blue freeさまリクエスト

キルクラ←クロ/シリアス
「嫉妬と狂気と愛情と」の続編になります








今日は月が明るい。


電気のない暗い廊下を月明かりだけがぼんやりと照らしている。


長い廊下を一つの影が進んでいた。


青白く浮かび上がる黒い影は
神秘的にも幻想的にも残酷にも見えた。


クロロはたった一人、直線を進んでいた。


やがて一つの扉の前で足を止める。


(やっと見つけた。)


居場所を突き止めても突き止めても

行動を移す前に
自分の気配を感じて逃げてしまう臆病すぎる緋い瞳。


気配を消して近づいたとしてもその距離は一向に縮まらない。


近づいたと思ったら離れていく…


居場所が分かっているのに決して会えないもどかしさが、日に日にクロロを苛つかせていた。


(あのガキ。よくもやってくれた)


死んでもなお、俺に勝利したままだとでも思っているつもりなのか…


クロロはドアノブに手を掛けると


ゆっくりと扉を開けた。


「団長、遅かったね◆」


そこにはうっすらと不気味な微笑みを浮かべた奇術師と


「彼、君の気配を感知したら気が狂ったように怖がり始めてね。僕に逆らって逃げようとするものだから気絶させたよ?少し暴れたから傷ついているけれど」


奇術師の横で椅子に縛り付けられ
ぐったりと気を失って俯いている金髪の少年がいた。


「ご苦労だったな、ヒソカ」


「いいよ。君の依頼は断るわけにはいかないし◆それより君、彼をどうする気?」


「どうって、奪うに決まっているだろう?」


クスリと、ヒソカは悪戯に唇を歪ませた。


クロロはスキルハンターを具現化させた。


自分の除念を行なった除念氏から除念の術を盗んでいたのだ。


「う…」


ふと、気を失っていた少年が目を覚まし
ゆっくりと顔を上げた。


虚ろな瞳がクロロを捉え
次第に赤みを帯びていく。


「久しぶりだな、クラピカ」


クラピカは真っ赤に燃え上がった緋の目を惜しげもなく晒しながら、その表情に溢れんばかりの恐怖を滲ませた。


「く、来るなっ!!!」


自分を縛り付けている縄を解こうと必死に身をよじり、隣にいるヒソカに顔を向ける。


泣きそうになりながらもなにかを懇願しているような表情だった。


ヒソカは困ったように微笑んだ。


「ごめんね。彼は僕の依頼人だから。可哀想な君を助けてあげることはできないかなぁ」


クラピカは絶望感を露わにすると
一歩一歩近づいて来るクロロを見やる。


怖い。怖い。とにかく怖い。


たったそれだけの感情がクラピカの中で渦巻いていた。



「そう怖がるな。今のお前はー



クロロは言葉を止めてわずかに瞳を見開いた。


いきなりクラピカが大きく口を開いたと思ったら


がりっと音を立てて自分の舌を噛み切ろうとしたのだ。



「なっ」


予想外の行動に戸惑いが生まれ、思わずクロロの足が止まる。


すかさずヒソカの手刀がクラピカの後頭部を直撃した。


クラピカが再び意識を失う。


「……悪いな、ヒソカ」


「ふふ、彼に死なれたらせっかく上手くいきかけている僕の仕事が台無しになっちゃうからね」



クロロはごくりと唾を飲み込んだ。


「……あのガキ…」


銀髪の少年への憎しみが再び湧き上がる。


こんな能力だったのか…


こいつが俺から逃げられないと悟った時、こいつが自殺するように仕向けていたな。


つくづく厄介だ…


クロロは小さく歯ぎしりすると、
気を失ってうな垂れているクラピカの前でしゃがみこんだ。


同じ目線になって、会いたくて会いたくて仕方がなかったその顔をまじまじと見つめる。


(こいつが気絶しているうちに除念をしなければ)


クロロは俯いているクラピカの頭を優しく撫でた。


目を閉じて意識を集中させる。


除念の仕方は簡単だった。


ただ一つ厄介なのは…






銀髪の少年の記憶を消したまま、自分への警戒心だけを解くということが不可能だということだった。






(…………)


クロロは目を閉じたままクラピカへと集中し続ける。


長い沈黙が、辺りを包み込んでいた。


やがて触れている手のひらが徐々に熱を帯びてきて


クロロの横顔に汗が流れる。



クラピカの身体が一瞬ふわりと宙に浮いた。


クラピカの中で覆いかぶさっていたなにかが
ぴきりと音を立てて割れたようだった。


どうやら無事に解けたようだ…


「……ふぅ」



クロロは安堵の表情を浮かべて床にしゃがみこんだ。



「お見事だったよ◆」



ことの成り行きを静かに見ていたヒソカが楽しそうに小さく拍手をしていた。



クロロはクラピカを縛り付けている縄に手を掛け、ゆっくりとほどき始めた。



クラピカの瞼がぴくりと動き、静かに瞳が開けられる。



「目が覚めたか」


クロロは静かに話しかける。


クロロを写したクラピカの瞳には、もう微塵の恐怖の色も浮かんでいなかった。


一瞬きょとんとした表情を浮かべたが


すぐに悲しみの色に染まる。



みるみる大粒の雫が両目に滲み出し、やがて惜しげもなくクラピカの頬を伝い始めた。


「う……キルア…」


全てを思い出したクラピカは、クロロとヒソカに見られているにもかかわらず


ボロボロと涙を流し続ける。


「私のせいで…私のせいで…」


静かな部屋にはクラピカの弱々しい啜り泣きだけが響いていた。


「綺麗だね…」


ヒソカは客観的にそんなことを口走っていた。


クロロはクラピカの縄をほどき終えると


そっと指で涙を拭いてやる。


その儚く弱々しい姿を守ってやりたいと思った。


「泣くな。俺はお前の泣き顔を見に来た訳じゃない」


パシンと乾いた音を立て
自由になったクラピカの腕がクロロの手を振り払う。


「キルアを返せ!!お前が殺したんだろう!??」


真っ赤な瞳から大粒の雫を流しながら
クラピカは自分を睨んでいる。


クロロはなにも言わずに無機質な瞳をクラピカに向ける。


クラピカの赤い瞳はしばらく殺気立っていたが

なにも言わないクロロを前にして、再び悲しみに歪む。


自由になった両手で顔を覆い、溢れ出る涙を止めることなく泣き続ける。



現実を受け入れられないようだった。


「う…ううっ…私を殺せ…私には生きている資格など…」


クロロは膝を立ててクラピカと同じ高さの目線になると、椅子に座ったまま嗚咽を漏らすクラピカを優しく抱きしめた。


「離せ…」


クラピカはクロロを突き放そうとするが力が入らない。



「お前は弱い。もう一人きりで生きていけるほど強くはない。俺が必要だ。」


「馬鹿なことを言うな…私からキルアを奪ったのは……お前じゃないかぁ…」


クラピカは弱々しく泣きわめきながら、激しく身をよじる。


クロロはクラピカを抱きしめたまま、手をクラピカの首の後ろへ回すと素早く手刀を食らわせた。


「うっ…」


ドサリと。


クラピカが素直に自分に倒れかけてきた。


クロロはクラピカをしっかりと抱きかかえると

そのままゆっくりと立ち上がる。




「捕獲、完了。」





ぐにゃりと。
狂気じみたように満足気に唇を歪ませた。





「お疲れさま。じゃ、僕の出番はもう終わりみたいだね◆」


ヒソカは窓枠に足をかける。


飛び降りようと身を乗り出してから、
突然何かを思い出したかのようにクロロを振り返る。


「そうそう。知ってるだろうけどひとつ忠告しておくよ」


ヒソカもまた、満足気な表情を浮かべていた。


「今頃、君のことを血眼になって探している人物がいる。誰かは分かっているよね」


クロロは黙って聞いていた。

ヒソカは不気味な笑顔を向ける。


「彼は本気で君達を殺す気だよ。分かっているとは思うけど…」


ヒソカの唇が張り裂けんばかりに吊り上げられる。







「本気のイルミは、きっと僕たちよりも強い◆」








言うだけ言うと、ヒソカは今度こそ飛びおりて行ってしまった。


しばらく心地よい沈黙が流れ、明るい月明かりがクラピカを抱えたままのクロロを照らしていた。


「ふふ」


クロロの口から、穏やかな笑みがこぼれる。


クロロの表情には
余裕意外の何の感情も浮かんではいなかった。


「思った通り…」



思った通りだ。

ガキを始末した時から、お前が俺を追ってくるのは予想ができていた。


俺はどこまでも追ってくるお前から逃げ続ける必要がある。



クロロはゆっくりと歩き出す。


追う方と追われる方、
これから始まるそれぞれの嫉妬と狂気と愛情を巻き込んだ命がけのゲームに思いを馳せ、


楽しみで楽しみで仕方がないとでも言うように


自然と口元が緩む。



(欲しいものは手に入れた)


自分の腕に抱えられている少年の寝顔をじっくりと眺める。



(ヒソカの言う通り、お前に見つかれば返り討ちにすることは難しいだろう。良くて相討ちといったところだな)


本気のイルミは未知数だ。


買いかぶるつもりはないが心からそう思う。


「付き合ってやるよ」


憎しみで滾っているお前はどこまでも俺を追い続けてくるだろう。


果たしてその執念がどこまで俺を追い詰めることができるのか。



大事な弟を殺した相手に対する激しい殺意と
大事な弟の心を奪った相手に対する激しい嫉妬。



感情の乏しいお前がどこまでそれを維持できるのか。



「せいぜい追いかけてくるがいいさ。」



お前がその気なら喜んで相手になってやる。


お前の狂気じみたそのゲームに

俺は死ぬまで付き合ってやるよ。



「退屈せずにすみそうだ」



クロロは微動だにしないクラピカをもう一度しっかりと抱きかかえなおすと、


不気味な笑顔を貼り付けたまま


外の世界へと踏み込んで行った。






ーENDー


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