゃない桂だ。どういう意味だ」
「いや…何でもねえよ」

顔を埋めたままだったため、必然と声がくぐもってしまう。
それでも俺はまだこの音を聞いていたくて、体勢を変えることはしなかった。

「さっきの話の続きだが…お前さんはちと驕りが過ぎるんじゃねえの」
「そうでもないさ。なら言葉で肯定でも否定でもして見せろ」
「俺は出来もしねえ約はしねえよ」
「ほら見ろ」

知っている。聞かずとも高杉の答えは容易に想像できるものだった。

「……さっきの言葉は忘れてくれ」
「如何せん無理そうだな」
「ただの…戯言だ」

耳に馴染んできた高杉の鼓動に目を閉じた。
触れている皮膚から高杉の体温を感じた。
今はそれだけで良かった。
それだけを感じていたくて、俺は強く目を瞑った。

(お前の断片が俺の中から無くなることは無いのだと、分かりきっているから、今、お前の生きている証をこの身に刻んでおきたい)
(そんな矛盾した、俺の勝手なエゴイズムが生んだ、ただの、戯言)

*高杉が死んじゃう夢を見た桂の話

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