俺はあることに気が付いた。窓際の一番後ろというラッキーな座席で今現在読書に耽るみょうじなまえというクラスメイトの女子は、桃味のものしか口にしない。一昨日は桃のグミを、昨日は桃のゼリーを食べていた。そして今日はピーチティーで喉を潤している。毎回桃ばっかで飽きるやろ絶対。俺は桃とか苺とか一種類を食べるのではなく、ゼリーにせよ飲み物にせよフルーツミックスを購入するので、みょうじさんの気持ちは微塵も理解できない。

「ちゅーことがあったんや!どう思う白石」
「すまん謙也。だからなんやねんとツッコミたい俺を許してや」
「え…?いや…変わっとるなー、と…。お…おかしいな…もっと食いつくような反応返ってくると思ったんやけど…」
「…で?」
「え?これ続くん?」
「逆に続かんのかい」
「みょうじさんは桃味ばっかり食べる変わった女子だというオチ」
「そしてどう反応したらええのかわからん俺を困らせるというオチやな。部活行くで」
「あああちょっと待ってや白石まだおもろい話あんねん!」
「まーたみょうじさんの話か?お前最近みょうじさんばっかやな」
「え、俺そんなにみょうじさんの話しとった…?」
「しとる」
「ま…マイブームやねん…しゃーないやろ」
「ただのストーカーやでそれ」
「ちゃうわ!」
「もうみょうじさんのことはええから、部活行くで。スピードスターならさっさと歩かんかい」
「あ、ちょ待てや白石」

心底飽きれたような表情を浮かべながら白石は俺に背中を向ける。意地でも俺の話は聞かんらしい。何でこんな扱いされとるんやろ、俺。少し悲しい気持ちになったが、こうなったら白石の後に続くしかない。渋々テニスバックを背負ってHR後の騒がしい教室を後にした。明日もみょうじさんは桃味のものを食べるのだろうか。なんて、白石の言う通りみょうじさんのことばかり考えている俺がいた。





「謙也も隅に置けんやっちゃなぁ!」

放課後練習の最中、テニスラケットを振り回しながら妙なテンションな金ちゃんが意味不明な発言をしてきた。俺はポカンとする他ない。

「なん…いきなりなんやねん金ちゃん」
「ふふん、ワイは全部わかってるんやで。謙也がコイに釣られてもうたことをな!」
「こ、コイ?コイって…魚の鯉のことか?」
「ようわからんが多分それや!あ、ちゃう、魚やない。魚やない方!」
「魚やない方…恋?」
「一緒やんそれ」
「イントネーションが同じでも漢字も意味もちゃうねん。えーと…書きやすそうな木の枝…お、あった。今から地面に書くからよう見てみ。こっちが魚の鯉。こっちが誰かを好きになるっちゅー意味の恋」
「あ、こっちや!こっちのコイ!」
「ああ…恋、な…」

恋…恋やて…?ちょ、待て。待て待て。金ちゃんの言っとるコイってこっちの恋?こ、恋?恋?釣られた?俺が?俺が、恋に、釣られた?

「なんの話やったっけ金ちゃん」
「謙也が恋しとるっちゅー話」

俺はすかさず地面に書いた恋の字を消した。

「はぁ!?ななななに言っとるん!?俺が恋しとるって!?わっはっは!おかしなこと言うなぁ金ちゃん!」
「謙也顔真っ赤やで」
「え!?あ、あ…あっつぅー!なんや急に暑なってきたなぁー!ははは!」
「白石に聞いたで!クラスの桃太郎のこと好きになったんやってな!」
「誰のことやねん桃太郎って!」
「せやから謙也の恋しとる子やろ?桃ばっか食っとるから、桃太郎!」
「ああ…みょうじさんのことか…」

何納得しとんねん俺。

「き、ききき金ちゃんええか!!ええか!!よう聞け!!俺はみょうじさんのこと好きなんやないで!!ただちょっと気になるだけっちゅーか…!その前に桃太郎は桃から生まれたから桃太郎っちゅーだけで桃ばっか食ってへんで!!」
「何を必死になっとるん?謙也」
「ぐおおお金ちゃんに負けとる!俺負けとる!」
「照れんでもええんやで謙也、自分の気持ちには正直にならなアカン!」
「金ちゃんの言葉が胸に突き刺さるううう!」
「遠山、ちょお詳しく」
「どっから湧いて出た財前!!」
「あ、光!あんな、あんな、謙也は今恋しとるんやって!」
「ちがわい!!」
「へえ、謙也さんが」
「オイ財前、お前何で見下しながら笑っとんねん」
「謙也さんが恋…。ハッ」
「鼻で笑うな!!」
「遠山、その女子の名前知っとる?」
「みょうじっていうらしいで」
「!?!?な…何で金ちゃんそれを…!?」
「さっき自分で言っとったやん」
「…!?」
「墓穴掘るとかさすが謙也さん」
「せ、せやけど!ホンマに好きなんやないで!ちゃうで!ちょっとした興味本位で見とるだけで…!」
「どうだか」
「ううう…もう嫌や…」
「ま、みょうじさんなら充分可愛い部類に入ると思いますけど」
「まあ確かに顔は…って、財前…みょうじさんのこと知っとるん?」
「まあ」
「え…何で?」
「近所」
「え?」
「あの人今彼氏いないみたいやから、謙也さん頑張れ」
「お…おう…。いやちゃうわ!」
「遠山、俺らは遠くから見守るだけにしよな。温かい目で」
「すでに目が冷え切ってるんやけど!」
「ホラそこ!いつまでしゃべってるん?しばくで」
「あ、部長。なんや謙也さんが急にみょうじさんとの惚気話してきて」
「ちょ、濡れ衣!?」
「ああ…桃色の片想いってやっちゃな」
「ああ!桃味ばかり食べるみょうじさんだけに!うまい!…いや、ちゃうやろ何言ってるんや俺…!ツッコミ方がわからん…!いや!せやから!」
「謙也のくせにこのどっピンクのオーラむっかつくわぁ…校庭10周な」
「何で!?」

理不尽を通り越してもはや不条理だ。俺の必死の弁解に白石が耳を傾けてくれるわけもなく、俺は無実の罪をきせられて校庭を走ることとなった。絶対恨んだるで、財前。ふと今朝見た占いで自分の星座が最下位だったことを思い出し、俺はもう何とでもなれと半ばヤケクソになりながらペナルティを乗り越えたのであった。







翌日の昼休み、事件は起きた。
俺の観察結果によるとみょうじさんは毎日桃味のものを食べる習慣があったというのに、目の前の光景はその概念を打ち砕くものであった。どういうことや。みょうじさんは今、パックのフルーツミックスジュースを飲んでいる。

「し、しし、ししし」
「なんや謙也、どないしたん」
「白石…ちょっと俺のほっぺつねって!」
「…はぁ?」
「いいから!」
「ほら、これでええんか」
「あいたたたたたちょ、自分加減ってのがあるやろ!」
「夢じゃないってわかったやろ?あんな謙也、みょうじさんがミックスジュース飲んでるからって興奮し過ぎや」
「し、白石お前エスパー…!?」
「お前の視線の先を辿っただけやアホ」
「これは事件やで白石!みょうじさんに何かあったに違いない!」
「へぇ、じゃあ聞きに行ったらええやん」
「それは無理や」
「何で」

だってしゃべったことない。

「…」
「…」
「冗談?」
「ホンマ」
「…謙也、俺ですら話したことあるで」
「え!?ホンマ!?ど、どんな子…?」
「ふっつーの子やで。謙也が騒ぐほどの異端者やない」
「だ、誰も異端者とは言ってへんやろ!」
「なんや謙也一丁前に照れてるん?人のことガン見するくせ話しかけないのは悪質なストーカーの特徴やで」
「ぐ…言い返せない…!」
「ほら、素直に聞いたらええやん。『みょうじさん、君はいつも桃味のものを選んでいたというのに、フルーツミックスを飲んでいるとは珍しいですね。え?何故知ってるかって?毎日あなたを見ていたからです。好きです』」
「殺す気か!!」
「ストレートに聞くのが一番ええねん」
「なんやねんその笑顔…絶対楽しんどるやろ」
「何言ってるん?謙也の恋を応援しようと思ってるだけやで」
「せやから恋やない!」
「ほな行って来い。当たって砕けろ!」
「おおお俺の話を聞け!!」

白石に強く押され、徐々にみょうじさんの机との距離な縮まって行く。抵抗しようと足の裏に力を入れてみてもズルズルと前進は止まってくれない。あかん!あかん!完全に白石のペースにのまれとる!どないしよう俺みょうじさんと話したことないからむっちゃ緊張する…!女子か。

そんなこんなでみょうじさんの机のとこまで来てもうた。みょうじさんの顔はまさにアレや。ポカーンってなっとる。そらそうなるわな。いきなり自分の席の隣に来た男が顔面蒼白で見下ろしてるんやから、そらみょうじさんも不審者を見るような目になるわな。あかん心臓ドキドキしてきおった。ドキドキというか、バコバコ…?大丈夫か俺の心臓。

「えっと…」
「う、うん」
「忍足謙也、と申します」
「うん…、知ってる」
「え、知ってるん…!?」
「…?クラスメイトやし」
「せ…せやな…」

あー何やねん俺!何やねんコレ!何で俺こない緊張しとんねん!意味わからん、この状況。何で今更自己紹介しとんねん…。自分がこんなにコミュニケーションの取り方が下手くそやなんて思わんかった。白石恨んだる。このみょうじさんの「…で?」みたいな表情に心臓が潰されそう。デスヨネ。だからなんだよって感じデスヨネ。これは何かしら話を続けないと、みょうじさんに俺が不審者だと思われて終わる。それだけは避けたい。クラスメイトとしてこれから半年付き合っていける気がしない。

「…忍足くん」
「う、ぁっはい!」
「 ( うぁっはい? ) なんやさっきから百面相しとるけど、大丈夫?具合悪いん?」
「え!?あ、いやー!なんや今日暑なったり寒気したりでちょい体が変というか…!」
「そうなん?風邪なんとちゃう?」
「いやいやいやそんなわけ…」

ふと視界の端に見慣れた包帯まみれの手が手招きしているのが見えた。俺はみょうじさんに怪しまれないように横目で見ると、何やら白石が口パクしていた。なになに…。

『風邪やないです』

おう、せやな。せやけど何でそんなこと口パクで…。白石は少し俯いてフッと微笑を浮かべると、再び顔を上げて口パクを続行した。

『恋の病です』

「言えるか!!」
「!?お、忍足くん急にどないしたん…!?」
「な、なんでもないで!」
「百面相しとったことにそんなに言えない理由があるんか…?」
「ちゃ、ちゃうで!ちゅーかそんな百面相しとったんか俺…」
「すごく」
「 ( 消えたい ) 」

みょうじさんが怪訝な顔をして俺の顔を覗き込む。うわ、近くで見るとホンマ可愛い顔立ちしとるなこの人。くりっくりのデカイ目と、それを縁取る長い睫毛。真っ白の肌にほんのりとピンク色に色付いた頬。あ、あれに似とる。桃のピンク色のとこ。桃ばっか食っとるから桃に似てきたんやないやろか。…な訳ないやろ俺。
少しずつ落ち着きを取り戻している心臓にそのまま頑張れと言い聞かせつつ、俺は口を開いた。

「あ、あんな、みょうじさん」
「はい」
「みょうじさんって桃が好きなん…?」
「え?あ、うん。せやね、でも何で?」
「え、えっと、みょうじさんがよく桃味のものを食べとるとこ見とるから…」

あかん、墓穴掘った。

「…よく見とるんか」
「いいいや別に変な意味では!そうやなくて!なんちゅーか!よく桃味の飲み物飲んどるのに今日はフルーツミックス飲んどるから何でやろって素朴な疑問が…!あああ!何でも無い忘れたって!」
「ふふ、忍足くん落ち着いて」
「は…はい」
「ハイ、桃のキャンディー。コレあげる。舐めるとホッとするで」
「おおきに…」

みょうじさんから受け取ったのはよくコンビニとかで見る袋詰めされたキャンディーやった。ご好意に甘えてそれを口に含んでみると、ふわっと甘い桃味が口の中に広がった。うまい。

ガリッ

「あ、」
「あ」
「す、すまん。噛んでもうた」
「ははっ、さすがスピードスターやね。キャンディーは舐めるより噛む派?」
「すまん…せっかくくれたんに…」
「なんや〜。何しょぼーんってなっとるん?たかがキャンディーくらいで気にしすぎやで。今度はキャンディーやのうて、グミとかあげるわ」
「お…おおきに。せやけどお気遣いなく」
「私がしたいだけやねん。忍足くんとようやっと話せて、嬉しい」
「え!」
「クラスで話したこと無いの忍足くんだけやったから、ひょっとして私嫌われとるんやないかと思ってたんやけど」
「ちゃ、ちゃうで!そんなわけないやん!みょうじさんを嫌う理由があらへん!」
「それホンマ?よかった、嬉しい」

ニコッと、綺麗にみょうじさんは笑った。その笑顔がむっちゃ綺麗で、周りに花が見えるくらい絵になっとった。…あかん。また心臓ドキドキしてきおった。やっと静かになっとったのに。なんやコレ、胸がキューってなっとる。胸あたりの骨がキシキシいっとる。なんやコレ、こんな感情知らん。

「で、桃味のキャンディーはどうやった?アレ私のお気に入りやねん。忍足くんにも気に入って貰えたらええんやけど」
「う、うまかったで!なんやふわーって甘い味が広がって、ジワジワ侵食してって満たされていくような…!なんやろな、なんか」

コレはまるで、

「恋の味、か。謙也、その気持ちを忘れたらあかんで」
「白石ィイイイイ!!」

いきなり現れたかと思ったら何言いよるんあいつ…!ラリアットをかまそうかと背後の白石に向かって腕を振ってみたが簡単にかわされてもうた。そして白石は満面の笑みで教室を出て行く間際に再び口パクで顔が真っ赤だと指摘してきた。それにまた更にカッと顔が熱くなっていくのがわかり、なかなかみょうじさんの方を向けない。あかん、今の俺顔赤いし絶対変な顔しとる。みょうじさんに何とか怪しまれないようにと思ったが、白石の余計な言葉のせいでそればかり考えてしまう。単純過ぎる自分をうまくコントロールできないなんてイライラする。

「ふふ、仲ええねんな。忍足くんと白石くん」
「ま、まあな…同じテニス部やし」
「ところで忍足くん」
「な、なんや?」
「何で私が今日フルーツミックス飲んどるか知りたい?」

ひとしきり笑って顔を上げたみょうじさんが綺麗な笑みを浮かべて俺を見つめる。ドキッと大きく心臓が跳ねた。「な、何でや」どもりながらもなんとか声を出すことに成功したとは言え、俺の声は確実に掠れていた。格好わる、俺。口元を手の甲で隠しながらみょうじさんの方をちらりと見れば、意味ありげにクスクスと小さく笑うみょうじさんとパチリと目が合った。心臓が口から出そう。

「忍足くんが私の桃好きを気にしとるの知っとったよ」
「え!?な…何故」
「忍足くん声大きいもん。丸聞こえやったで、白石くんとの会話」
「なんやて…!?」
「私の桃好きがまさか忍足くんの目を引くことになると思わなかったからビックリしたんやけど」
「…ホンマにすみません」
「ううん。ちょっとビックリしたけど、それ以上に嬉しかった。もしかしたら忍足くんと話せるかもしれんって、チャンスやと思った」
「え…ち、チャンス?」
「今日フルーツミックス飲んどったのは一種の賭けやったんや。私が桃以外のものを口にしたら忍足くんはどんな反応するんやろうって。そしたらホンマに忍足くんから話しかけてくれたから、嬉しい。あ、ごめん。別に忍足くんを騙そうとしたわけやないんやけど」
「い、いや…」

みょうじさんは俺と話したかったんか…?なんや、なんやコレまたドキドキしてきおった。コレってまさか、みょうじさんまさか俺のこと…?…いや、みょうじさんみたいな可愛い女子がたかがクラスメイトの俺にそんな気があるわけないやろ。自惚れるな俺。これでホンマに違った時かなり恥ずかしいことになるで。落ち着け、落ち着け。

「ふ、ふはははっ!いや〜嬉しいわ〜みょうじさんがまさかそない俺と話したかったとはな!」
「うん、嬉しいよ」
「 ( ふおお! ) えっと…それならこれからも話しかけてええか?せっかくクラスメイトなんやし…」
「もちろん、大歓迎だよ。私もたまに忍足くんに声かけてイイ?」
「あ、あ当たり前やん!ウェルカムやでっ!」
「ありがとう」

ニコッて!ニコッてみょうじさんが笑った!めっちゃかわええ!ふおお!胸がギューッてなった。こんなん初めてや。こんな感情わからん、知らん。

『謙也は今恋しとるんやって!』

ふと昨日の金ちゃんの言葉が脳裏を過った。何でやろ。いやまさか、な。

「忍足くん」
「な、何でしょう!」
「せっかく話せたんやし、忍足くんともっと仲良くしたいんやけど…。コレ私のアドレスと電話番号。受け取ってくれる?」
「あ、アドレス!?電話番号!?」
「嫌ならええんやけど」
「いやいや!いるいるいる!連絡する!今日、ちゅーか今連絡するで!はわわ、携帯携帯…」
「忍足くん落ち着いて」
「お、おん!あ、ちょっと待ってな。今登録するから」
「うん」

カチカチと震える指でアドレスを打ち込んでいく。あああ間違えた!しかも俺の指全然動かんし!おっそ!浪速のスピードスターの名が泣くで!落ち着け、侑士のように心を閉ざすんや…!いや、心閉ざしたら意味ないやん。何なん俺。

「えーと…みょうじ、なまえ…登録!」
「暇な時でええから、メール頂戴ね」
「お、おう!絶対するで!」
「あ、予鈴」

キーンコーンカーンコーン。昼休みの終わりを告げる予鈴が教室中に鳴り響いた。もともと騒がしかった教室はさらに騒がしくなり、皆次小テストやったーとか、宿題やってへんとか慌ただしく自席についていく。ああ、俺の癒しの昼休みが終わってもうた。しかも次って俺の苦手な世界史やん。憂鬱や。俺の心の中にズーンと重い影がのしかかるような心地がした。

「忍足くん、ハイ」
「ん?キャンディー…?」
「もう一個あげる。今度はちゃんと味わってね」
「お、おおきに!」

さっきと同じ桃のキャンディーを手渡され、またねと手を振るみょうじさんに手を振り返した。またね、やって。うわー嬉しい!俺って単純やな。みょうじさんと仲良くなれて、メアド交換して、またねって言って貰えただけでこんなに浮かれてまうんやから。

「顔引き締めんかい謙也」
「あいたたた!白石いつ戻ったんや!あいたたたつねんな!」
「なんや、俺がいない間にずいぶん仲良うなったみたいやな。さっきまで俺は恋してへんって言い張ってたのになぁ」
「ふ、ふへへ」
「キモいわ」
「はっ!もう何とでも言いや!みょうじさんとメアド交換したんやで!どや!羨ましいやろ!」
「へぇ、謙也にしては頑張ったやん」
「いや、俺やのうてみょうじさんが教えてくれて…」
「…このヘタレ」
「う!うるさいわ!これからやねん俺の時代は!見とれよ!」
「…ちゅーことはホンマにみょうじさんに惚れてもうたんやな」
「………た、」
「た?」
「ぶん……」
「多分?」
「まだ好きかどうかはハッキリしとらんのや…。せ、せやけど、みょうじさんと一緒にもっと話したいし、メールもしたい。出来れば、電話とかも…」
「 ( 何モジモジしとんねん ) 」
「す、好きになる可能性の方が高いとは、思う」
「…」
「あ、せや!メールせな!な、なんて送ったらええんや…っ!」「…消せ」
「え、え?」
「このどっピンクのオーラ消せ。なんや謙也のくせに。このオトメンが」
「えええ!なんや急に白石冷たっ!」
「謙也のその単純さが時々羨ましいわ」
「ん、んん?褒めてるんそれ」
「褒めとる褒めとる。あー、先生来おった。またな、謙也」
「お、おう」
「あとその緩み切った顔なんとかした方がええで。そのピンクのオーラも」
「俺にどうしろと…!?」
「心でも閉ざしとき」

いやそんな「寒いから窓閉めとき」みたいなノリで言われても。侑士みたいに俺は心閉ざすことはできないから、とりあえず頬を引っ張ってみる。思ってた以上に口角が上がってて自分で自分に引いた。あかん、こんなにやけ顔で授業なんて受けられんわ。とりあえず深呼吸して、さっきみょうじさんに貰った飴で心を落ち着かせようと思う。口の中に放り込んで、舌で飴を転がす。あかん、逆効果や。桃味というだけでみょうじさんを思い出してしまって、また心臓がうるさくなってしまった。

みょうじさんはどんな気持ちで俺と話せて嬉しい、なんて言ってくれたんやろ。ちらりとみょうじさんを方を見ると、真面目に授業を受けてシャーペンを走らせていた。ピンとした姿勢と黒板を見つめるまっすぐな視線が綺麗で、俺はまた一つ彼女のことを知った気分になれて嬉しかった。「謙也は恋に釣られてもうたんやなー」という、昨日の金ちゃんの意味不明な言葉が今ならわかる気がする。



ベイビーピンク

シンドローム




( 2013 6/6 )
あんちゃんに感謝の気持ちを込めて。企画参加ありがとうございました!



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -