たまたま手に取った短パンのポケットの中に500円が入っていた。いつの500円かよくわからないけど予想外の収入 (というか元々私のお金だけど) が嬉しくないわけがないので、鼻歌交じりで財布の中に仕舞い込んだ。駅前の本屋で漫画を買って、ついでに雑誌の立ち読みでもしよう。休日はやはりダラダラするに限る。近所のコンビニに行くノリで超絶ラフな格好で家を出た。

「それにしても今日は暑いな…。昨日は涼しかったのになぁ…」

 半袖でも暑い。もう猛暑日は過ぎたはずなのに、この暑さはどう考えてもおかしい。見慣れたコンビニの看板を数秒見つめ、ジュースかアイスを帰りに購入しようと決意した。さっさと本屋に行こう。


≪≪≪




「…ゲッ、ほとんど包装されてんじゃん。今月の雑誌付録多過ぎだろ…ほとんど無いじゃん…」

 想定外な現実が私を待ち受けていた。いつも購入してる雑誌が今月に限ってまさかの付録付きというこの運の無さ。凹むわー。立ち読みできそうなのと言えば、あまり趣味じゃないファッション雑誌とか、料理特集本とか、ヘアー雑誌とか、あとは婚活雑誌。…婚活雑誌か、まあ暇つぶしにはなるかな?半信半疑で手に取ってみるが、『合コンで結婚相手をゲットする方法!』とか、『女性が選ぶ結婚したい男性俳優トップ10!』とか、正直どうでも良い内容にすぐに飽きた。そっと棚に戻そうとしたら、腕を誰かに掴まれた。

「意外だね、なまえ婚活してたの」
「ほあっ」
「やあ」

 突然声をかけられて間抜けな声が漏れたのを恥じる間も無く驚いた。クスクスと口元に手を当てて穏やかに笑う少年の姿に思わず目を疑う。

「え、周助…何で本屋にいるの?」
「テニスの雑誌を買いに。なまえは?」
「雑誌の立ち読み」
「暇なんだね」
「なんか文句あんの」
「それにしても驚いたよ。なまえが結婚に興味あるなんてね」
「興味というか、これぐらいしか読むもの無かったから…」
「ふーん?」
「何だよう…」
「ちょっと見せて」

 周助は私の手から結婚雑誌を奪うとパラパラとページをめくり始めた。何で突然読もうなんて思ったのかわからないけだ、男の子にとって結婚雑誌なんてつまらないだけだろう。どうせすぐに飽きて棚に戻すと予想して私は別の雑誌を手に取った。ヘアカタログでいいや。そろそろ髪切りたいと思ってたし、今のうちに髪型決めとこ。

「ねぇ、なまえ」
「んー?」
「なまえはウエディングドレスと白無垢、どっちがいい?」
「うーん、ウエディングドレスかなぁ」
「うん、きっと似合うね」
「えっ。何急に」
「この雑誌にウエディングドレスの特集があったから」
「え!どれ?見たい!」

 ウエディングドレス特集とか何それ絶対可愛いじゃん。ほら、と周助が雑誌をこちらに向けてくれた。確かにそこには数ページにもわたってウエディングドレスが特集されていた。お色直しのカラフルなドレスなんかもあって、すっごく可愛い。

「なまえ、目がキラキラしてる」
「だって可愛いもん。やっぱドレスは着てみたいよねぇ」
「僕もなまえのウエディングドレス姿見たいな」
「いやー期待しない方が良いよ。私背低いし、こういうのは似合わないと思う」
「そんなこと無いよ。なまえは可愛いし、スタイル良いから似合うさ」
「うええ照れる」
「やっぱ、可愛い彼女のウエディングドレス姿は見たいし」
「あの、さっきから周助可愛い可愛い言い過ぎ…。周りに人いるし、照れるんだけど」
「ふふ、顔真っ赤。可愛い」
「イジメだわ」

 雑誌で顔を隠すと頭をなでなでされた。何で今日の周助はこんなにもからかってくるんだろう。そんなに私が結婚雑誌見てるのが珍しかったのだろうか。疑問符を拭えないまま、私はそっと雑誌を閉じる。


「いつか見たいな、なまえのドレス姿」
「コスプレでもしない限り無理だねぇ」
「結婚すれば見れるじゃないか」
「え、ああ、え?う、うん。そだね」
「楽しみにしてるよ、なまえのウエディングドレス姿」

 内緒話みたいにそっと耳打ちされて、周助はじゃあねと手を振って店を出て行った。何も言えずに私はポカーンとした表情で手を振り返す。何、どういう意味なの。

「え、何あれ遠回しのプロポーズ?」

 冗談かもしれない。でも本気かもしれない。周助はこの手の嘘はつかないと思う、けど。
 悩みに悩んだ末、結婚雑誌は棚に戻すのをやめてそのままレジに持って行った。レジのお兄さんは雑誌を手に取って一瞬目を丸くした。いやそうだよね。普通のリアクションだと思う。どう見ても中学生の私が結婚雑誌なんてものを買うんだから、変な話だ。でも周助が私のドレス姿を楽しみにしてるって言ってるのに何もしないのはちょっと、焦れったいから。思い出して熱くなる頬を隠しながら500円玉を手渡した。


( 2014 9/23 )

ろじさんへ感謝の気持ちを込めて。企画参加ありがとうございました!



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