原作9巻ネタバレ有り



新羅。
そうやって楽しげに僕の名前を呼ぶのは中学のときから変わらない。僕を呼びながらその綺麗な顔がなんの邪気も持たずにふわりとほころぶのはまさに花が咲いたようで、僕しか知らない臨也の笑顔だ。


僕の世界にはセルティさえいればいいと思っていた僕は他人に興味がなくて、それを見兼ねた彼女自身が友達を作れといったから僕はそれに従っただけだった。
声をかける相手をあえて臨也にしたのは、第一印章が「こいつはまともじゃない」だったから。今となっては臨也なんかと一緒くたにされるのなんて願い下げだけれど、当時の臨也は何となく僕に似通っている部分があった。まあ、その似ていると思った部分だって一般的に見ればろくでもないものなのだが、生憎僕たちは「一般的」という括りの中には入れない。というか一般から逸脱していた、という部分が多分一番似ていた。一緒にいるようになってからますます臨也が下衆であることが明確になって、やっていることに眉を潜めた回数はもう数え切れないけれど僕は臨也を嫌いになったりすることはなかった。初めて対等に渡り合える人間だったからか、ただ一緒にいることが楽しかっただけなのか僕にはわからない。けど、性格破綻者で人間の底辺だと言いたくなるようなそんな彼でも僕は友人だとはっきり思えたし、尤もらしい理由をつけて身代わりになってやるくらいには、特別だった。


臨也はこうして、セルティの居ないときを見計らってたまに僕の元を訪れた。インターホンも鳴らさずにずかずかと不法侵入してきたかと思えば楽しそうな声で僕の名前を呼び、そして一瞬だけ泣きそうな顔になる。初めてそうしてきたときから、僕は臨也のその顔を見逃したことは一度もない。けれどどうかしたのかと問うたことも一度もなかった。臨也は瞬き一回分だけのべそ顔をすぐにいつものポーカーフェイスに戻して、毎回同じように僕の脇腹に遠慮がちに触れるのだ。その下には中学時代に付けられた刺し疵の引き攣れたような痕があって今では当事者の名倉くんを使ってろくでもないことをしてる癖にと僕は笑うが、臨也はいつも至って真面目な顔をして何も言わずに疵を撫でていた。

「もう痛くないのに。」

「そういうことじゃないんだよ。」

「まさか君が気を負っていたりするのかい?」
「さあね。」

苦笑しながら、脇腹に触れる手を引いてリビングのソファへと連れる。腰を下ろせばぴったりとくっついてその隣に座って来て、黙ってそうしてれば可愛いのにと意地悪を言うと、シズちゃんにも同じこと言われたよとまるで子供みたいにむくれた。

「静雄とはうまくいってるの?」

「まあね。ちょっと怖いくらいに優しいよ。」

「そうかい、それは良かったよ。まあセルティには及ばないだろうけどね。」

「お前いつもそれだな。そのうち欝陶しがられて見放されても何も言えないんじゃないの。」

「そ、そんなことあるはずないさ!セルティだって僕を愛してくれている、はず…」

「あっはは!!楽しみだなぁ、新羅が運び屋に捨てられてどんな顔をするのか。」



臨也の性格が残念なところも、僕がそれを嫌いじゃないところも、もう大人になった今でもそれは変わらない。僕だけに向けられていたこの笑顔が他の奴にも向けられているのは少し嫉妬するが、僕はやっぱりセルティを愛していたし臨也とこれ以上の関係をもって静雄にぶん殴られるようなそれともなんだか違うので、僕が臨也にこれを伝えることは一生ないのだろう。それでもたまには、この脇腹の疵にかまけて彼の特別でありたいと思う僕はきっと、人を貶めて嗤う臨也より下衆だと思った。

「新羅。」

君はまた綺麗な笑顔で僕を呼ぶ。




僕はヒーローになりたい。





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Mr.ChildrenのLoveで
新セル、静臨前提の新臨でした。
もうどうしようってくらい
もどかしい話が出来上がりましたが
いかがでしょうか?
原作9巻をからネタを引っ張りました
まだ読んでなかったらごめんなさい!

新羅は初めて書いたのでドキドキでした
こういうもどかしいのは大好きなので
書いててとても楽しかったです(笑)
お待たせしてしまってすみませんでした
改めて、秀様リクエストありがとうございました




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