サヤ様リクエスト小説
キルクラ祭りへのご参加ありがとうございました(^^)



※性的描写注意です




眩しい光が射し込んで
閉じた瞼の裏側に心地よい熱を感じた。

どうやら朝が訪れたようだ。

眠っていたクラピカの意識がじんわりと覚醒して
重たい瞼をゆっくりと持ち上げる。

(眠い…)

体が重くて頭痛がする。

おそらく2時間もまともに眠れていないだろう。

昨日も一昨日もその前も…
明らかに睡眠不足の症状だった。

未だにベッドに縋りつこうとする身体を無理やり起こす。

上体を起こしたクラピカの隣には
キルアが寝息を立てて眠っていた。

「……」

クラピカは悲しげな表情で
熟睡しているキルアを見つめていた。

このあどけない寝顔を見る限り
彼はどこからどう見ても、ただの幼い少年なのに…

(そろそろ出なければ)

クラピカは静かにベッドから降りようとする。

ゆっくりとゆっくりと慎重に足を動かして

些細な音さえ立てないように気をつけながら

つま先から踵までを
静かに床につける。

時間をかけて両足が床の上に降り立つと

クラピカは恐る恐る背後を見た。

銀髪の少年は未だに寝息を立てている。

そんなありきたりな光景に安堵して肩の力を抜く自分に

なんの違和感も覚えなくなったのはいつからなのだろう?

(今日こそは仕事に行かなければ…)

今日こそは。

このまま連絡も取らずに欠勤していれば
間違いなく解雇されてしまうだろう。

目的があってマフィアに身を置くクラピカとしては
それだけは絶対に避けたかった。

すでに危ない状況であると言えるのだが
幸い自分の腕が認められているらしく

そのような通達はまだ来ていない。



けれどもその「絶望」がいつ訪れても不思議ではない。



そんな不安を絶つために
今日こそは行くべき場所に行かなくては…


クラピカはゆっくりと立ち上がる。

背後の寝息が途切れなかったことを確認して

再び安堵のため息を吐いた。

(帰ってきたら…ただではすまないだろう…)

そんなことを思って恐怖に駆られてしまう自分にも

いつしか違和感を感じなくなっていた。

憂鬱な恐怖を跳ね除けて
今やるべきことを優先させる。

キルアが目を覚まさない内にこの部屋を出なければ。

クラピカは静かに足を踏み出した。

宙に浮かせた右足が床の感触を掴み
続いて左足を踏み出そうとした時だった。



ガシリと。
右手首が掴まれた。


「何してんの?」


寝起きにも関わらず
一切の掠れも帯びないはっきりとした声が聞こえた。


クラピカの息が止まる。

一瞬で頭の中が空白になる。
背筋に嫌な震えが走った。


ごくりと唾を飲み込んで
無理やり笑顔を作って振り返る。

キルアの暗い瞳と目が合った。

「起きてたのか」

「うん。ねぇ、何してんの?」

キルアの握力が強くなり
掴まれた手首がミシミシと音を立てる。

ここで顔をしかめてはいけない。

少しでも「拒絶」を見せてしまえばどうなってしまうのか

クラピカは十分に知っていた。

痛みを無視して明るい声を出す。

「起こしてしまったようだな。すまなかった」

「どこ行くの?」

「少しだけベランダに出てみようと思っただけだ」

「なんで?」

「外の空気が吸いたくなってな」

「なんで?」

「朝の光に当たるのも悪くないと思うぞ」

「なんで俺を置いて行こうとしたの?」


「お前を起こしてしまったら悪いと思ったのだよ。すぐに戻ってくるからお前はまだ寝てい


言い終わらない内に手首が強い力で引っ張られた。

柔らかいベットの上に背中が打ち付けられて、綺麗なシーツが波打った。

キルアが素早く自分の上に馬乗りになる。


「ねぇ、正直に言って。どこ行くの?」

暗い瞳が責め立てる。
この瞳に嘘は通じない。


「……仕事に行かなければ」

やっとの思いで口に出すと
キルアは泣きそうな顔をした。

「嫌だよ。俺を一人にしないって約束したじゃん」

「大丈夫だ。すぐに戻ってくるから…」


唐突にキルアが唇を重ねてきて
言おうとしていた言葉を遮った。


深く差し込まれた舌が口内を這い回り
やがて自分の舌に絡みつく。


息が、できない…


苦しさを押し殺してキルアを受け入れていた。

ここで少しでも嫌がるような素振りを見せてしまえば終わりなのだ。


そんな姿を見せてしまった自分が後でどんな仕打ちを受けるのか

考えなくても予想ができた。


しかしキルアが離れる気配はない。


このままでは窒息してしまう…
危険を感じてキルアの両肩にそっと手を置いた。

なるべくキルアの神経を逆なでしないように

優しい力で華奢な肩を押す。

キルアの表情が暗くなる前に両頬を包み込み、片手を動かして銀の髪を撫でてやる。

拒絶をしたのではない。

その意思をはっきり示すかのように
クラピカは小さく笑顔を浮かべた。


「キルア…私だってお前を一人にしたくはないぞ?」

「じゃあ何で出かけようとすんの?」

「仕方がないんだ。私は組織の裏情報まで知ってしまっているのだから、このまま欠勤を続けてしまえば情報の漏洩を恐れた奴らが私を殺しに来るかもしれない。お前にまで危険が及んでしまうのは嫌なんだ」

キルアには通用しない言い訳かもしれない。
それでもそんな嘘をつかずにはいられなかった。

「仕事?」


クラピカの言葉を聞いたキルアはきょとんとして首を捻る。

やがてにっこりと満面の笑顔を浮かべた。


「ああ、それなら大丈夫だよ」


「え?」


「だってさ…」


キルアの唇が不気味に歪んだ。





「全員殺しちゃったから。俺が」





無邪気な笑顔で放たれた言葉を聞いて
クラピカの思考が凍結した。


「それは…どういう…」

「どうって?そのまんまの意味だけど」

「……」


「だってムカつくじゃん。仕事中だからってあんたとずっと喋ってるだなんてさ」


そう思うのが当たり前かのように
むしろ自分がしたことは正しいことなのだと言うように

キルアはあっけらかんとして言葉を紡ぐ。


「だから、クラピカが外に出る理由はもうなくなったよね」


必死で声を出そうとした。
しかし言葉が見つからない。

大きな混乱に飲みこまれる。


組織は壊滅させられた。
私は仕事を失った。


(それじゃあ私は…)


組織に属して緋の目の情報を得ることはもうできない。

仕事を失ったのならば

外に出る口実を作ることはもうできない。






この部屋からは、もう逃げられない。






「クラピカ?」

目を見開いたまま茫然としているクラピカを目の当たりにして、キルアは不思議そうに首を傾げる。

「嬉しいの?嬉しいんだよね?だから何も言わないんだよね?」

強い力で肩を掴まれて、クラピカは慌てて我に返る。

「ねぇ、嬉しい?」

有無を言わせないキルアの口調。
溢れ出す殺意に押されて

クラピカは人形のようにカクカクと首を縦に振る。

本当は嬉しいわけがない…

なのに首を縦に振ってしまう。

どうしても

生かされる道を選んでしまう。


「俺もすっげー嬉しいよ」


クラピカの右肩に頭を寄せて、耳元で小さく囁いた。


「今度外に出ようとしたら、絶対に許さないからね」


顔を上げたキルアがクラピカの服に手をかける。

一つ一つボタンを外していく指先を拒むことは、やっぱりできなかった。


「あんたは一生俺のものだもん。他の奴なんかに渡さない」


キルアの顔が近づいてきた。

クラピカはいつも通りに受け入れる。


だんだん視界が歪んできて
一筋の生温かい涙が頬を伝った。


首筋を這い回っていたキルアの動きがぴたりと止まる。


「……嬉し泣きだ」


嘘しかつけない自分が嫌いだ。


「そう。可愛いね」


そう言ってクスリと笑ったキルアの唇が、再び動き始めた。


いつ解雇にされても不思議ではないという不安は綺麗に消えた。

それと引き換えに


恐れていた「絶望」が訪れた。


ーENDー
after words


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -