※学パロ

練白龍という少年について考えている。その少年は明晰な頭脳と整った顔立ちを合わせ持つ、まさしくハイスペック男子なのだ。欠点は何一つない。

しかしモテない。何故だかモテない。顔が良ければモテる部類に入るはずなのに彼を取り巻く女子はいない。うちの高校にもイケメンに目がないミーハー女子はたくさんいるし、現に私の隣の席のジュダルはチャラいけどイケメンだからすごくモテるし周りにはいつも女子がいる。と言っても一方的に群がっているだけでジュダルは心底迷惑そうに舌打ちするか狸寝入りしているけど。それなのにジュダルに好意を向ける女子は後を絶たない。白龍っていうジュダルにも負けないイケメンがいるのに、みんなジュダルにだけお熱なのだ。絶対おかしい。白龍がモテないのはきっと何か訳があるに決まっている。そうでないと私は納得できない。何でジュダルがモテて白龍がモテないのか意味がわからん。私は断然白龍派だ。ジュダルはクソだ。何度も話したことあるけどあいつはクソだ。しかし私は白龍と話したことがないから実際どういう男子かは知らない。そもそもクラスが違う。ではどうして私が白龍のことを気にかけているのかというと…なんだっけ。

まあそんなわけである。私は白龍という男子を観察することに決めた。彼の学校生活から意外な一面を見れるかもしれない。早速、昼休みを活用して白龍のクラスに張り込むというスリル満点の刑事ドラマごっこ決行した。白龍の後ろ姿を捉えるようにこっそり様子を伺う。今のところ、普通に読書をしているようだ。もちろん取り巻きはいない。白龍がページをめくる所作があまりにも綺麗で、凛と咲く花のようなハッとする儚さがある。すごく絵になってる。窓際で揺れるカーテンを背景に読書する白龍。良い、めっちゃ良い。

「な、何やってんのなまえ」
「偵察」

教室の扉から半身を覗かせて鼻息荒く白龍を観察していた私に声をかけたのは私の幼馴染であり白龍と同じクラスのアリババだった。私の不審な行動に見兼ねて声をかけたらしい。できれば触れないで頂きたかった。幼馴染に不審な目で見られるのはキツイ。

「偵察って何だよ」
「偵察は偵察だよ」
「そうじゃねーよ…誰を偵察してんの?」
「うーん…誰にも言わない?」
「そんなに言いにくい相手なのか?」
「いやアリババなら別にいい。白龍…くんだよ」

そう言うとアリババは露骨にギョッとしたような表情を見せた。詰め寄るように私の肩を勢いよく掴む。

「は!?白龍!?お前何、嘘、白龍のこと好きなのかよ!嘘だ!絶対お前のタイプじゃねぇだろ!」
「いや好きとは言っとらんがな。何でそんな必死なの」
「…お前あいつの性格知ってんの?」
「まったく」
「はあ?何で偵察してんだよ」
「知らないから偵察してんじゃん」
「何で白龍?」
「ハイスペック男子の白龍くんがモテないのが疑問だから」
「何だそれ」
「気になっただけだよ」

ていうか、白龍って性格に難ありなの?それは知らなかった。あの驚きようといい、アリババの反応が少し気になる。白龍は私のタイプと違うって言ってたけど、そもそもアリババは私のタイプを知ってるのか。あ、この間マスルール先輩がかっこいいって話したばかりだ。それか。

「…お前、まるで白龍のこと好きみたいだな」
「はあ?だから違うって」
「だって褒めまくってるじゃねぇか」
「何アリババ拗ねてる?」
「ち、ちげーよ!」

唇を窄めて石ころを蹴るように足を振るから拗ねてるのかと思った。いや実際拗ねてる。アリババが私と話している時に目を泳がせるのは決まって隠し事をしている時か拗ねている時のどちらかだ。アリババのこういう子供らしい癖は可愛いと思う。

「…白龍って結構感情的になりやすくてさ」
「へー意外。怒りやすいの?」
「いや、逆」
「逆?」
「えーと…なんつーか、やばい。ほら、入学式の時だって…」
「え?」

キーンコーンカーンコーン

「やばいって何が?」
「いや、いいわ言わないでおく。偵察してればいずれ気付くと思うぜ」
「気になる言い方だなぁ。話してくれればいいのに」
「いや予鈴鳴ったから。お前早く教室戻れよ」
「えーー」
「なまえー何やってるのぉ?チャイム鳴ってるじゃない」
「あ、紅玉」

廊下を通りかかった紅玉に首根っこを掴まれ私は引きずられるようにして自分の教室に戻った。アリババの言う白龍の何がどうやばくて入学式が何だったのかすごく気になって授業どころじゃない。席について担任が戻って来ても私は教科書を出さずに悶々としていた。

「お前、白龍が気になってるんだって?」

声をかけてきたのはジュダルだった。私は頭上に岩が落下したかのような衝撃に思わず机上に伏せる。先生に見つからないように机の下でスマホをいじっているジュダルは私の反応を見て「え、マジだったのかよ」と少し驚いたような声をあげた。かまかけただけかよ。

「一応聞くけど誰情報?それ」
「紅玉。『さっきなまえが白龍ちゃんのことずっと見てたのよねぇ…気になるのかしら?』って」
「紅玉のモノマネ似てねぇ」
「そこは関係ねぇよ!」
「ジュダル達の情報共有はインターネット回線より早いな。…まあ見てたけどさぁ。別に好きとかじゃないし」
「ふーん」
「なによ」
「お前白龍と話したことは?」
「ない」
「ふーん」
「だから何だよ…」

ふーんふーんとジュダルは鼻を鳴らすだけである。鼻息荒いよと忠告してやると思いっきり踵で足を踏まれた。ジュダルは本当にクソだと思う。こんな奴の何がいいのマジで。

「お前に言ったっけ」
「何を」
「俺と白龍、親戚なんだよ」
「え」
「紅玉と白龍が義姉弟なのは知ってるだろ?」
「え…知らな…あ、確かに苗字同じだ」
「お前マジで何も知らないんだな」
「ふ、複雑なんだね…練家」
「そーでもねーよ。割と普通だぜ」

どこがやねん。盛大に突っ込みたくなるのを抑えて、ジュダルから得た新たな情報を基に改めて練家の家系図を頭の中で組み立ててみると、あまりに複雑過ぎて私の頭では全く理解できなかった。とりあえずドラマみたいだという感想に尽きる。

「ジュダルと白龍くんの血が繋がってるなんて信じられん。性格真逆じゃん」
「どういう意味だブス」
「そのままの意味だブス」
「俺はブスじゃねぇ死ねブス」
「うるさい死ねブス」
「ブス!」
「ブス!!」
「ブス!!!」
「ブス!!!!」
「お前らちょっと来い」

いつの間にか担任が目の前に移動していた。マジでキレる5秒前、MK5の担任のオーラに私は背筋を凍らせながらゆっくり姿勢を正す。授業中だということをすっかり忘れていた。ジュダルなんかとのくだらない意地の張り合いで罰を食らうのは真っ平ごめんである。素直に頭を下げて謝ろうとしたら「うるせーよ邪魔すんなブス!」ジュダルが担任に向かって叫んだ。教室が静寂に包まれた。叫んだ直後、露骨に「あ、やべっ。間違えた」みたいな顔をしたジュダルが面白くて思わず吹き出した。慌てて口元に手を当てたけど担任には私が笑ったのがバレたらしい。バレー部顧問の担任によってボールを掴むように頭を鷲掴みされた私とジュダルはそのまま廊下にポイ捨てされた。

「ジュダルのせいだ」
「お前だって笑ってただろ」
「担任にブスはあかん」
「実際ブスだろ」
「だから気にしてんだよ」

教室に入れる雰囲気ではないから、私とジュダルは大人しく廊下で待機することにした。ジュダルは相変わらずスマホをいじっている。私はすることがないので壁に寄りかかりながらぼんやりしていた。

「ねぇジュダル」
「あ?」
「白龍くんってどんな人?」
「はあ?」
「アリババがさぁ、白龍くんはやばいっていうから。感情的?なんでしょ」
「…ああ、まあ…だな」

気まずそうに顔を歪めたジュダルはスマホを後ろポケットにしまってズルズルと壁に寄りかかりながら座り込んだ。私もゆっくり腰を下ろして膝を抱える。

「真に受けやすいんだよ、白龍は」
「へぇ。でも怒りやすいわけじゃないんでしょ?」
「短気ではねぇな」

よくわからない。感情的になりやすくて、真に受けやすいって、何。単純ってこと?なんにせよ窓際で読書をしていた白龍の後ろ姿からはそんな様子を感じ取れなかった。一見大人しそうだけど、アリババやジュダルが表現に言葉を濁す性格って一体何だろう。膝に額を当てて白龍について延々と考える。すると、カツカツと廊下を歩く足音が聞こえた。うーわー誰だよ授業中なのに。ジュダルの馬鹿と廊下に立たされるところを見られるなんて恥だ。顔は上げないでおこう。このまま膝を抱えて心を無にして存在を消すことにした。私は空気。私は空気。
足音がピタッと私達の前で止まった。

「何をやっているんですか、神官殿」
「あ?お前こそ何やってんだよ」

え、ジュダルの友達?ますます顔を上げにくい。膝を抱えながら息を呑んだ。

「俺は図書館へ資料を取りに行くんです」
「へぇーパシリ?」
「たまたま日直だったので頼まれただけですよ。それで、神官殿は授業中に廊下で何を?」
「嫌味か。見りゃわかんだろ」
「従兄弟が廊下に立たされているところを目撃する日が来るとは思いませんでした」
「うぜぇ…。真面目な白龍くんには無縁だろーよ」

なんやて、白龍だとぉ!?白龍いるの?そこにいるの?何でいるの?勢いよく顔を上げるところだったけどなんとか踏みとどまった。セーフ。あんなボロクソ言われて白龍に『ジュダルと廊下に立たされる馬鹿女』という印象を持たれたらたまったもんじゃない。引き続き無の心を続行だ。ていうか、白龍はさっきジュダルのこと神官って言ったよね。神官って何?神社の偉い人?

「そちらの女性は?」
「クラスメイトのみょうじなまえ。紅玉のダチ」
「うぉーい!ご丁寧な紹介やめろ!存在消してんのに!」

くっそージュダルのクソがぁ!ジュダルの胸ぐらに掴みかかってガクガク揺らしてやりたい衝動を抑えて私はゆっくり顔をあげた。もう第一印象とかどうでもいいわ。

「ど、どうも〜」
「…」

私の顔を見るなり白龍がゆっくりと目を見開いていく。文字通り、目を丸くしている。そんなきょとーんとされても困るのですが。ジュダルと廊下に立たされる女子がそんなに珍しいですか。そうですよね。むしろ私が記念すべき第一号なんじゃないのか。これイジメの対象になったりしないよね?明日呼び出されたらどうしよう。

「な、な、なんっなんっ…!」
「ナン?」

目を丸くしたと思ったら今度は顔を真っ赤にしてワナワナ震え出した白龍くんの急変に私はオロオロした。え、ナン?ナンってカレーにつけて食べるあのナンのことだろうか。人の顔見ながらナンを連呼するなんてどんだけ失礼なんだよ。私の顔がナンのようだって言いたいのか。小学生レベルの悪口だけど普通に凹んだ。

「な、何で神官殿がみょうじ殿と一緒に…!これはどういうことですか!」
「どうもこうもこいつも一緒に立たされるだけだけど」
「神官殿がみょうじ殿を巻き添えにしたんですね…!許さん!」

白龍くんが叫ぶ。想像してたのとあまりにも違う白龍くんのキャラに私は呆然と眺めていた。窓際の美少年はどこへ行った。ジュダルが小声で「始まったよ…」と呟いた。何これいつものことなの?

「みょうじ殿、神官殿が迷惑をかけたようで申し訳ありません」
「え、あ、はい、どうも」
「はいじゃねぇだろお前は。同罪だろ」
「みょうじ殿が神官殿のような悪事を働くとでも?」
「悪事ってなんだよ言葉を選べ!」
「みょうじ殿は神官殿のような不真面目な生徒ではない。金輪際みょうじ殿にちょっかいを出さないで頂きたい」
「はぁ〜?俺がこいつをどうしようと俺の勝手だろ」
「みょうじ殿はお前のおもちゃではない」
「は、白龍くん…!」

初対面なのにめっちゃかばってくれてる!何この優しさ惚れてまうやろ!さっきナンとか言われたけど許しちゃう。両手を合わせてじぃんとしているとジュダルが鬼のような形相で思いっきり私の鼻を摘まんだ。

「感動してんじゃねーよバァカ!お前人のこと責められる立場にあると思ってんのか!?」
「いだだだだいだいいだい!」
「な、何をする神官殿!みょうじ殿に暴力はよせ!」
「お前もなまえ贔屓してんじゃねーよ!何なんだお前さっきから突っかかってきやがって!なまえのこと好きなのかよ!?」
「な…!」

ボンッと白龍の顔から湯気が出た。まるでゆでダコのように顔を真っ赤っかにして数歩後ろに下がった。目をぐるぐるさせながら魚のように口を開閉して震えている。うっすらと涙を浮かべて白龍はグッと歯を食いしばった。想定外のオーバーリアクションに私とジュダルはポカーンである。ぱちくり。二人して瞬きを繰り返していると大粒の涙を流して白龍が叫んだ。

「その通りですよ!!ずっと前から好きだったんです!何か問題でも!?」

キーンと白龍の絶叫が廊下に響き渡る。なんだなんだと教室から野次馬達がぞくぞくと顔を覗かせて、まるで事件現場のように辺りは騒がしくなった。肩で息をする白龍を前に、私とジュダルは相変わらず目が点状態だ。「喧嘩か?」という声がどこかから聞こえた。喧嘩、なのか?ざわざわと様々な声が飛び交う中、「違うよ!白龍くんがなまえちゃんに告白したの!」という一人の女子の声が一際大きく響き、次の瞬間には男たちの興奮の雄叫びやら女子の黄色い声が上がった。

「う、うわあああ!!!」

白龍が逃走した。この場の空気に耐え切れなかったのだろう。顔は真っ赤のまま、必死の形相で全速力で廊下の奥に消えて行った。立ち込める土煙が目に染みる。

「…白龍くん、泣いちゃった」
「…お前覚えてる?入学式の事件」
「いや、全く」
「白龍、新入生代表だったんだけどさ…緊張して壇上で作文読みなが号泣しちまったんだよ」
「し、知らない。入学式…多分寝てたから」
「知らない方が良かったかもな」
「へぇ…そんなことが…。白龍がモテない理由がよくわかったよ」
「ああ…うん、モテるわけないな」
「お前達!こんな騒ぎを起こしおって!ちっとも反省しとらんのか!」

グワっと夜叉のような顔つきで飛びかかってきた担任を見てこれあかんやつや…と冷静に判断した。なんて言い訳しよう。ありのままの出来事を話したところで怒声を浴びせられるだけに決まっている。私が俯いているとジュダルが口を開いた。「や、ドラマのロケっす」ジュダルの苦し紛れに放ったその一言で担任の堪忍袋の尾が切れたことは言うまでもない。


|||



練白龍という少年について考えている。その少年は明晰な頭脳と整った顔立ちを合わせ持つ、まさしくハイスペック男子なのだ。文句の付け所は…一つだけある。

「泣き虫」

そう言うと、白龍が眉を寄せて唇を噛み締めた。ふるふると震える度に両目から大粒の涙がボロボロと流れる。私は大袈裟にため息を吐いて額に手を当てた。男なのにこんな泣き虫だなんて正気を疑う。女々しい男は好きじゃない。以前、アリババが言っていた「白龍はお前のタイプじゃない」と言っていたが今ならよくわかる。しかし、何故か私と白龍は現在付き合っており、いわゆる彼氏彼女という関係なのだ。世の中何があるかわかったもんじゃない。ジュダルが呆れてそう言っていた言葉をふと思い出した。タイプじゃないのに男女とは交際が可能なのだから不思議だと思う。未だに白龍の何が好きなのかと聞かれてもうまく答えられない。

あれから色々あった。騒動があった日からしばらくして、改めて白龍から告白を受けた私は彼の真っ直ぐな瞳にズキューンと心臓を射抜かれて即OKした。多分ギャップ効果?というやつだと思う。前回は泣きながらのやけくそな告白だったけど、今回は泣くこともなく私の目を見て誠意を伝えてくれたから、私は彼の誠実さに惹かれたのだと思う。そんなわけで彼氏彼女になって半年、未だに白龍の泣き癖は治らない。

「ちょっとジュダルと遊んだだけじゃんよ」
「ぐず…そ、それでも俺はいやなんだ!なまえが俺以外の男と親しくしているのを見ると、胸が苦しい…」
「束縛は嫌なんだけど」
「俺だってこんなこと言いたくない!」
「もーわかったよ…私が悪かった。ごめんね」
「わ、わかったならそれで…ひっく、いい」

泣きじゃくる白龍の頭を撫でてやると安心し切ったように眉を下げた。なんて情けない表情なんだろう。もはやどっちが彼氏でどっちが彼女かわからない。それなのに可愛くて仕方ないと胸がキュンとするのは何だろう。恋の病?恋は盲目?どんな言葉を並べても白龍への想いはうまく表現できない。

「とりあえず、すぐ泣く癖は治そうね。勿体ないから」
「グズっ…勿体ない?」
「んーん、何でもない」

欠点はあるけど他を除けば完璧だし、何より可愛いし、もうそういうことでいっか。少しずつ私が白龍の中から泣き虫を追い出してやればいい。白龍が真のハイスペック男子になるのはまだまだ先の話である。


( 2014 7/4 )

結梓さんへ感謝の気持ちを込めて。企画参加ありがとうございました!



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -