※何故かコナンの正体を知ってるヒロイン


 バイト先に安室透というイケメンの新人がやって来た。普通のイケメンかと思いきや、どうやら黒の組織の一員らしい。って新一が言っていた。なるべく関わるなと忠告した直後に怪しい動きが無いか探ってくれって言うからオイオイどっちや工藤と服部っぽく突っ込んだら無視された。何でや工藤。

 というのを今ふと思い出した。きっかけは安室さんが休憩中にすごく険しい顔つきで携帯を見ていたから。組織は携帯を使って連絡を取り合うらしい。これも新一が言っていた。もしかしたら仲間にメールを打っているのかも。てか黒の組織ってメールでやり取りしてんのかな。LINEだったらなんかウケる。グループとか作ってたりして。プッ。なんか親近感湧くわ。

「そんなところで何してるの?なまえちゃん」
「ぎゃあ!?あ…あ、あむ…あむりょさん」
「あむりょ?」
「噛んだんだよチクショーめ!」
「で、そんな扉の陰に隠れて何してたの?もしかして僕のこと見てた?」
「自惚れるな三十路」
「やだなぁ。まだ29歳だよ」

 いつの間に隠したのか安室さんの手に携帯は無い。結局何をしていたのか確認できなかった。でも変に首を突っ込んで私までターゲットにされても困るから大胆な行動は慎んだ方が良さそうだ。私は新一みたいに頭の回転も早くないし蘭みたいに強くもないし。

「なまえちゃん、仕事中じゃないの?」
「お客さん少ないから休憩どうぞってマスターが」
「そうなんだ。じゃあ僕とお話しようよ」
「ご飯食べながらでも良いですか」
「もちろん良いよ」

 よっこらせと安室さんの前の席に腰掛けてカバンからお弁当を取り出した。包みの結び目をほどいている間、さりげなく安室さんを見ていたら彼はさっき携帯を見ていた時と同じ険しい顔つきで壁にかけられた時計を眺めていた。そんなに時間を気にしなくてもまだ休憩時間は残ってるのに。この後何か予定でもあるのかな。

 不意に安室さんがこっちを向いた。私は慌てて俯く。

「やっぱりなまえちゃん、僕のこと見てるよね」
「見てないです」
「またまたぁ。目が合ったよ」
「たまたまです」
「そんなに見られるとさすがに照れるんだけど」
「よく言うわ」
「本当だよ」
「へー」
「なまえちゃん可愛いし」
「ど、どうも」
「僕のタイプなんだよねぇ」
「ロリコンは犯罪です」
「ロリコンではないかな」
「私高校生ですよ」
「高校生ならセーフでしょ」
「いやマジ勘弁。私汚れなき17歳なんで変な目で見ないで」
「汚れなき、ね」

 何でそこに反応するの。キモッ。露骨に嫌そうな顔をすると安室さんは首を傾げた。あざとい29歳だな。

「なまえちゃんのお弁当可愛いね」
「そうですか?」
「もしかしてなまえちゃんが作ってるの?」
「はい」
「へぇ。料理得意なんだね」
「得意ではないですけど好きです」
「今度僕にもお弁当作ってよ」
「えー…」
「えー何で渋るの?」
「だってめんどくさい」
「なまえちゃんはめんどくさがりだなぁ」

 そう言いながら安室さんは席を立った。

「じゃあ僕は仕事に戻るよ」
「え、もう?まだ休憩時間残ってるのに…」
「早めにやっちゃいたいことがあってね」
「ふーん…」
「お弁当楽しみにしてるね」
「何で作ることが確定してるの」
「なまえちゃんは優しい良い子だから」
「何だそれ」
「それじゃあまた後でね」

 ひらひらと手を振って安室さんは部屋を出て行った。はぁ、と息を吐いて椅子の背もたれに寄りかかる。安室さんがいなくなったことで何となくホッとして全身の力が抜けた。普段は温和だけど、黒の組織の一員と考えるとやっぱり彼の前では気が抜けない。ていうか新一でも手こずってるのに私なんかが情報を掴めるわけが無いじゃん。なんつー無理難題を押し付けやがるんだあの推理オタク。ギリッと歯を食いしばりながらフォークをおかずに突き刺した。

 すると、不意にバイブの音がした。

「…ん?」

 フォークを咥えながら音のする方を見てみると、さっきまで安室さんが座っていた椅子の上に携帯が置いてあった。多分、ていうか絶対に安室さんの携帯だ。ポケットから落ちたことに気付かなかったのかな。携帯を拾って光る画面を見てみると、登録されていないアドレスからのメールだった。誰からなんだろう。
 …開いたら、まずいかな。一度開いて未開封にすればバレないかな。いや、でもなんか申し訳ないというか。いやいやでも黒の組織の情報かもしれない。





「そんなに気になるかい?」

 ハッとして振り向こうとした瞬間、視界が真っ暗になって指から携帯が抜き取られる感触があった。私の視界を覆う大きな男の手はひんやりしている。

「あむ、安室さん…」
「メール、見た?」
「今見つけたばっかで何も見てませんよ…ていうか、あの、離れてくれませんか」
「でも見ようとしてた?」
「し、し、してませんよ…だから離れ、」
「ふーん?本当かなぁ」

 視界を塞いでいた手が下ろされた瞬間、逃げるように彼から離れた。安室さんは片手で携帯を弄りながら「確かにまだ見てないみたいだね」と呟いた。だからそう言っただろーが!と噛み付いてやりたい気持ちになったけどグッと堪えた。

「良かった、携帯忘れたことにすぐ気付けて」
「ちょっと。それってあと少し遅れてたら私にメール見られてたかもって言いたいんですか?」
「あはは、ごめんごめん」
「せっかく届けてあげようと思ったのに ( 嘘だけど ) 」
「ごめんね。気を悪くしないで欲しいな」
「ふーーんだ」
「怒った?」
「プンプン丸です」
「怒ったなまえちゃんも可愛いね」
「さては反省してませんね!?」
「してるよ?でもなまえちゃんが可愛いのが悪い」
「意味不明な責任転嫁やめてください」
「あ、仕事に戻らないと」
「 ( どんだけマイペースなのこの人 ) 」

 携帯をポケットにしまってから、安室さんはゆっくりと私に近付く。反応に遅れて慌てて見上げると、安室さんの両手が伸びた。そっと横髪を耳にかけられ、するりと指先が頬を滑った。

「なまえちゃん」
「?はい」
「あの子に何を言われたのか知らないけど、なまえちゃんはこっちに来たらダメだよ」
「…」

 それはどういう……え?あの子って、誰。まさか新一のこと?何でそんな意味深なこと突然言い出したのかわからなくて目を丸くする私に安室さんは眉を下げて綺麗に笑った。

「約束だよ。なまえちゃん」

 脅迫に近いものを感じた。言葉の意味を聞くことも言い返すこともできなくて、首を縦に振るのが精一杯だった。頷く私に安心したように微笑えむ安室さんを見つめながら頭の中は疑問符で埋め尽くされている。胸が締め付けられるようなこの感覚は何だろう。悪い人だってわかってるのに、そうじゃなければ良いのにと思っている。揺れる安室さんの瞳から目を逸らすことも、頭を撫でる手を振り払うことも私にはできなかった。



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