「聞いて菅原」
「なになに?どうしたみょうじ」
「彼氏できた」
「え?」
「大事なことだから二回言うね。彼氏できた」
「え、何て?」
「だから彼氏ができたんだって」
「うん。何て?」
「だから!!彼氏が!!出来たんだっつの!!どんだけ聞き返すんだよ!!お前のその耳は飾りか!?」
「初めに確認しておきたいんだけどさ、みょうじもしかして今寝てる?」
「寝言じゃねーよ!!」
「手足失ってない?」
「人体錬成もしてねーよ!!」
「魔法使った?」
「お前どんだけ疑ってんの!?そろそろぶっ飛ばすよ!?」
「みょうじの口から彼氏出来たなんて発言は一生聞かないと思ってた」
「菅原ブッコロ」

 般若のような目つきで俺を睨みつけているみょうじなまえというクラスメイトの女子は、日頃から異性と無縁であることを嘆いていた。そんな彼女の口癖は「彼氏欲しい。どっかに落ちてないかな」だ。みょうじと三年間同じクラスだった俺は彼女のことをよく知っている。みょうじは可愛らしい容姿をしているのにアホな行動や発言が目立ち、そのせいでクラス中から可哀想なくらい残念な扱いを受けているのだ。残念っていうか、もう無念の域。

 そんなみょうじに彼氏が出来たなんて、そんな馬鹿な。信じられない。彼女の勘違いか妄想じゃないか?いやでも、彼女のこのドヤ顔はまさか。まさか、本当なのか。本当に彼氏が出来たと言うのかみょうじ。

 ……天変地異だ。天変地異の前兆かもしれない。

「菅原、お前今すっげー失礼なこと考えてんだろ」
「…それ、本当に男?」
「は?男に決まってんじゃん。菅原どうした?」
「年は?」
「同い年」
「学校は?烏野?」
「いや、他校。青葉城西だよ」
「青城!?!?!?」
「何そのリアクション」
「いや…だって…何で青城?どういう繋がり?」
「ナンパされた」
「ナンパ!?」
「うん」
「みょうじがナンパされたの!?」
「だからそう言ってんじゃん。私以外に誰がいるの」
「みょうじがナンパしたんじゃなくて…?」
「逆です。私がナンパされたのです」

 マジか。みょうじマジか。思うことは山ほどあるけどマジかとしか言えない。

 確かにみょうじは一見すると可愛らしい女の子だが、それは黙っていればの話だ。今までだって何人もの男がみょうじの可愛さに騙されていた。中には一目惚れを理由に告白の決意を固めていた奴もいたらしいが、みょうじの性格を理解するや否やあっさりと身を引いたらしい。
 恐らくそのナンパした男もみょうじの容姿に騙されているに違いない。みょうじは美少女の皮を被ったゴリラなんだ。出会って間も無い男が簡単に扱える人種と違う。悪いことは言わない、みょうじはやめておいた方が良い。なんて忠告したところで意味なんて無いことくらいわかってる。ああ、みょうじよ。そんなドヤ顔できるのも今の内だぞ。お前のその言葉遣いの悪さとアホさが相手に知れたら何もかも終わるということを忘れるな。

「何だろう。今すごく菅原を殴りたい衝動に駆られた」
「とりあえずみょうじはもう少し言動を慎もうな?」
「は?」
「そうか…でも、ついに…」

 …みょうじに彼氏、かぁ。みょうじの隣に男がいるのを想像して、チクっと胸が痛んだ。あ、決して失恋とかではない。みょうじと連む馬鹿な男なんて俺くらいだと思ってたから、みょうじにとっての特別な存在が俺以外にもいるのかと思うとちょっと悔しいだけだ。思わず妬いてしまう。さみしい気持の後にぐぐっと押し寄せるこのモヤモヤは間違いなく嫉妬だ。みょうじには個人的に他の友人たちとは違う特別な気持ちがあったから、どうしても笑って「良かったな」が言えない。だからと言ってこれ以上疑う素振りを見せればとうとうみょうじの堪忍袋の緒が切れるだろう。

 認めなければ。みょうじに彼氏が出来たという現実を。そしてもう気軽にみょうじと遊びに行くことが出来なくなる覚悟を決めなければ。俺はグッと膝の上で拳を握った。

「今まで楽しかったよ、みょうじ」
「待って何その今生の別れみたいな。重いよ。もっと気軽に受け止めてよ」
「みょうじを泣かせたら俺は絶対にその男を許さない。辛くなったらいつでも俺のところに戻って来いよ?」
「男前な発言をありがとう。でもね、私結婚するわけじゃないし、そもそもまだ付き合ってないんだ。ごめん早とちりした」
「え、付き合って無いのか?だってさっき彼氏が出来たって…」
「正しくは彼氏候補が出来た。昨日告白されたんだけど、まだ返事してない」
「何だ…まだ彼氏はいないのか…」
「何でホッとしてんの?」
「で、みょうじに告白した男ってどんな奴なの?」
「そうそう!聞いて驚かないでよ!?なんと菅原と同じバレー部なんだって!しかも同じポジション!しかもしかも超イケメン!」
「…え」

 待って。

 ちょっと、待って。

「…ちなみになんだけどさ、そいつの名前って『お』から始まって『る』で終わったりする?」
「えーっとね…『お、い、か、わ、と、お、る』…あ、すごい菅原!!何でわかったの!?」
「断って」
「ん?何?」
「大事なことだから二回言っておく。告白を断って」
「何故ッ!?」
「良いから!!俺の!!目の前で!!今すぐ!!断りの!!メールを!!送って!!」
「菅原必死か!!怖ぇよ!!」
「大地!!及川のアドレス知らない!?主将同士連絡先の交換ぐらいしてるべ!?」
「何で澤村巻き込むの!?やめてよ!」
「俺の可愛いみょうじが選りに選って及川みたいなチャラ男に取られるなんて絶対に嫌だ!!俺の方がみょうじを幸せにできる自信ある!!」
「なんて男前…じゃなくて!それが澤村から及川くんの連絡先を聞き出すのと何の関係が!?」
「みょうじみたいな馬鹿とまともに付き合えるのは世界中で俺一人だけなんだよ!!及川にはぜったい無理!!」
「どういう意味だ菅原ゴルァ!…ん?あれ?本当にどういう意味だ菅原ゴルァ!なんかちょっとときめいちゃったぞゴルァ!」
「こうなったら及川の連絡先はもう良いから及川のことを綺麗さっぱり忘れて!そしてこれからもみょうじは俺と一緒にいればいいの!ハイ!この話はおしまい!めでたしめでたし!」
「全然めでたくねーよ!!仮に及川くんと付き合うことになっても菅原とは今までと変わらずに一緒にいるよ!それで良いでしょ!?」
「ダメ!絶対ダメー!!みょうじは及川と俺のどっちが大事なんだよ!?」
「それは菅原だよ!当たり前じゃん!菅原の方が及川くんの何倍も好きだよ!」
「じゃあ何で告白断らないんだよ!このぉ…このぉお…面食いーーっ!」
「うう…言い返せない…!」
「大地!お前も黙って見てないで何か言ってやって!」
「…ウン」
「澤村!菅原のこのわがままどう思う!?」
「わがままなのはみょうじの方だべ!?」
「だいたい何で菅原がこんなに突っかかってくるわけ!?」
「突っかかりたくもなるわ!俺の方が好きなら及川じゃなくて俺と付き合えばいいだろ!?」
「…え?」
「…あ」
「な、何言ってんの!?馬鹿じゃないの!?」
「ば、馬鹿なのはみょうじの方だろ!?」
「澤村!この馬鹿に何か言ってやってよ!」
「大地!みょうじの方が馬鹿だよな!?俺は何も間違ってないよな!?」
「俺からしたらお前らどっちも馬鹿。早急に爆発しろ」



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