サヤさまリクエスト小説。
キルクラ

トリックタワーで空白の50時間を過ごしている時でのお話です。



「眠れないのか?」


いびきをかいて眠っているレオリオとトンパ。

疲れた体を回復させるように
ぐっすりと熟睡しているゴン。


その横で、先ほどから退屈そうになにもない空間に視線を彷徨わせているキルアに話しかけた。


「別に。俺、2、3日寝なくても平気だし。訓練受けてるから」


キルアはクラピカを一瞥すると
素っ気なく返事をする。


「そうか…」


「あんたこそ寝なくていいの?さっきからずっと起きてるんでしょ?」


彷徨っていた視線が
じっとクラピカをとらえている。


遠目から見ても吸い込まれてしまいそうなその大きな青い瞳に見つめられ、クラピカは思わず視線をそらした。


「私は普段からあまり熟睡することはないんだ。人の気配を感じやすくてな」


「ふーん…、気配ね。ひょっとして俺のことを警戒してたりする?」


クラピカの眉がわずかに動く。

キルアは気にすることなく続けた。


「そんなに怖がらなくても、さすがにあんたの心臓をとったりはしないぜ?」


キルアはクスリと小さく笑った。

心臓を盗る。

言葉の通り、目の前の少年はそのような恐ろしいことを
昼間の囚人との対決であっさりとやってのけていた。

凶悪な囚人から素早く心臓を抉り出し
なんの躊躇もせずに握りつぶしたその瞬間が鮮明に脳裏に焼き付いている。

常に警戒しながら暮らしていた長年の習性から
どうしても必要以上に慎重になってしまうクラピカは

ゴンやレオリオのように
仲間だからといってこれまで通りに無警戒でいられる訳ではなかった。


「そういうわけではないのだよ…。」


クラピカは寝返りを打ってキルアに背を向けた。

自然と壁と向き合う形になり
毛布を肩まで吊り上げる。


「キルアも少しは休んだほうがいいと思うぞ。ハンター試験はまだまだ長いのだからな」


はぁーいという気の抜けた返事が背後で聞こえ、もぞもぞと寝返りを打つ音がした。


クラピカはゆっくりと瞳を閉じる。


そうだ、ハンター試験はまだ始まったばかりなのだ。

ゆっくりと休めるのは、
今のうちだけかもしれない。


クラピカは肩の力を抜くと
再び寝返りを打って先ほどまでと同じ向きを向く。



そして至近距離で大きな青い瞳と目が合った。



「うわぁぁぁっ..!!」


がばっと反射的に上体を起こし
はっとして周りを見渡す。


思わず大きな声をだしてしまったが
幸い熟睡している三人を起こしてしまうことはなかったらしい。


先ほどまでゴンの横にいたはずのキルアが
何時の間にか自分の隣に来て、同じ毛布にくるまっている。


一切の気配を感じさせないで移動してきたことに驚きを隠せないが


当の本人は大きな瞳をきらきら輝かせて、いたずらな笑みを浮かべながらクラピカを見つめていた。


「ど、どうしたのだ…?何か用か?」


キルアは首を横に振る。


「んーん、なんか人肌恋しくなってさ。ねぇ、一緒に寝ようよ」


にこにこと悪意を感じさせない無邪気な笑顔を向けるこの少年は、本当にキルアなのだろうか?


昼間におぞましい殺人劇を繰り広げた彼と同一の少年だとは、到底思えない。


キルアはクラピカの腕を掴むと力を込めて引っ張る。


「わっっ!」

短い声を上げ、上体を起こしていたクラピカがバランスを崩して自分の隣へ倒れる。

キルアはすかさず身を寄せた。

ぴったりとくっつく形になりながら
クラピカの心臓がどきりと飛び跳ねる。


「あったかいなー、湯たんぽみたいだ。」


キルアは本当に嬉しそうにクラピカに身をすり寄せる。

その姿は可愛らしい少年そのもので、自分に危害を与えるつもりなどさらさらないのだろうと思わせた。


クラピカは戸惑いながらも肩の力を抜いた。


「小さな子供のようだ…」

思ったままを口にしてしまった。

キルアはきょとんとしてクラピカを見上げると不思議そうに首を傾げる。

「え?だって俺、まだ子供だよ?あんたと5歳しか変わらないけど。さっきも言ったけど、一緒に寝てもいいよね??」


瞳を輝かせてクラピカを見つめた。

キルアが初めて見せる子どもらしいその表情を目にして
クラピカの表情がますます困惑の色に染まる。


キルアは無邪気な笑みを浮かべたまま、
クラピカの言葉を待っていた。

ここで否定してしまっても、
この少年は引き下がらないような気がする…。



「……今回だけだぞ」


「ふふーん、やりー♪」


初めてキルアの悪意のない満面の笑顔を見た気がして

再びどきりとしてしまう。


視線を感じて目線を下げると
キルアが自分の顔を凝視していた。


「私の顔に、何かついているか…?」


「ううん、別になんもついてない。」


キルアは目を逸らさずににじーっと自分を見つめ続けている。


なにかを探られているような気がして
寝返りを打って背を向けようとしが


キルアの小さな手に肩を掴まれてそれを阻止された。


「こっち、向いててよ。」


キルアの思惑が分からずに、少しずつ鼓動が早くなる。


「どういうつもりだ?」


「だから別に何も無いって。ただあんたの顔を見てたいだけだよ。」


キルアは相変わらず食い入るように自分を見つめている。

背筋にわずかな緊張が走った。


キルアはゆっくりと腕を伸ばした。


細い指先が、
だんだんと自分の視界に近づいてくる。


昼間目の当たりにしたキルアの指先が鋭く変型する瞬間を思い出してしまう。


よからぬ想像をしてしまい、
ぎゅっと目を瞑る。


ドクンドクンと、
自分の心音が大きくなる。



ふわりと、
頬にひんやりとした感触がした。



「……?」



ゆっくりと瞼を開けると、
キルアの小さな手のひらが、自分の頬を包みこんでいた。


「俺の手、冷たいでしょ?」


静かに呟いた。


「生まれつき体温が低いんだ。熱や電気に耐えられるように、昔から訓練を受けてきたのもあるかもしれないけどさ。」


キルアはぼんやりとしながら言葉を続ける。


「あんたの体温はあったかいよね、ゴンもおっさんも、ムカつくトンパだって。」

なんか羨ましいなー。生きてるって感じがして。
独り言のようにそう呟くと、クラピカの頬から手を離して仰向けになった。


銀色の前髪が顔にかかっているが
全く気にならないようだった。


無表情でぼうっと天井を眺めているその姿は

どことなく寂しさを帯びているように見えて。


クラピカは恐る恐る指を伸ばした。


わずかに躊躇しながら
キルアの額に手をやると


顔にかかった銀色の前髪を払ってやる。



予想外の行動に驚いて、
キルアは目を丸くしてクラピカへ顔を向ける。



キルアらしくないその表情を見て、
クラピカは小さく口元を緩めた。



「お前の額は温かかったぞ。お前も生きているのだから当たり前じゃないか。手足が冷たいのは極度の冷え性なのではないのか?」



「ひ、冷え性??」


キルアは思わずぷっと吹き出した。

冷え性か…
その発想はなかったな。

肩を揺らして笑い声をこらえるキルアを見て、
クラピカは不思議そうに首を傾げている。


(天然なんだね、あんた。)


からかってやりたい気持ちになって
クラピカの傍によると

背中に腕を回して思い切り抱きついた。


「わっ、な、なにをする!??離せっ!」


「絶対やだ。」


クラピカはキルアの肩をぺたぺたと控えめに叩きながらキルアを引き剥がそうとする。

腕を回したまま顔を見上げると
白い頬に赤みが差していた。


その面白い反応が可愛いくて可愛くて、


キルアは笑いをこらえられずに
さらに体を密着させた。


「キ、キルア?…」


クラピカはさらに戸惑っている。


「いいじゃん、人肌恋しいって言ったでしょ?それに俺は冷え性らしいし。あんたがあっためてよ」


クラピカはしばらく固まっていたが、
大きなため息をつくと
諦めたように力を抜いた。

キルアの頭にぽんと手を乗せて
柔らかい銀色の髪を撫でる。

なんとも言えない安心感が
キルアを包み込んだ。


「はぁ、お前は猫のようだな。」

「そう?だったらあんただってそうだよ。猫目だし。」

「お前だってそうだろう?」

「えー、じゃあうさぎちゃんだね。色白いし。」

「お前だって白いじゃないか。」


クスクスと
肩を揺らして笑った。


うわあ。
初めて見せたクラピカの笑顔に、
キルアは堪らなく嬉しくなる。


「笑った顔、すっげえ可愛いよ!」


思ったままを口にした。

クラピカは一瞬固まって、
視線を背けてしまう。


「な、なにを言うんだいきなり。あまり年上をからかうものじゃないぞ?」

「…もしかして照れてる?」

「何故照れる必要がある!?」

顔を背けようとしたが
キルアが抱きついているせいで
身動きがとれない。

「もう、いい加減休め!」

顔を赤く染めながら、ぎゅっと目を瞑ってしまった。

可愛いなあ。
可愛いなあ。

愛おしさが込み上げて
回していた腕を離してから
クラピカに寄り添いなおす。


「……近いぞ」

「うん、知ってる」

はぁ、と。
クラピカは再び呆れたようなため息を吐いた。

顔が可愛いなんて前から知ってたけど
性格までがこんなも可愛いだなんて知らなかった。

あんたはいつもツンツンしてたからさ。

少しは距離が縮まったよね?

あんたの素顔
もっとたくさん見たいかも。


「ふはぁー」


滅多に出ない欠伸がでた。


緊張の糸が途切れたように
心地よい眠気に襲われる。


この人のそばでなら、安心していい夢が見られそう。


クラピカも安心したのだろうか、
すやすやと規則正しい寝息を立て始めていた。


(それにしても…)


その寝顔をじっくりと眺めてみる。
年上のはずなのに、無防備なその寝顔は
まだまだ幼い子供のようにあどけなかった。


どうしよう。


ごまかしがきかないくらいに
本気であんたのこと
好きになっちゃったかもしれない。


「………」


キルアは重たい瞼に耐えきれず、
開きっぱなしだった瞳を閉じる。

心地よい安心感を抱いたまま

意識がどんどん遠のいていった。





「うーん、もう朝だよね」


清々しい気持ちで目が覚めたゴンは、
腕をつきだして背伸びをする。


「あー、おはよーさん…」


ゴンに続いて目覚めたレオリオは
むくりと起き上がってあくびをしている。

トンパは辛うじて目覚めたようだが
半目のままでボサボサの頭をかいていた。

ぼうっと焦点の定まらない様子を見る限り、
未だに意識がはっきりしていないようだった。


「あれ?キルア?」


自分の隣にいたはずのキルアが
毛布だけになっている。


「どうした?ゴンー」

レオリオは眠たそうにしながらも

自分に寄りかかりそうになるトンパの頭を突き飛ばしていた。


「うん、キルアがいないんだ。」


「ああ?」

レオリオは重たい腰を上げた。
トンパの体がドサリと倒れる。


部屋を見渡すと
隅っこの方で不自然に大きく膨らんだ毛布が見えた。

「あれ、クラピカだよね?」

「ああ、あいつ、あんなに巨漢だったか?」


2人は訝しげにクラピカに近づくと
そろりと毛布をめくった。



「あ」


「え?」






クラピカとキルアが
お互い寄り添い合いながら

気持ち良さそうに眠っていた。

二人は目覚める気配がなく、穏やかに寝息をたてている。


意外すぎる光景を目の当たりにして
二人は目を点にする。


「ふ、ふふ。」


しばらく沈黙が流れた後、
レオリオの口から笑みがこぼれる。


「あー…キルア、ずるーい。」


ぶー。と頬を膨らませ、
ゴンは口を尖らせる。


レオリオはゴンの頭をぽんぽんと優しく叩いた。


「どうしてこうなったのかは知らねえが、こうして見ると随分ガキっぽい顔してるな、こいつら。」


「うん、キルアの寝顔、初めて見たかも。」


二人はしばらく顔を見合わせると、
目の前に広がる微笑ましい光景に口元を綻ばせた。


「しばらく寝かせてといてやるか?」

「うん、そうだね!!」


ゴンは二人を起こさないように
ゆっくりと二人に毛布をかけた。


「ふふふ。」


自然と笑顔がこぼれる。


キルアもクラピカも、
最近まともに眠れてなかったよね…。

クラピカは物音がしただけですぐ起きちゃうし
キルアは寝てるように見せかけてずーっと目を凝らしていたし。

ようやく熟睡できた二人を見て、ゴンはほっと胸を撫でおろした。


「それにさ」



再び笑顔がこぼれる。


これほどまでに幸せそうな顔をした二人なんて

今まで見たことないもんね。



ゴンはゆっくりと立ち上がり、
足音をたてないように注意しながら


未だに寝息をたてて寄り添い続ける二人の元を離れていった。


−END−

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