「ファインディングニモがいるのだよ」
「カクレクマノミね」

クラピカはオレンジ色でしましま模様の海水魚が泳ぐ水槽に張り付いていた。

「ニモはイソギンチャクのそばを離れないのだな」
「共生の関係だからね。守られてるんだよ」

イソギンチャクには毒がある。
カクレクマノミにはその毒に対しての抗体があるため、影に隠れて生きらえる習性があるのだ。

しばしの間世間話をしていた二人だったのだが、不意に声をかけられた。

「ちょっとお兄さん達、お金貸してくれない?(裏声)」

振り返ってみればガタイのいいサングラスの男2人がいた。
2人ともマスクをしていて顔を隠し、いかにも怪しそうだった。しかしながら

「何をやってるんだバショウ」
「誰だそれは?(裏声)」
「何故とぼけるのだ。お前達今日はオフなのか?それなら一緒にイルカショー見るか?アシカと握手ができるのだぞ!」
「まじっすか!」

隣にいたもう一人の方が声を上げた。
スクワラは動物好きだから咄嗟に反応してしまったのだろう。
とたんにバショウがもじゃ頭を引っ叩き、帽子が吹っ飛んだ。

「てめぇ!!俺は先輩だぞごるぁぁぁ」

見ての通り彼らは思いっきり知り合いでした。

「どうして変装しているのかは知らないが帽子とマスクはやめた方がいいぞ。お前らがそんな格好をしていたらどっかの強盗にしか見えないのだよ」




「なに簡単にバレてんのよーーー!?」

カツアゲ作戦があっけなく失敗した。
ネオンは柱をガリガリするしかないのだった。

(もう…役立たずなんだから!)

センリツが買ってきてくれたヨーグルっべをすすりながら恨めしげに彼らの方を見やり、そこで気づく。

(あれ?)

銀髪が面白くなさそうな顔をしていた。

「作戦、失敗しちゃったわね」
「まぁね。でも…」

あんな顔、初めて見た。
作戦は失敗したけどまぁ、正直悪い気分ではない。
ネオンはにやりと微笑した。


しかしその後は散々だった。

クラピカをコケさそうと罠を張れば簡単に引っかかったものの銀髪にしっかりと受け止められ

「危ないなー。大丈夫?」
「す、すまなかったな」


「何照れてんだお前はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ネオンちゃん落ち着いて」


悪臭ガスを投入しようものならば

「く、くさっ…おえっ」
「ね、ネオンちゃ…」

自分たちが餌食になり。


携帯に鬼電話しようものならば

『お客様がお掛けになった番号は電源が入っていないか只今電波の届かない場所に…』

珍しくクラピカが気を利かせていた。


「こんのやろぉぉぉぉーーーーー!!」

もう限界だった。
なんなんだこの度重なる逆効果は。

「ネオンちゃんんんん!!!」

センリツの静止を完全無視して
ネオンは最終奥義に出た。

右手にやたら高クオリティなタランチュラの模型を握りしめ
メジャーリーガー並みの完璧なフォームで金色ぱっつん電波馬鹿に向かって投げつけた。
お嬢様キャラ?なにそれ美味しいの?

クラピカは蜘蛛が大嫌いなのだ。
いくらなんでもこれは取り乱すだろう。
大いに取り乱せ、ドン引きされるがいいわ。

タランチュラが物凄い勢いでクラピカの後ろ姿へと向かっていく。
その背中にぶつかるというその瞬間

パシリ。

「へ?」

片手で止められた。
前を向いたまま、後ろ手で

隣にいた銀髪に。


「見てみろキルア!ジンベイザメちょうかわいいぞ!!」

クラピカは何も気づいていない。

「あ、あいつ…」

ありえない。
まさか豪速球と化したタランチュラが片手で受け止められるなど。

ふと、銀髪が後ろを向いた。

「あ」

半ば呆然としていたもので
壁に隠れることを忘れていた。

しかし銀髪はネオンと目が合っても大して表情を変えることはなかった。
それどころか


にやりと。
馬鹿にしたように笑ったのだ。




「ネオンちゃんこっち!隠れなきゃっ」

壁際のセンリツがこそこそと手招きをするが、ネオンは微動だにしない。

「ネオンちゃん!」
「………」
「ネオンちゃーん!」
「………」
「ネオンちゃ
「ブシュッ」

ネオンは無言のまま、持っていたヨーグルっべを握り潰した。

すぐさま勢い良く白い液体が飛びでて
腕どころか、顔や髪にまで飛び散っていた。


「ちょっ、ネオンちゃ…!」

ヨーグルっべを被ったまま歩き出すネオンを止めようと立ち上がったセンリツだったが、ネオンの顔を目の当たりにして言葉を失った。

サングラス越しでも分かる、瞳の輝きは失せ、能面のように表情をなくし、ただ事務的に二人の元へと歩いていく。

なんかまずい…
お嬢様がブチ切れている。

「でも…」

その後ろ姿を呆然と見つめながら呟いた。

ネオンちゃん、ヨーグルっべはさすがにマズイんじゃないかしら。



すれ違う人々はぎょっとしていた。
白い液体を被り、表情が死んだ少女が淡々と歩いているのだ。色々とアレだ。
警察が駆けつけてもおかしくない。

ネオンは周りの視線を一切気にも止めず
ヨーグルっべを拭うこともせず
事務的な足取りでクラピカの元へと向かい、そして

「わ"」

思いっきりその腕を引いた。

「ななななな何をするのだ!?誰…」

振り返ったクラピカが言葉を失う。

「…ボス?」

目を大きく見開き、驚愕の色を浮かべ

「どどどどうしたのだ一体!?な、なななななななな」
「何でそんな卑猥な状態になってんの」

知っているくせに、銀髪が横槍を入れてきた。

「大丈夫なのか?まさか例の通り魔が脱獄して…」
「違うわよ馬鹿。ヨーグルっべを頭から被ったの」
「どうでもいいけど偵察だなんていい趣味してんね、おばさん」
「お、おばさんですって!!??」

バトルが勃発してしまった。
キルアとネオンは互いに火花を散らせながらああだこうだと言い争っている。

何が何だか良く分からず、瞳をぱちくりさせるクラピカ。
ふと、後ろからセンリツが駆けてきた。

「おお!センリツじゃないか。君も来ていたのか?」
「ええ、ネオンちゃんと一緒に」
「そういえばどうしてボスはここにいるんだ。今日はショッピングがどうのって言っていたじゃないか」
「それは…」

再びネオンによって腕がぐいっと引かれた。
すかさずキルアがもう片方の腕を掴む。

互いに自身を取り合う形になり…

「いだいだいででででで」

二人同時に本気で引っ張られてはさすがに痛い。
私は裂けるチーズではないのだよ。

「離しなさい!私達は今から帰るのよ!」
「は?勝手に邪魔して何言ってんだよ!?大体あんたが出る幕じゃねーし!」


「わ、私はまだ帰らないぞ!」


大声で叫んだ瞬間、静まりかえった。
キルアはぽかんとしてネオンは俯きながら肩を震わせている。

「いや、ほら、そのぅ」

だってイルカショーまだ見てないし。
イルカショー見ないまま帰るとか、何か勿体無いし。

「ええと…ボスも…一緒に見ないか?」

微妙すぎる空気にいたたまれなくなって誘ってみた。
即座にキルアが「え"」っと声を上げる。

だがしかし、誘われたボスはというと

「帰るっつってんでしょ」
「うがっ!」

首根っこを掴まれた。
そのまま引きずられていく。凄い力だった。
キルアの制止など、何の意味もないくらいに。

「ちょ、ボス!??」
「黙ってなさい…」

静かで暗い声色。
そんなネオンがゆっくりと振り返り、見下ろされる形で目が合った。


「ねぇ、明後日から冬休みよね?」
「ひっ」

冷や汗が吹き出すほど怖い笑顔だった。
例えるならば般若のような…鬼瓦のような…

「冬休み、外に出られると思わないでよ」
「何をい
「外に出られると思ってんじゃないわよ」
「………」

世の中に怒らせてはいけない人がいるとするならば
それは間違いなくボスだと、クラピカは思った。


かくして翌日、終業式の終わりの合図とともに引きずられながら強制的に帰宅させられ
テディベアだらけの地下の一室(鍵付き部屋)に押し込められた。

ネオンお嬢様による冬休み監禁生活が幕を開けたのである。



Dへ続く



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