昔、とっても好きな曲があったわ。


その曲を聞くだけで心が満たされて
無意識に指先が踊り出すの。


課せられた課題も宿題も全て放り出して、夢を見るようにその曲を聞き入っていた。


でもね、それは
とっても似ていたのよ。


私をこんな姿にしてしまった悪魔の曲に。


おかげで私は大好きだった曲調も
空をも飛べそうな素敵な高揚感も
全て忘れてしまったわ。


私は後悔した。


ほんの出来心だったのに…

些細な過ちのせいで、私の人生はこんなにも狂ってしまった。


途方もない絶望感の中、それでも私は諦めてはいけないことがあるのだと気づいたわ。


私のような愚か者をもう二度と出さないために

この手で元凶を葬ってやるの。


泣いてばかりじゃいけないわ。

カモミールの香りが漂う部屋の中から夜空に瞬く星を眺め、涙をしっかりと拭いたならば


前へ前へと進まなきゃ。


たとえこの身が闇の奥底に沈もうとも。

それが私に課せられた罪滅ぼしなのだから。

大丈夫

きっと上手くいくわ。
素晴らしい追い風だけに乗って行きましょう。

たとえその先に待っているものが「絶望」以外に何もないのだとしても。



暗い暗い未来の中
それでも私は見つけたわ。


それはまるで些細な誤差によって生み出された文字化けだらけの文章の中に
きらりと輝く美しい言葉。


悲しい運命に突き進むあなたの背中を見つけたわ。


怒り、安らぎ、戸惑い、憎しみ

安定することのないあなたの心音は
心地よい耳鳴りとなっていつも私を戦慄させるの。


ああ、滅多に感じることのないあなたの安らぎの心音。


それを持続させてあげることができたらいいのに。


今の醜い私には何もできないの。
儚いあなたを元気づけることも
あなたの拠り所になることも。


昔の私ならばできたのかしら?


「どうかしたのか?」


少し物思いにふけりすぎたわね。

あなたは不思議そうに私に視線を向ける。


「いいえ。少し思い出していたのよ。昔のこと…」

小さな頃、時間を忘れて野山を駆け巡ったり
小川のほとりに座って小鳥達のさえずりに耳を傾けていたり。

あの頃は本当に楽しかったのよ。


あなたはふっと寂しそうに笑う。


「昔か…私にもそのような時代があったのだろうか?」


あなたは遠い目をして
視線を彷徨わせる。


…嫌なこと、思い出させちゃったかしら?


一族を皆殺しにされて、過去のかけがえのない幸せの記憶が
一瞬で悲しみと憎しみで塗りつぶされてしまったあなたの心境は


一体どれ程までに辛いのでしょう。


その華奢な背中と両肩に
あなたはどれほどまでに大きな物を背負っているのかしら?


世の中って本当に不公平ね。
あなたのような優しい人が、こんなにも苦しまなければならないだなんて…


巡る巡る季節の中

あなたは私に協力を求めた。


あなたは黒い背中を追いかけていく。

躓いて転んでボロボロに傷つきながらも
あなたは確実に追いかけていく。


破滅へと、突き進んでいく。


なんて悲しい物語。


それでもここにいる限り
あなたは止まらないのでしょう…


「新しい曲を考えたの。仕事終わりにでも聞いてくれるかしら?」


「本当か?私で良ければ喜んで相手になろう」


あなたのその笑顔がもっと見たいから。


あなたの穏やかな心音をもっと聞いていたいから


私は過去の自分という「幻」にお別れを告げて


前へ前へと進んでいくの。


いつしかあなたに魔法の言葉を囁いて

安心させてあげたいわ。


あなたに憎しみを忘れて欲しいから

あなたの悲しい運命を全て背負い切って欲しくないから


私は絶対に目的を果たしてやるの。


そのとききっと
こんな弱虫な自分と決別して

私は思い通りの生き物に変われるでしょう。


街中を駆け巡る羽となり


あなたに絡みつく糸を断ち切って
しがらみのなかから連れ出してあげる。


だから絶対に死なないでちょうだい。


あなたを失った世界はきっと
容赦なく私を殺してしまうでしょう。


いつかあなたが心から笑顔を見せてくれることを夢見て


あなたの幸せを心の底から願っているわ。


ーENDー
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