※R15

「もふもふが足りない」
「ぬしさま…?」
「定期的にもふもふしたものに触らないと禁断症状が出るんだよ。五虎退も鳴狐もお供を連れて長時間の遠征でいないし、近所の野良猫は最近見かけないし…。はぁ、動物に触りたい」
「ぬしさまは獣がお好きなのですね」
「大好き〜。だって可愛いもん」
「左様で」

 何か代わりになるものは無いかと部屋をぐるりと見渡してみたが、棚や机など必要最低限のものしか揃えられていないこの部屋にそんな代用品は無い。もふもふしていて、かつ体温を感じられるものがいい。つまり人形では満たされないのだ。理想的なのは五虎退の虎たちや鳴狐のお供なのだが、まぁ遠征に行っているなら仕方ない。あの二人を同じ隊に配置したのは私のミスだ。

「あーー!!もふもふ!!!もふもふが恋しいい〜〜〜!!」
「ぬしさま、駄々を捏ねるなんて幼子のようですね。なんと愛らしい」
「あ、愛らしい?大の大人が畳でゴロゴロしながらゴネてるのが…?」
「普段の凛々しい様子のぬしさまも美しいですが、たまに見せる幼子のような仕草はとても愛らしいですよ」
「そ、そうでちゅか」

 普段の私って凛々しい…のか?ただ政務が嫌で仏頂面なだけだと思うけど。自室にいるとどうもストレスが溜まりやすくて近侍の小狐丸には素っ気ない態度を取ってしまいがちだけど、どうやら気にしていないらしい。むしろすごくポジティブに受け止めてたのが小狐丸のすごいところだと思う。私はハハハと苦笑いで誤魔化した。

「ところでぬしさま」
「うんー?」
「もふもふしたものに触れたいと、仰せられましたね」
「うん、言ったよ」
「ならばこの小狐丸めに一つ良案がございます」
「マジか!!ほお!!どんな案だい!?」
「この私の頭を撫でれば良いのです」
「え、小狐丸を撫でるの?」
「はい」

 小狐丸は目を細めて嬉しそうに頷いた。まぁ、確かに小狐丸の髪は狐のようにふさふさでボリュームもある。触り心地は良いだろう。…ただ、動物を撫でる行為と人を撫でる行為はちょっと違う。何がどう違うのかと言うと説明するのは難しいけど、とりあえず漂う雰囲気が違う。何より小狐丸は体格の良い男だ。女が自分より遥かに大きい男の頭を撫でるというのは図的に変だろってなる。折角の提案だけど「それだぁ!」なんてノリノリなリアクションを取るわけにもいかず、やんわり断ろうと手を上げた。

「さ、遠慮せず」
「わ、わぁあ!?」

 上げた手を掴まれ、強引に引き寄せられた。バランスを崩した体は小狐丸の上に倒れこみ、彼の固い胸元に鼻をぶつけてしまった。すると右手に感じるもふもふとした感触。こ、これは…!勢い良く顔を上げると、にっこりと微笑んでいる小狐丸が「お気に召しましたか?」と笑った。

「も、もふもふ!想像以上にもふもふだー!」
「ああ、そのように触られたら…ぬしさま擽ったいです」
「いやぁ〜ん!これよこれ!このもふもふ感!くんくん!お日様の匂いがする〜〜〜!」
「ぬ、ぬしさま…!」

 小狐丸、グッジョーーーブ!!思い切り親指を立てたくなったが、それよりも今は一秒でも長くこのもふもふに触っていたい。体質によっては髪ってこんなにもふもふにもなるのか…。いやこれは、本当に良い。正直五虎退の虎や鳴狐のお供にも勝るかもしれない。まるで犬を撫でる時のように小狐丸の耳の周辺を軽く握り、指を動かす。すると小狐丸は気持ちが良いのかふるりと体を震わせてうっとりと目を細めた。頬もほんのり色付いている。可愛いなぁ、なんてのほほんとしながら撫で続けていたら、「ぬしさま、」と小狐丸が甘い声で私を呼んだ。完全に動物を可愛がるモードに入っていた私はついいつもの癖で「ん〜?ここが気持ち良いの〜?」なんて若干よろしくないセリフを口にしてしまった。すると、私の腰を支えていた小狐丸の手が上に伸びて、私の両頬を包み込んだ。

「ぬしさま、愛しております」
「…へ」

 突然の愛の告白に我に返り、撫でる手を止めた。ピクリと指先が震えて、私はえっと、と言葉に詰まる。小狐丸が、変だ。撫でることに夢中で気付かなかったけど、どうやら私は小狐丸の何かのスイッチを押してしまったようだ。何か、なんてそんな曖昧な表現をしなくてもはっきりとわかっている。その象徴とも言えるものが主張するように私の太ももにグリグリと押し当てられているのだから。

 熱を含んだ目は明らかに欲情していた。背中に汗が伝い、ゴクリと喉が鳴る。

「は、ははは急だね…」
「指先からぬしさまの愛情を感じました。いつもこのように愛でられていた虎や狐が羨ましいです。…妬いてしまうほどに」
「や、ヤダナー!動物相手に嫉妬しないでよ!」
「…それもそうですね。相手が動物であれば、このようなことはできませぬ」

 視界がぐるんと回転した。

「さぁ、ぬしさま。もっとこの小狐丸めを愛でて下されっ」
「ちょーちょちょちょ!!ちょ!待って待って!何してんの服脱がさないでよ!」
「申し訳ありません、ぬしさま…今はぬしさまを想う気持ちが止まらないのです…」
「一旦離れてくれたら止まると思うよ!?」
「いいえ、それはありませぬ。ずっと焦がれておりました。ぬしさま、愛しているのです。どうかご安心ください。この小狐丸めに全てお任せを」
「だ、ダメダメダメダメ!そういう問題じゃなーーい!ほら!誰か来たらまずいでしょ!?」
「その心配はいりませぬ。他の者は全て遠征、または畑仕事をさせています」
「何でだよォ!!」
「ぬしさま、ぬしさま。交わりたいのです。ここで、ぬしさまと果てたい」

 布越しに性器を撫でられ、ビクリと体が震えた。理性がまだしっかりしているおかげで過剰に感じることは無かったが、久しぶりの刺激に危うく声が漏れそうになった。舌舐めずりしながら私を見下ろす小狐丸の目は完全に捕食者だ。小狐丸から離れる以外に現状を回避する方法は無い。ではどうする。力ではまず勝てない。説得するか?さっきもだいぶ頑張ったけど無理だった。一瞬、諦めるという選択肢が頭を過った。いや、ダメだ…!なんとか彼の気を逸らさなければ!

「…無駄ですよ。私はもう誰にも止められませぬ」
「ふああっ!?」

 私の表情から心の内を読み取ったのか目を細めた小狐丸が耳元に顔を寄せて囁いた。生暖かい息吹が耳にかかる。唇が触れ、軽く噛まれた。甘い痺れに今度こそ声が漏れてしまい、慌てて口を塞ごうとしても畳に手首を縫い付けられてしまっていた。そしてすかさず小狐丸は膝を下腹部に当てがい、グリグリとそこに押し付けた。

「ふ、こ、小狐、丸…!やめ…っ」
「ぬしさま、ぬしさま…。ああ、ぬしさま愛しております。ぬしさま…」
「良い加減にしないと怒…っひゃあ!」
「ぬしさま、なんて愛らしい」

 自分でも驚く程に甲高い声が漏れて、ああもうダメだと諦めかけた。その一瞬の隙をついて小狐丸は器用に私の着物を胸元まで下げ、そこに顔をうずめた。べろりと谷間を舐め上げられて肌が泡立つような感覚は快楽であり、恐怖でもある。少しザラザラした舌が胸の輪郭をなぞり、ゾクゾクと何かが背中を駆け抜ける感覚に軽く腰が浮いた。そしてついに私の理性が崩れ始めた。かろうじて声は出さない努力はできても、性器に集まる熱はもうどうしようもなかった。はぁ、とため息が漏れる。小狐丸は私が諦めたと思ったのか、表情を輝かせて詰め寄った。

「ようやくその気になって下さいましたか…!?」
「ん……………………いや、」
「え?」
「調子に乗るなよボケナス!!!!」
「!?!?!?」

 右足を振り上げ、脇腹目掛けて渾身の一撃を食らわせた。見事に膝が脇腹に命中し、小狐丸は呻き声を上げて崩れるように倒れた。私は巻き添えを喰らわないようにすかさず距離を取って起き上がり、いそいそと肌着を整える。

「ぬ、ぬしさま…今のは少々、応えました…」
「当然だろ。あ、そうそう。しばらく小狐丸は遠征に出てもらうから。近侍は可愛い藤四郎達に任せようかなぁ〜」
「な…!お待ち下されぬしさま!何故そのようなことを…!?」
「勝手に欲情して非力な主を襲った罰じゃい!反省しろ!」
「ぬ、ぬしさまぁ…っ!」

 まるで捨てられた子犬のようにうるうると瞳に涙を溜めて小狐丸は私の腕を掴む。ジトリと見下ろすと、クゥーンという鳴き声が聞こえてきそうな程ションボリしている小狐丸と目が合い、一瞬たじろいだ。が、今の私は心を鬼にしている。キッと眉を寄せて睨みつけた。

「言うことを聞けないような悪い子はうちにいりません。今すぐこの手を離さないと………捨てる」
「ぬ…ぬしさま…!?!?」

 信じられないと言わんばかりに顔を歪め、小狐丸はがくりと項垂れた。フンと大袈裟に鼻を鳴らして力強く襖を閉め、部屋を後にした。

「やれやれえらい目にあった…。油断も隙もありゃしない…」

 ただもふもふしたものが触りたかっただけなのにまさか襲われるなんて。…まあ、誘うようなセリフを口にした私にも非があるけど。しかし小狐丸がそういう目で私を見ていたとなると、これは本当に短刀たちに交代で近侍をお願いした方が良さそうだ。早速五虎退達を強制帰還させて、代わりに小狐丸を長時間遠征に向かわせよう。このぐらいのことをしないとあの発情期の狐はきっと懲りない。

「でも小狐丸の髪に触れないのはちょっと残念かも…」

 なんて口が裂けても言わないけれど。



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