影山に女の子の幼馴染がいるって知った時はスッゲー驚いた。だってあの影山の隣に女の子がいる想像なんて出来ないし。あの短気な影山と連んでるくらいなら、きっとその子も性格に難ありなんだろうな〜と想像していたら、実際に対面した時のイメージとのギャップがすごかった。顔は普通、まあまあ可愛い方。んでもって背が低い。俺が余裕で見下ろせたから、なんか感動した。久々に自分より背が低い人に会えて嬉しくて、そのノリで話しかけたら予想とは正反対に性格がめちゃくちゃ良かった。スッゲー優しい。何で影山と連んでるのかわからないくらいだった。
 ていうのが彼女の印象。こうやって並べてみるとあんまりパッとしないけど、でも彼女は他の女子とは決定的に何かが違った。決定的と言い切る割りに何が違うのかはわからないけど、特別目立つ外見ではないのに何故か存在感があった。あと月島と同じクラスだから頭も良いらしい。中学の頃から成績は学年でもトップの方で、余裕で白鳥沢も狙えるくらい優秀だったと何故か影山が自慢げに話してた。そして俺は疑問に思った。じゃあ何で白鳥沢に行かねぇの?烏野に来た理由は?それを影山に聞いてみたら、わかんねぇって難しい顔してた。みょうじさんが烏野に来た理由は幼馴染の影山でも知らない。だけど俺は知っている。

「みょうじさん!」
「あ、日向くんヤッホー」

 廊下で見かけたから手を振ったら、ニッコリ笑って手を振りかえしてくれた。いつもはほとんど無表情だけど、たまに見せる彼女の笑った顔はめちゃくちゃ可愛い。胸の辺りがぎゅーってなった。なんか嬉しい、自分が喜んでるのがわかる。

「この間はごめんね、日向くん」
「全然いーって!」
「私が影山に追いかけられた時も匿ってくれたし…」
「ああ!あれか!影山怒ると怖いもんなっ!わかるわかる」
「ねー本当。もうちょっと表情を和らげてくれたら良いのに」
「でもニコニコ笑ってる影山なんて…気持ち悪っ」
「あ、それは無いわ。パス」

 最近、気付いたことがある。影山の話をする時のみょうじさんはどこか嬉しそうだ。嬉しそうというか、安心してるような表情をする。そのことに影山は気付いているのだろうか。

「みょうじさん」
「うん?」
「大王様とは、あれから何かあった?」

 大王様がみょうじさんに2度目の告白をしたことを俺は知っている。その日、俺はみょうじさんとたまたま会った。部活帰りの帰り道で一人自転車を漕いでいたら、道の脇のバス停の屋根の下で泣いているみょうじさんを見かけたのだ。泣いているといってもシクシクとかそういう悲しそうな効果音がつくような泣き方ではなくて、微動だにせず静かに涙を落としていた。とても綺麗だった。長い睫毛に付着した水滴がキラキラと輝いていて、艶やかで真っ白な肌が赤く染まっている姿はすごく綺麗だった。目を奪われるってこういうことを言うんだなって思った。
 俺から声をかけて、全部話してくれた。「何が悲しいのか悔しいのかわからないけど、漠然とした不安があるの」難しくて俺にはよくわからないけど、でもみょうじさんが今すっごく苦しんでいることだけはわかった。気持ちがぐらぐらと不安定に揺れている。みょうじさんは今、大王様と影山に挟まれて息苦しくて仕方ないんだ。そうわかっても、俺には相槌を打つことしか出来なかった。

「あれから色々考えたんだけどさー」
「うん」
「あ、及川さんの告白は断ったよ。及川さんを異性として見たことなかったし」
「え、大王様はそれで納得したの?」
「いや、全然。『諦めてやんないもんね』とか言ってあっかんべーされたわ。今でも毎日電話かかってくるし、メールも来る」
「さ、さすが大王様…」
「正直一番悩んだのは影山なんだよね。及川さんには悪いけど」
「影山?」
「うん。幼馴染から告白されて、どう受け止めたら良いのかわかんなかったし、いきなり意識しろって言われてもねぇ〜って感じだったけど」

 苦笑いを浮かべながらも、みょうじさんはどこか嬉しそうだ。

「でも、影山が側にいないのは寂しい。この間の喧嘩でよくわかった」
「影山も寂しいそうだったぞ。部活中ずっとムッとしてて、と思ったら寂しそうな顔もしてて。百面相すんなよって大地さんに怒られてた」
「わぁ、想像できる」
「でも今は仲直りしたんだよな?」
「うん。影山からは絶対に謝らないと思ったから、私から謝ったよ」
「みょうじさんおっとな〜」

 ニッと俺が笑えばみょうじさんも笑った。みょうじさんの笑顔は不思議な力がある。とても落ち着く。みょうじさん、みょうじさん。心の中で名前呼ぶと、胸がキュッと締め付けられた。
 この人は、影山の好きな人。「及川さんなんかに、負けない」あの影山が悔しそうに顔を歪めて吐き出した決意は本物だった。俺は心の中で影山の背中を押した。大王様に負けてねーよ、影山。俺はハッキリとそう言えた。みょうじさんにここまで想われてるのは世界中どこを探したって影山しかいないだろうから。

「影山に言ってやんねーの?」
「ん?何を?」
「影山がいるから烏野に来たんだ、って」

 みょうじさんは笑った。

「言ってやんない。調子に乗るから」



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