肉まんが食べにくい。
というのも、目の前の瞳が食い入るようにこちらを見つめ
一口一口頬張るごとにごくりと固唾を飲み込むからであって

「食べたいなら食べたいて言えばいいね」

「私は先ほどビーフカレーまんを食したのであって、お前の肉まんをも欲しがるほど欲張りではないのだよ。でもあれだぞ。お前がどうしてもって言うなら食ってやらんこともないがな」

「肉まんはいぬら屋に限るね。バリウマよ」

「そういえばお前は少食だったな、その大きさじゃ食べきれないだろう。どうしてもって言うなら手伝ってやらんこともないぞ」

「もぐもぐ」

「うわあくそっ!!何で大事そうにゆっくり食べてるんだ!お前わざとだろ!?わざと美味しく見えるように仕向けているとしか思えないのだよ!!この性悪め、責任とって食わせろー!!」

腹ぺこ怪獣クラピ子がついに飛びかかってきた。
フェイタンは難なく避けながら肉まんを食らう。

「ワタシのこと好きて言たら分けてやてもいいね」
「なっ!」

真っ赤になってうねうねするクラピカ。
ちなみに真っ昼間、幻影旅団本拠地での出来事である。

「フェイのこと、す、すす…」
「もぐもぐ」
「す、すすすすすし」
「寿司?」
「き!」
「すき焼き?」
「そうじゃなくて」

「ごちそうさまね」
「お、おま…私の肉まん」

吐き出せ今すぐ私の肉まん返せを連呼しながらフェイタンの髪やら頬やら引っ張りだしたクラピカだったのだが

「クラピカのこと好きよ」

「…な」

「手止またよ。気が済んだか?」
「ば ばかフェイっ」

赤面した顔を見られぬよう咄嗟に逃げようとしたクラピカの努力も虚しく
どSちっくな笑顔のフェイタンにがっちりホールドされ、一瞬にして立場が逆転してしまう。

「何照れてるか。顔赤いよ」
「うううううるさい!笑うな!!」

必死に逃げようとするクラピカが可愛くて、その肩口に優しく顔を埋めるフェイタンと、恥ずかしさにひたすら顔を赤らめて固まるクラピカと。



「…なにやってんの、あいつら」

マチは呆れ気味に呟いた。
他所でやってろ、バカップル。





『探さないで下さい』

どうしても肉まんが食べたいらしいクラピカに引きずられる形でフェイクラ共はコンビニへ行くと出て行った。
団長の字でそう書かれた置手紙をシャルナークが持ってきたのは彼らが出て行ってから数分後の出来事である。

「どうせ昼下がりのコーヒーブレイクでしょ?今二時だし」

テレビから目を離さないシズクは関心を示さない。

「ほっときなよ。どうせすぐに帰って来るでしょ」

マチも無関心である。

「それよりオセロしようぜオセロ」

フィンクス他多数も無関心である。
シャルナークは大きくため息を吐いた。

「あのね…みんな団長の構ってちゃん癖にうんざりするのも分かるけどさ。ああ見えて俺たちの頭なんだよ?唯一無二のリーダーなんだからもっと心配するとかさぁ」

「唯一無二のリーダー(26歳)が家出とか普通に考えて痛いでしょ。ほっといても死にやしないしすぐに帰ってくると思うけどね」

「だけど冷蔵庫のプリンが全部消えてるんだよね」

「マジかよ!」

そう言って立ち上がったのはノブナガさんである。
彼はクロロとの行動率が人一倍高いため、団長がどれだけプリンを愛しているのか熟知していた。

「それってやべぇじゃん。今までプリンが冷蔵庫から消えたことがあったかよ。団長、本気で帰ってこないつもりじゃねぇの?」

「…….」

ノブナガの言葉に静まり返る一同。
一呼吸おいて、シャルナークがどこかに電話をかけた。

「もしもしフェイ?団長が家出したんだけど探して来てよ。……そう言わずにさ、クラピカの鎖があれば余裕でしょ。うん、じゃあ頼んだよ」

一方的に頼んで通話を終え、
見渡してみれば団員達はこちらに目もくれず。
既に各々の世界に戻っていた訳で、
少し団長が不憫になったシャルナークだったのだが

「きたー!左角ゲットー!」

数分後にはオセロに夢中なのであった。
ここにいる一同が、団長?なにそれ状態なのは言うまでもない。


「やっはりにふまんはいぬらやにはひるのらよ」
クラピカは先ほどからいぬら屋の肉まんをモフモフしていたが、フェイタンは携帯電話を投げつけていた。

「ごくり。どうしたのださっきからカリカリして。カルシウム不足か?牛乳飲むといいぞ。低身長も解消されるかもしれないぞ」

「牛乳で身長が伸びるなんて嘘よ!本当だたら私今頃トーテムポールね!」

「……すまないな」

触れてはいけないことに触れてしまった。
そうだ、フェイは毎晩こそこそしながら牛乳をがぶ飲みしているんだった。

「団長家出したね。あいつらワタシ達に面倒ごと押し付けたよ」

「全く…しょうがないやつだな」

クラピカはダウジングチェーンを具現化させた。
意識を集中させると鎖が段々と揺らめきだし、切っ先が一定の方向を示…さない。

「なんだと!?」

修行は欠かしていない筈なのに。
自分の能力に至らないところなど…
絶対的な自信を持っていた故、動揺した。

「念除けね。団長、細工してるよ。マジみたいね」

26歳の駄々っ子は本気でいじけているらしい。
果たして彼がいじける要素などあっただろうか?
構ってちゃんな団長に皆が冷たいのはいつものことだし、プリンを勝手に食べるのもいつものことだし、何かとパシるのもいつものことだし

「堪忍袋の緒が切れたのかもしれないな」
「しょうがないやつね。ととと連れて帰るよ」
「そうだな…」
「落ち込むことないね。団長、念除け得意よ。別にクラピカの力不足違うよ」
「…ああ」

励ますようにぎゅうっと手のひらを握りしめてみた。
クラピカはありがとうと言いながら小さく笑いこそしたが、その表情は曇ったままだ。

(団長、笑えないね)

見つけたら有無も言わさずメッタ刺しにしてやろう。



「すみませーん!うちのルシルフル来てませんかー?」

顔馴染みの変態ピエロ宅へとやって来た。
クロロは何かあるとここに入り浸る。
もう一人、某暗殺家長男も含めてあだるとりお座談会なるものを定期的に開催しているらしかった。

「すみませーん」
「早く開けるね。外寒いよ」

中々開かない扉を地道にがっしゃんがっしゃん叩いていた二人だったのだが

「開けろ言てるね!!!」

短気なフェイタンがついにキレた。
砂埃を立てながら扉が吹っ飛ばされる。

「ヒソカー、入るぞー。入るからなー」

蜘蛛の特攻を務めるフェイクラコンビに遠慮という文字はない。
土足厳禁という文字もない。

二人は部屋中を探索するが
クロロはおろか、部屋主のヒソカもいないようだった。

「ち、役立たずね。だからワタシあいつ嫌いよ」
「仕方ないな。他にクロロの行きそうな場所を当たってみるか」

ふと、少し離れた所から甲高い泣き声が聞こえてきた。
柵越しに下を覗くと(ヒソカの部屋は高級マンションの3階にある)小さな子供が大木のそばに尻もちをついている様子が見える。
そばに寄ってみると、腕や足に幾つか擦り傷をこさえていた。
先ほど吹っ飛ばした扉の破片が掠ったらしい。

「うえぇぇぇーーん」
子供は余程痛いのか、顔をぐちゃぐちゃにしながら泣き喚いている。

「大丈夫よ。涎つけたら治るね」
「涎じゃなくて唾だぞ」
「立てないならおぶてやるよ。ワタシこう見えて力持ちね」
「それよりいいものがあるぞ。ほら、痛いの痛いのとんでけチェーンだ!!」

クラピカはホーリーチェーンを具現化させた。
小さい子供にも分かりやすいように咄嗟にネーミングチェンジをしたのだが全く通じていなかった。

ホーリーチェーンはするすると伸び
一つ一つの傷の上を滑る。
その度に傷は癒え、あっという間に綺麗な肌に戻った。

「ひく…す、すご、ど、どう、や」
「すごいだろう。一種のイリュージョンだと思えばいいぞ」
「ひっく…ううっ、」
「まだ泣き止まないね。他に痛いとこあるか」

痛みを忘れるにはそれ以上の痛みを作るのが一番よ。
そう言いながらフェイタンは(善意で)細い右腕を折ろうとしたので(あくまで心からの善意で)
クラピカによって後ろからがっちりと拘束される。

子供は右手を震わせながら大木を指差した。

「?」

見上げると、20mほど頭上に伸びた枝から紐のような物が垂れていた。
聞けば扉の破片が飛んで来た際に、驚いて持っていた風船を離してしまったらしい。

「うーん、見る限り複雑に絡みついているな。糸が細すぎて私の鎖では難しいだろう。枝を切るにも心苦しい」

この大木は樹齢300年を超える貴重な物らしく、この近辺では有名だった。

「揺らせば落ちてくる言うよ。任せるね」
「おお!頼んだぞフェイ」

クラピカの拘束から逃れたフェイタンはポキポキと首を鳴らし、ふっと息を吐くと




「くたばるといいねーーー!!!」




HUNTER×HUNTER 2011 (リメイク版)
それにて自身の代名詞的名台詞がカットされたことに余程の鬱憤が溜まっていたらしい。

強大な念を込めた右足で蹴りをかまし、
枝どころか太い幹そのものをぶっ倒した。


「 」
「 」


クラピカも子供も言葉を失った。
300年の歴史を壊してごめんなさい。

しかし落ちて来たのは風船が絡まった枝だけではなくて

「 」

フェイタンも言葉を失った。

ぼとりと落ちて来たのは人間で、金槌と釘を握りしめ、地面に叩きつけられた衝撃で気を失っている。

普通の人間ならば死んでいるはずだが
そいつは怪我一つ負っていなかった。



「……だんちょ、何してるか」

ツリーハウスでも建設してたか。
行く当てのない無一文ニートて本当怖いね。




日が落ち、辺りはすっかり暗くなった。

二時間ほど前に目を覚ましたクロロはおでん屋台の一席に座り、麦焼酎をちびりちびりとやっていた。

「どうせ俺なんて…アウェーなルシルフルだよ」

項垂れながら泣き言を零す彼の横では

「牛すじおかわりね!勿論団長持ちよ!」
「私はロールキャベツを頼むぞ!勿論クロロ持ちだからな!」

団員二人は次から次へとおでんを注文していた。

「あの…フェイ?お前、そんなに食えたのか?」

「むぐむぐ、冬は蓄えの時期よ、無理してでも食べるね。あむあむ、がんも追加ね」

「く、クラピカちゃん!?そんなに食べたら太っちゃいますよ!?」

「はむはむ、うるはい。冬は蓄えの時期と言っているだろう。もぐもぐ、餅巾追加で頼むのだよ」

「白滝うまいね」

「おお!大根も染みているぞ!」

「………」

何なのこいつら。

俺の大事なプリンを地面にぶちまけて全部駄目にした上に破産させるつもりなの。
どんだけ嫌われてるのよ、俺。


「ごくん。団長、なんで家出したか?」

「日頃の扱いを受けて嫌気が差したのか?それなら諦めろ。お前はそういうポジションだ」

「全くひどいね君たち。誰のおかげで蜘蛛が成り立っていると思ってるんだか」

「らしくない言てるよ。団長、それだけでぶすくれるタマ違うね。何があたか?」

「そうだぞ。ノブナガにカツアゲされたことを根に持っているのか?お前がそれほど狭量な奴だとは思わないぞ」

「別にそれが理由で出て行った訳でもないさ」

「ならばどうしたと言うんだ」

「フェイ…お前、オークション回がOAされた日には柄にもなく落ち込んでいたな」

「………」

「そ、それはあれだ!代名詞がカットされていたら誰だってショックだろう!?フェイは悪くないのだぞ!」

「お前と同じだよ…俺は。」

クロロは重々しく目を閉じた。
拳を硬く握りしめる。

「お前達…知っているか?リメイク版で俺がどれだけdisられているか知っているか?新しいopが放映された翌日から「クロロ顔色悪すぎワロタww」とか「アゴルフルバロスww」とか散々叩かれそれが蜘蛛編放送中まで続いた挙句に終盤では髪下ろしクロロならイケメンに違いないよと擁護してくれていたファンの子達も「クロロが格好良かったのは車内でクラピカを煽る時の下衆顔だけだったね」とか「大丈夫だよ、原作か旧版をみればイケメンクロロに会えるよ」とか励まし合うし、なんだってんだよコンチクショー!」

「………」
「………」

「お前達には分かるか?昼下がりのコーヒーブレイクに出かける度にちびっ子達から「あ、下衆ルフルだ」とか女子高生に「私あなたのファンですがあなたの顔がイケメンだったことを原作読み返すまで忘れてました」とかすれ違っただけのモブに「お前声が宮野だったことが唯一の救いだったな」とか言われる屈辱が!!お前達に分かるのか!?「二代目フェイの作画ちょうイケてる」とか「クラピー主演の映画楽しみだよね」とか言われている人気者のお前達に分かるのかぁぁげふぉっ」

いい終わる前にフェイタンに引っ叩かれた。

「くだらないね」
「それだけのことで家出したとはな。拍子抜けしたのだよ」

「だってぇ…」

悲しかったんだもん。
頬を膨らませ口を尖らせる愚痴ルフル(26歳)

フェイクラ二人は同じタイミングで瓶の蓋を開け
同じタイミングでオレンジジュースを飲み干し
同じタイミングで口を離して「ぷはぁ」と言った。

「ブスルフルでもカスルフルでも団長は団長よ。ワタシ達笑わないね」

「笑ってたじゃん…テレビの前で腹抱えてゲラゲラ笑ってたじゃんお前ら」

「それはあれだ、魔が差したんだ。そんな時もあるだろう。お前の顔などどうでもいいと言っているのだよ。第一額に十字架貼り付けている時点でお前は新旧問わず痛い奴なんだ、諦めろ」

「クラピカちゃん本当俺のこと嫌いだね!!」

「まだ分からないか?」
「本当に分からないのか?」

二人は呆然としてため息を吐いた。
視線が痛い。やめて!そんな目で見ないで!屋台の親父も面白そうに見入っちゃってるから!


「団長の顔がブサイクなた所でワタシ達そば離れるほど頭パー違うよ。皆団長に惚れてるね」

「その通りだ。お前の評判がどうなろうと気にするものか。どっちみち私たちにはお前が必要なのだからな。くだらない野次など相手にするだけ無駄だろう」

「…え?」

フェイクラ達はそれだけ言うと
再び箸を動かして黙々とおでんを食べ始める。

心なしか顔が赤い 二人とも。

「お…お前ら…」

団員達は分かっていたのだ。
クロロが家出したのはただいじけただけではなく
歩く度にリーダーをネタに野次を飛ばされる団員達を案じたのだということを。

それでも彼等は気にしない。

どんな団長になろうとも、彼等のリーダーは自分だと。
それぞれの意志でクロロに惹かれ、信頼し、そばを離れないでいるのだと。

果たしてこれほど名誉な言葉があるのだろうか。
きっと、甘ったるいプロポーズよりも重く…

「お前達…」

暖かい気持ちに包まれて
じんわりと視界が歪んだ。


「俺は いい仲間を持った」


言った瞬間後頭部に衝撃を受け、意識が飛んだ。


「貴様ーーー!!下衆ルフルの分際で人のセリフを横取りするとはいい度胸なのだよ!ぐるぐる巻にして車内に閉じ込めてボコボコにしてやろうかゴルァァァァァ!!」

「クラピカ止めるね。キャラ違うよ」

フェイタンに本気で羽交い締めにされたのは、人生で初めてのことである。



鎖で引きずられながらホームに帰ってきたクロロをソファーに放り投げて一息ついた。

団員達はオセロに火がついたらしく
全員で勝ち抜きトーナメントを行っていた。

「やっりー!俺が優勝ね!」
「ふざけんじゃねぇぞてめえ。コルの首にアンテナ刺さってんだろうが。イカサマしてんじゃねぇぞこら」
「相手を操て勝つなんてシャルらしいよ。相変わらず姑息ね」
「本当のシャルはガチ弱なのだよ。私どころかノブナガにも勝てないぞ」
「クラピカお前、一回戦で俺(ノブナガ)に負けただろうが」

やはり一同が 団長?なにそれ 状態なのだが
それは団長がいて当たり前の存在だからなのだろう。

自分たちは束の間の家出を問い詰めもしないし気にしない。

今まで通り、何もなかったように振る舞うのが団員達の優しさなのだ。

オセロ大会もお開きになり
団員個々が自室に戻り始める時だった。


「フェイ、さっきクロロに言ったことを私にも言ってみろ」

「団長の顔がブサイクなた所でワタシ達そば離れるほど頭パー違うよ」

「ちがーう!その後だ。その…ええと…惚れてるって…言っていただろう(超小声)」

「ワタシクラピカに惚れてるね」

「!!!」

「固まてないでクラピカも言うね。ワタシに惚れてるか」

「ええと、えと、ほほほほほほれ」






「だから何やってんの、あいつら」

マチは最早目もくれずに呟いた。
果てでやってろ、痛っプル。



ーENDー



カナさんお誕生日おめでとうございます!
拙いですがプレゼントとして捧げます(*´▽`*)

クラピカちゃんが旅団にいたらフェイタンといつも一緒にいたらいいよ
フェイクラコンビは愛されポジションだったらいいよ

【追記】
新アニさんネタにして本当すみませんっっ
決して批判してるわけじゃありません!
新は新の面白さがあって好きです(^^)

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