ゆま様リクエスト小説
キルクラ祭りへのご参加ありがとうございました(^^)


※暴力表現、監禁ネタ注意です



「ねぇ、眠いの?」


ぐったりと床に横たわっているクラピカの頭上から

つまらなそうな声が降ってきた。


朦朧としている意識の中で
重い瞼を無理やりこじ開ける。


銀髪の少年が自分を見下ろしていた。


「いや…」

焦点が定まらない瞳でぼんやりとキルアを見上げながら、弱々しく呟いた。

もう起き上がる気力すら残っていない。


「じゃあ何で目閉じてんの?俺を見るのがそんなに嫌なわけ?」


クラピカが何かを言う前にキルアの腕が伸びてきて、強い力で髪を掴まれる。

無理やり上体を起こされた。


自分の手足を拘束している鎖達が
じゃらじゃらと不快な音を立てていた。


「…今は何時だ?ここは暗くて分からない…」


「何で気になんの?逃げるつもり?」


「違ー


言い終わらない内に腹部に鈍い痛みが走る。


「かはっ」


「駄目だよ。余計なことを考えちゃ」


キルアは面白そうに笑っていた。


再び床に伏したクラピカの前にしゃがみこみ、金色の柔らかい髪を撫でる。


「痛い?でもあんたが言うこと聞かないからさ。逃げたいから外の様子が気になるんだよね」


クラピカは何も言わない。
気を失っているのだろうか?


「そうじゃない…」


しばらく間を置いてから絞り出すように呟かれた言葉。
それは何故だかキルアを苛立たせる。


「嘘つくなよ。外に出たら戻ってこないつもりだよね?俺から逃げて誰のところに行くの?おっさんのところ?ゴンのところ?」

「だから…逃げたいわけじゃ…」

ガンッ。
何かを殴る音がこだまして

クラピカの右頬が赤く染まる。


「嘘つくなって言ってんだろ。下出にでるなんてあんたらしくないじゃん。そんなことが信じられるかよ。だってあんたは」


俺のことが嫌いなくせに。



「ねぇクラピカ、何で俺を見ないの?」


キルアは能面のような表情で
クラピカの頬をさすっていた。


「あんたの全部が欲しいのに」


どうしてあんたの心だけは
どんなに頑張っても手に入らないのかな?


「あんたがいけないんだ。俺以外の奴を見るから」


うす暗い部屋の中
無機質な呟きだけが響き渡る。


「こうして繋いでおかなくちゃ、あんたは俺から逃げるから」


手放すつもりなんて、毛頭ないからね?


ふと、床に力なく転がっていたクラピカがぴくりと動いた。

「あれ?」

鎖が絡まる音を響かせながらも床に手を付いて、ゆっくりと腕を伸ばす。

ふらふらとしながらも上体を起こし、
傷だらけの顔を上げた。

赤い瞳でキルアをしっかりと捉えながら
はっきりとした口調で言葉を放つ。


「私を…みくびるな…」



それは「拒絶」を意味する言葉なのか。



二人の視線が交差する。

クラピカは、キルアから視線を逸らそうとはしなかった。


「いいね、その強気な態度。そんなとこも嫌いじゃない」


キルアはゆっくりと立ち上がる。
クラピカの体が無意識に強張った。

強気を装っていながらも憔悴しきった顔が一瞬だけ恐怖の色に染まったのを

キルアは見逃しはしなかった。


「やっぱり…」




あんたは俺が怖いんだね。



キルアの中で
何かがちぎれる音がした。



薄暗い静かな部屋の中に
一方的に暴力を振るう音だけが響く。

一つ一つの音と連動して駆け巡る耐え難い痛み。

「助けてほしいならそう言えば?」


嘲笑が降り注ぐ。
それでもクラピカは助けを求めない。


「う"っ」


キルアの容赦ない蹴りがみぞおち辺りを直撃して

激しく咳き込んだ。
苦しそうに涙を浮かべたクラピカを目の当たりにして


キルアの動きがぴたりと止まる。


「 あ 」


一瞬の間が空いた後
ぽかんとして間抜けな声を出す。


「何も泣くことねーじゃん。そんなに痛かった?ごめんごめん、じゃれただけだって。次から手加減するからさー」


困ったように笑いながら
あっけらかんと明るい声を出す。


「あーもう悪かったよ。救急箱とってきてやるから大人しく待っててよ。まぁ、その状態じゃ動けないか」


無造作に体を投げ出しているクラピカから素早く身を翻すと

キルアは早足で出て行ってしまった。




再び静寂が訪れた部屋の中で
クラピカは大きくため息を吐いた。

痛む体を必死に動かして仰向けになる。

キルアは自分を監禁して
健全な状態なら逃げ出すからという理由で、自分のことを傷つける。


「逃げれる訳が…ないではないか」


手足が鎖に繋がれているからだけではない。
沢山の傷をつけられて立てないほどに弱っているからだけではない。


そんな身体的な問題を抜きにして
彼の元を離れる気にはなれなかった。

「……」


彼は救急箱を取りに行ったのではないはずだ。
きっと夜まで戻ってこないだろう。


キルアは毎晩毎晩この部屋に
足音を立てずにやってくる。

クラピカが眠っていることを確かめて

傷だらけの手のひらを握りしめながら
ひたすらそばで謝り続けていることを


(私が知らないままだとでも思っているのか?)


遠くの方から水が流れる音がする。

きっとキルアが水道を使っているのだろう。
顔を洗っているのだろうか?

「……」


先ほどのキルアを思い出す。

顔を見せまいとするように、素早く顔を逸らして早足で出て行ったキルアの姿が蘇る。

歪んだ視界で彼を見つめていたクラピカは

一瞬見えたキルアの横顔をしっかりと覚えていた。


『なにも泣くことねーじゃん』


そんな言葉を思い出して
クラピカはゆっくり目を閉じた。


よくもそんなことが言えたものだ…
私は泣いてなどいないのに。


「逃げれる訳がない…」


キルアの横顔が、今度は鮮明に蘇り
クラピカは奥歯を固く噛み締めた。


強がってばかりなのはどっちだ…
受け入れていないのはどっちだ…

キルアの横顔が脳裏に焼き付いてしまった今

逃げ出したいだなんて思えるはずがない。

私は泣いてなどいない。


泣いていたのは
お前の方じゃないか。



ーENDー

after words


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