「お前が無事で本当に良かった」

緋色ではないが泣き腫らしたことにより目を赤くし、鼻声のクラピカは消え入りそうな声で呟いた。

先ほどから二人で川沿いの土手に腰掛け
ぼんやりと夕日を眺めている。

「こっちのセリフだよ。あんた、爆弾にいちばん近かったんだから」

責めているわけでもないのに
三角座りのクラピカは膝に顔を埋め、いじけているように見えた。

それでも投げ出された左手は
キルアの右手としっかりと繋がっている。

「一瞬の出来事だった…」

爆音が鳴り響き、巻き起こった粉塵に視界がやられた。
即座に爆風に煽られ、飛ばされた先にあった何かに後頭部を打ち付けた。
意識が混沌とする中で誰かに腕を引かれ
そのまま抱きかかえられて宙を飛んだ。

朦朧としながらも瞼を開けると
視界に写ったのはヒソカの顔だった。

それを最後に意識が途切れ
目が覚めた時に写ったのは、心配で青ざめたキルアだったと。

「一番近くにいた私が無傷なのが異常なのだ。遠くにいたヒソカが血まみれだったことも」

それがクラピカに大きなショックを与えているらしかった。
悔しさと罪悪感と飲まれないほど、クラピカは図太くはない。

「分かるよ。俺だって同じだからさ…」

キルアもイルミに無傷で助けられた。
自分より、遥かに危険な位置にいたはずなのに。

「「はぁ…」」

二人は同じタイミングでため息を吐く。

無力感に苛まれていたのだ。
彼らがいなければ、二人とも無傷では済まなかったのだから。

「情けないな…」
「ね…」

一人では自分の身も守れない。
分かってはいるが誰かの助けが必要であることをこうも簡単に突きつけられると なんか沈む。

二人は同じことを考えていた。
ああ、一人前への道程はまだ遠い。

「まぁ、あいつら大人だし。ベテランだし。いいんじゃないの?助けてくれるうちはさ」
「え?」
「別に頼んでないけど、勝手に手を出してくるうちはさ、大人しく守られとこうよ。その方が謙虚だし」

クラピカは瞳を白黒させた。

「あれ?俺、何か変なこと言った?」
「いや、正論中の正論だがな、お前が素直にそんなことを言うのは珍しいのだよ。いつもは鬱陶しげに言うじゃないか。あれか!ツンとデレの使い分けか!?」

さすがはキルアだなと妙に感心された。
よく分からないけどコクコク頷くクラピカが可愛かったからスルーしよう。

「確かに。大人しく守られるのも、半人前の義務なのだな」
「でしょ?」
「ああ、明日から特訓するか」

二人はゆっくりと立ち上がり、川沿いを歩き始める。

「ヒソカはイルミにも私達と同じ感情を向けているのか?」
「それはないらしいよ。イル兄は玩具じゃないし守られるほど弱くないから」

うーん、と
クラピカは頭を捻った。

「あれは幻覚だったのかもしれないな」
「幻覚?」
「ああ、ヒソカに引き上げられた時、彼は私を抱えながらイルミを探していたのだよ。その一瞬の隙に怪我をしてしまった様に見えたのだが。後頭部を打って視界がぼやけていたから見間違えかもしれないな」
「そうなんだ…」

それってさぁ、見間違いじゃないと思うよ。
ベンチに座っていた時も、ヒソカはずっとイル兄を見ていたから。
俺やゴンやクラピカを見る時みたいな変態的な目じゃなくて、もっとシリアスで、寂しそうな、愛おしげな視線で。

「イルミってああ見えて馬鹿だからね。あんたに似てる所もあるし」
「ん?私はあそこまで瞳孔が開いてなどいないぞ」
「そうじゃなくてさ、絶対に弱みを見せないし一人で全部抱えようとするんだよ」
「……むぅ」

「あんたの場合は少しの自覚があるから無理矢理頼らせることもできるんだけどさ。イルミは無意識だからタチが悪いよね」

イルミが自覚している関心は暗殺と、キルアのことだけだろう。
過保護とも言える関心を一心に向けられるのは非常にウザイが。

弱みを見せない本質的な所も
一人で全てを抱える所も
全て無意識なのだから、ヒソカには手の差し伸べようがないのだ。

自分も似たようなクラピカに歯痒さを覚えることもあるが、ヒソカはその何倍も何十倍も歯がゆい思いをしているのに違いない。

クラピカは他人を巻き込んではいけないと思っている。
イルミは他人を巻き込む意味がない、もしくはその思考そのものがない。

自覚があるとないのでこんなに違うとは。
もしもクラピカがイルミと同じようだったら…考えただけでゾッとした。
イルミの横にいれるヒソカの精神力すげえ。

「イルミはヒソカを嫌っているようには見えないぞ」
「うん、まぁでも、好きなようには見えないよね」

それも無自覚だからなのだろう。
好きとか嫌い以前の違和感にすら気付いていない。
気付いているのかもしれないが、気付いていることに気付いていないというか考えもしないというか、…よく分からなくなってきた。まぁいい、とにかくイルミは鈍感なのだ。

正直イルミの感情などどうでもよかった。
しかし、今日の一件でイルミの感情の破片を垣間見てしまった瞬間

さすがに
さすがに不憫になったのだ。ヒソカが。

「あれはないよねぇ…イル兄」

あんな態度とられてさ
その上本人がガチで気付いていないなんてさ。
全てを勘付いているヒソカがどんな思いでいるのだろうか…
馬鹿兄貴はそれすらも考えていないのだろうが

「ヒソカも大変なのだな」

クラピカも苦笑しながら呟いた。
さすがに分かるようだ。
彼もヒソカが不憫でならないという顔をしている。

「ヒソカは結局イルミが大事なのか?」

なにを今更。

『君達に対する気持ちを恋だというのなら、イルミに対するボクの気持ちはあまりに薄すぎる』

恋でもない
執着心もない
普通の好きとは違う
友達と言うには深い

ならば、特別に好きってことでしょ?

何なのあのピエロ
謎解きでも出題したつもりなの?
普通に分かっちゃうんだけど。


即ち
シンプルに『愛』なんだろ。


「愛してるんだってさー」


あーあ、自分がキモいくらい愛されてることにもまんざらでもない自分の気持ちにもいい加減気づけよ馬鹿イルミ

とっととくっつけばいいのに。
そして二人仲良く末長くどっかいけ。
二度と俺たちの邪魔すんなよな。


あくまでキルアらしいそんな考えの元
キルアはキルアなりに、こっそりとエールを送っていた。



ーENDー

お粗末様でした!
当サイトでキルクラがいちゃつくのは最早恒例なので
今回はヒソイルメインです +でキルクラ

自分が愛されてることにもヒソヒソを好きなことにも全く気付いていない鈍感イル兄萌え
やきもきを通り過ぎて悲しくなっちゃって心が折れそうなヒソカさんうまいです
キルクラはそんな二人を暖かく見守っていて欲しい…


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